場所は王都の中央広場。
告知なし。
突然のゲリラでの手売り。
「……本当にやるの?」
とフリーレン。
「……奇襲は効果的だ」
ニヤリと笑うゼーリエ。
ユーベルはすでに変装ゼロで手を振っている。
「気づいた人はラッキーって方式だねー」
フェルンが淡々と整理券を準備。
ゼンゼは小さく「……い、いらっしゃいませ」と緊張気味。
◇
最初は数人。
だがSNSで拡散。
“今、アーク・アルカナのメンバーが
王都の広場でチケット売ってる!”
気づけば長蛇の列。
ユーベルがにやり。
「やっぱ私目当て多いかな〜?」
だが——
最初に並んだファン。
「ゼーリエ様から直接買いたいです」
一同、止まる。
ゼーリエも一瞬固まる。
「……ん、私か?」
「はい!」
次の人も。
「ゼーリエ様で!」
さらに次も。
「今日は怒らないでくださいね」
ぴき。
ユーベルが肩を震わせる。
「人気者じゃんw」
コメント(現地配信もしている)は大盛り上がり。
“ゼーリエ列できてるw”
”時代来た“
”いじられ枠最強“
ゼーリエ、平静を装う。
「……いじるな」
ファンが笑顔で。
「焦げシチュー販売はまだですか?」
ぴき。
「……販売はしない」
「絶対怒らないって言ってましたよね?」
空気が止まる。
ユーベルが横から囁く。
「耐えろ〜」
ゼーリエ、深呼吸。
「……コメントにはキレんと言ったが」
一拍。
ユーベルを見る。
「……ユーベル」
「貴様にキレんとは言ってない……!」
会場、爆笑。
ユーベル、腹を抱える。
「ずるいwww」
ファン大歓声。
「きたあああああああ!」
「生キレ芸だ…」
「最高すぎる…」
ゼーリエ、完全にピキりながらもチケットを手渡す。
「……次」
だが口元は少し緩んでいる。
◇
ユーベルがわざと横から。
「リーダー、いっそ焦げシチュー付きのチケットにしちゃう?」
「しない……!」
即答。
ファンが笑う。
ゼンゼは必死に整理。
フリーレンは遠い目で列の長さを見る。
「……300、いくよこれ」
フェルンがカウント。
「現在200枚。想定より速いです」
ユーベル、ゼーリエに小声。
「ゼーリエの列、私より並んでるね」
「……偶然だ」
「嬉しそうじゃんか」
「……ユーベル、黙れ」
ファンたち、ニヤニヤ。
◇
「……完売です」
フェルンが静かに宣言。
300枚、想定より早く消える。
拍手。
ファンの声。
「ライブ絶対行きます!」
「ゼーリエ様最高!」
「ユーベル!愛してるー!」
「フリーレンこっち見て!」
「フェルン!!!」
「ゼンゼ様!!好きだー!!」
ゼーリエは少しだけ真面目な顔になる。
「……来て、損はさせん」
その一言で、また歓声。
ユーベルが肘でつつく。
「今のかっこよかったよー」
「……いじるな」
コメント欄:
“ゼーリエ主人公”
“最初ネタだったのに今ガチ推し”
フェルンが報告。
「残り700枚はオンライン販売へ移行します」
フリーレンがぽつり。
「今日でだいぶ弾みついたね……」
ゼンゼも小さく。
「……そうだな」
ゼーリエは並んでいた最後のファンを見送りながら言う。
「……うむ、悪くない」
ユーベルが即座に。
「素直になれない、リーダーだね」
「……ふん、黙れ」
だがその声は、以前より柔らかい。
ゲリラ手売り、大成功。
残り700枚――
完売の気配が、確実に近づいていた。
⸻
それから数日後、
大陸魔法協会・配信室にて、
アークアルカナ、
——配信開始。
同接——5,000人。
フェルンが目を細める。
「……過去最高を更新しています」
ユーベルが画面に手を振る。
「買ってねー遊びにきてね〜」
コメント欄:
”絶対買う!“
”サーバー耐えろ“
“前回並べなかった…”
ゼーリエが腕を組む。
「来い……」
短い。
だが強い。
コメント欄:
”圧w“
”命令形好き“
フリーレンは柔らかく。
「来てね、待ってるよ〜」
空気が和む。
フェルンは丁寧に。
「本日21時より公式サイトにて販売開始です。
アクセス集中が予想されますので、事前ログインを推奨します」
ゼンゼ、小さく。
「……お願いします」
コメント欄:
“ゼンゼ守りたい”
“絶対買う”
“スタートダッシュが肝心だな”
ゼーリエがふと呟く。
「……チケット、大丈夫か?」
ユーベルが笑う。
「余裕でしょ、700枚だよ?」
フェルン、少しだけ真顔。
「理論上は問題ありませんが……」
同接は5,300へ。
コメント欄の熱量が異様。
◇
フェルンがカウント。
「5、4、3、2、1……」
ゼーリエ。
「解放だ」
一瞬。
コメント欄:
”いった!“
”重い“
”え?“
次の瞬間。
公式サイト——
サーバーダウン。
画面が真っ白。
フェルンが固まる。
「……接続不能です」
ユーベル、目を見開く。
「……は?」
コメント欄、大混乱。
“落ちたwww”
“サーバー焦げた?”
