ゼーリエ、アイドルになる。   作:ジュウヨン

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ゼーリエ、マネージャーを募集する(前編)

 

それは、

 

ゼーリエがゼンゼを無理やりにでも休ませるため

帰らせた日のことだった。

 

※36話『ゼンゼ、無理やり休む参照』

 

 

大陸魔法協会

玉座の間。

 

広い玉座の間で、

ゼーリエは一人考え込んでいた。

 

(……ゼンゼの仕事を、我々で分担するのは難しい)

 

それをすれば、ミスが起きるのは確実だ。

 

だが、そうでもしなければ

ゼンゼがまた無理をして倒れるのは目に見えていた。

 

前回はたまたま運が良かった。

 

だが——

 

一度壊れれば、人間は元には戻らない。

 

長命のエルフであるゼーリエは、

これまで多くの人間を見てきた。

 

だからこそ、それを痛いほど理解している。

 

しばらく考え込んだ後、ゼーリエは小さく息を吐く。

 

「……一人で悩んでいても仕方ない」

 

スマホを取り出し、

フリーレンとユーベルの三人のグループチャットを作る。

 

そしてすぐにメッセージを送った。

 

 

 

(グループチャット)

 

ゼーリエ:

「貴様らに相談がある」

 

フリーレン:

「うわ、何いきなり」

 

ユーベル:

「また炎上したの?」

 

ゼーリエ:

「違う」

「今後の仕事の話だ」

 

ゼーリエ:

「今まではゼンゼが指揮をとっていたが、」

「それを我々自身で行おうと考えている」

 

ユーベル:

「いやー、難しいんじゃないそれは」

 

フリーレン:

「ダブルブッキングばっかで仕事来なくなっちゃうよ」

「フェルンも管理難しいってよく頭抱えてるよ」

 

ゼーリエ:

「そうだ」

「その未来がはっきり見える」

 

ユーベル:

「それは魔法?」

 

ゼーリエ:

「魔法じゃない」

「経験と統計だ」

 

ゼーリエ:

「ともかく、お前たちの意見を聞きたい」

 

フリーレン:

「私がマネージャーとして専属になるのはどう?」

「表に出ず、裏方に徹するよ」

 

ゼーリエ:

「ダメだ」

「第一、お前にできるとは思えない」

 

ユーベル:

「絶対無理でしょw」

 

フリーレン:

「酷い」

 

ゼーリエ:

「ユーベルは何か意見はないか」

 

ユーベル:

「うーん」

 

ユーベル:

「あれは?」

「マネージャー雇うのはどう?」

 

ゼーリエ:

「それは難しい」

「大陸魔法協会内の仕事の調整もするのは、外部の人間には頼めん」

 

ユーベル:

「違う違う」

「大陸魔法協会内の人間から探すんだよ」

 

ゼーリエ:

「ほう」

 

フリーレン:

「頭良いなぁ」

 

ゼーリエ:

「だが、募集はどうすればいいんだ」

 

ユーベル:

「協会内の掲示板でも使って集めるのが良いんじゃない?」

「どこかの日に面接あるって書いといたら、誰かしら来るでしょ」

 

ゼーリエ:

「なるほどな」

「ではそうするとしよう」

 

ゼーリエ:

「お前たちも協力しろ」

 

ユーベル:

「私はしばらくドラマの撮影立て込んでるから」

「日によっては厳しいかも」

 

ゼーリエ:

「そうか」

「では、来れたらでいい」

 

フリーレン:

「私も忙しいから」

「厳しいかも」

 

ゼーリエ:

「嘘をつくんじゃない」

 

フリーレン:

「酷い」

 

フリーレン:

「嘘じゃないよ」

 

フリーレン:

「本当だよ」

 

フリーレン:

「信じて」

 

ゼーリエ:

「貴様、連続で送ってくるな」

 

ユーベル:

「あれ、フリーレンって」

「そんな最近仕事入ってたっけ」

 

(フリーレンの返信が止まる)

 

(既読だけはついている)

 

ユーベル:

「え?」

 

ユーベル:

「なんで返さなくなるの」

 

ゼーリエ:

「よし、フリーレン」

「協会の掲示板にマネージャー募集を出す」

「面接はお前も付き合え」

 

