ゼーリエ、アイドルになる。   作:ジュウヨン

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ゼーリエ、レコーディングする

 

大陸魔法協会・会議室

 

最終的にまとまった方向性は、明確だった。

 

3rdライブで新曲を発表。

その勢いのまま、

 

3000〜5000キャパの地方ライブを複数回。

 

一気に“広げる”。

 

守りではなく、拡張。

 

 

「いやーこの日程、流石にやばそうだね」

 

ユーベルがスケジュール表を見て戦慄する。

 

レッスン

レコーディング

メディア出演

リハーサル

撮影

地方ライブ準備

 

空白が、ない。

 

 

「睡眠時間……とれるかな……」

 

ゼンゼ、遠い目。

 

「せめてメディア露出減らせればね〜」

 

フリーレンも机に頬をつけたまま呟く。

 

フェルンは即座に返す。

 

「……今それをしては元も子もないです」

 

正論。

 

「それはわかってるんだけど、ね……」

 

ユーベルの表情が、いつもより弱気になる。

 

勢いは“露出”が作っている。

 

止めた瞬間、熱は冷める。

 

 

ゼーリエは腕を組んでいる。

 

黙っている。

 

だが誰よりも理解している。

 

今は、勝負どころ。

 

 

ライブまであと1ヶ月半。

 

そして――

 

新曲のレコーディングが始まる。

 

 

数日後

 

王都・レコーディングスタジオ

 

作曲はヨネヅ・レモン

 

仮タイトルはまだない。

 

イントロを聴いた瞬間、空気が変わる。

 

静かで、美しくて、

でもどこか爆発の予感を孕んでいる。

 

「……これ、難しいね」

 

ユーベルが正直に言う。

 

リズムも歌い回しも、これまでより明らかに高度。

 

フェルンは楽譜を睨む。

 

「でも、看板にするならこれくらい必要です」

 

フリーレンは目を閉じて旋律をなぞる。

 

「ライブで化ける曲だね」

 

ゼンゼはマイクの前で深呼吸。

 

「……やるしかない」

 

 

ゼーリエの録りは圧巻だった。

 

だが。

 

「声、少し荒れてます」

 

エンジニアの指摘。

 

一瞬、スタジオが静まる。

 

疲労は、確実に出ている。

 

ゼーリエは何も言わず、水を飲む。

 

「もう一度だ」

 

低く、強く。

 

 

数時間後

 

全員、限界寸前。

 

ユーベルは椅子に沈み込み、

 

ゼンゼは壁にもたれ、

 

フリーレンは静かに目を閉じ、

 

フェルンは資料を握ったまま立っている。

 

 

「……これ成功したらさ」

 

ユーベルが天井を見る。

 

「ほんとに上に行けるよね」

 

誰も否定しない。

 

ゼーリエがぽつり。

 

「……成功させる」

 

言い切る。

 

「体力が限界でも?」

 

フリーレンが聞く。

 

「限界は、更新するものだ」

 

強い。

 

だが。

 

その手は、ほんの少し震えていた。

 

 

そして、レコーディング最終日

 

最後のハモリが重なり、

エンジニアが親指を立てる。

 

沈黙。

 

そして――

 

「……OKです」

 

ヨネヅレモンが小さく頷く。

 

「想像より、良いです。これはライブで跳ねますね」

 

珍しく、はっきりした声。

 

ユーベルが椅子からずり落ちる。

 

「おわっっったああああああ」

 

ゼンゼはその場に座り込む。

 

フリーレンは壁に寄りかかる。

 

フェルンは安堵で息を吐く。

 

ゼーリエは静かに目を閉じる。

 

「……ふん、当然だ」

 

だが口元は、少し緩んでいた。

 

 

その夜

 

久しぶりの全員での食事。

 

王都の落ち着いた店を貸し切り。

 

テーブルいっぱいの料理。

 

そして――

 

もちろん配信。

 

タイトルはシンプル。

 

【レコーディング打ち上げ】

 

同接:22000。

 

過去最高。

 

コメント欄:

”うおおおお“

“完成した!?”

“お疲れ様!!”

“ヨネヅレモンいる!?”

“生打ち上げ助かる”

 

 

ユーベルが乾杯を仕切る。

 

「とりあえず、レコーディングお疲れ様!」

 

グラスが鳴る。

 

ゼンゼはすでに半分寝ている。

 

「ゼンゼ様、起きてください」

 

フェルンが小声で言う。

 

 

「今回の曲ね、ほんと難しかった」

 

ユーベルが笑う。

 

「お前、泣きそうになっていたな」

 

ゼーリエが即バラす。

 

コメント爆笑。

 

”ユーベル涙目で草“

“ゼーリエ暴露やめろ”

“お前がユーベルをイジるな”

 

「泣いてないし!」

 

ユーベルの表情が更に明るくなる。

 

 

フリーレンが料理をもぐもぐしながら言う。

 

「でも、今回の曲が今までで一番好きかも」

 

コメントがざわつく。

 

”歌唱力怪物級のフリーレンが一番好きってことは……“

”我らの歌姫が言うなら間違いない”

“マジでコイツ歌唱力エグいからな”

 

期待値爆上がり

 

 

ヨネヅレモンも画面端に映る。

 

「皆さんの声で完成しました」

 

チャット大歓喜。

 

”ヨネヅ君が喋った……!“

“ヨネヅレモンって喋るんだ”

“↑そりゃ喋るだろうが”

 

ゼーリエが横目で見る。

 

「今日は機嫌がいいらしいな」

 

少し笑いが起きる。

 

 

ゼンゼがぽつり。

 

「……正直、限界だった」

 

空気が少し静まる。

 

「でも、今日だけは報われた感じがする」

 

珍しい本音。

 

コメントが優しくなる。

 

“ゼンゼ休んで”

“無理しないで”

“早く寝ろ”

 

それを見て、ゼンゼの疲れが少し和らいだ気がした。

 

 

フェルンが締めるように言う。

 

「ライブまであと1ヶ月です」

 

一瞬、空気が引き締まる。

 

ユーベルが箸を掲げる。

 

「でも今日は考えない!今日は食べる!」

 

拍手。

 

 

ゼーリエが最後に言う。

 

「新曲は、期待して待っていろ」

 

低く、静かに。

 

コメント欄、爆発。

 

”行く“

“絶対行く”

“早く聴かせろ”

 

 

久しぶりに、全員が笑っていた。

 

疲労は消えていない。

 

だが、

 

今は充実感が勝っている。

 

1ヶ月後ーー

 

1万人の前で、この曲が鳴る。

 

その瞬間を思い描きながら、

 

彼女たちは久しぶりにゆっくりと夜を過ごしていた。

 

ーーただ、一人机に向かってチームのスケジュールを埋め続ける

 

髪の長い少女を除いて。

 

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