ゼーリエ、アイドルになる。   作:ジュウヨン

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フリーレンとフェルン、アイドルになる

 

路上ライブにフリーレンが加わり、

状況は――わずかに変わった。

 

立ち止まる者が、ぽつぽつと増え始めた。

 

(……こいつ、歌が異様に上手い)

 

ゼーリエがフリーレンを横目で見る。

 

恥ずかしさは隠しきれていない。

だが、それでも歌声は澄んでいた。

 

聞き覚えのない曲でも、

思わず耳を傾けてしまう力がある。

 

通行人の何人かが、足を止める。

 

(……良い原石を拾ったようだな)

 

ゼーリエの口元が、わずかに歪む。

 

ーーしかし。

 

人々は長くは立ち止まらない。

 

少し聴き、

そしてまた歩き出す。

 

王都の人の波は、止まらない。

 

曲が終わる。

 

フリーレンが小さく息を吐いた。

 

「…なかなか辛いね、これ」

 

ゼーリエは腕を組む。

 

「……いや、だが状況は変わった」

 

「続ければ、どうなるかわからんぞ」

 

予感だった。

 

確信ではない。

 

それでも――

 

ゼーリエの目には、まだ火が残っていた。

 

フリーレンが苦笑する。

 

「……それまでメンタルが持てばだけどね」

 

乾いた笑いがこぼれる。

 

横では、ゼンゼが静かに遠い目をしていた。

 

ゼーリエが言う。

 

「だが、続けることに意味がある」

 

そして、言い切る。

 

「路上ライブは――種蒔きだ」

 

沈黙。

 

夕暮れの王都。

人々の足音が流れていく。

 

しばらくして。

 

フリーレンが、再びマイクを握る。

 

「……続けよう」

 

結果が出るのが先か。

 

それとも。

 

心が折れるのが先か。

 

三人は。

 

先の見えない未来へ――

 

静かに歩みを進めた。

 

________

 

そこから三人は、

ほぼ毎日、同じ場所で歌った。

 

雨の日も。

 

人通りが少ない日も。

 

路上ライブを続けた。

 

最初は誰も立ち止まらなかった。

 

ーーだが。

 

日を重ねるごとに、

 

一人。

また一人。

 

足を止める人間が増えていく。

 

ごく稀に。

 

カラン、と音を立てて、

銅貨が足元の箱に落ちる。

 

わずかな成果。

 

だが、それは確かに成果だった。

 

三人は少しずつ自信をつけていく。

 

それでも――

 

先は、まだ見えない。

 

「道のりは遠いね……」

 

箱の中の数枚の銅貨を見つめながら、

フリーレンが溜息をつく。

 

荷物をまとめながら、空を見上げた。

 

夕焼け。

 

ゼーリエは腕を組む。

 

「だが、最初よりも結果は出ている」

 

「……フリーレン、お前のおかげだ」

 

ゼンゼも静かに頷く。

 

「え?」

 

フリーレンが目を瞬かせる。

 

ゼーリエが、ふと尋ねた。

 

「何故……そんなに歌が上手い」

 

沈黙。

 

フリーレンは、少しだけ遠くを見る。

 

「……昔、師匠に教えてもらったんだ」

 

ゼーリエの表情が、ふっと柔らぐ。

 

どこか、懐かしむような目。

 

「そういえば——フランメも」

 

「……あの子も、歌がうまかったな」

 

フリーレンが続ける。

 

「一人で森で練習してさ、」

 

「……ヒンメルたちにもよく褒められたよ」

 

小さく笑う。

 

だが。

 

どこか寂しげだった。

 

「……」

 

沈黙が落ちる。

 

「……じゃあ、今日はもう帰るね」

 

フリーレンが荷物を肩にかける。

 

「……あと何日かやっても同じようなら」

 

「私は抜けるよ」

 

ゼーリエは何も言えなかった。

 

「……わかった」

 

「ーーそれじゃ」

 

フリーレンが歩き出す。

 

その時。

 

「……こんなところにいたのですね、フリーレン様」

 

人影が立ち止まった。

 

フリーレンが振り返る。

 

「フェ、フェルン……?」

 

フェルンが小さく息を吐く。

 

「探しましたよ」

 

腕を組み、辺りを見渡す。

 

「最近どこかに出掛けているとは思っていましたが」

 

「今まで何をしていたんですか?」

 

フリーレンが赤面する。

 

