ゼーリエ、アイドルになる。   作:ジュウヨン

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ゼーリエ、SNSに依存する

 

事務所の仮宿泊部屋。

 

ゼーリエはベッドに腰掛け、スマホを握っていた。

 

――深夜に投稿するなとはどういうことだ。

 

――投稿前にグループチャットで相談?

 

――ふざけるのも大概にしろ。

 

だが。

 

通知が鳴っている。

 

先ほどの投稿に返信が増えている。

 

“自撮りもっとあげてほしい”

“可愛い”

“色々なゼーリエ様が見たい”

“ぎこちないのが逆に良いまである”

“ゼーリエたんマジで可愛い”

 

「……ゼーリエたん?」

 

眉がぴくりと動く。

 

「気になる呼び名ではあるが……」

 

スクロール。

 

肯定的な声も多い。

 

「……わかっている者もいるではないか」

 

顎に指を当てる。

 

「仕方ない」

 

「一肌脱いでやる」

 

「SNSとは、こういうものだろう」

 

自信満々。

 

 

──10分後。

 

投稿①

 

「お風呂に入った」

 

真顔。

下からのアングル。

湿った髪。

なぜかライトが強い。

 

 

投稿②

 

「エルフ耳、わりと気に入ってる」

「ただ、結構水入りやすいからそれが辛い」

 

耳のドアップ写真。

 

 

投稿③

 

「夜やたらお腹減る」

 

プロテインバーと一緒の自撮り。

 

最後に一文。

 

「ふふ…喜べ

貴様らの欲しいものだ…」

 

満足げにスマホを置く。

 

3分後。

 

通知、爆発。

 

“下からのアングルやばくて草”

“耳のドアップ興奮する”

“ な ぜ 下 か ら 撮 っ た ”

“プロテインバー脂質多いのでやめたほうがいいですよ”

“自撮り多いな!!笑”

“1000年以上生きててこんな感性なのか…”

“こいつマジで魔法使えんのか”

“↑大魔法使いらしいよ、知らんけど”

“耳、でっか!!笑”

“誰かゼーリエ様に自撮りの仕方教えて差し上げろ”

“ユーベル、自撮り教えてやれよ”

 

ゼーリエ、静止。

 

こめかみに血管。

 

「……」

 

震える。

 

抑えろ。

 

ゼンゼの声が脳裏に浮かぶ。

 

“返信は1日3件まで”

 

「……抑えるんだ」

 

拳を握る。

 

震える。

 

呼吸が荒い。

 

「こういう時は、ポジティブな情報を見るに限る」

 

SNSの検索窓を開く。

 

【 アークアルカナ 】

 

「勢いがある我々だ」

 

「ライブ直前」

 

「称賛に満ちているに違いない」

 

意気揚々とタップ。

 

──表示。

 

“アークアルカナって全体的にダンス下手じゃない?”

“アークアルカナのゼーリエって偉そうで苦手だわ”

“アークアルカナのユーベルまじですき、それ以外のメンバーは知らん”

“アークアルカナのライブ10000キャパ完売してるって嘘やん”

“↑手法やばいらしいよ”

“アークアルカナって歌上手いのフリーレンだけやん”

”↑ゼーリエも上手いぞ。他メンバーは微妙だけど“

”アークアルカナよりアビクラのがクオリティー圧倒的に高いよ“

“↑アビクラとかデビューしたばっかじゃん”

“↑いや、デビューがいつとか関係ないからw”

“↑↑アビクラのライブ行ってたら一瞬でどっちが上かわかるよw”

“アークアルカナの新曲コケてほしい笑”

 

 

沈黙。

 

数秒。

 

さらにスクロール。

 

肯定もある。

 

“アークアルカナのライブ楽しみ”

“アークアルカナの新曲、絶対最高だろ”

“アークアルカナのライブのために明日の仕事がんばろ”

 

だが、もう目に入らない。

 

視界が赤い。

 

「……ダンス下手?」

 

「偉そう?」

 

「コケてほしい?」

 

呼吸が荒くなる。

 

指が返信ボタンに触れる。

 

止まる。

 

ゼンゼの顔が浮かぶ。

 

「返信は3件までです」

 

「最も影響力があるからです」

 

歯を食いしばる。

 

「……黙れと言ったな」

 

しかし。

 

今は言えない。

 

ベッドにスマホを叩きつける。

 

立ち上がる。

 

部屋を歩く。

 

歩く。

 

止まる。

 

鏡を見る。

 

そこには

 

さっき下から撮った顔ではない。

 

ライブセンターの顔。

 

「……ライブで判断しろ」

 

低く呟く。

 

再びスマホを手に取る。

 

新規投稿画面を開く。

 

打つ。

 

消す。

 

打つ。

 

消す。

 

深呼吸。

 

そして、たった一文。

 

 

『ライブに、来い』

 

 

送信。

 

それだけ。

 

返信しない。

 

検索しない。

 

スマホを伏せる。

 

ベッドに横たわる。

 

天井を見る。

 

怒りは消えていない。

 

だが、方向は定まった。

 

ライブまで、あと2日。

 

ゼーリエは初めて知る。

 

SNSは戦場ではない。

 

火薬庫だ。

 

……そういえば。

 

エゴサ中に気になるコメントがあった。

 

 

“アークアルカナよりアビクラのがクオリティー圧倒的に高いよ”

 

 

アビクラ?

