ユーベル、覚醒する
元の時系列に戻り、
追加公演1日目のライブ当日
前回の10,000キャパを乗り越えたアークアルカナ。
今日は“近い”。とにかく近い。
ステージと客席の距離が、まるで呼吸を共有しているようだった。
◇
開演直前・舞台袖
歓声が、壁を揺らす。
フェルンは静かに目を閉じていた。
あの地上波の音楽番組――震えた指先、僅かな音程のズレ。
だが今日は違う。
「……完璧に仕上げてきました」
小さく呟く。
その声に、もう迷いはない。
ユーベルは軽く跳ねている。
「ねえ、近いよ? 目合うよ? 最高じゃない?」
10000の海を知った彼女は、もう怯えない。
むしろ――狩る側の目をしていた。
フリーレンは淡々とストレッチ。
「まあ、楽しもうよ。今日は空気がいい」
ゼーリエは腕を組んでいる。
スマホは、今日は持っていない。
「……余計な声は聞こえん。ならば、力で示すのみだ」
ゼンゼは静かに頷く。
「皆さん、いきますよ」
◇
開演
暗転。
1曲目、イントロが鳴った瞬間――
歓声が爆発する。
近い。
本当に近い。
◇
ユーベルの目が観客一人ひとりを射抜く。
煽りが、以前と違う。
「声、もっと出せるでしょ?」
客席が跳ねる。
視線の使い方が変わった。
“空間に投げる”のではなく、“個人を掴む”。
目が合った観客が崩れ落ちる。
ダンスのキレが一段深い。
10000キャパで身につけた“全体を制圧する技術”を、
5000で“一点集中”に変換している。
汗が飛ぶ距離。
彼女は完全にステージを支配していた。
ゼンゼ、心の中で呟く。
(……本当に、化けたな)
◇
バラード。
静寂が降りる。
フェルンが一歩前へ。
最初の一音。
――揺れない。
地上波の時とは別人のような安定感。
ブレスの位置、声の抜け、ビブラートの深さ。
技術だけじゃない。
覚悟が乗っている。
客席の一角から、すすり泣きが聞こえる。
サビ。
ハモリも完璧。
ゼーリエの強い声を受け止め、フリーレンの透明感と溶け合う。
終わった瞬間――
一拍の静寂。
そして、爆発的な拍手。
フェルンはほんの少しだけ、微笑んだ。
◇
ゼーリエのMC。
ユーベルがマイクを向ける。
「今日は近いね、ゼーリエ様?」
ゼーリエ、観客を見渡す。
「……うむ。逃げ場がないな」
客席、笑い。
「だが良い。貴様らの顔がよく見える」
ざわめき。
「我らは前に進む。ついて来い」
短い。だが刺さる。
もうSNSの怒りはない。
ステージ上では、ただの王だ。
◇フリーレン
ラスト前。
「……今日は、ありがとう」
いつもより少し柔らかい声。
「前より、顔がよく見えた。だから――ちゃんと届いた気がする」
ペンライトが揺れる。
◇ゼンゼ
目立たない。
全体のバランスを調整する。
無駄な主張をしない。
それでも、観客席からはゼンゼと叫ぶ声が少なくない。
少し微笑む。
これが彼女の戦い方。
◇
アンコール
最後の曲。
全員が噛み合う。
ユーベルの煽り、
フェルンの安定、
フリーレンの余裕、
ゼーリエの圧、
ゼンゼの調整、
バランスが完成している。
5000という箱が、
今の彼女たちにとって最高の“距離”だった。
◇
終演後・舞台裏
汗だくのユーベル。
「やばい、今日楽しかった!」
フェルン、静かに深呼吸。
「……リベンジ、できました」
フリーレン、壁にもたれながら。
「うん。今が一番いいかも」
ゼーリエはタオルを肩にかける。
「……悪くなかった」
ゼンゼ、内心で確信する。
(アークアルカナは、今が全盛期に近い)
だが同時に思う。
――ここから、どう上げる?
