ゼーリエ、アイドルになる。   作:ジュウヨン

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新曲『magic girls』

 

王都・1万キャパの大箱。

 

客席は光の海。

 

ペンライトが波のように揺れている。

 

開演アナウンス。

 

暗転。

 

歓声。

 

爆音。

 

 

序盤は完璧だった。

 

1曲目から観客は総立ち。

 

2曲目、3曲目——

 

だが。

 

5曲目あたり。

 

ユーベルの目が、ほんの一瞬だけ泳ぐ。

 

想像以上の景色。

 

1万人の圧。

 

音の反響。

 

歓声の壁。

 

リズムが、わずかにズレる。

 

フォーメーションの移動が遅れる。

 

 

ゼーリエはすぐに気づく。

 

次のパートで自然に立ち位置を入れ替える。

 

ユーベルの横に入る。

 

視線を合わせる。

 

小さく言う。

 

「見るな、感じろ」

 

ほんの一瞬。

 

ユーベルが息を整える。

 

 

フリーレンのパート。

 

声が伸びる。

 

ホール全体を包み込む。

 

不安を塗り潰すように。

 

観客の集中が、歌へ戻る。

 

流れが立て直される。

 

 

フェルンは、微動だにしない。

 

音程、リズム、ダンス。

 

完璧な安定。

 

それでいて、華がある。

 

しかし、主張しない。

 

淡々と役割をこなしていく。

 

彼女は、アーク・アルカナの“軸”になっている。

 

 

ゼンゼは無理をしない構成。

 

だが、その一歩一歩が強い。

 

表情で魅せる。

 

観客はそれを感じ取る。

 

「「「ゼンゼー!!」」」

 

声援が飛ぶ。

 

 

そして。

 

10曲目。

 

ステージが静まる。

 

暗転。

 

スポットがセンターへ。

 

汗に濡れたユーベルが、マイクを握る。

 

息は荒い。

 

だが、目は戻っている。

 

笑う。

 

「次の曲、いくよ!」

 

間。

 

「ヨネヅレモン、作詞作曲——」

 

一瞬のざわめき。

 

「”magic girls“!!」

 

歓声、爆発。

 

 

イントロ。

 

静かなピアノ。

 

そこに重なる低音。

 

そしてビートが落ちる。

 

会場が跳ねる。

 

この曲は難しい。

 

リズムが複雑。

 

音域も広い。

 

だが。

 

練習の日々が、裏切らない。

 

ユーベルの声が突き抜ける。

 

少しだけ震えが混じる。

 

それが逆に、熱を生む。

 

 

ゼーリエの低音が重なる。

 

フリーレンのハモリが空間を広げる。

 

ゼンゼの安定が土台を固める。

 

フェルンの高音が会場に響く。

 

 

サビ。

 

照明が一斉に開く。

 

炎の演出。

 

ペンライトが揺れる。

 

1万人の合唱。

 

まだ歌詞は知らないはずなのに、

 

「wow oh oh」のコールが自然に生まれる。

 

ヨネヅレモンの曲が、

 

ライブで“完成”する。

 

 

ユーベルが叫ぶ。

 

「跳べー!!」

 

会場が揺れる。

 

本当に、揺れる。

 

 

間奏。

 

ゼーリエがユーベルの背中を軽く叩く。

 

「……戻ったな」

 

小さく。

 

ユーベル、笑う。

 

「おかげさまでね」

 

 

ラストサビ。

 

全員、限界。

 

汗で前髪が張り付く。

 

呼吸は荒い。

 

だが。

 

誰も引かない。

 

 

最後の音。

 

静寂。

 

そして――

 

地鳴りのような歓声。

 

1万の拍手。

 

1万の叫び。

 

 

ユーベルは、少しだけ涙ぐむ。

 

ゼンゼも、うっすら。

 

フリーレンは静かに息を整える。

 

フェルンは深く一礼。

 

ゼーリエは、観客を見渡す。

 

ゆっくりと、口を開く。

 

