ゼーリエ、アイドルになる。   作:ジュウヨン

22 / 62
ゼーリエ、地上波にデビューする(前編)

 

『magic girls』が各種チャートを駆け上がる。

 

大手メディアが特集を組む。

 

“今、最も勢いのあるアイドル”

 

その見出しと共に、地上波ゴールデン出演決定。

 

スタジオでの歌唱映像が何度も流れる。

 

SNSは爆発。

 

”良い曲すぎ“

”なんかどんどん遠くなっていくな“

”フリーレン歌うめぇ“

”全盛期だな“

”フェルンとゼンゼの安定感えぐいな“

”ゼーリエなんで歌うめえんだよ“

”ユーベル結婚してくんないかな“

”↑●すぞ“

“↑↑俺が結婚してやんよ”

 

 

そして――

 

大陸魔法協会

 

本部前に、長蛇の列。

 

「ここがゼーリエ様の職場…」

 

「ゼンゼが歩いてた廊下ってここ?」

 

聖地巡礼。

 

記念撮影。

 

グッズ持参。

 

いつの間にか、

 

“アイドル魔法協会”と揶揄される始末。

 

 

協会幹部会。

 

重苦しい空気。

 

「これは……前代未聞だ」

 

「規律を乱しかねない」

 

「だが宣伝効果は絶大だ」

 

賛否両論。

 

 

ゼーリエは、無言で書類に目を通している。

 

その目の下。

 

はっきりとした隈。

 

夜はライブリハ。

 

昼は協会業務。

 

容赦なく積まれる案件。

 

「魔法使い試験の監督も、予定通り頼む」

 

幹部が言う。

 

「問題ない」

 

即答。

 

だがペンを持つ手が、わずかに止まる。

 

 

一方、ゼンゼ。

 

試験会場の視察。

 

会場外には、なぜかファン。

 

「ゼンゼ様ー!」

 

「試験頑張ってー!」

 

受験者より多い観衆。

 

「……帰ってください」

 

淡々と告げる。

 

だがSNSはすでに拡散済み。

 

“試験会場に降臨するゼンゼ”

 

動画が回る。

 

ゼンゼは頭を抱える。

 

「試験は観光地じゃない……」

 

 

フェルンは冷静に分析。

 

「ブランドが拡大しすぎています」

 

ユーベルは半笑い。

 

「いや、魔法協会が聖地になるのやばいって」

 

フリーレンはぽつり。

 

「魔法よりアイドルが勝ってる感じするね」

 

ゼーリエが睨む。

 

「……勝たせるな」

 

低い声。

 

 

アーク・アルカナのメンバーの現実は厳しい。

 

地上波出演リハ。

 

協会会議。

 

追加公演リハ。

 

ボイトレ。

 

移動。

 

睡眠時間は、ほぼ削り切られている。

 

 

深夜の控室。

 

残っているのは、

 

ゼーリエとゼンゼだけ。

 

鏡の前。

 

照明に照らされた顔には、

 

はっきりと隈が浮かんでいた。

 

ゼンゼが鏡越しに、小さく言う。

 

「……限界が近いのでしょうか」

 

ゼーリエはすぐには答えない。

 

少しだけ沈黙。

 

それから、いつもの声で言う。

 

「……限界は更新するものだ」

 

以前も聞いた言葉。

 

だが。

 

今回は、ほんのわずかに間があった。

 

ゼンゼが静かに続ける。

 

「……ゼーリエ様」

 

「無理はしないでください」

 

また沈黙。

 

ゼーリエは鼻で小さく笑う。

 

「……ふん」

 

そして言う。

 

「こっちの台詞だ」

 

ちらりと横を見る。

 

「……この前倒れたのはどっちの方だ」

 

ゼンゼが一瞬、言葉に詰まる。

 

それから、

 

誤魔化すように小さく笑う。

 

少しだけ気まずそうに。

 

その様子を見て、

 

ゼーリエも口元を歪める。

 

短い時間。

 

だが、

 

二人の間には

 

どこか柔らかい空気が流れていた。

 

