ゼーリエ、アイドルになる。   作:ジュウヨン

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フリーレン、バズる(後編)

 

フリーレンとヨネヅレモンのレコーディングから三日ほど経ったある日。

 

マスタリングが終わり、完成した音源が事務所の会議室で再生された。

 

イントロが流れる。

 

全員が黙って聴いていた。

 

曲が終わる。

 

沈黙。

 

最初に口を開いたのはユーベルだった。

 

「……これ、絶対バズるよ」

 

目を丸くしている。

 

ゼーリエは腕を組んだまま頷いた。

 

「……やはり、あいつは本物だな」

 

フェルンも冷静に言う。

 

「私もヨネヅさんとの打ち合わせで、何度か聴いていますが」

 

「……これは絶対に世間から何かしらの反応があると思います」

 

ゼンゼが資料を閉じる。

 

「では」

 

「これで問題ないですね……」

 

全員が小さく頷いた。

 

 

一週間後。

 

動画サイトに曲が公開された。

 

タイトル:

 

フリーレン-『ピーマン』(OFFICIAL VIDEO)

 

 

公開直後から再生数が伸びる。

 

コメントが大量につく。

 

SNSでも拡散。

 

さらに二日後。

 

再生数 100万突破。

 

勢いはまだ止まることを知らない

 

コメント欄:

“神曲”

“良い曲すぎ、マジでもう50回ぐらい聴いてるかも”

“ヨネヅの曲マジで当たりやな。もっと組んで欲しい”

“アークアルカナのフリーレンってこんなに歌上手かったんだ”

“ゼーリエのが上手いと勘違いしてた、反省”

“フリーレン上手すぎない?”

“エルフってやっぱ違うんだな”

“↑ゼーリエも上手いけど流石にここまで上手くはないよ”

“↑ゼーリエには悪いけど、フリーレンはマジで次元が違う”

“ゼーリエ、ボイトレしろ”

“フリーレンと比べられるゼーリエが可哀想”

 

 

事務所・会議室

 

コメントを見ていたゼーリエが、静かに顔を上げた。

 

「……なぜ、私が関係のないところでいじられる」

 

怒りが滲む声。

 

ゼンゼが苦笑いする。

 

「チームですから……」

 

フェルンが冷静に補足する。

 

「同じエルフという宿命ですね……」

 

ユーベルがスマホを見ながら爆笑する。

 

「ゼーリエどこでもいじられてるじゃん!」

 

ゼーリエが睨む。

 

「ユーベル……」

 

「貴様、笑うな……!」

 

ユーベルは涙を拭きながら言う。

 

「いや、だってさ……」

 

「誰彼にしろゼーリエが毎回比較対象なんだもんwww」

 

悔しそうに小さく舌打ちするゼーリエ。

 

(これが、王の務めか……)

 

自らに言い聞かせる。

 

しかし、王の定義がなんだったのか

よもやゼーリエにもわからなくなっていた。

 

フリーレンはその横でぼんやりコメント欄を眺めていた。

 

「……なんか、ごめんね」

 

ゼーリエが即答する。

 

「謝るな」

 

腕を組む。

 

「むしろ誇れ」

 

一拍。

 

「我がグループの歌唱力が高い証拠だ……」

 

そう言うと、ゼーリエは満足そうに頷いた。

 

ユーベルがまた笑い出す。

 

「いやポジティブすぎるでしょwwwww」

 

ゼンゼは小さくため息をつきながら、再生数のグラフを見ていた。

 

数字はまだ伸び続けている。

 

「……これは」

 

小さく呟く。

 

「しばらく止まりませんね……」

 

画面には、次々と増えていく再生数が映っていた。

 

その様子を確認しながら、フェルンがタブレットを操作する。

 

「……フリーレン様」

 

静かな声。

 

フリーレンが振り向く。

 

「なに?」

 

フェルンは画面を見たまま言う。

 

「他にもソロの依頼が来ていますが」

 

一度、顔を上げる。

 

「受けますか?」

 

会議室の空気が少し変わる。

 

ユーベルが「おお」と小さく声を漏らした。

 

ゼーリエは腕を組んだままフリーレンを見る。

 

フリーレンは少し考える。

 

ほんの数秒。

 

そして。

 

「いや、受けないよ」

 

あっさりと言った。

 

沈黙。

 

ゼーリエが眉を動かす。

 

「……なぜだ?」

 

フリーレンは少しだけ笑う。

 

椅子にもたれながら言った。

 

「私はさ……」

 

一同を見る。

 

「チームでみんなと歌うのが好きだからだよ」

 

優しい声だった。

 

その場の空気が、ほんの少し柔らぐ。

 

ユーベルが「おお……」と感心したように言う。

 