“ゼーリエ火力強すぎ”
ゼーリエ、わずかにピキ。
「……私のせいではない」
フリーレン、遠い目。
「シチューの歴史は繰り返すね……」
ゼンゼ、小声。
「……すごいアクセス数です」
フェルンが急いで確認。
「復旧作業中です。ですが——」
ページが一瞬復活。
そして。
「……完売してます」
フェルンが呟く。
静寂。
「……え?」
ユーベルが驚きの表情で確認する。
「今……、何て?」
フェルン、再確認。
「700枚……全て完売です」
配信室、凍る。
コメント欄、爆発。
“取れた!”
“負けた…”
“早すぎw”
“瞬殺”
ゼーリエ、信じられない顔。
「……完売だと?」
フリーレンが微笑む。
「私たち、人気者だね」
ユーベルがニヤニヤ。
「ゼーリエ列できてたしね〜」
ゼンゼは両手を胸の前で握る。
「……本当に、ありがとうございます」
フェルンが冷静に総括。
「販売開始から実質三分以内で完売。
サーバー負荷は想定の三倍以上でした」
ゼーリエはしばらく黙る。
最初の頃の路上ライブの光景が
ふと頭をよぎる。
そして静かに言う。
「……来いと言っただろう」
瞳が潤い、光が反射する。
コメント欄:
“かっこいい“
”泣きそう“
”伝説ライブ確定“
ユーベルが肩を叩く。
「ねえ、今ちょっと感動してる?」
「……していない」
茶化され、ムッとするゼーリエ。
だが声は少しだけ柔らかい。
静寂の10分から始まった配信。
焦げシチュー。
ブチギレ。
ゲリラ手売り。
そして——即完売。
ゼーリエは画面を見つめる。
無言。
ボソリと呟く。
「……ライブに来る者、損はさせん」
“かっけええええええええええええええ”
“これは『王』”
“ゼーリエさまあああああああああああ”
“アークアルカナ最強!!!!!!”
“早くもっと大きい箱でやれ”
コメント欄は大盛り上がり
ライブは、もう後戻りできない。
⸻
翌日。
大陸魔法協会・玉座の間
ゼンゼがスマホを差し出す。
「ゼーリエ様、これを……」
「……うん?」
差し出されたのは、
普段ゼーリエが見慣れないフリマサイトの画面だった。
“完売御礼ライブチケット”
“入手困難!早い者勝ち!”
