ゼーリエ、アイドルになる。   作:ジュウヨン

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ゼーリエ、SNSを始める

 

少し時間を遡り、

 

10000キャパの会場ライブの4日前の話。

 

 

夜、

大陸魔法協会アークアルカナ会議室

 

簡易ミーティング。

 

ゼンゼがタブレットを置く。

 

「提案があります」

 

全員見る。

 

「新曲披露前に、それぞれ個人アカウントを開設しませんか」

 

一瞬の静寂。

 

ユーベルの目が輝く。

 

「え、やりたい!」

 

フェルンは少し不安そう。

 

フリーレンは静かに頷く。

 

ゼーリエ。

 

腕を組んだまま、低く。

 

「必要か?」

 

ゼンゼは即答。

 

「はい。新規導線の最大化。

テレビ視聴→検索→個人に刺さる導線を作るべきです」

 

理論は完璧。

 

数秒。

 

ゼーリエが口を開く。

 

「うむ、やるぞ」

 

全員、固まる。

 

ゼンゼが一番固まる。

 

「……意外に前向きですね」

 

「当然だ」

 

即答。

 

「広げるなら今だ」

 

珍しく攻めの姿勢。

 

ユーベルが少しひいて笑う。

 

「うわぁ……ゼーリエがノリノリだ」

 

ゼンゼの表情がわずかに曇る。

 

「……一点、懸念があります」

 

ゼーリエの視線が刺さる。

 

「言え」

 

「ゼーリエ様の運用です」

 

空気が変わる。

 

「なぜだ?」

 

低い。

 

「私は問題を起こすような人間に見えるか?」

 

ゼンゼ、目を逸らさない。

 

「アンチと議論する未来が見えます」

 

沈黙。

 

全員の目線がゼーリエに向く。

 

ゼーリエがそれぞれに視線を移していく。

 

「……なぜだ」

 

声が一段低くなる。

 

「……正論で返すだけだ」

 

フリーレンがため息。

 

「いや、ダメだよ。

考えたらわかるでしょ……」

 

呆れ声。

 

「傾向として、正論で返すのが一番炎上します」

 

フェルンが冷静に述べる。

 

ユーベルが手を挙げる。

 

「ていうかゼーリエ絶対エゴサするよね」

 

「……エゴサとはなんだ」

 

キョトン顔。

 

全員が無言。

 

フェルンが説明する。

 

「自分の名前をSNS等で検索し、

ファンやその他の人間からの

評判や意見を調べることです」

 

「……そんなことはしない」

 

少し間を空けて返すゼーリエ。

 

「しそうだよ」

 

フリーレンが淡々と返す。

 

「……ちっ」

 

ゼーリエの舌打ちが部屋に響く。

 

ゼンゼが資料を出す。

 

「ですので、ゼーリエ様のみ特別ルールを設けます」

 

「……ほう」

 

「・独断での引用RT禁止

・深夜投稿禁止

・単独判断での声明禁止

・投稿は一度グループチャットで確認」

 

ユーベルが吹き出す。

 

「まるで子供みたいじゃんwww」

 

フェルンが慌てる。

 

「でも、それくらいの方が……」

 

ゼーリエの眉が僅かに動く。

 

「……私だけ厳しすぎないか?」

 

ゼンゼ、淡々。

 

「最も影響力があるからです……」

 

一瞬、空気が止まる。

 

褒められている。

 

だが拘束もされている。

 

ゼーリエは沈黙。

 

フリーレンが柔らかく言う。

 

「……ゼーリエが戦うのはライブでしょ」

 

その一言。

 

ゼーリエの視線が揺れる。

 

ユーベルがニヤニヤ。

 

「でもゼーリエのアカウント絶対フォロワー爆速だよ?」

 

「当然だ」

 

即答。

 

空気が少し戻る。

 

ゼンゼが最後に言う。

 

「新曲披露までは“期待を煽る投稿のみ”に限定します」

 

「ふん、煽るのは得意だ」

 

ゼーリエが自信満々に言う。

 

少し間を空け、

 

「間違っても、ファンとの言い合いだけは控えてください」

 

ゼンゼが念を押す。

 

「……当然だ」

 

ゼーリエの声が少し小さくなる。

 

ゼンゼが小さく息を吐く。

 

(……不安だ)

 

「では開設は明日20時」

 

ユーベルが両手を叩く。

 

「いやー楽しみだね〜」

 

フェルンは少し緊張。

 

フリーレンは苦笑。

 

ゼーリエは腕を組み直す。

 

「……制限は守る」

 

少し不満そうに。

 

「だが、ライブで黙らせる」

 

その目は完全に戦場を見ていた。

 

ゼンゼは思う。

 

(SNSが一番の戦場なんです)

 

そして、ゼーリエとフォロワーたちの熱い戦いが始まろうとしていた。

 

 

ライブ3日前、

20:00。

 

ゼーリエ、個人アカウント開設。

 

最初の投稿を行う。

 

極力丁寧に、気を遣って文章を作る。

 

 

『個人アカウントを開設しました。

よろしくお願いします。』

 

 

投稿3分が経過。

 

通知が鳴り止まない。

 

リプ欄。

 

“偽物だろこれ”

“丁寧すぎる”

“猫被ってんのか?”