「——これが、私たち“アークアルカナ”だ」

 

歓声が、もう一度爆発する。

 

 

“magic girls”は、成功した。

 

1万人は、証人になった。

 

ここから。

 

本当の拡張が始まる。

 

 

 

『magic girls』の余韻が、まだ会場に残っている。

 

歓声は鳴り止まない。

 

メンバーは肩で息をしている。

 

汗が照明に反射して光る。

 

ユーベルがマイクを握る。

 

「……まだ、終わらないよ」

 

ニヤりと笑みを浮かべる。

 

ざわめき。

 

フェルンが一歩前に出る。

 

「発表があります」

 

スクリーンが暗転。

 

カウントダウンの映像。

 

5

 

4

 

3

 

2

 

1

 

 

――ドン。

 

巨大な文字が映る。

 

Arc Arcana LIVE TOUR

追加4公演決定

 

会場が、爆発する。

 

悲鳴に近い歓声。

 

ユーベルが思わず耳を塞ぐ。

 

「やばっ……!」

 

スクリーンに会場名が順に映る。

 

3000キャパ。

 

5000キャパ。

 

地方都市。

 

王都近郊。

 

全部で4公演。

 

歓声が止まらない。

 

 

ゼーリエが前に出る。

 

ざわめきが自然と静まる。

 

「お前たち」

 

低く、通る声。

 

「……絶対に来い」

 

笑いと歓声。

 

「チケットは順次発売する」

 

一呼吸。

 

「……だが」

 

「転売ヤーだけは……許さん」

 

一瞬の静寂。

 

次の瞬間、会場大爆笑。

 

ユーベルが吹き出す。

 

フリーレンも肩を震わせる。

 

フェルンが珍しく笑顔を見せる。

 

ゼンゼも、少しだけ笑う。

 

「……本気だからな」

 

ゼーリエが続ける。

 

「来たい者が来られない状況は、作らせん」

 

大歓声が巻き起こる。

 

 

ユーベルが、ひょいとマイクを奪った。

 

「ちゃんと正規ルートで買ってねー」

 

客席から元気な声が返ってくる。

 

「はーい!」

 

会場に笑いが広がる。

 

ユーベルは少しだけ間を空けた。

 

「……転売でチケット買ったら」

 

その瞬間。

 

ふっと表情が消える。

 

一瞬の真顔。

 

そして次の瞬間——

 

「許さないからね?」

 

満面の笑顔。

 

会場が一気に沸いた。

 

「ユーベル!」「ユーベル!」

「ユーベル!」「ユーベル!」

 

コールが広がり、会場は完全に“ユーベル”一色になる。

 

 

フリーレンがマイクを持つ。

 

歓声が少しずつ静まっていく。

 

そして静かに言った。

 

「“magic girls”は、全部の公演でやるよ」

 

一瞬の沈黙。

 

次の瞬間、歓声が爆発した。

 

フリーレンは客席を見渡す。

 

その景色を、ゆっくりと目に焼き付けるように。

 

「……今日だけじゃない」

 

小さく続ける。

 

「これから……何度でも聴かせるからね」

 

会場がさらに沸く。

 

フェルンが隣でマイクを取った。

 

「今日より——」

 

一度言葉を区切る。

 

「もっと良いものにします」

 

真っ直ぐな声だった。

 

「……必ず」

 

その一言に、

 

歓声がさらに大きくなる。

 

拍手とコールが、会場を満たしていく。

 

 

ゼンゼがマイクを持つ。

 

ほんのわずかに——震えている。

 

会場も、それに気づく。

 

さっきまでの熱気が、

ゆっくりと静まっていく。

 

ゼンゼは一度だけ深く息を吸う。

 

そして言った。

 

「……今日、立てて良かった」

 

短い言葉。

 

けれど、

 

その一言にすべてが詰まっていた。

 

一瞬の静寂。

 

次の瞬間——

 

会場が揺れた。

 

割れんばかりの拍手。

 

歓声。

 

名前を呼ぶ声。

 

