協会・配信前控室
ゼーリエが立ち上がる。
「次は雑談配信だ」
静かに、しかし力強く宣言する。
「……そして、私は誓う」
全員の視線が集まる。
「絶対、“怒らない”」
沈黙。
ユーベルが目を細めた。
「……ほんとに?」
フェルンが即答する。
「統計的に不可能かと」
フリーレンは遠い目。
「……三分持てばいい方じゃない?」
ゼンゼは小さく首を傾げる。
「……怒らないゼーリエ様が想像できませんね」
ゼーリエ、少しピキ。
「なぜ信じん……」
ユーベルが笑いながら指摘する。
「もう既に怒ってるじゃんw」
「そもそも、“怒らない”って言った時点でフラグだよ」
そしてフェルンが静かに続けた。
「それが仮に可能だったとして」
「“ゼーリエ様の”切り抜き集を見てくる視聴者を考えるとーー」
一拍。
「……それはそれでがっかりされそうですね」
ゼーリエ、深呼吸。
「……そんなファンを私は望まん」
全員きょとん。
「怒る姿を期待するなど、本質を見ていない」
フェルンが淡々と補足する。
「ですが、その“本質ではない部分”が現在最も支持されています」
納得のいかないゼーリエ。
「……解せん」
だが――
ゼーリエの目は、配信画面をまっすぐ見つめている。
何か考えがあるらしい。
ユーベルがにやにやと笑う。
「まあ見ていろ…って顔してるね」
ゼーリエが小さく呟く。
「……ふん」
そして、顔を上げる。
「まあ見ていろ……」
自信満々の笑みだった。
◇
配信“開始”
同接は前回よりも高い。
間違いなく、“ゼーリエブチギレ切り抜き集”からの流入だった。
コメント欄はすでに期待モード。
“今日は何分でキレる?”
“早く怒れ”
“切り抜きから来ました!リアタイで見れるなんて最高です!”
ゼーリエ、微笑を作る。
「……本日は雑談だ、穏やかに進める」
ユーベルが横で小声。
「その笑顔こわ……」
コメント欄;
“荒らしの前の静けさか”
“助走か”
“さすが王、エンターテイナー過ぎる”
◇
最初の刺客コメント
“今日は焦がさないの?”
ゼーリエ、沈黙。
息を吸う音。
微笑み維持。
「……料理の話題は本日は扱わん」
コメント欄:
“我慢してるw”
“えらい”
“話と違うな”
フェルン、頷く。
「…今のところ順調です」
◇
第二の刺客コメント
“ゼーリエは怒ってる時が一番好き”
空気が止まる。
ユーベルが横目で観察。
フリーレン、遠い目。
ゼンゼ、息を止める。
ゼーリエ、深呼吸。
「……そういう嗜好は否定せん」
沸き上がるコメント欄、
“成長してる!”
“今日マジで怒らないかも”
“せっかく切り抜き見てきたのに!”
ユーベルが小声で。
「……つまんないなー」
◇第三の刺客
“威厳ないトップだよな”
空気が一段冷える。
フェルンが即座に視線を送る。
ゼーリエ、沈黙。
額に走る青筋、拳が少し震える。
マイクがカタカタと震え。
振動音が伝わっていく。
コメント欄がざわつく。
“きたぞ”
”我慢しろ“
“すごいカタカタ聞こえる”
5秒。
……10秒。
コメント欄の流れが、一瞬だけ遅くなる。
ゼーリエ、大きく息を吸い、ゆっくり口を開く。
「威厳とは……恐れさせることではない」
全員、意外そうに見る。
「……共に笑えることもまた、強さだ」
ぎこちなく微笑む。
静寂。
コメント欄、爆速。
“え?”
“かっこいい”
“今日は違うな”
“推せる”
ユーベルが目を丸くする。
「耐えた……?」
フェルン、小さく頷く。
「しかも、良い返しです」
フリーレンが微笑む。
「やっと慣れてきたね……」
ゼンゼも静かに。
「……ゼーリエ様、さすがです」
ゼーリエ、少しだけ照れる。
「……当然だ」
コメント欄:
“今の好き”
“アンチが燃料になってる”
“怒らないゼーリエもいい”
“切り抜きで見たんと違うやんけ!”
同接、さらに伸びる。
アンチコメントは減り、
代わりに増えるのは、
“ゼーリエ応援してる”
“成長物語じゃん”
“最初はネタだったのに今は普通に好き”
“これはこれでアリ”
ユーベルが小声で。
「……なんか悔しい」
ゼーリエ、余裕の微笑。
「ふん、見ていろと言っただろう」
その瞬間。
コメント欄:
“でも焦げシチューのことは忘れないからな”
一瞬だけピキ。
全員が息を呑む。
ゼーリエ、目を閉じる。
「……あれは歴史だ」
コメント欄、拍手の嵐。
“耐えた!”