“ゼーリエ様ああああ”

“開設するの遅くない?”

“よく運営許可したな”

 

ゼーリエの眉が動く。

 

「……偽物だと?」

 

指が止まる。

 

横からゼンゼ。

 

「ゼーリエ様、抑えてください」

 

冷静。

 

「最初はこんなものです」

 

ゼーリエの目が細くなる。

 

「舐められている」

 

「想定内です」

 

「……偽物とは何だ」

 

徐々に声のボリュームが上がっていくゼーリエ。

 

「想定内です」

 

「猫を被るとは何だ……!!」

 

とうとう、ゼーリエの声に明確に怒りが宿る。

 

「……想定内です」

 

数秒。

 

ゼーリエは深呼吸。

 

「……うむ。わかっている」

 

一度スマホを置く。

 

だが5分後。

 

再投稿。

 

 

『本物です』

 

不慣れな自撮り添付。

 

ぎこちない笑顔。

 

ピース。

 

背景は事務所の白壁。

 

明らかに慣れていない。

 

 

リプ欄、爆発。

 

“本物で草”

“ぎこちなすぎる’

”実質偽物だろこれ“

”本物のゼーリエ様を出してください“

”本物は笑顔もしないし、ピースもしない。俺にはわかる。”

”タチの悪いAI生成“

“ぎこちなくて可愛い”

“待ち受けにしてもいいでしょうか。”

“↑呪われるぞ”

 

ゼーリエ、固まる。

 

「……呪われる?」

 

ゼンゼ、即座に察知。

 

「ゼーリエ様」

 

「抑えてください」

 

「これは“いじり”です」

 

「好意的です」

 

ゼーリエ、ゆっくり立ち上がる。

 

「……好意的?」

 

目が据わる。

 

通知、さらに増える。

 

“偽物”

“AI”

“猫被んな”

 

ゼーリエ、震える指で返信ボタン。

 

ゼンゼが腕を掴む。

 

「やめてください」

 

「最初は泳がせるべきです」

 

ゼーリエ、低く。

 

「……黙れ」

 

 

『偽物と言っている者へ、目を鍛えろ』

 

送信。

 

次。

 

『本物は笑顔もしない?誰が決めた? 』

 

送信。

 

次。

 

『AI生成と言ったな、なら貴様が生成してみろ』

 

送信。

 

リプ欄、カオス。

 

“本物だこれ”

“キレてて安心した”

“やっぱ本物やん”

“目を鍛えろで腹筋崩壊”

“王に敬礼!!”

“ゼーリエ様帰ってきた”

 

ユーベル、床で爆笑。

 

「やばいってwww」

 

「目を鍛えろは強すぎww」

 

フリーレンが遠い目。

 

「……だから言ったのに」

 

フェルン、青ざめる。

 

「だ、大丈夫なんですかこれ」

 

ゼンゼ、冷静に分析。

 

「……炎上ではありません」

 

「むしろフォロワー増加速度が上がっています」

 

画面。

 

フォロワー数、急上昇。

 

【目を鍛えろ】

 

がトレンド入り。

 

ゼーリエ、まだ打とうとする。

 

ゼンゼがスマホを奪う。

 

「……ここまでです」

 

「これ以上は燃料になります……」

 

一拍。

 

「戦場はライブです」

 

ゼーリエ、数秒睨む。

 

そして舌打ち。

 

「……つまらん」

 

ユーベル、涙目で笑いながら。

 

「ゼーリエ最強www」

 

フリーレンがぽつり。

 

「……でも、これで“本物”って認識されたね」

 

フェルンが小さく吹き出す。

 

リプ欄はもう方向が変わっている。

 

“キレ芸込みで好き”

“これがゼーリエ様”

“笑顔より怒ってる方が安心する”

 

ゼンゼ、深く息を吐く。

 

「……ルールを一つ追加します」

 

ゼーリエが睨む。

 

「……何だ」

 

「返信は1日3件まで」

 

「……少ない」

 

「……ゼーリエ様だからです」

 

沈黙。

 

不満げだが、従う。

 

一方その頃。

 

 

◇ユーベルのアカウント

 

自撮り+ハート絵文字。

 

とても平和。

 

 

◇フリーレンのアカウント

 

あっさりとした文章と蒼月草の花畑の写真。

 

それと、レコーディング中の横顔の写真。

 

好感度爆上がり。

 

 

◇フェルン

 

「緊張してます…でも頑張ります」

 

守りたいコメント殺到。

 

 

◇ゼンゼ

 

分析投稿とリハ動画。

 

ダンス勢とシュタルクが歓喜の雄叫びをあげる。

 

 

唯一、ゼーリエだけが戦場ーー

 

だが。

 

フォロワー増加数は

 

――全員中、トップ。

 

ライブまで、あと3日。

 

火はついた。

 

色々な意味で。

 

本作中で好きなキャラ

  • ゼーリエ
  • ゼンゼ
  • フリーレン
  • フェルン
  • ユーベル
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