「ゼンゼー!!」

 

「おかえり!!」

 

その音に包まれて、

 

ゼンゼの目に、涙が浮かぶ。

 

こぼれる寸前で、

 

必死にこらえる。

 

その横で、

 

ゼーリエが小さく頷いた。

 

誰にも見えないくらいの、

 

ほんのわずかな動き。

 

だが、

 

その頷きは

 

『よく、戻ってきた』

 

そう言っているようだった。

 

 

最後に。

 

もう一度、ユーベルが前に出る。

 

汗で濡れた髪をかき上げ、

 

マイクを強く握る。

 

会場はまだ拍手と歓声の余韻の中。

 

でも——

 

ユーベルの目を見た瞬間、

 

観客が、自然と静かになる。

 

そして。

 

ユーベルが叫んだ。

 

「私たち——」

 

一拍。

 

胸いっぱいに空気を吸い込み、

 

全力で。

 

「止まらないよ!!」

 

その言葉が会場に叩きつけられる。

 

一瞬の沈黙。

 

次の瞬間——

 

会場が爆発した。

 

「「「止まるなーーー!!!!」」」

 

床が揺れるほどの声。

 

拳が上がる。

 

タオルが振られる。

 

名前を呼ぶ声。

 

拍手。

 

叫び。

 

歓声。

 

すべてが混ざり合って、

 

巨大な熱の渦になる。

 

ユーベルが笑う。

 

フリーレンが少しだけ目を細める。

 

フェルンが胸に手を当てる。

 

ゼンゼが涙を拭く。

 

そして。

 

ゼーリエが、

 

ステージの先――

 

満員の客席を見渡す。

 

この景色を、

 

絶対に忘れないように。

 

ユーベルが最後にマイクを掲げる。

 

「行くよー!!」

 

観客が叫ぶ。

 

「「「アークアルカナ!!!」」」

 

その声は、

 

天井を突き抜けるほどだった。

 

 

1万人の熱。

 

追加4公演。

 

勢いは、止まらない。

 

ステージの上で、

 

ゼーリエは確信する。

 

これはもう、偶然の成功ではない。

 

とうとう、

 

アークアルカナは、

 

本物になった。

 

 

深夜。

 

まだ熱の残る控室。

 

衣装のまま、メイクも落としきれていない。

 

配信タイトルはシンプル。

 

【ありがとう、1万人】

 

同接はとんでもない数字。

 

チャットは洪水。

 

”みんなお疲れー“

”ライブマジで良かった“

“新曲あれやばいんじゃね、どんどん伸びていきそう”

“YouTubeでさっき配信されたけど、再生回数もう100万いきそうだったよ“

”流石に勢いやばい“

”全公演行きてー“

”生ユーベルマジでたまらんかった“

”ゼーリエ様と目が合った“

“フリーレン可愛すぎ、神だろ”

“フェルン今までにないぐらい疲れてる”

”フリーレン老けた?“

”↑ライブ終わりぐらい老けさせてやれよ“

”ゼーリエしゃがめ“

”ユーベルこっち見てー“

”フリーレンの歌唱力どうなってんだよ“

”↑なんやかんやゼーリエも結構上手いけどな“

 

 

ユーベルが椅子に深く沈み込んでいる。

 

マイクを持っているが、喋らない。

 

目は半分閉じている。

 

「……」

 

コメント欄がざわつく。

 

”ユーベル大丈夫か“

”寝てる?“

 

フリーレンが横から小さく言う。

 

「今日……いちばん叫んでたからね」

 

ユーベル、薄く笑う。

 

「……1万、やばいね」

 

それだけ。

 

また沈黙。

 

 

フェルンは姿勢を崩さない。

 

だが、目の下にうっすら影。

 

「皆様、本日は本当にありがとうございました」

 

丁寧に一礼。

 

コメントが流れる。

 

”フェルン無双だった“

”安定感えぐい“

 

少しだけ、頬が緩む。

 

 

ゼンゼは静か。

 

だが顔色は、前より良い。

 

