ラジオ出演は想像以上の反響を呼んだ。
番組公式SNSのフォロワーは急増。
ネットニュースにも取り上げられ、
“急成長アイドル・アークアルカナ、ラジオ界に新風”
“異色のカリスマと静の三人組”
地方局からの出演オファーも次々に届く。
ゼーリエは記事を閉じ、静かに言った。
「……よし、種は撒いた」
机の上にはオファー資料の山。
「次は……」
シブい表情。
ゼンゼが先に察する。
「曲ですね……」
沈黙。
アークアルカナの楽曲は、これまで――
作詞・作曲:メンバー
編曲・音入れ:大陸魔法協会
自分たちの世界観をそのまま音にしてきた。
だが。
「最近の配信コメント、代表曲が欲しいという声が増えています」
ゼンゼがデータを示す。
フェルンも頷く。
「良い曲ですが、爆発力という点では……」
ユーベルが腕を組む。
「なんか“ドン!”ってやつ欲しいよね」
フリーレンは静かに。
「頭打ち、見えてきた?」
ゼーリエは目を閉じる。
「……否定はせん」
今までのやり方は正しかった。
だが、ここから先は“質”の勝負。
ゼンゼが提案する。
「外部委託はどうでしょう」
部屋が静まる。
「プロの売れ子作曲家に依頼すれば、
楽曲のクオリティは一段階上がります」
フェルンが補足。
「当然、コストは跳ね上がります」
ユーベル。
「でも今ならいけるでしょ」
フリーレンは天井を見る。
「勢い、あるしね」
ゼーリエはゆっくり目を開ける。
「……それしかないか」
今までより明らかに金がかかる。
制作費。レコーディング費。プロモーション。
だが。
規模が大きくなれば、求められる水準も上がる。
「勢いは大事だ」
立ち上がる。
「やるならば……今しかない」
空気が変わる。
「よし、ゼンゼ」
「……はい」
「売れっ子作曲家に早速オファーをかけるぞ」
ゼンゼは即座に端末を操作。
「候補は三名」
「ヒット曲複数持ち、若年層支持率が高い作曲家を優先します」
ユーベルがニヤリ。
「……いよいよ本気モードじゃん」
フェルンは真剣な顔。
「負けない歌を歌います」
フリーレンは穏やかに。
「どんな曲が来ても、私たちらしく歌う」
ゼーリエは窓の外を見る。
街の灯り。
「我らは“まぐれ”ではないと証明する」
ゼンゼが報告。
「早速一名、前向きな返答です」
一瞬、全員の視線が集まる。
「……面白い」
ゼーリエの口元がわずかに上がる。
ラジオで広げた知名度。
地方番組への進出。
そして、プロの楽曲。
アークアルカナは、
趣味の延長でも、偶然の成功でもない。
本物のアイドルへの階段を、
確実に、踏みしめ始めていた。
都内の小さな音楽スタジオ。
防音扉の向こう、静かな打ち合わせ室。
アークアルカナの五人は、円卓を囲んで座っていた。
今回オファーを出した作曲家は、
ネットを中心に評価を上げている新進気鋭。
派手な露出はない。
だが曲の完成度は高い。
『今後必ず出てくる』
業界でそう囁かれている人物だった。
扉が開く。
黒い服。
伏し目がち。
無駄な動きがない。
「……どうも」
小さな声。
メンバー一同、挨拶。
「よろしくお願いします」
「お願いします」
「どうも〜」
「……」
「……こちらこそ、お願いします」
ボソボソ。
第一印象。
暗い。
ゼーリエがわずかに顔をしかめる。
(辛気臭い奴だな……)
だがゼンゼは気にしない。
「本日はお時間ありがとうございます。
…というわけで、我々の新曲の作曲を依頼したく参りました」
静かに資料を差し出す。
作曲家は受け取り、目を通す。
無言。
重い沈黙。
フェルンが恐る恐る。
「……いかがでしょうか」
作曲家が、ぽつり。
「あの……皆さん、僕のこと暗いと思ってますよね」
空気が凍る。
フリーレンのまばたきが止まる。
ユーベルが「え?」という顔。
ゼンゼも一瞬だけ言葉を失う。
ゼーリエが即答。
「暗いだろ」
静寂を切り裂く一撃。
「ちょっ、ゼーリエ」
フリーレンが慌てて制止。
だが作曲家は、少しだけ苦笑した。
「……ですよね。陰気臭いって、よく言われます」
コーヒーをすする。
「そんな人間に作曲してもらうの、嫌じゃないですか?」
さらに沈黙。
ユーベルは視線を泳がせる。
フェルンは言葉を探す。
ゼンゼは分析を巡らせる。
その時。
ゼーリエが腕を組んだまま、口を開く。
「……お前の曲は何曲か聞いた」
全員がゼーリエを見る。
「曲のことはよくわからん」
「だが、良い曲だった」
作曲家の手が止まる。
「こんなことを言えた口ではないが、まだ荒削りなのだろう」
一瞬、目が合う。
「だが、熱意は感じた」
部屋の空気が少し変わる。
「……だからお願いしたい」
真っ直ぐな視線。
飾りも忖度もない。
作曲家は黙ったまま。
数秒。
やがて、ゆっくりと息を吐く。
「……わかりました」
顔は伏せたまま。
「……僕も、皆さんであれば是非協力したいです」
小さな間。
「……初期からファンなので」
一同、固まる。
「え?」
ユーベルが声を上げる。
「初期って、配信とかも見てくれてたり?」
こくり。
「……ゼーリエさんがシチュー焦がしてた回、好きでした」
ゼーリエ、咳払い。
「……そ、そうか」
ユーベルが立ち上がる。
「やったー!ありがとうねー!」
フェルンが深く頭を下げる。
「よろしくお願いします」
ゼンゼは冷静に。
「契約条件は後ほど詰めましょう」
フリーレンは微笑む。
「いい縁になりそう」
作曲家は照れ隠しのようにコーヒーをすする。
「……全力で作ります」
ゼーリエが静かに頷く。
「うむ。期待しているぞ」
この男の名は――
『ヨネヅ・レモン』
まだ世間的な大ヒットはない。
だが。
この出会いが。
アークアルカナの運命を、
そして彼自身の運命を、
大きく変えることになるとは。
この時、誰も知らなかった。