ユーベル、限界を感じる
大陸魔法大陸、
事務所・会議室。
ゼンゼが資料を置く。
「……ユーベル」
「地上波連続ドラマ、メインキャストのオファーがきたよ」
空気が止まる。
フェルンが息を呑む。
「メイン……?」
フリーレンは冷静。
「主演級ってこと?」
ゼーリエは腕を組んだまま目を細める。
ユーベルは笑っている。
「え、ドッキリ?」
ゼンゼは首を振る。
「本気」
「制作側からの名指しだよ」
「“画面を支配できる目をしているから”って」
沈黙。
⸻
その夜。
大陸魔法協会、屋上。
ユーベルは珍しく静か。
「ねえ、どう思う?」
フリーレンが隣に立つ。
「やりたいの?」
「……怖い」
ユーベルの本音。
「もし失敗したら、グループに迷惑かかる」
フリーレンはすぐ答えない。
風が吹く。
「失敗してもさ」
少し笑う。
「私たち、立て直すの得意じゃん」
ユーベル、目を向ける。
「地上波の時も、ライブでひっくり返した」
一歩、前に出るフリーレン。
「折角なら受けたら?」
静かだけど、強い声。
「今しか来ない波ってあるよ」
ユーベル、深呼吸。
そして笑う。
「……よし。やる」
⸻
決定
グループチャット。
ユーベル:
受けた
ゼーリエ:
当然だ
フェルン:
体調管理は私が見ます
ゼンゼ:
スケジュール、詰めます(胃痛)
フリーレン:
主題歌狙おうか
ユーベル:
それ最高だね
⸻
そして始まる地獄スケジュール
朝5時:ドラマ撮影
昼:雑誌インタビュー
夕方:振付リハ
夜:ボイトレ
深夜:台本読み
睡眠:3時間
最初の一週間。
ユーベルは完璧だった。
現場スタッフから絶賛。
「覚えが早い」
「感情の乗せ方が上手い」
「スター性がある」
だが。
二週目。
リハーサル中。
振付で一瞬遅れる。
フェルンが気付く。
「……ユーベル様?」
「平気平気!次は気をつけるからさ!」
笑顔。
⸻
三週目。
撮影現場。
セリフを一度噛む。
監督は優しい。
「もう一回いこう」
だがユーベルの中で何かが焦げる。
⸻
崩れ始める。
夜。
楽屋。
メイクを落とす手が止まる。
鏡の中の自分。
目の下にうっすら影。
スマホにはドラマ関連トレンド。
・ユーベル演技うまい
・アイドルとは思えない
だが。
同時に。
SNSのコメント、
“グループ活動減らない?”
“センター不在多くない?”
胸がざわつく。
⸻
ライブリハ。
フォーメーション変更。
ゼーリエがセンター。
自然な流れ。
だが。
ユーベル、ほんの一瞬だけ立ち位置を間違える。
沈黙。
誰も責めない。
それが逆に刺さる。
「……ごめん」
珍しく、小さい声。
ゼーリエが言う。
「無理をするな」
短いが、強い。
フリーレンはタオルを投げる。
「ほら、休憩」
フェルンは水を差し出す。
ゼンゼは静かにスケジュール表を見つめる。
(キャパを超えてる)
⸻
ドラマのクランクインから一ヶ月。
人気は爆発。
SNSフォロワーさらに増加。
だが。
体が追いつかない。
屋上。
ユーベルが呟く。
「欲張ったかな」
フリーレンが隣に座る。
「ううん」
微笑みながら首を横に振る。
「でもさ、どっちも中途半端になるの嫌なんだよね」
フリーレンは少し空を見る。
「知ってる」
「ユーベルはそういうやつだ」
「……全部やろうとする」
ユーベル、苦笑。
「バレてるか」
フリーレンは肩をすくめた。
⸻
深夜。
事務所の会議室。
テーブルに並ぶ、ユーベルのスケジュール表。
真っ赤。
ゼンゼが口を開く。
「このままだと、確実に崩れる」
沈黙。
ユーベルは笑っている。
「まだいけるよ?」
ゼーリエが即座に遮る。
「ダメだ」
空気が変わる。
「貴様は今、削っている」
ユーベルの目が細くなる。
「削ってでも“今掴まなきゃいけない波”ってあるでしょ」
フリーレンが言う。
「……でもさ、それ壊れる人が言う台詞だよ」
フェルンは静かに資料を出す。
「睡眠平均、3.4時間です」
一瞬、ユーベルの笑顔が止まる。
ゼンゼが淡々と言い放つ。
「ドラマ撮影日はリハ免除」
「歌割り調整」
ゼンゼは一度目を伏せる。
少しの間。
そして、
「……センターの固定は解除」
その言葉にユーベルが顔を上げる。
「……センター、外すの?」
ゼーリエが答える。
「今はな」
一拍。
「戻る前提だ」
沈黙。
「王は退く時を知る」
「ユーベル、貴様も今のうちに学んでおけ」
ユーベルの喉が鳴る。
フリーレンが肩を叩く。
「グループってさ、交代できるから強いんだよ」
長い沈黙の後。
ユーベル、深呼吸。
「……わかった」
初めて、任せた。
⸻
一週間後。
ゼンゼが走って入ってくる。
息が切れる。
「……決まりました」
ドラマ主題歌。
アーク・アルカナ名義。
全員沈黙。
ユーベルが小さく笑う。
「……やっば」
ゼーリエ、静かに言う。
「逃げ場がなくなったな」
曲はバラード×エモーショナルロック。
ユーベルが主演として歌い出し。
サビは全員。
ゼンゼが土台を支える。
フェルンのハモリが炸裂。
フリーレンの歌唱力が包む。
ゼーリエの低音が芯を作る。
レコーディング後。
プロデューサーが言う。
「これは売れるぞ」
⸻
放送日。
ドラマのクライマックス。
ユーベルの涙。
主題歌イントロ。
SNS爆発。
“鳥肌”
“歌で泣いた”
“グループ強すぎ”
トレンド1位。
“アークアルカナ主題歌”
ユーベルは一人で戦っていない。
グループで殴り込んだ。
⸻
そして、ライブ当日。
フォーメーション変更。
今日のセンターはユーベルではない。
ゼーリエだ。
だが。
曲中盤。
自然にユーベルを中央へ押し出す。
視線で合図。
ゼーリエが一瞬だけ頷く。
(行け)
ユーベルが一瞬驚く。
だが、すぐに理解する。
小さく頷く。
ユーベルがさらに前へ出る。
次の瞬間。
パフォーマンスが爆発する。
歓声が会場を揺らした。
⸻
終演後。
楽屋。
ユーベルが尋ねる。
「なんで今日あの位置に変わったの?」
ゼーリエはタオルを投げる。
「貴様は今、アークアルカナの顔だ」
一拍。
「ならば、守るのは私の役目だ」
沈黙。
ユーベルの目が潤む。
「……王っぽいこと言うじゃん“リーダー”」
「当然だ」
だが、以前の王ではない。
チームを支える王。
前に立つ者を押し上げる王。
(ゼーリエのくせに……)
ユーベルは誰も見ていない隙を狙って、
こっそりと目元を拭う。
「……ほんとズルいよね、ゼーリエ」
誰にも聞こえない声で
静かに呟いた。