ゼンゼも小さく頷く。

 

フェルンも何も言わない。

 

ゼーリエは腕を組んだまま、ふっと息を吐いた。

 

「……まあ」

 

短く言う。

 

「無理に受けろとは言わん……」

 

少しだけ口元が緩む。

 

「アークアルカナの仕事は他にも来ているからな」

 

どこか嬉しそうだった。

 

その時。

 

だが、フェルンが静かに口を開いた。

 

「……もしかして、」

 

「魔法研究の時間を減らしたくないからでは?」

 

空気が止まる。

 

フリーレンの動きが固まる。

 

数秒。

 

「……そ、そんなことないよ」

 

少し焦った声。

 

フェルンはじっとフリーレンを見る。

 

「……本当ですか?」

 

冷たい視線。

 

フリーレンは慌てて手を振る。

 

「も、もちろん違うに決まってるじゃんか〜」

 

「もう、フェルンは本当にいつもそういうこと言うんだから」

 

早口。

 

だがどこか怪しい。

 

ユーベルがニヤニヤしている。

 

ゼンゼは無言で視線を逸らした。

 

ゼーリエはそれを見ながら、小さく目を細めた。

 

(……こいつは昔からこんな調子なんだろうな)

 

遠い昔の記憶がよぎる。

 

魔法に夢中で、他のことは後回し。

 

フランメが楽しそうに、

弟子の話をしていたのを思い出す。

 

「魔法のことになると

あの子は本当に周りが見えなくなるんです」

 

そんな声まで聞こえてきそうだった。

 

思わず小さく鼻で笑う。

 

フリーレンが言う。

 

「も〜」

 

腕を組んで少し頬を膨らませる。

 

「フェルンは本当に酷いな〜」

 

その言い方が妙に子供っぽくて。

 

ユーベルが吹き出した。

 

「絶対図星じゃん!」

 

ゼンゼも小さく笑う。

 

フェルンはため息をついた。

 

ゼーリエも、ほんの少しだけ笑っていた。

 

会議室には、いつもの空気が戻っていた。

 

 

事務所・会議室

 

笑いが落ち着いた頃、フェルンがふと思い出したように言った。

 

「そういえば」

 

全員が見る。

 

「ヨネヅさんから、ご飯に誘われたんですけど」

 

少し首を傾ける。

 

「誰か来ますか?」

 

——凍りつく空気。

 

ゼーリエの表情が固まる。

 

ユーベルがゆっくり顔を上げる。

 

ゼンゼは視線を逸らす。

 

フリーレンは遠くを見る。

 

そして。

 

「行かない」

 

全員即答だった。

 

 

後日。

 

レッスン終わり。

 

スタジオの床に座りながらフリーレンが水を飲んでいる。

 

ふと思い出したようにフェルンを見る。

 

「そういえばさ」

 

「ヨネヅレモンとの食事どうだった?」

 

フェルンは少しだけ考えた。

 

「……薔薇を渡されました」

 

フリーレンの動きが止まる。

 

「え?」

 

フェルンは淡々と言う。

 

「十本です」

 

沈黙。

 

フリーレンがドン引きした顔になる。

 

「……十本?」

 

ユーベルが横から顔を出す。

 

「……あー」

 

腕を組む。

 

「そういえば薔薇ってさ」

 

少し考える。

 

「本数で意味変わるんだよね……」

 

フェルンの顔がゆっくりユーベルを向く。

 

ユーベルは続ける。

 

「確かなんか花言葉あったよーな……」

 

「やめてください」

 

フェルンが真剣な顔で言った。

 

本気の声だった。

 

ユーベルが吹き出す。

 

フェルンはそれ以上何も言わない。

 

ただ黙って、袋から薔薇を取り出す。

 

真っ赤な薔薇。

 

十本。

 

フェルンはしばらくそれを見つめる。

 

そして。

 

ゴミ箱へ——

 

向かうかと思いきや。

 

少し止まる。

 

ため息。

 

近くの花瓶を持ってきて、

 

事務所の隅っこ。

 

一番目立たない場所に、そっと生けた。

 

真顔のまま。

 

その様子を見ながらユーベルが笑う。

 

「一応飾るんだね」

 

フェルンは答えない。

 

ただ静かに席に戻るだけだった。

 

フリーレンはまだ少し引いた顔をしている。

 

「……ヨネヅ、やっぱり変な人だね」

 

フリーレンは薔薇を見る。

 

(……フェルン)

 

(大丈夫かな)

 

少しだけ、心配になった。

 

 

 

ちなみに。

 

十本の薔薇の花言葉は——

 

『あなたはすべてが完璧だ』

 

である。

 

もちろん、その意味を

フェルンは知らない。

 

——そして、これからも。

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 

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