ゼーリエ、アイドルになる。   作:ジュウヨン

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ゼーリエ、2回目のライブを開幕する

 

あの日の混乱が嘘のようだった。

 

二回目のライブ。

 

開演前から、会場の熱気は異様だった。

 

ゼーリエは袖で腕を組んでいる。

 

「……静かだな」

 

「始まる前はいつもこんなものです」

 

フェルンが淡々と答える。

 

ユーベルは落ち着きなく跳ねる。

 

「今日やばいよ?絶対やばい。なんか空気違うもん」

 

フリーレンは軽く笑う。

 

「ユーベルもそういうの感じるんだね」

 

ゼンゼは最終確認。

 

「音響問題なし。照明同期OK。映像出力安定」

 

完璧だった。

 

 

開演。

 

一曲目のイントロが流れた瞬間。

 

地鳴りのような歓声。

 

ゼーリエの瞳がわずかに見開かれる。

 

(……前回より、明らかに熱い)

 

音は澄み切っていた。

 

低音は腹に響き、高音は天井を突き抜ける。

 

トラブルは一切ない。

 

ユーベルが観客を煽る。

 

「今日は最後までぶっ飛ばしちゃおー!!」

 

爆発的な歓声。

 

フェルンの歌は安定感が増し、

 

フリーレンのパートでは空気が静まり返るほど集中し、

 

ゼンゼの静かなパフォーマンスにペンライトが揺れる。

 

そして。

 

ゼーリエがセンターに立つ。

 

「……来い」

 

その一言で会場が震えた。

 

 

終演後。

 

物販ブース。

 

今回は新たな試み。

 

『メンバー別撮影ブース』

 

一人ずつ、短時間だがファンと撮影。

 

抽選で当選した者のみ。

 

ゼーリエは最初、渋い顔をしていた。

 

「写真とは、何が楽しいのだ」

 

だが。

 

目の前で震えながら「ずっと応援してます」と言うファンを見て、

 

少しだけ、ほんの少しだけ表情が柔らぐ。

 

ユーベルは距離感ゼロ。

 

「はいチーズ!よし、次いこー!」

 

フリーレンは自然体。

 

「ありがとう、またきてね」

 

フェルンは丁寧に一人一人に礼をする。

 

「本日はありがとうございました」

 

ゼンゼは静かに。

 

「……またきてください」

 

物販列は途切れない。

 

タオル、ペンライト、アクスタ、限定CD。

 

過去最大の売上。

 

スタッフが震え声で報告する。

 

「本日の総収益、前回の約2.3倍です」

 

沈黙。

 

ユーベルが吹き出す。

 

「……やばくない?」

 

フェルンが目を丸くする。

 

「想定を超えています……」

 

ゼンゼは即座に次の課題を整理し始める。

 

「次回は在庫を“さらに”増やすべきですね……」

 

フリーレンは穏やかに言う。

 

「ちゃんと来たい人が来れて楽しめたなら、

それが一番だよ」

 

ゼーリエは会場を見渡す。

 

撤収が進み、さっきまでの熱狂が余韻だけを残している。

 

「……大成功だな」

 

誰も否定しなかった。

 

ユーベルが笑う。

 

「次はさ、もっと大きいとこでやろうよ」

 

フェルン。

 

「……武道館、でしょうか」

 

一瞬の静寂。

 

ゼーリエがふっと笑う。

 

「……ふ、面白い」

 

フリーレンも小さく笑う。

 

「夢は大きくだね」

 

ゼンゼは既にスケジュールを計算している。

 

第二回ライブ、大成功。

 

そして彼女たちは知る。

 

これはピークではない。

 

まだ、“上”がある。

 

 

数日後、

 

大陸魔法協会・玉座の間

 

静まり返った部屋。

 

机の上にはライブの収支報告書、配信アーカイブの再生数推移、SNSのフォロワー増加グラフ。

 

ゼーリエは椅子に深く腰掛け、天井を見上げる。

 

「……確実に伸びている」

 

二回目のライブは大成功。

物販は過去最大。

同接も右肩上がり。

 

だが。

 

「このまま続けたら……どうなる」

 

配信。

ライブ。

物販。

 

安定した成長曲線。

 

だが、どこかで必ず頭打ちは来る。

 

「知名度をさらに増やすには……」

 

指先で机をとん、と叩く。

 

「ふむ……」

 

しばし沈思。

 

「よし。奴らに相談するか」

 

淡い光が広がる。

 