「ち、違うんだよフェルン」

 

「これはね、ゼーリエに誘われて……」

 

横から声が割り込む。

 

「フリーレンの弟子か」

 

ゼーリエだった。

 

フェルンの視線が向く。

 

「ゼーリエ様ですか……」

 

少し警戒している。

 

ゼーリエはあっさり言った。

 

「すまなかったな」

 

「こいつを借りて、路上ライブを行っていた」

 

「……路上ライブですか」

 

フェルンの眉がわずかに動く。

 

ゼーリエは続ける。

 

「そうだ」

 

「諸事情で、私たちは今アイドルをやっている」

 

「フリーレンはその一員だ」

 

フリーレンが慌てる。

 

「ちょっ……全部バラさないでよ」

 

ゼーリエは気にせず続ける。

 

「この先、芽が出れば箱を借りてライブをする」

 

「今はその道半ばだ……」

 

フェルンは腕を組んだまま黙る。

 

呆れているような顔。

 

だが――

 

次の瞬間。

 

何かを考える表情に変わった。

 

気まずい沈黙が流れる。

 

そして。

 

フェルンが言った。

 

「……私もやります」

 

「え、フェルン……!?」

 

フリーレンが目を見開く。

 

ゼーリエの口元が歪む。

 

「……ほう?」

 

フェルンは真顔だった。

 

「……私には」

 

「フリーレン様を監視する義務がありますので」

 

ゼーリエが即答する。

 

「うむ、決まりだな」

 

――フェルン、加入。

 

ゼーリエがフェルンを見て言う。

 

「お前は見た目が良い」

 

「そして若い」

 

「……期待しているぞ」

 

少し間を置いて。

 

フェルンが頷く。

 

「……頑張ります」

 

真っ直ぐな目だった。

 

二人から三人。

 

三人から四人へ。

 

彼女たちの物語は――

 

少しずつ。

 

確実に、広がり始めている。

 

 

フェルンが、ふと思い出したように口を開く。

 

「路上ライブということですが……皆さんは、どんな曲を歌われているのですか?」

 

その質問に、ゼーリエが胸を張る。

 

「ふん、よく聞いてくれた」

 

腕を組み、堂々と言い放つ。

 

「私とゼンゼが作ったオリジナル曲だ」

 

ゼーリエが魔力探知型スピーカーを起動させる。

 

次の瞬間、スピーカーから曲が流れ始めた。

 

♪〜

 

フェルンは腕を前で揃え、真面目な顔で最後まで聴いていた。

 

やがて曲が終わる。

 

フェルンが口を開く。

 

「……思ったより悪くはないですが」

 

一同が少しだけ身を乗り出す。

 

「この曲を、街の人は知っているのでしょうか?」

 

ゼーリエが少し強気に答える。

 

「知るわけがないだろう」

 

「オリジナル曲だ」

 

その言葉を聞いて、ゼンゼがふと考え込んだ。

 

「……確かに」

 

「知らない曲だったら、止まってもらいにくそうですね」

 

フェルンが頷く。

 

「はい。私も同意見です」

 

フリーレンがぽつりと言う。

 

「何も考えず、ただ歌ってたから考えもしなかったね……」

 

少し驚いた顔をしている。

 

フェルンが続ける。

 

「なので、流行の曲や定番の曲で路上ライブをするべきだと思います」

 

「オリジナル曲は、ある程度固定のファンが出来てから」

 

一拍。

 

「“徐々に”披露していけば良いかと」

 

沈黙。

 

ゼーリエがゆっくりと口元を歪める。

 

「……フェルン」

 

「なんでしょうか、ゼーリエ様」

 

フェルンは静かに返事をした。

 

ゼーリエが小さく笑う。

 

「お前が入ってくれて助かったぞ」

 

その言葉に、フェルンが少し微笑んだ。

 

ゼーリエの目に火が灯る。

 

「……よし。そうと決まれば、流行曲を覚えていくぞ」

 

ゼンゼへ視線を向ける。

 

「調べろ、ゼンゼ」

 

ゼンゼが小さく頷く。

 

「……わかりました」

 

ゼーリエは一度、路上の石畳へ視線を落とす。

 

そして、ゆっくりと空を見上げた。

 

(……光明が見えた)

 

(まだ……まだ、終わらんぞ)

 

王都の夕暮れの下で。

 

彼女たちの路上ライブは、

ここから少しずつ加速していく。

 

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