ゼーリエ、アイドルになる。   作:ジュウヨン

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ゼンゼとフェルン、二人の決意

ネット販売開始――

 

開始10分でアクセス集中。

30分で残りわずか。

そして、

 

1時間で完売。

 

1万キャパ、SOLD OUT。

 

勢いは本物だった。

 

だが――

 

その夜の配信。

 

同接は過去最高、18000。

 

コメント欄は祝福と不満が入り混じる。

 

“買えなかったんだが”

”サーバー落ちてたぞ“

“地方民どうすんの”

“二次抽選って言っても当たらんやろ”

“転売多すぎ”

“なんでこんな急に取れなくなったん”

 

 

ユーベルが明るく切り出す。

 

「二次抽選もあるからね〜!まだチャンスあるよ!」

 

しかし。

 

コメントは止まらない。

 

“落選怖すぎる”

“もっと箱大きくしてよ”

“配信ないの?”

“正直ショック”

 

空気が重い。

 

ゼーリエが腕を組む。

 

珍しく、本気で悩んでいる。

 

「ふむ……どうするべきか」

 

その声に、コメントが少し静まる。

 

フェルンが静かに言う。

 

「不満は……期待の裏返しです」

 

フリーレンも続ける。

 

「……来たい人が多いってことだよね」

 

ユーベルは少し真面目な顔になる。

 

「ねえ、配信やらない?」

 

スタジオが一瞬止まる。

 

「有料配信とか、ライブビューイングとかさ」

 

ゼンゼが小さく頷く。

 

「転売対策も……より強めた方が」

 

ゼーリエがゆっくり顔を上げる。

 

「……追加公演はどうだ」

 

コメント欄、爆速。

 

”追加!?“

“マジ!?”

“王都2days!?”

“地方来て”

 

ユーベルが目を見開く。

 

「え、やる?」

 

「勢いがある今こそ勝負だろう」

 

かつて自分が言った言葉。

 

そのまま返す。

 

だがフェルンが冷静に言う。

 

「体力、持ちますか?」

 

一瞬の沈黙。

 

今日の彼女たちは明らかに疲れている。

 

ゼーリエは深く息を吐く。

 

「……即断はせん」

 

コメントがざわつく。

 

「……だが」

 

カメラを見る。

 

「来たい者を……切り捨てるつもりはない」

 

静かな宣言。

 

ユーベルが笑う。

 

「つまり、なんか考えるってことね」

 

コメント欄:

“信じてる”

“ゼーリエ様頼む”

“配信でもいい”

“地方民救済”

 

フリーレンがぽつり。

 

「1万埋めるより難しいね」

 

「だが、悪くない」

 

ゼーリエが返す。

 

 

配信終了後。

 

スタジオ。

 

「追加……いけるかな」

 

ユーベルが天井を見る。

 

ゼーリエは目を閉じる。

 

「やるなら、中途半端はしない」

 

王都の夜は静か。

 

だがアークアルカナは、

もう“地下”ではなかった。

 

次の一手を誤れば、

勢いは崩れる。

 

だが当てれば――

 

伝説になる。

 

 

深夜、

大陸魔法協会・事務所会議室。

 

他のメンバーは帰宅した後だった。

 

テーブルに残っているのは、

 

ゼンゼとフェルン。

 

資料、売上データ、動員推移、SNS反応の書き出し。

 

静かな空気。

 

「……二次抽選だけでは、不満は消えないと思います」

 

フェルンが口を開く。

 

ゼンゼはノートに何かを書きながら頷く。

 

「追加公演……現実的?」

 

「体力的には厳しいです」

 

即答。

 

「でも、勢いは今がピークかもしれない」

 

ゼンゼが小さく呟く。

 

そこが問題だった。

 

ホワイトボードには三つの案。

 

① 追加公演(王都2days)

② 有料配信・ライブビューイング

③ 地方公演発表

 

どれも正解に見える。

 

どれもリスクがある。

 

「追加公演は熱量を維持できます」

 

フェルン。

 

「でも失敗したら“過信”って言われる」

 

ゼンゼ。

 

「配信なら救済になる」

 

「でも現地の特別感が薄れる」

 

沈黙。

 

時計の音だけが響く。

 

「……ゼーリエ様は、攻めると思います」

 

フェルン。

 

「うん」

 

ゼンゼも迷いなく同意。

 

「ユーベルは、みんなを救いたいって言う」

 

「フリーレン様は、流れを見る」

 

「私たちは?」

 

ゼンゼが問い返す。

 

フェルンは少し考える。

 

「彼女たちを守る役目です」

 

即答だった。

 

「今、無理をして崩れたら終わりです」

 

「でも慎重すぎても、勢いは死ぬ」

 

また行き詰まる。

 

ゼンゼがぽつり。

 

「……ブランドを作る段階かもしれない」

 

フェルンが顔を上げる。

 

「動員数じゃなくてでしょうか?」

 

「うん。小さい箱でも、“アークアルカナだから行きたい”って状態を作る」

 

数字ではなく価値。

 

単発の成功ではなく継続。

 

「じゃあ」

 

フェルンがゆっくり言う。

 

「3rdは一発に全力でいき」

 

「すぐ“大箱”での追加はしないということでしょうか」

 

フェルンの目が静かに強くなる。

 

ゼンゼが頷く。

 

「そう」

 

「ただ、次の展開を匂わせる」

 

ツアーか、アルバムか、

大きな何か。

 

フェルンがゼンゼを見つめ、

 

「……焦らす戦略ですか?」

 

ゾッとした表情を浮かべる。

 

「そう……私たちでファンの期待を“次”に向けさせる……」

 

「常に楔を打ち続ける」

 

ゼンゼがほんの少し、ニヤリと笑う。

 

「……フェルン、これから忙しくなるよ」

 

完全な答えではない。

 

だが、方向は見えた。

 

 

「……でも」

 

フェルンが小さく言う。

 

「……“私たち”は持つんでしょうか」

 

ゼンゼは一瞬黙る。

 

そして素直に言う。

 

「……正直、ギリギリだ」

 

二人とも笑う。

 

珍しく。

 

「……だからこそ」

 

ゼンゼの目元が少し鋭くなる。

 

「無茶はさせない」

 

フェルンがゼンゼの目を真っ直ぐに見つめ、

確認する。

 

「……誰にもでしょうか」

 

少し、間。

 

「……ああ」

 

「……“私たち”以外の誰にもだ」

 

「私たちが“アークアルカナ”を支えるんだ」

 

ゼンゼの強気に、フェルンが自信なさげに微笑む。

 

ホワイトボードを消し始めるゼンゼ。

 

その時、彼女の表情には翳りが潜んでいた。

 

背中越しの先、フェルンはゼンゼの手の震えに気づくことができなかった。

 

 

結論は、まだ完全ではない。

 

だが一つだけ共有された。

 

“勢い”だけで走らない。

 

“次”を見据えて動く。

 

会議室の電気が消える。

 

静かな廊下。

 

アーク・アルカナは今、

”分岐点“に立っている。

 

攻めるか。

 

積み上げるか。

 

壊れるか。

 

二人の参謀の働きが、未来を決める。

 

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