ゼーリエ、アイドルになる。   作:ジュウヨン

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【第二部】1章:線から“個へ”
ユーベル、限界を感じる


大陸魔法大陸、

事務所・会議室。

 

ゼンゼが資料を置く。

 

「……ユーベル」

 

「地上波連続ドラマ、メインキャストのオファーがきたよ」

 

空気が止まる。

 

フェルンが息を呑む。

 

「メイン……?」

 

フリーレンは冷静。

 

「主演級ってこと?」

 

ゼーリエは腕を組んだまま目を細める。

 

ユーベルは笑っている。

 

「え、ドッキリ?」

 

ゼンゼは首を振る。

 

「本気」

 

「制作側からの名指しだよ」

 

「“画面を支配できる目をしているから”って」

 

沈黙。

 

 

その夜。

 

大陸魔法協会、屋上。

 

ユーベルは珍しく静か。

 

「ねえ、どう思う?」

 

フリーレンが隣に立つ。

 

「やりたいの?」

 

「……怖い」

 

ユーベルの本音。

 

「もし失敗したら、グループに迷惑かかる」

 

フリーレンはすぐ答えない。

 

風が吹く。

 

「失敗してもさ」

 

少し笑う。

 

「私たち、立て直すの得意じゃん」

 

ユーベル、目を向ける。

 

「地上波の時も、ライブでひっくり返した」

 

一歩、前に出るフリーレン。

 

「折角なら受けたら?」

 

静かだけど、強い声。

 

「今しか来ない波ってあるよ」

 

ユーベル、深呼吸。

 

そして笑う。

 

「……よし。やる」

 

 

決定

 

グループチャット。

 

ユーベル:

 

受けた

 

ゼーリエ:

 

当然だ

 

フェルン:

 

体調管理は私が見ます

 

ゼンゼ:

 

スケジュール、詰めます(胃痛)

 

フリーレン:

 

主題歌狙おうか

 

ユーベル:

 

それ最高だね

 

 

そして始まる地獄スケジュール

 

朝5時:ドラマ撮影

昼:雑誌インタビュー

夕方:振付リハ

夜:ボイトレ

深夜:台本読み

 

睡眠:3時間

 

最初の一週間。

 

ユーベルは完璧だった。

 

現場スタッフから絶賛。

 

「覚えが早い」

「感情の乗せ方が上手い」

「スター性がある」

 

だが。

 

二週目。

 

リハーサル中。

 

振付で一瞬遅れる。

 

フェルンが気付く。

 

「……ユーベル様?」

 

「平気平気!次は気をつけるからさ!」

 

笑顔。

 

 

三週目。

 

撮影現場。

 

セリフを一度噛む。

 

監督は優しい。

 

「もう一回いこう」

 

だがユーベルの中で何かが焦げる。

 

 

崩れ始める。

 

夜。

 

楽屋。

 

メイクを落とす手が止まる。

 

鏡の中の自分。

 

目の下にうっすら影。

 

スマホにはドラマ関連トレンド。

 

・ユーベル演技うまい

・アイドルとは思えない

 

だが。

 

同時に。

 

SNSのコメント、

 

“グループ活動減らない?”

“センター不在多くない?”

 

胸がざわつく。

 

 

ライブリハ。

 

フォーメーション変更。

 

ゼーリエがセンター。

 

自然な流れ。

 

だが。

 

ユーベル、ほんの一瞬だけ立ち位置を間違える。

 

沈黙。

 

誰も責めない。

 

それが逆に刺さる。

 

「……ごめん」

 

珍しく、小さい声。

 

ゼーリエが言う。

 

「無理をするな」

 

短いが、強い。

 

フリーレンはタオルを投げる。

 

「ほら、休憩」

 

フェルンは水を差し出す。

 

ゼンゼは静かにスケジュール表を見つめる。

 

(キャパを超えてる)

 

 

ドラマのクランクインから一ヶ月。

 

人気は爆発。

 

SNSフォロワーさらに増加。

 

だが。

 

体が追いつかない。

 

屋上。

 

ユーベルが呟く。

 

「欲張ったかな」

 

フリーレンが隣に座る。

 

「ううん」

 

微笑みながら首を横に振る。

 

「でもさ、どっちも中途半端になるの嫌なんだよね」

 

フリーレンは少し空を見る。

 