5000で完成度が跳ね上がった。
次はどこだ。
1万に戻るか。
それとも――アリーナか。
外ではまだアンコールの声が鳴り止まない。
物語は、まだ終わらない。
⸻
ライブ後・楽屋
汗も引き、メイクも落としきらないまま、ソファに座るゼーリエ。
タオルを肩にかけたまま、スマホを手に取る。
ゼンゼ、すかさず横に立つ。
「……ゼーリエ様」
「今日はお疲れですし、投稿は一度こちらで確認を――」
「不要だ」
即答。
ユーベルがニヤニヤしながら覗き込む。
「今日は優しいゼーリエ様でいこうよ? ね?」
フリーレンはペットボトルを飲みながらぼそり。
「まあ、今日の出来なら多少強気でも炎上はしないでしょ」
フェルンは無言で祈っている。
◇ゼーリエの投稿
『本日の追加公演、来てくれた者たちに感謝する。
距離が近くて悪くなかった。
次も覚悟して来い。』
写真:
ライブ後、汗ばんだままのオフショット。
ピースはしていない。
だが、ほんの少しだけ口元が緩んでいる。
投稿。
沈黙。
ゼンゼの喉が鳴る。
(頼む……頼むから荒れないで……)
◇
1分後
通知、爆速。
ユーベル「きたきたきたきた」
フェルン「心臓に悪いです……」
リプ欄:
”今日の王、最高でした“
”距離近くて本当にやばかった“
”ゼーリエ様に“覚悟して来い”って言われたら一生ついてく“
”今日は優しい……?“
”写真、ちょっと笑ってません?尊い“
”SNS慣れてきた?”
“今日の煽り痺れました”
“いやマジで今日のパフォーマンスえぐかった”
”王がご満悦で何より“
◇
ゼーリエ、無言でスクロール。
……。
もう一度スクロール。
もう一度。
口元が、
はっきりと緩む。
「ふむ……当然の評価だな」
小さく呟く。
それを見て、
ユーベルがすぐに茶化す。
「顔がにやけてるよ、リーダー」
ゼーリエがはっとして、
恥ずかしさを隠すように眉をひそめる。
「……にやけてなどいない」
即否定。
フリーレンがスマホを構える。
「スクショ撮っとこ」
フェルンも真顔で頷く。
「保存しました」
ゼーリエの目が見開く。
「……やめろ」
⸻
さらに通知。
トレンド入り:
#アークアルカナ追加公演
ゼンゼ、目を見開く。
「……ポジティブワード比率、かなり高いです」
ゼーリエ、腕を組む。
「当然だ。我らは完成していた」
少し間。
「……だが、あの距離は悪くなかったな」
それは、ほぼデレ。
ユーベル爆笑。
◇
そして
ゼーリエ、二つ目の投稿。
”今日はよく声が出ていた。
次はもっと出せ。“
リプ欄:
”了解です王“
”喉潰します“
”命令助かる“
”もっと出します!!!!“
”ゼーリエ様に褒められた……?“
ゼンゼ、静かに息を吐く。
(……今日は、勝ったな)
机の下でこっそりと拳を固める。
そして、
ゼーリエが満足げにスマホを置く。
「……SNS、悪くないな」
ゼンゼは横で思う。
(今だけです)
フリーレンがぽつり。
「……次はいつ荒れるのかなぁ」
ユーベルが笑みをうかべる。
「ゼーリエ、レスバ大好きだもんね」
フェルンが真面目に提案する。
「……もう、その時はSNSアカウントを封鎖しましょう」
ゼーリエが眉をひそめる。
「誰がレスバなどするか」
即否定。
自信満々。
数秒。
全員、無言。
誰も反論しない。
だが、
全員の頭の中に
同じ未来が浮かんでいた。
本作中で好きなキャラ
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ゼーリエ
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ゼンゼ
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フリーレン
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フェルン
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ユーベル