“定価+8000円”
「……これは、なんだ?」
「……転売です」
静かに告げるゼンゼ。
ゼーリエの指先が、ぴくりと震える。
「……なぜだ」
「来たい者のみが買えば良いだろう」
「なぜ価格を吊り上げて他者に売る……?」
画面には“売り切れ”の文字が並んでいる。
「……こればかりは、時代ですね」
ゼンゼも困ったように視線を落とした。
沈黙。
ゼーリエの背後で空気がわずかに軋む。
「よし。どうすれば良いか、配信を行うぞ」
「ゼンゼ、メンバーを集めろ」
ゼンゼが頷く。
「……はい、わかりました」
淡い光が弾け、転移魔法が発動する。
⸻
数分後、
配信部屋。
ユーベルが椅子に足を乗せてくるくる回っている。
「なになに〜急に集合ってなに、また炎上したの?」
ゼーリエのこめかみがピクリと反応する。
「……違う」
フリーレンは既に椅子に座り、静かに画面を覗いている。
フェルンは事情を察したように真面目な顔。
「……恐らくですが、チケットの転売の件ですね?」
「うむ……その通りだ」
ゼーリエは画面を全員に見せる。
一瞬の沈黙。
「うわ、マジじゃん……」
ユーベルが眉をひそめる。
「私が見た時より高くなっていますね……」
フェルンが小さく呟く。
フリーレンは少し驚く。
「でも……売れてるね」
その一言で、ゼーリエの怒りゲージが一段階上がる。
「……売れていることが、問題なのだ」
静かなゼンゼ。
「……購入できなかった方が悲しんでいるという声もあります」
チャット欄を映す。
“取れなかった…”
“秒で終わった”
“サーバー落ちたの笑ったけど笑えない”
“転売ヤー許さん”
ユーベルが真顔になる。
「これ、ちゃんと何か言ったほうがいいね」
フェルンが頷く。
「はい、公式の姿勢を示すべきです」
フリーレンは顎に手を当てる。
「どうする、怒るの?」
ゼーリエは目を閉じる。
しばしの沈思、
そして、静かに口を開いた。
「……怒りは簡単だ」
「だが……それでは解決にならん」
珍しく冷静だった。
「……なら、どうするの?」
珍しく真剣なユーベル。
「来たい者が来られる仕組みを作る」
即答。
ゼンゼがすぐ反応する。
「本人確認の強化、抽選制の導入、リセール公式窓口の設置……」
フェルンも続く。
「定価のみで再販売できる公式ルートを作れば、
転売市場は弱まります」
ユーベルが笑う。
「へぇ、真面目チーム有能じゃん」
ゼーリエが立ち上がる。
「よし……配信を始める」
——
数分後、
緊急配信開始。
同接は瞬く間に8000を超える。
コメントが流れる。
“どうした?”
“ライブの件?”
“きたか”
ゼーリエが口を開く。
「我らのライブチケットが、不正に高額転売されている件について話す」
空気が引き締まる。
「来たい者が正当に来られんのは……」
「私は、好かん」
ユーベルが前に出る。
「転売で買うのは本当におすすめしないよー」
フリーレンが穏やかに。
「ちゃんと対策考えるから、待っててね」
フェルンが続け、
「公式リセール制度を準備します」
ゼンゼが静かに告げる。
「……今後は抽選制と本人確認を導入します」
チャットが一気に加速する。
“神対応”
“信じてた”
“運営有能”
“好き”
ゼーリエは最後にこう締めた。
「私たちは、来たい者を歓迎する。
だが、志なき金儲けは歓迎しない」
一瞬の静寂。
その後。
“ゼーリエ様かっこいい”
“推せる”
“転売ヤー震えてる?”
同接1万突破。
ユーベルが小声で。
「これ……結局、チケット争奪戦やばくなるやつじゃない?」
フリーレンが小さく笑う。
「……だね」
フェルンが少し心配そうに。
「次は会場を大きくするべきでしょうか……」
ゼンゼは既に次の会場候補を調べ始めている。
ゼーリエは画面を見つめながら、静かに言った。
「転売に高い金を出してまで来るな」
「……私たちの価値は、金額ではない」
空気が静かになる。
ユーベルの顔に笑顔が浮かぶ。
「さすが“リーダー”、かっこいいじゃん」
ゼーリエの顔が少し赤くなる。
「貴様、茶化すな……」
「私は間違ったことを言っていない」
ユーベルのニヤけ顔は変わらない。
「だから、かっこいいって言ってるじゃんw」
ゼーリエが諦めるように息を吐いた。
「……ふん、まあいい」
「とにかく……転売からはチケットを買うな」
コメント欄:
“承知しました、王”
“これはついていくべきリーダー”
“惚れる”
しかし、内心では
(……こうならないためにも)
(次は、もっと広い場所を押さえねば……)
新たな戦いが、静かに始まっていた。