ユーベル:

「それゼーリエだけで決めるのじゃダメなの?」

「それかゼンゼと決めればいいじゃん」

 

ゼーリエ:

「ゼンゼやフェルンには色々任せっぱなしにしていたからな」

「今回のことは私たちで決める」

 

ユーベル:

「にしても、フリーレン居なくても大丈夫じゃない?」

 

ゼーリエ:

「私たち全体の仕事を統括する者を決めるのだぞ」

「私一人で判断するより、他の者と選んだ方が説得力が出る」

「相性もあるからな」

 

ユーベル:

「ゼーリエは真面目だねぇ」

 

ユーベル:

「てかフリーレン全然返信しないじゃん」

「既読はついてるのに」

 

ゼーリエ:

「……仕方ない」

 

 

 

ゼーリエ:

「お前の欲しそうな魔導書を、面接の当日にくれてやる」

 

 

 

(既読)

 

(数秒後)

 

 

フリーレン:

「もう、仕方ないなー」

 

 

 

ユーベル:

「返信早っ」

 

ゼーリエ:

「現金な奴め」

 

フリーレン:

「リーダーのお願いをそんな無闇やたらに断れないよ」

 

ゼーリエ:

「どの口が言ってるんだ貴様」

 

ユーベル:

「二人とも頑張ってね〜」

 

フリーレン:

「よし」

 

フリーレン:

「1000年以上生きた魔法使いが」

 

フリーレン:

「大暴れしちゃうよ〜」

 

ゼーリエ:

「暴れるな」

 

 

その後。

 

大陸魔法協会の掲示板に、

一枚の告知が貼り出された。

 

『 アーク・アルカナ

  マネージャー募集 』

 

内容は、簡潔にこう書かれていた。

 

・超激務

・大陸魔法協会に所属しており、内部事情に詳しい者

・魔法使いの業務と両立できる者

・アーク・アルカナに詳しい者

・ゼーリエの機嫌が取れる者

 

要するに——

 

熱意があり、何より要領が良く、有能であること。

 

それが求められていた。

 

協会内で反感を買わないよう、

「魔法使い業務と兼任できる者」という条件も付けられている。

 

協会内にはアーク・アルカナのファンも多い。

だが最近は、魔法使いとしての業務が忙しくなり、

それどころではない者がほとんどだった。

 

さらに掲示には、仕事内容も包み隠さず書かれている。

 

そのせいもあり、応募者はあまり現れなかった。

 

そして——

 

一番最後に、小さく書かれていた条件。

 

『ゼーリエの機嫌が取れる者』

 

そんな人物がそうそう存在しないことは、

協会内では周知の事実だった。

 

言うまでもなく、

それが一番の難関である。

 

 

面接当日。

 

玉座の間では、

ゼーリエが面接の準備を進めていた。

 

そこへ、ゼンゼが声をかける。

 

「……あの、マネージャーを

 募集していることは知っていましたが」

 

「……本当に、私も同席しなくて良いんですか?」

 

ゼーリエは少しだけ視線を下げた。

 

どこか、申し訳なさそうに。

 

「……不要だ」

 

静かに言う。

 

「……お前に今まで押し付けてきたことだ」

 

そして、顔を上げる。

 

「私が舵を取り、私の目で判断する……」

 

「そして……今後を決める」

 

まっすぐな声だった。

 

ゼンゼは小さく息を吐く。

 

「……わかりました」

 

「……何かあれば言ってください」

 

その言葉に、ゼーリエは少しだけ微笑んだ。

 

「……うむ」

 

「そうなった時は、頼むぞ……」

 

 

 

面接会場には、

アーク・アルカナの会議室が使われることになった。

 

募集時間は

12:00〜20:00。

 

その時間帯は、応募者の窓口として開放される。

 

そして面接当日。

 

やはりというべきか——

ユーベルはドラマの撮影で来られず、

 

フリーレンとゼーリエの二人で対応することになった。

 

会議室で待つゼーリエ。

 

しばらくして、扉が開く。

 

「きたよー」

 

時間ギリギリで、

フリーレンが現れた。

 

「……きたか、フリーレン」

 

フリーレンは軽く手を振る。

 