転移魔法陣、展開。

 

 

◇フリーレン

 

本を読んでいると、足元が光った。

 

「……また?」

 

次の瞬間には、ゼーリエの部屋に転移させれている。

 

フリーレンは小さくため息をついた。

 

「……用件は三行以内で」

 

ゼーリエが神妙な顔をする。

 

「……我らの今後についてだ」

 

「……それは、長くなりそうだ」

 

フリーレンが深いため息をつく。

 

「安心しろ、長くなる」

 

ニヤリと笑うゼーリエ。

 

 

◇フェルン

 

魔法訓練中。

 

転移魔法陣の光が広がる。

 

次の瞬間。

 

ゼーリエが立っていた。

 

フェルンの表情は無表情のままだ。

 

「はい、ゼーリエ様」

 

もはや驚きゼロ。

 

姿勢を正す。

 

「今日は、どのようなご相談でしょうか」

 

「フェルン、さすがだな」

 

順応が早い。

 

 

◇ユーベル

 

任務中。

 

森の中。

 

魔物を縛った瞬間、足元が光る。

 

「え、ちょっ、今取り込み中なんだけど」

 

転移。

 

ゼーリエの部屋。

 

「ちゃんと後で戻してよ?」

 

苦笑い。

 

「すまん」

 

全然すまなそうではない。

 

 

◇ゼンゼ

 

魔法使い試験・第二会場。

 

受験者が緊張して整列している。

 

その中央に光。

 

「……」

 

静かに転移。

 

会場、凍る。

 

受験者たち

 

(え?)

 

ゼンゼ、ゼーリエの部屋へ。

 

「試験官の仕事中ですが」

 

声は平坦。

 

目だけが若干死んでいる。

 

「急ぎだ」

 

「……承知しました」

 

諦めの境地。

 

 

全員集合

 

フリーレンが床に座る。

 

「で?」

 

ゼーリエは腕を組む。

 

「我らは伸びている」

 

「だが、いずれ頭打ちが来る」

 

ユーベルがソファに寝転ぶ。

 

「まあ、そりゃねー」

 

フェルンは真面目に頷く。

 

「市場の飽和ですね」

 

ゼンゼは冷静。

 

「固定ファン層の拡大は順調ですが、

ライト層への浸透はまだ限定的です……」

 

ゼーリエの目が光る。

 

「どうすれば良い」

 

沈黙。

 

フリーレンがぽつり。

 

「外に出れば?」

 

「外?」

 

「よくわからないけど、

他のライブに顔出すとかできないの?」

 

ユーベルが身を起こす。

 

「あー、他のグループと一緒にやるってこと?」

 

フェルン。

 

「テレビやラジオ出演も有効かと」

 

ゼンゼ。

 

「大型音楽フェスへの出演。

海外配信プラットフォーム進出も選択肢です」

 

ゼーリエは目を細める。

 

「つまり、閉じた世界で完結するな、ということか」

 

フリーレン。

 

「まあ、内輪で盛り上がるのは限界あるよね」

 

ユーベルが笑う。

 

「あとバズる曲ほしいよね。一発ドンってやつ」

 

フェルンが頷く。

 

「代表曲の確立は重要です」

 

 

ゼンゼは即座に状況を整理する。

 

「選択肢は三つ。

 

一、外部コラボ。

二、メディア露出。

三、楽曲戦略の強化」

 

ゼーリエが立ち上がる。

 

「……面白い」

 

部屋の空気が、わずかに張り詰めた。

 

「ならば——すべてやる」

 

フリーレンがすぐにツッコミを入れる。

 

「急にアクセル踏むじゃん」

 

ユーベルはニヤリと笑う。

 

「いいね。派手にいこ」

 

フェルンが冷静に口を開く。

 

「準備期間が必要です」

 

ゼンゼは頷く。

 

「スケジュールを再構築します」

 

ゼーリエは静かに笑った。

 

「頭打ちなど、私が許さん」

 

その言葉に、全員が少しだけ笑う。

 

ユーベルがぼそりと呟く。

 

「てかゼンゼ、試験大丈夫なの?」

 

ゼンゼは無表情のまま答えた。

 

「受験者たちには

“実戦形式の突発事態”と説明します」

 

フリーレンが小さく呟く。

 

「かわいそう」

 

ゼーリエは窓の外を見る。

 

夜空は広い。

 

「我らは、まだこんなものではない」

 

アーク・アルカナの物語、第二章が——

 

静かに動き出していた。

 

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