 

魔法使い試験当日

 

受験者は真剣。

 

だが外ではファンのざわめき。

 

ゼンゼは深く息を吸う。

 

“仕事は仕事”

 

ステージとは別の顔。

 

だが、頭の奥で鳴っている。

 

追加4公演。

 

地上波本番。

 

次の拡張。

 

 

大陸魔法協会は揺れている。

 

アークアルカナも、加速している。

 

勢いは止まらない。

 

だが。

 

その代償は、確実に体に出始めていた。

 

次に倒れるのは、誰か。

 

それとも――

 

全員か。

 

 

地上波、収録日

 

スタジオ控室。

 

ヘアメイクはすでに完了。

 

衣装も地上波仕様。

 

カメラ前に並ぶ5人。

 

配信タイトル――

 

【このあと地上波収録】

 

同接、異常な伸び。

 

コメントが流れ続ける。

 

”地上波!?“

”ついに来たか“

”絶対見る“

”録画もする“

”ライブ前日とか熱すぎ“

 

ユーベルが深呼吸。

 

「これから、番組の収録いってくるね」

 

拍手の絵文字が流れる。

 

フリーレンが補足。

 

「放送日は1週間後」

 

フェルンが正確に言う。

 

「ライブの前日です」

 

コメント欄が爆速。

 

”エモすぎ“

”最高の前夜祭やん“

 

ゼンゼは少し緊張している。

 

「テレビは……さすがに緊張します」

 

珍しい本音。

 

「1万人より緊張するのか?」

 

ゼーリエが横目で言う。

 

「ゼーリエ様、種類が違います」

 

即答。

 

チャットが笑う。

 

 

「必ず見ろ」

 

ゼーリエがカメラを真っ直ぐ見る。

 

低く、強く。

 

コメント欄が一瞬静まり、

 

次の瞬間、爆発。

 

”見るに決まってる“

”命令助かる“

”視聴率取ったる“

 

 

ユーベルが続く。

 

「“magic girls”やるよ」

 

歓喜にわくコメント欄。

 

フリーレンが微笑む。

 

「ライブで完成した曲をテレビでも見せるよ」

 

フェルンも意気込む。

 

「音響はライブと違いますが、完成度は落としません」

 

ゼンゼ、小さく頷く。

 

「……倒れません」

 

コメントが温かくなる。

 

ゼーリエが言う。

 

「これは、通過点だ」

 

少し間。

 

「だが……通過点は必ず踏み潰す」

 

チャットが震える。

 

 

配信終了前。

 

ユーベルが笑う。

 

「ライブ前日、テレビで会おうねー」

 

軽い調子。

 

でも、どこか嬉しそうだった。

 

フリーレンがゆるく続ける。

 

「そのまま次の日、現地でね〜」

 

自然な声。

 

まるで当たり前の約束みたいに。

 

フェルンが姿勢を正す。

 

「来られる方は、体調管理を」

 

真面目な口調。

 

少しだけ間を置いて、

 

「……無理はしないでください」

 

ゼンゼが静かに言う。

 

「ちゃんと……寝てください」

 

短い。

 

だが、

 

チャットが一気に流れる。

 

そして。

 

最後にゼーリエ。

 

画面を真っ直ぐ見る。

 

「必ず、見ろ」

 

低く、はっきりと。

 

二度目の言葉。

 

一瞬の静寂。

 

そのまま――

 

画面が暗転した。

 

 

控室の空気が一気に張り詰める。

 

テレビは、違う戦場。

 

だが。

 

1万人を越えた彼女たちにとって、

 

もう怖いものは――

 

少なくとも、表面上はなかった。

 

この後、あるメンバーのミスが

“アーク・アルカナ”に混乱を招いてしまうことを、

この時の彼女たちはまだ知らない。

 

 

スタジオの照明は、容赦がない。

 

リハでは完璧だった。

 

カメラが回る。

 

イントロ。

 

立ち位置、呼吸、視線――

 

すべて計算通りのはずだった。

 

 

最初のミスは、ほんの僅かなズレだった。

 