「知ってる」

 

「ユーベルはそういうやつだ」

 

「……全部やろうとする」

 

ユーベル、苦笑。

 

「バレてるか」

 

フリーレンは肩をすくめた。

 

 

深夜。

 

事務所の会議室。

 

テーブルに並ぶ、ユーベルのスケジュール表。

 

真っ赤。

 

ゼンゼが口を開く。

 

「このままだと、確実に崩れる」

 

沈黙。

 

ユーベルは笑っている。

 

「まだいけるよ?」

 

ゼーリエが即座に遮る。

 

「ダメだ」

 

空気が変わる。

 

「貴様は今、削っている」

 

ユーベルの目が細くなる。

 

「削ってでも“今掴まなきゃいけない波”ってあるでしょ」

 

フリーレンが言う。

 

「……でもさ、それ壊れる人が言う台詞だよ」

 

フェルンは静かに資料を出す。

 

「睡眠平均、3.4時間です」

 

一瞬、ユーベルの笑顔が止まる。

 

ゼンゼが淡々と言い放つ。

 

「ドラマ撮影日はリハ免除」

 

「歌割り調整」

 

ゼンゼは一度目を伏せる。

 

少しの間。

 

そして、

 

「……センターの固定は解除」

 

その言葉にユーベルが顔を上げる。

 

「……センター、外すの?」

 

ゼーリエが答える。

 

「今はな」

 

一拍。

 

「戻る前提だ」

 

沈黙。

 

「王は退く時を知る」

 

「ユーベル、貴様も今のうちに学んでおけ」

 

ユーベルの喉が鳴る。

 

フリーレンが肩を叩く。

 

「グループってさ、交代できるから強いんだよ」

 

長い沈黙の後。

 

ユーベル、深呼吸。

 

「……わかった」

 

初めて、任せた。

 

 

一週間後。

 

ゼンゼが走って入ってくる。

 

息が切れる。

 

「……決まりました」

 

ドラマ主題歌。

 

アーク・アルカナ名義。

 

全員沈黙。

 

ユーベルが小さく笑う。

 

「……やっば」

 

ゼーリエ、静かに言う。

 

「逃げ場がなくなったな」

 

曲はバラード×エモーショナルロック。

 

ユーベルが主演として歌い出し。

 

サビは全員。

 

ゼンゼが土台を支える。

 

フェルンのハモリが炸裂。

 

フリーレンの歌唱力が包む。

 

ゼーリエの低音が芯を作る。

 

レコーディング後。

 

プロデューサーが言う。

 

「これは売れるぞ」

 

 

放送日。

 

ドラマのクライマックス。

 

ユーベルの涙。

 

主題歌イントロ。

 

SNS爆発。

 

“鳥肌”

“歌で泣いた”

“グループ強すぎ”

 

トレンド1位。

 

“アークアルカナ主題歌”

 

ユーベルは一人で戦っていない。

 

グループで殴り込んだ。

 

 

そして、ライブ当日。

 

フォーメーション変更。

 

今日のセンターはユーベルではない。

 

ゼーリエだ。

 

だが。

 

曲中盤。

 

自然にユーベルを中央へ押し出す。

 

視線で合図。

 

ゼーリエが一瞬だけ頷く。

 

(行け)

 

ユーベルが一瞬驚く。

 

だが、すぐに理解する。

 

小さく頷く。

 

ユーベルがさらに前へ出る。

 

次の瞬間。

 

パフォーマンスが爆発する。

 

歓声が会場を揺らした。

 

 

終演後。

 

楽屋。

 

ユーベルが尋ねる。

 

「なんで今日あの位置に変わったの?」

 

ゼーリエはタオルを投げる。

 

「貴様は今、アークアルカナの顔だ」

 

一拍。

 

「ならば、守るのは私の役目だ」

 

沈黙。

 

ユーベルの目が潤む。

 

「……王っぽいこと言うじゃん“リーダー”」

 

「当然だ」

 

だが、以前の王ではない。

 

チームを支える王。

 

前に立つ者を押し上げる王。

 

(ゼーリエのくせに……)

 

ユーベルは誰も見ていない隙を狙って、

 

こっそりと目元を拭う。

 

「……ほんとズルいよね、ゼーリエ」

 

誰にも聞こえない声で

 

静かに呟いた。

 

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