ゼーリエ、アイドルになる。   作:ジュウヨン

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ユーベル、プライベートが消える

嵐のような日々が、ようやく終わった。

 

5公演すべて完売。

地上波放送は想像以上の反響。

 

そして今、久々の完全オフ。

 

 

◇フリーレン

 

昼過ぎまで寝ている。

 

起きて、ソファに沈みながらぼそり。

 

「……静かだね」

 

テレビではアークアルカナの特集が流れている。

 

自分たちの姿を見て、少しだけ目を細める。

 

「遠くに行った感じするけど、やることは同じだよね」

 

と言って、結局ボイトレを始める。

 

休みでも、染み付いた習慣は消えない。

 

 

◇フェルン

 

ノートを開いている。

 

地上波でのミスから、完璧に修正した今でも、

 

「次、どこを伸ばせますかね……」

 

録画を何度も見返している。

 

SNSにはソロ案件の噂。

 

だが浮かれない。

 

「まだ、グループが最優先です」

 

真面目すぎる。

 

 

◇ゼーリエ

 

ベランダで風に当たっている。

 

王都の街並みを見下ろす。

 

「……騒がしくなったな」

 

スマホを見る。

 

フォロワー急増。

 

称賛も増えた。

 

アンチも、比例して増えた。

 

だが今は、前ほど刺さらない。

 

「評価とは、波だ」

 

自分に言い聞かせるように。

 

 

◇ゼンゼ

 

大陸魔法協会での業務を行う。

 

アイドル活動の影響で

溜まってしまった”本来の仕事“の業務。

 

書類の山を見つめ、小さくため息をつく。

 

「人前に出るよりはマシか」

 

照れ隠し、自分に言い聞かせる。

 

 

そして、”ユーベル“

 

問題はここ。

 

 

王都・中心街

 

帽子、マスク、サングラス。

 

……だが、バレる。

 

「え? え? ユーベル?!」「アーク・アルカナの!?」

「サイン欲しい!!」「どこ!?どこ!?」

 

一瞬で囲まれる。

 

地上波放送後、知名度が爆発。

 

通行人の視線が一斉に集まる。

 

写真、握手、サイン、動画。

 

普通ならパニックになる。

 

だが——

 

ユーベルは、笑う。

 

完璧な笑顔。

 

「今日はオフだから少しだけだよ?」

 

妖しく笑いかけ、

一人ひとりの目を見て話す。

 

「この前のライブ来てくれたの? ありがとう」

 

「学校サボっちゃだめだよ?」

 

「その髪色似合ってるじゃん」

 

まさに、プロだ。

 

マネージャーが来るまでの数分間。

 

一切嫌な顔をしない。

 

子供が前に出られずにいると気付く。

 

「ほら、おいで」

 

しゃがむ。

 

目線を合わせる。

 

「応援してくれてるの? うれしい」

 

母親が泣きそうになる。

 

 

ようやくタクシーに乗り込む。

 

ドアが閉まった瞬間。

 

無言。

 

数秒。

 

そして。

 

「……はぁー」

 

一気に力が抜ける。

 

まともに歩けない。

 

(プライベート、なくなったなぁ…)

 

ユーベル、笑う。

 

今度は素の笑顔。

 

嫌じゃない

むしろーー悪くない。

 

少し間。

 

……でも、もう“戻れない”感じがする。

 

窓の外を見つめる。

 

街のどこにいても、見られている。

 

自由と引き換えに得たもの。

 

 

その夜、

グループチャット

 

ユーベル:

「今日、王都に出たら」

「ファンたちに囲まれてまともに歩けなかったよ」

 

ゼーリエ:

「我らであれば、当然だな」

 

フリーレン:

「芸能人デビューおめでとう」

 

フェルン:

「体調だけは気をつけてくださいね」

 

ユーベル:

「でもさ」

「みんなの笑顔、近くで見れたよ」

 

フェルン:

「いいですね」

 

ユーベル:

「うん、悪くなかった」

 

ゼーリエ:

「ならば貫け」

 

ユーベル:

「うん、プロだしね」

 

フリーレン:

「かっこいいじゃん」

 

ゼーリエ:

「だが、」

「まともに歩けないなど考えたくもないな」

 

ユーベル:

「ゼーリエも王都に出ればわかるよ」

 

ゼーリエ:

「誰が出るか」

「私は“大魔法使いゼーリエ”だぞ」

 

フリーレン:

「かっこいー」

 

ユーベル:

「はいはい」

 

 

 

アークアルカナは、もう“地下”でも“駆け出し”でもない。

 

だが。

 

オフの日にさえ、完全なオフはない。

 

それでも。

 

笑顔を絶やさない理由は単純。

 

ステージで“あの歓声を”浴びてしまったからーー

 

 

