ゼーリエ、アイドルになる。   作:ジュウヨン

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【第一部】3章:点から“線へ”
ゼーリエ、ラジオに出る


 

外部コラボ。

 

大型フェス。

 

大手メディア。

 

ゼーリエは直々にオファーを投げた。

 

だが返答は――

 

「前向きに検討します」

「スケジュールの都合が…」

「もう少し実績を拝見してから…」

 

実質、保留。

 

ゼーリエの額に青筋が浮かぶ。

 

「なぜだ……」

 

机を叩く。

 

「我々は転売ヤーがチケットを吊り上げるほどの人気なのだぞ……」

 

ユーベルが苦笑い。

 

「まあまあ」

 

フェルンは慎重に。

 

「数字は伸びていますが、世間一般での認知度はまだ限定的です」

 

ゼンゼが淡々と資料を広げる。

 

「前回の会場キャパは1000」

 

「我々の勢いを考えれば即完も不思議ではありません」

 

「……ですが、業界基準では“中堅未満”扱いでしょう」

 

ゼーリエ、沈黙。

 

「我々は良くも悪くも……“ぽっと出”ですから」

 

冷静な一撃。

 

数秒後。

 

「……不愉快だ」

 

だが怒鳴らない。

 

成長している。

 

その時。

 

ゼンゼが一枚のデータを差し出す。

 

「ゼーリエ様、これはどうでしょうか」

 

「……なんだ」

 

「大手ラジオ局からのゲスト出演オファーです」

 

ゼーリエの目が細まる。

 

「……ラジオか」

 

手を口元にあて、思案。

 

ゼンゼは続ける。

 

「テレビほど敷居は高くありません。

固定リスナー層への認知拡大には有効です」

 

フェルンも頷く。

 

「コツコツ積み上げるのが大事かと」

 

ユーベルが同意する。

 

「地味だけど堅実だねー」

 

ゼーリエは数秒目を閉じる。

 

「……やってみる価値はあるか」

 

「あります……」

 

ゼンゼが即答。

 

「……よし、受けるぞ」

 

 

数日後

 

告知配信。

 

同接は7000を超える。

 

ゼーリエが宣言する。

 

「我らは、ラジオに出演する」

 

一瞬の静寂。

 

コメント欄が爆発する。

 

”え???“

”ラジオ!?“

”まじか“

”地上波?“

”どこどこどこ“

 

ユーベルが身を乗り出す。

 

「最初はゼーリエと私!来週は残りメンバーだよ〜」

 

さらに加速。

 

コメント欄:

”神回確定“

”録音します“

”保存用バックアップも作る“

”10000000回聴きます“

 

フリーレンが苦笑。

 

「ラジオなんて普段聞かねーって人、多そう」

 

その瞬間、

 

”ラジオなんて普段聞かねー“

”これを機会につけてみるか“

”radiko入れるわ“

 

フェルンが少し驚く。

 

「思ったより反応が良いですね」

 

ユーベルが笑う。

 

「これでラジオ界にオタク大量流入じゃんw」

 

コメント欄:

”元々のラジオリスナー困惑しそう”

“番組乗っ取られる未来見える“

 

ゼーリエは腕を組み、満足げに言う。

 

「ふむ……悪くない」

 

ゼンゼは数字を確認。

 

「トレンド入りしました」

 

一瞬、部屋が静まる。

 

ゼーリエの口元がわずかに上がる。

 

「ならば、ラジオの世界も征くぞ」

 

ユーベルが小声で。

 

「ブチギレてた人とは思えないね……」

 

フリーレンがぼそり。

 

「うん。機嫌直るの早いね……」

 

ゼーリエは堂々と締める。

 

「積み上げてやろう」

 

「頂までな」

 

チャット欄は止まらない。

 

——アーク・アルカナ

 

次の一手は、電波の世界へ。

 

静かに、しかし確実に。

 

広がり始めていた。

 

 

夜のスタジオ。

 

赤い「ON AIR」のランプが灯る。

 

軽快なジングルのあと、落ち着いた声が流れる。

 

「さて、今日は少し暖かかったですねぇ。春が近いのかもしれません」

 

メインパーソナリティが穏やかに天気の話題を広げる。

 

「それでは、今徐々に人気拡大中のアイドルグループ、

“アークアルカナ”から、ユーベルさんとゼーリエさんに来てもらいました」

 

「お願いします」

 

一拍。

 