“完全勝利”
“成長してて草”
ゼーリエ、ゆっくり目を開く。
「……だがな」
空気が止まる。
「……何度も言う必要はない」
ほんの一瞬だけ、沈黙。
配信マイクが、コツンと震える。
机を軽く叩く。
コメント欄:
“出たwww”
“キレたw”
“これがゼーリエ”
「やっぱりちょっと怒ってるじゃん…」
ユーベルが笑いを堪え、口に手を当てる。
フェルン、最終報告。
「本日、登録者増加率が過去最高です」
ユーベルが笑う。
「怒らなくても伸びるんだね……」
「さすが我らが“リーダー”」
ゼーリエ、静かに。
「王たる者、怒りも理性も使い分けるものだ」
まごうことなき、絶対王者。
だが、コメント欄は最後にこう締める。
“でもたまにはキレろ”
ゼーリエ、わずかに頬が引きつる。
――怒らない宣言、大成功。
そしてアンチの一部は、
完全にファンへと転じ始めていた。
⸻
それから数日後、
配信“開始”
ーーそして、直後、
ゼーリエが静かに言う。
「……本日は告知がある」
ユーベルがにやにや。
「やっと言うんだね」
フェルンが数字を確認する。
「現時点で同接2,800……上昇中です」
フリーレンはお茶を飲みながら遠い目。
ゼンゼは少し緊張気味。
◇
同接、3,100。
コメント欄はいつもより期待感が強い。
“今日は何?”
“重大発表?”
“焦げ料理第2弾?”
ゼーリエが咳払いする。
「……焦がさん」
コメント欄:
”先手打ったw“
“俺らの感情は焦げまくりだよ”
“早く言って”
わずかに笑いが起きる。
ゼーリエは続ける。
「我々は――」
一拍。
「ライブを行う」
一瞬の静寂。
そしてコメント欄、爆発。
”うおおおおお“
“マジ!?”
“行きたい!”
“現地!?”
“きたああああああああああああああ”
同接、3,500突破。
ユーベルが笑う。
「うわー伸びるねー」
フェルンが頷く。
「反応良好です」
フリーレンがぼそっと。
「緊張するなぁ……」
ゼンゼが小さく拳を握る。
「……頑張る」
◇
そして、ライブ概要発表
・魔法演出あり
・生演奏あり
・トークコーナーあり
コメント欄は熱い。
“絶対行く”
“チケット争奪戦?”
“配信もある?”
ゼーリエが答える。
「配信も検討している」
コメント欄:
”神“
◇
そして、グッズ会議
ゼーリエが腕を組む。
「欲しいグッズはあるか?」
一瞬でコメントが洪水。
“アクスタ!”
“焦げシチュー皿”
“ゼーリエ怒り顔Tシャツ”
“ユーベルの塩”
“ゼンゼの包丁(安全版)”
“フリーレン湯呑み”
ユーベル、爆笑。
「塩はやばいでしょ」
フェルン、真顔。
「食品は管理が必要です」
ゼーリエ、眉が動く。
「怒り顔Tシャツとは何だ」
コメント欄:
“例のブチギレ顔”
“名言プリントして”
“『腹の中に入れば同じだ』Tシャツ“
ゼーリエ、顔を覆う。
「なぜそこを推す」
同接、3,800。
ゼンゼが小さく言う。
「……エプロンとか、どうでしょう」
コメント欄:
”料理配信エプロン欲しい“
”ゼンゼモデル買う“
フリーレンが穏やかに言う。
「湯呑みはいいね。落ち着いてて」
コメント欄:
“フリーレン湯呑みほしい”
ユーベルが悪い顔。
「ゼーリエの“絶対怒らない”マグカップ」
そして、ニヤリと笑う。
コメント欄爆笑。
”フラグカップw“
”買う“
”すぐ割れそう“
ゼーリエ、耐える。
「……検討する」
フェルンがまとめる。
「アクリルスタンド、Tシャツ、エプロン、マグカップが有力です」
「……焦げ皿は却下だな」
「残念w」
ユーベルが笑う。
◇
同接、4,000目前。
コメント欄はポジティブ一色。
”最初ネタで見てたのに今は普通に推してる“
”ライブ絶対成功する“
“ゼーリエ最近丸くなったよね”
ゼーリエ、静かに言う。
「丸くはない」
ユーベルがすかさず。
「でも前より怒らないよ」
フリーレンが微笑む。
「成長だね」
ゼンゼも小さく。
「……はい」
フェルン、最後の報告。
「平均同接3,000台で安定。非常に健全な推移です」
ゼーリエは画面を見つめる。
最初は、無音配信。
焦げシチュー。
そして、ブチギレ裁判。
だが今は――
ライブを待つファンがいる。
「……悪くないな」
コメント欄:
“乙”
“今の好き”
“ライブで会おう”
ライブ告知、大成功。
ーーアークアルカナ、着実に前進中。