「……立てました」

 

それだけ。

 

チャットが温かくなる。

 

”ゼンゼ最高“

”泣いた“

 

 

フリーレンは髪をほどきながら言う。

 

「……老けたって、言ってる人いるよ」

 

コメント爆速。

 

”老けてない“

”むしろ若返ってた“

 

フリーレン、少し笑う。

 

「ライブ終わりくらい老けさせろって言われてる」

 

ゼーリエが即返す。

 

「……そもそもエルフは老けん」

 

コメント欄、爆笑。

 

 

『ゼーリエしゃがめ』

 

コメントが流れる。

 

一瞬の間。

 

ゼーリエ、無言。

 

そして。

 

立ち上がる。

 

ゆっくりと。

深く。

 

本当に、しゃがむ。

 

控室で。

 

メンバー爆笑。

 

チャット爆発。

 

“やったあああ”

”恒例行事“

 

「……今日は勘弁してやる」

 

低く言う。

 

だが口元は緩んでいる。

 

 

『ユーベルこっち見てー』

 

そのコメントが流れ、

ユーベルが、ゆっくりカメラを見る。

 

少しぼんやりした表情。

 

ライブの余韻がまだ残っている。

 

そして小さく言う。

 

「……ありがとね」

 

目の端に、少しだけ涙が滲む。

 

コメントが一瞬止まる。

 

次の瞬間、滝のように流れ始める。

 

“泣くな”

“こっちが泣く”

“ビジュカンストしてる”

“もう今日死んでもいい”

“ユーベルと結婚したい”

“泣かないで”

“ユーベルの涙の破壊力えぐい”

 

ユーベルはコメントを読んで、

 

少し困ったように笑う。

 

そして袖で目元を軽く拭く。

 

「……泣いてないよ〜」

 

ちょっと照れた声。

 

拭ったあと、

 

いつものユーベルの笑顔になる。

 

「ほら……」

 

カメラに顔を近づけて、

 

冗談っぽく言う。

 

「メイク、落ちてないでしょ?」

 

 

ゼーリエがスマホの画面を見たまま、静かに言う。

 

「“magic girls”」

 

少し間。

 

「……公開数時間で」

 

「――100万、だと……」

 

ユーベルが顔を上げる。

 

「……は、マジで?」

 

素で聞き返す。

 

フリーレンも目を瞬かせる。

 

フェルンが自分のスマホを確認する。

 

スクロール。

 

そして、静かに言う。

 

「……本当です」

 

空気が変わる。

 

誰も大きく騒がない。

 

でも、

 

胸の奥がじわっと熱くなるような――

 

静かな高揚が広がる。

 

 

ゼーリエがスマホを置く。

 

全員を見る。

 

「勢いは……本物だ」

 

その声は落ち着いている。

 

だが。

 

次の瞬間、

 

視線が鋭くなる。

 

「……だが」

 

少し間。

 

「浮かれるな」

 

誰も言葉を挟まない。

 

ゼーリエは続ける。

 

「次の4公演……」

 

「全部、今日を超える」

 

その一言に、

 

場の空気がぴんと張る。

 

配信のチャットが一気に流れ出す。

 

 

その空気を、

 

ユーベルがふっと崩す。

 

小さく笑って言う。

 

「……休ませてから言ってよ」

 

珍しく、弱音。

 

でも。

 

その顔は、

 

どこか楽しそうだった。

 

 

配信終了間際。

 

フリーレンがぽつり。

 

「今日……戻れないって思ったけど」

 

「案外、悪くないね」

 

ゼンゼが頷く。

 

フェルンも。

 

ゼーリエは最後に言う。

 

「……ここからが本番だ」

 

画面が暗転。

 

 

深夜。

 

控室に静寂が戻る。

 

誰もすぐには立てない。

 

だが全員、同じことを思っている。

 

1万人を超えた。

 

だが、

 

まだ終わりじゃない。

 

アークアルカナは、

 

完全に“次の段階”へ進んだ。

 

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