ゼーリエ、アイドルになる。   作:ジュウヨン

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【第一部】4章:追加公演、そして“不穏”
ユーベル、覚醒する


 

元の時系列に戻り、

追加公演1日目のライブ当日

 

前回の10,000キャパを乗り越えたアークアルカナ。

今日は“近い”。とにかく近い。

 

ステージと客席の距離が、まるで呼吸を共有しているようだった。

 

 

開演直前・舞台袖

 

歓声が、壁を揺らす。

 

フェルンは静かに目を閉じていた。

あの地上波の音楽番組――震えた指先、僅かな音程のズレ。

 

だが今日は違う。

 

「……完璧に仕上げてきました」

 

小さく呟く。

その声に、もう迷いはない。

 

ユーベルは軽く跳ねている。

 

「ねえ、近いよ? 目合うよ? 最高じゃない?」

 

10000の海を知った彼女は、もう怯えない。

むしろ――狩る側の目をしていた。

 

フリーレンは淡々とストレッチ。

 

「まあ、楽しもうよ。今日は空気がいい」

 

ゼーリエは腕を組んでいる。

スマホは、今日は持っていない。

 

「……余計な声は聞こえん。ならば、力で示すのみだ」

 

ゼンゼは静かに頷く。

 

「皆さん、いきますよ」

 

 

開演

 

暗転。

 

1曲目、イントロが鳴った瞬間――

 

歓声が爆発する。

 

近い。

本当に近い。

 

 

ユーベルの目が観客一人ひとりを射抜く。

 

煽りが、以前と違う。

 

「声、もっと出せるでしょ?」

 

客席が跳ねる。

 

視線の使い方が変わった。

“空間に投げる”のではなく、“個人を掴む”。

 

目が合った観客が崩れ落ちる。

 

ダンスのキレが一段深い。

10000キャパで身につけた“全体を制圧する技術”を、

5000で“一点集中”に変換している。

 

汗が飛ぶ距離。

 

彼女は完全にステージを支配していた。

 

ゼンゼ、心の中で呟く。

 

(……本当に、化けたな)

 

 

バラード。

 

静寂が降りる。

 

フェルンが一歩前へ。

 

最初の一音。

 

――揺れない。

 

地上波の時とは別人のような安定感。

ブレスの位置、声の抜け、ビブラートの深さ。

 

技術だけじゃない。

 

覚悟が乗っている。

 

客席の一角から、すすり泣きが聞こえる。

 

サビ。

 

ハモリも完璧。

ゼーリエの強い声を受け止め、フリーレンの透明感と溶け合う。

 

終わった瞬間――

 

一拍の静寂。

 

そして、爆発的な拍手。

 

フェルンはほんの少しだけ、微笑んだ。

 

 

ゼーリエのMC。

 

ユーベルがマイクを向ける。

 

「今日は近いね、ゼーリエ様?」

 

ゼーリエ、観客を見渡す。

 

「……うむ。逃げ場がないな」

 

客席、笑い。

 

「だが良い。貴様らの顔がよく見える」

 

ざわめき。

 

「我らは前に進む。ついて来い」

 

短い。だが刺さる。

 

もうSNSの怒りはない。

ステージ上では、ただの王だ。

 

 

◇フリーレン

 

ラスト前。

 

「……今日は、ありがとう」

 

いつもより少し柔らかい声。

 

「前より、顔がよく見えた。だから――ちゃんと届いた気がする」

 

ペンライトが揺れる。

 

 

◇ゼンゼ

 

目立たない。

 

全体のバランスを調整する。

 

無駄な主張をしない。

 

それでも、観客席からはゼンゼと叫ぶ声が少なくない。

 

少し微笑む。

 

これが彼女の戦い方。

 

 

アンコール

 

最後の曲。

 

全員が噛み合う。

 

ユーベルの煽り、

フェルンの安定、

フリーレンの余裕、

ゼーリエの圧、

ゼンゼの調整、

 

バランスが完成している。

 

5000という箱が、

今の彼女たちにとって最高の“距離”だった。

 

 

終演後・舞台裏

 

汗だくのユーベル。

 

「やばい、今日楽しかった!」

 

フェルン、静かに深呼吸。

 

「……リベンジ、できました」

 

フリーレン、壁にもたれながら。

 

「うん。今が一番いいかも」

 

ゼーリエはタオルを肩にかける。

 

「……悪くなかった」

 

ゼンゼ、内心で確信する。

 

(アークアルカナは、今が全盛期に近い)

 

だが同時に思う。

 

――ここから、どう上げる?

