大陸魔法協会・会議室
最終的にまとまった方向性は、明確だった。
3rdライブで新曲を発表。
その勢いのまま、
3000〜5000キャパの地方ライブを複数回。
一気に“広げる”。
守りではなく、拡張。
◇
「いやーこの日程、流石にやばそうだね」
ユーベルがスケジュール表を見て戦慄する。
レッスン
レコーディング
メディア出演
リハーサル
撮影
地方ライブ準備
空白が、ない。
◇
「睡眠時間……とれるかな……」
ゼンゼ、遠い目。
「せめてメディア露出減らせればね〜」
フリーレンも机に頬をつけたまま呟く。
フェルンは即座に返す。
「……今それをしては元も子もないです」
正論。
「それはわかってるんだけど、ね……」
ユーベルの表情が、いつもより弱気になる。
勢いは“露出”が作っている。
止めた瞬間、熱は冷める。
◇
ゼーリエは腕を組んでいる。
黙っている。
だが誰よりも理解している。
今は、勝負どころ。
⸻
ライブまであと1ヶ月半。
そして――
新曲のレコーディングが始まる。
⸻
数日後
王都・レコーディングスタジオ
作曲はヨネヅ・レモン
仮タイトルはまだない。
イントロを聴いた瞬間、空気が変わる。
静かで、美しくて、
でもどこか爆発の予感を孕んでいる。
「……これ、難しいね」
ユーベルが正直に言う。
リズムも歌い回しも、これまでより明らかに高度。
フェルンは楽譜を睨む。
「でも、看板にするならこれくらい必要です」
フリーレンは目を閉じて旋律をなぞる。
「ライブで化ける曲だね」
ゼンゼはマイクの前で深呼吸。
「……やるしかない」
◇
ゼーリエの録りは圧巻だった。
だが。
「声、少し荒れてます」
エンジニアの指摘。
一瞬、スタジオが静まる。
疲労は、確実に出ている。
ゼーリエは何も言わず、水を飲む。
「もう一度だ」
低く、強く。
◇
数時間後
全員、限界寸前。
ユーベルは椅子に沈み込み、
ゼンゼは壁にもたれ、
フリーレンは静かに目を閉じ、
フェルンは資料を握ったまま立っている。
◇
「……これ成功したらさ」
ユーベルが天井を見る。
「ほんとに上に行けるよね」
誰も否定しない。
ゼーリエがぽつり。
「……成功させる」
言い切る。
「体力が限界でも?」
フリーレンが聞く。
「限界は、更新するものだ」
強い。
だが。
その手は、ほんの少し震えていた。
⸻
そして、レコーディング最終日
最後のハモリが重なり、
エンジニアが親指を立てる。
沈黙。
そして――
「……OKです」
ヨネヅレモンが小さく頷く。
「想像より、良いです。これはライブで跳ねますね」
珍しく、はっきりした声。
ユーベルが椅子からずり落ちる。
「おわっっったああああああ」
ゼンゼはその場に座り込む。
フリーレンは壁に寄りかかる。
フェルンは安堵で息を吐く。
ゼーリエは静かに目を閉じる。
「……ふん、当然だ」
だが口元は、少し緩んでいた。
◇
その夜
久しぶりの全員での食事。
王都の落ち着いた店を貸し切り。
テーブルいっぱいの料理。
そして――
もちろん配信。
タイトルはシンプル。
【レコーディング打ち上げ】
同接:22000。
過去最高。
コメント欄:
”うおおおお“
“完成した!?”
“お疲れ様!!”
“ヨネヅレモンいる!?”
“生打ち上げ助かる”
◇
ユーベルが乾杯を仕切る。
「とりあえず、レコーディングお疲れ様!」
グラスが鳴る。
ゼンゼはすでに半分寝ている。
「ゼンゼ様、起きてください」
フェルンが小声で言う。
◇
「今回の曲ね、ほんと難しかった」
ユーベルが笑う。
「お前、泣きそうになっていたな」
ゼーリエが即バラす。
コメント爆笑。
”ユーベル涙目で草“
“ゼーリエ暴露やめろ”
“お前がユーベルをイジるな”
「泣いてないし!」
ユーベルの表情が更に明るくなる。
◇
フリーレンが料理をもぐもぐしながら言う。
「でも、今回の曲が今までで一番好きかも」
コメントがざわつく。
”歌唱力怪物級のフリーレンが一番好きってことは……“
”我らの歌姫が言うなら間違いない”
“マジでコイツ歌唱力エグいからな”
期待値爆上がり
◇
ヨネヅレモンも画面端に映る。
「皆さんの声で完成しました」
チャット大歓喜。
”ヨネヅ君が喋った……!“
“ヨネヅレモンって喋るんだ”
“↑そりゃ喋るだろうが”
ゼーリエが横目で見る。
「今日は機嫌がいいらしいな」
少し笑いが起きる。
◇
ゼンゼがぽつり。
「……正直、限界だった」
空気が少し静まる。
「でも、今日だけは報われた感じがする」
珍しい本音。
コメントが優しくなる。
“ゼンゼ休んで”
“無理しないで”
“早く寝ろ”
それを見て、ゼンゼの疲れが少し和らいだ気がした。
◇
フェルンが締めるように言う。
「ライブまであと1ヶ月です」
一瞬、空気が引き締まる。
ユーベルが箸を掲げる。
「でも今日は考えない!今日は食べる!」
拍手。
◇
ゼーリエが最後に言う。
「新曲は、期待して待っていろ」
低く、静かに。
コメント欄、爆発。
”行く“
“絶対行く”
“早く聴かせろ”
◇
久しぶりに、全員が笑っていた。
疲労は消えていない。
だが、
今は充実感が勝っている。
1ヶ月後ーー
1万人の前で、この曲が鳴る。
その瞬間を思い描きながら、
彼女たちは久しぶりにゆっくりと夜を過ごしていた。
ーーただ、一人机に向かってチームのスケジュールを埋め続ける
髪の長い少女を除いて。