王都・中央広場。
石畳の上に設けられた特設ブースには、
「アークアルカナ 3rd LIVE 先行チケット販売」と大きく掲げられている。
開始1時間前――
すでに長蛇の列。
地方からの遠征組、騎士団帰りの若者、魔法学院の生徒、
さらには年配の貴族まで混じっている。
勢いは本物だった。
⸻
「……思ったより来たな」
腕を組み、淡々と状況を眺めるゼーリエ。
「いや“思ったより”ってレベルじゃないでしょこれ」
ユーベルが引きつった笑みを浮かべる。
「1000枚……足りますかね」
フェルンが真顔で言う。
「足りなかったら追加で売ればいい」
即答するゼーリエ。
「いやそれはダメでしょ!」
ユーベルがツッコむ。
⸻
販売開始。
一斉に歓声が上がる。
それぞれのメンバーに人が集中した。
◇フリーレン列
「フリーレン様!今回も絶対行きます!」
「歌上手すぎて泣きました!」
「老けたとか言ってた奴許さないからな!」
「老けてないってば」
即答。
しかし、微妙に嬉しそう。
写真撮影のたび、自然体でファンサを返す。
◇ゼーリエ列
「ゼーリエ様!!」
「今日も美しい……」
「シチュー……!」
「アンチに負けないでください!」
「負けたことはない」
これも即答だった。
サインを書く手つきは、どこか荒い。
だが、その目はどこか楽しそうだ。
「次は一万だ。覚悟して来い」
その一言に、列から歓声が上がる
◇ユーベル列
「妖艶が過ぎる…」
「ユーベルかわいー!」
「ダンスめっちゃ上手くなってた!」
「無理しないでね!」
「どんどん可愛くなってってるよね!」
「え、ほんと?ありがとう〜」
素直に喜び、
ハイタッチ、笑顔、ちょっとしたトーク。
彼女の列が一番“にぎやか”だった。
◇フェルン列
「フェルン推しです!」
「美しい……」
「歌声好きです!」
「俺は全部大好きです!!」
「ありがとうございます……」
丁寧に、丁寧に、一人ずつ目を見て対応。
静かながら、確実にファンを増やしている。
◇ゼンゼ列
「ゼンゼ疲れてる?」
「大丈夫?」
「ちゃんと寝てる?」
「……寝てます」
少しだけ微笑む。
その希少な笑顔に列がざわつく。
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1000枚。
完売。
予定時間より大幅に早く。
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「……やったね」
ユーベルがぽつり。
「まだだ」
ゼーリエは言う。
「1万を埋めて、成功させて、初めて“やった”だ」
しかしその声は、少しだけ柔らかい。
フリーレンが空を見上げる。
「王都で1万か……」
「やれるよ」
ユーベルが言う。
迷いがない。
フェルンも静かに頷く。
ゼンゼも、小さく頷いた。
⸻
その日の夜。
王都の街にはこう書かれた張り紙が増えていた。
“アークアルカナ 3rd LIVE”
“2ヶ月後”
“1万人動員予定”
もう後戻りはできない。
だが。
勢いは、確かに本物だった。
⸻
その日の夜、
王都から戻ったばかりの簡易スタジオ。
照明は少し暗め。
メンバー全員、明らかに疲れている。
配信タイトルは特にひねりもない。
【3rd先行販売ありがとう】
同接――15000。
チャットは爆速。
⸻
”は?行きたかったんだが“
”行った時には既に売り切れてて泣いた“
”生ユーベル最高だった“
”ゼーリエ様現場でも怒ってた“
”フリーレン全然老けてなかったよ“
”ゼンゼ可愛かった。でも凄い眠そうだった“
”フェルンに会いたい“
”事前告知してから手売りしてよ(泣)“
”↑王都大混乱しそう“
”チケット買ったけど、ゼーリエ様ですら疲れてたね“
”ゼーリエ元気出せ“
⸻
「……」
ゼーリエはいつものようにコメントを読み上げない。
ただ、腕を組んで画面を見つめている。
ユーベルが空気を和ませようとする。
「今日はほんとにありがとね〜。たくさん人いたよ〜」
「王都、軽くパニックでしたね」
フェルンが静かに補足。
ゼンゼはほぼ動かない。
フリーレンは椅子に深く座り込んでいる。
⸻
「好き勝手言いおって…」
ゼーリエが、ボソリ。
マイクに乗る。
一瞬の静寂。
次の瞬間――
”怒ってて草“
”ゼーリエもっと喋れ“
”ユーベルカメラに寄って〜“
”ゼンゼこっち向いて“
”ゼーリエ、相変わらずゼンゼ様と被ってる。しゃがんで。“
”↑歳だからしゃがめないんじゃね“
”↑やめとけ“
”↑じゃあフリーレンもしゃがめないんかな“
”↑●すぞ“
”フェルンだけ映して“
コメント欄、爆速。
⸻
ゼーリエの眉がピクリと動く。
「……“しゃがめない”だと?」
低い声。
さらに加速。
”やっぱ怒ってるw“
“可愛い”
“ゼーリエ様しゃがんで証明して”
「……証明などせん」
だが、椅子を少し引く。
結果――
本当にしゃがむ。
一瞬だけ。
コメント欄:
“しゃがめるやんけ!!”
“誰だよしゃがめないって言ったやつ”
“しゃがめたのか……”
スタジオが爆笑に包まれる。
ユーベルが腹を抱える。
「やらなくていいって!!」
フリーレンも珍しく吹き出す。
ゼンゼがうっすら笑う。
フェルンは顔を覆う。
⸻
「……満足か」
ゼーリエ、静かに座り直す。
チャットは祝祭状態。
“ゼーリエ様最強”
”意外と素直で草“
“疲れてるのにありがとう”
⸻
ユーベルが画面に寄る。
「みんなさ、ほんとありがと〜」
「今日買えなかった人も一般あるからね〜」
笑顔でカメラの方に手を振る。
「次は必ず事前告知します」
フェルンが真面目に補足。
フリーレンがぽつり。
「1万、埋めたいね」
コメントが一瞬落ち着く。
“埋まるよ”
“行く”
“仕事休む”
“遠征する”
⸻
ゼーリエは画面を見つめる。
その目は、さっきより少しだけ柔らかい。
「……埋める。必ずだ」
静かな宣言。
コメント欄、再び爆発。
◇配信終了後
スタジオの空気は一気に静かになる。
「……疲れたぁぁ」
ユーベルが机に突っ伏す。
「でも」
フリーレンが小さく笑う。
「悪くない」
ゼーリエも否定しなかった。
1万。
その数字が、確実に現実味を帯び始めていた。