「ユーベルだよ〜

どうも〜よろしくねー」

 

いつも通り、気楽。

 

スタジオの空気が一瞬で柔らぐ。

 

「……ふん、ゼーリエだ」

 

低く、落ち着いた声。

 

パーソナリティが一瞬だけ間を置く。

 

「お、おお……お二人ともありがとうございます」

 

 

◇トーク開始

 

「まずはですね、最近ライブが大成功だったと」

 

「うんうん、めちゃくちゃ楽しかったよ」

 

ユーベルが即答。

 

「観客の熱量が高かったな」

 

ゼーリエは簡潔。

 

「緊張とかは?」

 

「私は全然!」

 

「緊張などせん」

 

パーソナリティ、笑う。

 

「いやぁ頼もしいですねぇ」

 

チャット(リアルタイムSNS実況)が盛り上がる。

 

“ユーベル声かわいい”

“ゼーリエ圧あるw”

“ラジオ向いてるな”

 

◇深掘りコーナー

 

「ゼーリエさんは、かなりカリスマ性があると言われていますが」

 

「そうか?」

 

本気でわかっていない。

 

ユーベルが横から口を挟む。

 

「あるよと思うよー怖いけどね」

 

「怖いとは何だ」

 

スタジオが笑いに包まれる。

 

パーソナリティがうまく拾う。

 

「リーダーとして大事にしていることは?」

 

ゼーリエは少し考えた。

 

「……来たい者を歓迎することだ」

 

そして、

 

「……メンバーのことを思いやることだ」

 

補足する。

 

一瞬、空気が静かになる。

 

パーソナリティが感心したように言う。

 

「それは素敵ですね」

 

ユーベルが肩をすくめながら。

 

「ちゃんと“ファンのことは”考えてるんだよ、この人」

 

ゼーリエは黙る。

 

少し照れている。

 

「……けどね」

 

ユーベルの表情が少し暗い。

 

「ん?」

 

パーソナリティが聞き返す。

 

「私たちのこと考えてるなら」

 

「ミーティングで、いつでもどこでも

呼び出すのはやめてほしいかなぁ……」

 

ユーベルが遠い目で言う。

 

少し間。

 

「……検討しよう」

 

ゼーリエは申し訳なさそうに目を閉じた。

 

 

◇リスナーメール

 

「“ラジオなんて普段聞かないけど、今日初めてつけました”」

 

ユーベル爆笑。

 

「来た来た!」

 

「ありがたいことです」

 

「“録音して10000000回聴きます”」

 

「やめろ、壊れる」

 

ゼーリエ真顔。

 

パーソナリティが吹き出す。

 

「元々のリスナーさんたち、驚いてるでしょうね!」

 

SNSでは。

 

“本当にラジオ初心者大量発生してる”

“番組フォロワー爆増してるらしい”

“古参リスナー困惑してて草”

 

 

◇終盤

 

「最後に、今後の目標は?」

 

ユーベルがすぐに答える。

 

「もっとでっかいとこでライブしたいかなー」

 

ゼーリエは少し間を空けて、

 

「……頂まで行く」

 

ユーベルがうんうんと頷く。

 

パーソナリティがまとめに入る。

 

「勢いを感じますねぇ」

 

エンディング曲が流れ始める。

 

「今日はありがとうございました!」

 

「楽しかったー」

 

「うむ、悪くなかった」

 

放送終了。

 

赤ランプが消える。

 

 

スタジオ外。

 

スタッフがざわついている。

 

「SNSトレンド入りです」

 

「番組フォロワー増加率、過去最高です」

 

パーソナリティが目を丸くする。

 

「……すごいですね」

 

ユーベルがにやり。

 

「ね?」

 

ゼーリエは静かに言う。

 

「電波も悪くないな」

 

初のラジオ出演。

 

手応えは、十分だった。

 

次は、

フリーレン、フェルン、ゼンゼ組の出番。

 

ラジオ界は、まだこの波を知らない。

 

 

◇翌週

 

同じスタジオ、同じ赤い「ON AIR」のランプ。

 

だが空気は、先週とは少し違う。

 

メインパーソナリティが落ち着いた声で切り出す。

 

「先週は大変反響がありまして……

元々のラジオリスナーの方々は驚かれたかもしれません」

 

軽く笑い。

 

「ですが、今後必ず勢いが出てくる方たちです。どうか温かく見守ってください」

 

そして。

 