フェルンのターンが半拍遅れる。

 

カメラが寄る。

 

その瞬間、次の振りが一瞬飛ぶ。

 

「あ…」

 

ほんの小さな動揺。

 

だがテレビの収録は待ってくれない。

 

フリーレンが自然に立ち位置を寄せる。

 

歌割りをわずかに強く出す。

 

ゼンゼがフォーメーションを半歩修正。

 

ユーベルの笑顔が一段階明るくなる。

 

ゼーリエは何も言わない。

 

何も変えない。

 

ただ、中央で完璧に踊る。

 

 

だが。

 

庇われたことで、フェルンは気づいてしまう。

 

(今、フォローされた)

 

その意識が、次のカウントを狂わせる。

 

ハモリが半音揺れる。

 

視線が泳ぐ。

 

カメラが抜く。

 

ユーベルがいつも以上に弾ける。

 

フリーレンが隣で声量を底上げする。

 

ゼンゼが空間を締める。

 

ゼーリエは、何も言わない。

 

ただ、絶対に崩れない。

 

それが支柱だった。

 

 

ラストポーズ。

 

決め。

 

照明が落ちる。

 

「はい、OKです!」

 

スタッフの声。

 

拍手。

 

収録終了。

 

 

袖に入った瞬間。

 

フェルンの顔色は真っ青だった。

 

「……ごめんなさい」

 

声が震える。

 

「こんな大事な時に……」

 

目に涙が溜まる。

 

止めようとして、止まらない。

 

ぽたり、と落ちる。

 

 

数秒の沈黙。

 

ゼーリエが口を開く。

 

「……ふん」

 

短い鼻息。

 

「気にするな」

 

低く、力強い。

 

それだけ。

 

叱責も分析もない。

 

断定。

 

気にする価値もない、という言い方。

 

フェルンが顔を上げる。

 

そして、

フリーレンが隣に立つ。

 

優しく微笑む。

 

「大丈夫だよ、フェルン」

 

その声はいつもより柔らかい。

 

「ライブじゃない。収録だよ。修正もできるし」

 

「……それにね」

 

少し悪戯っぽく笑う。

 

「私も一瞬……立ち位置ズレたし」

 

フェルンが驚く。

 

「え……」

 

「気づかなかったでしょ?」

 

フリーレンは小さく肩をすくめる。

 

その流れを受けて、

 

ユーベルが少し気まずそうに口を開く。

 

「そうだよ……」

 

頭を書きながら言う。

 

「……実はさ、私も振り、ちょっと怪しかったし」

 

それから、

 

いつもの妖しさを含んだ笑顔。

 

「細かいこと気にし過ぎだよ〜」

 

フェルンを見る。

 

「フェルンもちょっとはさ。楽していいんだよ」

 

一拍。

 

そして、肩をすくめて言う。

 

「じゃないと私がミスできないじゃんか〜」

 

一瞬、静まり——

 

次の瞬間、

 

空気がふっと緩む。

 

張りつめていたものが、

 

ほどけるように。

 

場の空気は、

 

ユーベルの一言で

 

一気に柔らかくなった。

 

 

ゼンゼが一歩前に出る。

 

真っ直ぐ見る。

 

「……全体は崩れてない」

 

冷静。

 

「むしろ、まとまりは良かった」

 

分析。

 

事実だけを言う。

 

「……次、頑張ろう」

 

少しだけ、柔らかく。

 

「大丈夫だよ」

 

ゼンゼの表情は、いつもの無表情ではなく

フェルンに優しく微笑みかける。

 

フェルンは唇を噛む。

 

涙が止まらない。

 

でも。

 

その涙は、絶望じゃない。

 

悔しさ。

 

責任感。

 

そして――

 

支えられている実感。

 

 

ゼーリエが背を向ける。

 

「ライブで取り返せ」

 

それだけ言って歩き出す。

 

命令でも、慰めでもない。

 

フェルンは深く頭を下げる。

 

「……はい」

 

声はまだ震えている。

 

でも。

 

目は、もう折れていなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。