 

そして、その日。

 

王都の街頭で、

 

大陸魔法協会の創始者

“大魔法使いゼーリエ”が堂々と街を歩いていた。

 

ユーベルの

『ファンに囲まれてまともに歩けなかった』

という話を聞いた、

その翌日。

 

ゼーリエは腕を組み、低く呟く。

 

「……ふん」

 

「どれほどのものか、見てやろうではないか」

 

帽子もマスクもない。

変装もしない。

 

その姿、

 

まさに

 

威風堂々。

 

 

王都・中央

 

人は多い。

 

ざわめき。

 

……だが。

 

誰も寄ってこない。

 

視線はある。

 

確かにある。

 

だが——明らかな距離がある。

 

通行人A(小声)

「……あれ、ゼーリエだよね?」

 

通行人B

「いや、でも話しかけづらくない?」

 

通行人C

「なんかオーラやばいな」

 

ゼーリエ、内心。

 

(……なぜ来ない)

 

さらに歩く。

 

カフェ前。

 

若者たちが気づく。

 

目が合う。

 

一瞬、固まる。

 

——逸らされる。

 

ゼーリエのこめかみがピクッと動く。

 

(くそ……)

 

(なんという屈辱だ……)

 

ユーベルは囲まれた。

 

自分は、遠巻き。

 

“触れてはいけない存在”扱い。

 

プライドが微妙に傷つく。

 

 

さらに歩き、

通りを抜け少し静かな公園へ。

 

ベンチに座る。

 

「……ふぅ」

 

ぼんやりと空を見上げる。

 

風が吹く。

 

誰も来ない。

 

(……私は、人気がないのか?)

 

一瞬よぎる最悪の思考。

 

拳を握る。

 

その時。

 

小さな影。

 

8歳くらいの男の子。

 

帽子を握りしめ、こちらを見ている。

 

目が合う。

 

固まる。

 

逃げるか?

 

いや。

 

一歩、近づく。

 

二歩。

 

……三歩。

 

震える声。

 

「……あの」

 

ゼーリエ、視線を落とす。

 

「なんだ……」

 

ビクッとする少年。

 

だが、逃げない。

 

「応援……しています」

 

沈黙。

 

「……握手、してください」

 

恥ずかしそうに、手を差し出す。

 

小さな手。

 

震えている。

 

ゼーリエ、ほんの一瞬迷う。

 

そして。

 

ゆっくり、手を伸ばす。

 

包み込むように握る。

 

「……よく勇気を出したな」

 

少年、目を見開く。

 

「え?」

 

「……貴様は強い」

 

少年の顔が、ぱあっと明るくなる。

 

「……はい!」

 

その母親が少し離れたところで頭を下げる。

 

ゼーリエ、軽く頷く。

 

手を離す瞬間。

 

少年が言う。

 

「ライブ、かっこよかったです」

 

胸が、少し熱くなる。

 

「……当然だ」

 

だが声は、どこか柔らかい。

 

 

少年が去った後。

 

ゼーリエは空を見上げる。

 

(遠巻きに見られるのは、恐れゆえか)

 

(ならばそれも悪くない)

 

だが。

 

ほんの少しだけ、思う。

 

“触れに来る勇気ある者”の重みは、囲まれるよりも深い。

 

 

 

グループチャット。

 

ゼーリエ:

「今日、王都を歩いた」

 

ユーベル:

「え、囲まれた?」

 

ゼーリエ:

「囲まれてはいない」

 

ユーベル:

「え」

 

フリーレン:

「笑った」

 

フェルン:

「フリーレン様、やめましょう」

 

ゼーリエ:

「……だが、一人の勇者が現れた」

 

フリーレン:

「魔王復活したの?」

 

フェルン:

「ゼーリエ様、よかったですね」

 

ゼンゼ:

「喜ばしいことです」

 

ゼーリエ:

「うむ」

 

 

(しばらくして)

 

 

ゼーリエ:

「悪くなかった」

 

ユーベル:

「え、勇者って何?」

 

ゼーリエ:

「勇者だ」

 

フリーレン:

「また魔王を討伐しなゃいけないの?」

 

フェルン:

「フリーレン様、しつこいです」

 

 

 

スマホを置く。

 

“王”とは。

 

恐れられる存在か。

 

それとも。

 

勇気を与える存在か。

 

今までは考えたこともなかった。

 

だが、ステージに立つようになったことで、

 

その答えが

少しだけわかった日だった。

 

 

その頃

ユーベルの自室。

 

「……え、勇者って」

 

「何……?」

 

彼女の疑問だけが、

夜の部屋にぽつんと残った。

 

本作中で好きなキャラ

  • ゼーリエ
  • ゼンゼ
  • フリーレン
  • フェルン
  • ユーベル
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