「今週も――“アークアルカナ”から、

フリーレンさん、フェルンさん、ゼンゼさんの三人です!」

 

一拍。

 

「どうも〜お願いしまーす。フリーレンです」

 

いつも通り、ゆるい。

 

「フェルンです。慣れていませんが、頑張ります」

 

丁寧で真面目。

 

そして。

 

「……よろしくお願いします」

 

声が、わずかに硬い。

 

ゼンゼだった。

 

 

◇オープニングトーク

 

「先週はゼーリエさんとユーベルさんでしたが、雰囲気がまた違いますね」

 

「だいぶ違うと思う」

 

フリーレン即答。

 

スタジオ笑い。

 

フェルンが続ける。

 

「私たちは比較的、落ち着いた方です」

 

パーソナリティがゼンゼを見る。

 

「ゼンゼさん、緊張されています?」

 

「……多少」

 

声が少し震えている。

 

マイク越しにもわかる。

 

SNS実況。

 

“ゼンゼ緊張してる?”

“声かわいい”

“守りたい”

 

パーソナリティが優しく。

 

「ラジオは顔が見えない分、逆に気楽ですよ」

 

ゼンゼ、小さく頷く。

 

「……善処します」

 

その真面目さに、空気が柔らぐ。

 

 

◇リスナーメール

 

「“フリーレンさんの落ち着いた声が好きです”」

 

「ありがとうねー」

 

淡々。

 

「“フェルンさん、真面目そう”」

 

「概ね、その通りです」

 

即答。

 

スタジオ笑い。

 

「“ゼンゼさん、応援してます!”」

 

ゼンゼ、一瞬沈黙。

 

「……ありがとうございます」

 

少し、声が柔らぐ。

 

フリーレンが横からぽつり。

 

「ゼンゼ、真面目だからね」

 

フェルンもフォロー。

 

「裏では一番冷静で頼りになります」

 

ゼンゼが小さく息を吸う。

 

「……恐縮です」

 

緊張はまだある。

 

だが、孤立はしていない。

 

 

◇ライブの裏話

 

「ライブ前は、どんな会話をされているんですか?」

 

パーソナリティの問いに、フリーレンが先に答えた。

 

「ゼーリエがなんか気合い入れてるかな……」

 

淡々とした口調だった。

 

フェルンが続く。

 

「ユーベル様は、ずっと喋ってます」

 

それを聞いて、スタジオに小さな笑いが広がる。

 

「なるほど、にぎやかそうですね」

 

パーソナリティが楽しそうに言う。

 

そこでゼンゼが口を開いた。

 

「……私は機材チェックです」

 

落ち着いた声だった。

 

パーソナリティが笑いながらまとめる。

 

「役割分担がはっきりしてますねぇ」

 

ゼンゼが小さく頷く。

 

少しだけ、仕事の顔ではない自然な声で言った。

 

「それぞれ適材適所かと」

 

SNS、コメント欄:

“ゼンゼ落ち着いてきた”

“今の自然だった”

“ギャップいい”

 

 

◇終盤

 

「最後に、リスナーへ一言お願いします」

 

パーソナリティの言葉に、フリーレンが先に口を開いた。

 

「また聴いてね〜」

 

いつもの調子で、あっさりと言う。

 

続いてフェルン。

 

「今後も、努力します」

 

真面目な声だった。

 

そしてゼンゼ。

 

少しだけ間を置いてから、静かに言葉を選ぶ。

 

「……本日はありがとうございました。

不慣れですが、今後ともよろしくお願いします」

 

先週のような爆発力はない。

 

だが。

 

静かで、誠実な回だった。

 

やがてエンディングが流れ、放送は終了する。

 

スタジオの赤ランプが消えた。

 

 

スタッフがモニターを見ながら報告した。

 

「番組フォロワー、さらに増えてます」

 

パーソナリティが目を丸くする。

 

「タイプが違っても、魅力がありますね」

 

収録を終え、スタジオを出た後。

 

ゼンゼが小さく息を吐いた。

 

「……想像以上に緊張したよ」

 

フリーレンが横から言う。

 

「顔、赤かったよ」

 

フェルンも続ける。

 

「ですが、しっかり話せていました」

 

ゼンゼは少しだけ微笑んだ。

 

「……そう」

 

電波の世界での、第二週。

 

先週のような爆発ではない。

 

だが——

 

静かに、確実に浸透していく。

 

アークアルカナは、少しずつ広がっていた。

 

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