 

聞いたことがない。

 

だが、何故か。

 

ーー胸が少しざわついた。

 

 

“アビクラとかデビューしたばっかじゃん”

“↑いや、デビューがいつとか関係ないからw”

“↑↑アビクラのライブ行ってたら一瞬でわかるよw”

 

 

コメントの流れを思い出す。

 

(どこの誰だかは知らないが)

 

ゼーリエは小さく呟いた。

 

「負けるつもりはない」

 

そう言って、

 

眠りに落ちた。

 

 

前日リハが終了。

 

楽屋。

 

ハンガーに並ぶ衣装。

 

ゼンゼが一歩前に出る。

 

「皆さん、明日の衣装です」

 

布が広がる。

 

淡い光沢。

繊細な装飾。

動くたびに揺れる軽い素材。

 

ユーベルが目を輝かせる。

 

「おー可愛いねー!」

 

くるりと回る。

 

フリーレン、静かに微笑む。

 

「うん、悪くないね」

 

落ち着いた評価。

 

フェルンは裾を指で測る。

 

「少しスカート短いですね…」

 

真面目。

 

ゼンゼ、即座に対応。

 

「フリルパンツがある」

 

さっと見せる。

 

「安心していい」

 

フェルン、ほっとする。

 

その空気の中。

 

ゼーリエだけが動かない。

 

スマホと睨み合っている。

 

親指が止まらない。

 

スクロール。

 

またスクロール。

 

「……ふむ」

 

昨日から止まらない。

 

エゴサ。

 

褒め言葉を探しに行く。

 

途中で刺さる言葉を見つける。

 

怒る。

 

抑える。

 

また検索。

 

繰り返し。

 

目が明らかに充血している。

 

ゼンゼは横目で見る。

 

(完全に間違えた)

 

アカウントの権限を渡したこと。

 

深夜の連投。

 

そして今日。

 

目の下、わずかなクマ。

 

だが、何も言わない。

 

今言えば反発する。

 

「ゼーリエ様、衣装どうですか?」

 

ゼンゼがあえて話を振る。

 

ゼーリエが顔を上げる。

 

「……ん?」

 

数秒遅れ。

 

「ああ、衣装か」

 

視線を布へ向ける。

 

「可愛らしいな」

 

淡々とした感想。

 

そしてまたスマホへ。

 

すぐに、

 

気になる投稿を見つける。

 

“ゼーリエあんま知らんけど、SNS見る感じ絶対ややこしい奴やんw”

 

こめかみに筋が浮かぶ。

 

小さく舌打ち。

 

ユーベルが苦笑する。

 

「まだ見てるの?」

 

フリーレンももう察している。

 

「気にしてる?」

 

ゼーリエ、即答。

 

「……していない」

 

スクロール。

 

フェルンが小さく言う。

 

「ゼーリエ様、ライブ明日ですよ」

 

ゼーリエは一瞬、

 

バツが悪そうな顔をする。

 

「……わかっている」

 

だが、

 

指は止まらない。

 

その時。

 

スマホが震える。

 

通知

“明日行きます”

“目を鍛えろTシャツ作って”

“新曲こけたら笑う”

 

こめかみに血管。

 

深呼吸。

 

抑える。

 

ゼンゼが一歩近づく。

 

静かに。

 

「ゼーリエ様」

 

反応なし。

 

もう一度。

 

「ゼーリエ様」

 

低く。

 

「今一番見るべきものはそれではありません」

 

沈黙。

 

ゼーリエの指が止まる。

 

数秒。

 

ゆっくり顔を上げる。

 

「……何だ」

 

ゼンゼは衣装を指す。

 

「これです」

 

「明日の景色です」

 

「画面ではありません」

 

空気が少し張る。

 

フリーレンが柔らかく続ける。

 

「昨日のさ」

 

「“明日、来い”って投稿良かったよ」

 

ユーベルも乗る。

 

「リプ欄、あれで一気に空気変わったし」

 

フェルン、小さく。

 

「楽しみにしてる人の方が、多いです」

 

ゼーリエ、無言。

 

スマホを見る。

 

画面をオフにする。

 

ポケットに入れる。

 

「……当然だ」

 

短い。

 

だが。

 

完全には切れていない目。

 

ゼンゼは理解している。

 

火種はまだ燻っている。

 

だが。

 

明日はライブ。

 

戦場は画面ではない。

 

ゼーリエが衣装に手を触れる。

 

布の感触を確かめる。

 

「これは動きやすいか?」

 

「はい」

 

「なら問題ない」

 

スマホには触れない。

 

数秒。

 

そして小さく。

 

「明日、黙らせる」

 

ゼンゼは内心で思う。

 

(どうか、明日だけは検索しませんように)

 

 

ーーその時。

 

ポケットの中で、

 

小さく震える感触。

 

ゼーリエの眉がわずかに動く。

 

通知。

 

ほんの一瞬だけ、

 

視線がポケットに落ちる。

 

数秒。

 

……触らない。

 

ゼーリエは顔を上げる。

 

だが。

 

歩き出す瞬間、

 

誰にも見えない角度で

 

小さく呟いた。

 

「……帰ったら見るか」

 

そして何事もなかったように、

 

楽屋を出ていった。

 

ーーライブまで、あと18時間。

 

本作中で好きなキャラ

  • ゼーリエ
  • ゼンゼ
  • フリーレン
  • フェルン
  • ユーベル
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