 

5000で完成度が跳ね上がった。

次はどこだ。

 

1万に戻るか。

それとも――アリーナか。

 

外ではまだアンコールの声が鳴り止まない。

 

物語は、まだ終わらない。

 

 

ライブ後・楽屋

 

汗も引き、メイクも落としきらないまま、ソファに座るゼーリエ。

 

タオルを肩にかけたまま、スマホを手に取る。

 

ゼンゼ、すかさず横に立つ。

 

「……ゼーリエ様」

「今日はお疲れですし、投稿は一度こちらで確認を――」

 

「不要だ」

 

即答。

 

ユーベルがニヤニヤしながら覗き込む。

 

「今日は優しいゼーリエ様でいこうよ? ね?」

 

フリーレンはペットボトルを飲みながらぼそり。

 

「まあ、今日の出来なら多少強気でも炎上はしないでしょ」

 

フェルンは無言で祈っている。

 

 

◇ゼーリエの投稿

 

『本日の追加公演、来てくれた者たちに感謝する。

距離が近くて悪くなかった。

次も覚悟して来い。』

 

写真:

ライブ後、汗ばんだままのオフショット。

ピースはしていない。

だが、ほんの少しだけ口元が緩んでいる。

 

投稿。

 

沈黙。

 

ゼンゼの喉が鳴る。

 

(頼む……頼むから荒れないで……)

 

 

 

1分後

 

通知、爆速。

 

ユーベル「きたきたきたきた」

 

フェルン「心臓に悪いです……」

 

リプ欄:

”今日の王、最高でした“

”距離近くて本当にやばかった“

”ゼーリエ様に“覚悟して来い”って言われたら一生ついてく“

”今日は優しい……?“

”写真、ちょっと笑ってません?尊い“

”SNS慣れてきた?”

“今日の煽り痺れました”

“いやマジで今日のパフォーマンスえぐかった”

 

”王がご満悦で何より“

 

 

ゼーリエ、無言でスクロール。

 

……。

 

もう一度スクロール。

 

もう一度。

 

口元が、

 

はっきりと緩む。

 

「ふむ……当然の評価だな」

 

小さく呟く。

 

それを見て、

 

ユーベルがすぐに茶化す。

 

「顔がにやけてるよ、リーダー」

 

ゼーリエがはっとして、

 

恥ずかしさを隠すように眉をひそめる。

 

「……にやけてなどいない」

 

即否定。

 

フリーレンがスマホを構える。

 

「スクショ撮っとこ」

 

フェルンも真顔で頷く。

 

「保存しました」

 

ゼーリエの目が見開く。

 

「……やめろ」

 

 

さらに通知。

 

トレンド入り:

#アークアルカナ追加公演

 

ゼンゼ、目を見開く。

 

「……ポジティブワード比率、かなり高いです」

 

ゼーリエ、腕を組む。

 

「当然だ。我らは完成していた」

 

少し間。

 

「……だが、あの距離は悪くなかったな」

 

それは、ほぼデレ。

 

ユーベル爆笑。

 

 

そして

 

ゼーリエ、二つ目の投稿。

 

”今日はよく声が出ていた。

次はもっと出せ。“

 

リプ欄:

 

”了解です王“

”喉潰します“

”命令助かる“

”もっと出します!!!!“

”ゼーリエ様に褒められた……?“

 

ゼンゼ、静かに息を吐く。

 

(……今日は、勝ったな)

 

机の下でこっそりと拳を固める。

 

そして、

ゼーリエが満足げにスマホを置く。

 

「……SNS、悪くないな」

 

ゼンゼは横で思う。

 

(今だけです)

 

フリーレンがぽつり。

 

「……次はいつ荒れるのかなぁ」

 

ユーベルが笑みをうかべる。

 

「ゼーリエ、レスバ大好きだもんね」

 

フェルンが真面目に提案する。

 

「……もう、その時はSNSアカウントを封鎖しましょう」

 

ゼーリエが眉をひそめる。

 

「誰がレスバなどするか」

 

即否定。

 

自信満々。

 

数秒。

 

全員、無言。

 

誰も反論しない。

 

だが、

 

全員の頭の中に

 

同じ未来が浮かんでいた。

 

本作中で好きなキャラ

  • ゼーリエ
  • ゼンゼ
  • フリーレン
  • フェルン
  • ユーベル
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