「じゃあ、早速……」

 

そう言いながら、両手を差し出す。

 

「例のものを……」

 

ゼーリエが小さく舌打ちした。

 

「……これが、約束していた魔導書だ」

 

ゼーリエが一冊の魔導書を差し出す。

 

フリーレンはそれを受け取ると、

ぱっと表情を明るくした。

 

「わーい、やったー」

 

「ありがとう、ゼーリエ」

 

ゼーリエはうざったそうな顔をする。

 

だが、すぐに表情を引き締めた。

 

「……給料分の働きはしてもらうぞ、フリーレン」

 

フリーレンは魔導書を大事そうに抱える。

 

「もう、わかってるよ……」

 

「任せて、ゼーリエ」

 

フリーレンは椅子に座ると、

もうゼーリエの方すら見ずに魔導書を開いた。

 

ページをめくる音だけが響く。

 

ゼーリエは、ほんの少しだけ不安になった。

 

 

 

【 12:00 】

 

「じゃあ、私もらった魔導書を読んでるから」

 

「誰か来たら言ってね」

 

フリーレンが言う。

 

「うむ、いいだろう。好きにしろ」

 

ゼーリエは余裕そうに腕を組んだ。

 

「よろしくー」

 

フリーレンはそう返事をして、

さっそく魔導書を開き始める。

 

会議室は、静かだった。

 

 

 

【 13:00 】

 

「……誰も来ないね」

 

魔導書から目を離さず、

フリーレンが言う。

 

「……まだ一時間しか経っていない」

 

「これからだ」

 

ゼーリエは特に焦った様子もない。

 

「うーん……それもそうか……」

 

フリーレンはあっさり納得し、

また魔導書に視線を戻した。

 

 

 

【 15:00 】

 

「……誰も来ないねぇ」

 

フリーレンは、

ぼーっと魔導書を読みながら呟く。

 

「……まだ、わからん」

 

今度は、ゼーリエの声に

少しだけ焦りが混じっていた。

 

フリーレンが、ゆっくりと手を上げる。

 

「じゃあ……」

 

「私が応募しようかなぁ……」

 

少し、間。

 

ゼーリエがフリーレンを見る。

 

「……貴様、ふざけるな」

 

じっとりとした目で睨みつけた。

 

 

 

【 17:00 】

 

「……」

 

「……」

 

無言。

 

静かな会議室に、ページをめくる音だけが響いている。

 

フリーレンが小声で言った。

 

「……これさ」

 

「……なんだ」

 

「掲示板の紙……誰か破いたんじゃない?」

 

ゼーリエがゆっくり立ち上がる。

 

「そういうことか……」

 

「確認してくる」

 

数分後。

 

ゼーリエが戻ってきた。

 

表情は、暗い。

 

「……ちゃんと、貼ってあった」

 

「……世知辛いね」

 

フリーレンが大きくあくびをする。

 

 

 

【 19:00 】

 

「……私、帰って良い?」

 

フリーレンが帰り支度を始めようとする。

 

「……あと一時間だ」

 

「……もう少し待て」

 

そう言うゼーリエだが、

声は少し落ち込んでいた。

 

「……これ、絶対誰も来ないよ」

 

フリーレンが冷静に言う。

 

「……」

 

ゼーリエは何も答えない。

 

気まずい空気が流れる。

 

「……はぁ」

 

フリーレンは読んでいた魔導書を閉じ、

天井をぼんやり見上げた。

 

 

 

【 19:58 】

 

「じゃあ……私、帰るね」

 

フリーレンが立ち上がる。

 

「……うむ。ご苦労だった」

 

ゼーリエが小さく頷く。

 

もう終わりだ。

 

そう思った、その時——

 

会議室の扉が、ゆっくり開いた。

 

「……ギリギリになってしまい……申し訳ありません」

 

少し息を乱した声。

 

「……まだ……募集されていますか?」

 

扉の向こうに立っていたのは——

 

メトーデだった。

 

「……メトーデか」

 

ゼーリエは、もちろんメトーデを知っていた。

 

魔法使いとしては間違いなく有能。

回復魔法を得意とする一級魔法使いだ。

 

だが——

 

ゼーリエは、少しだけメトーデが苦手だった。

 

会うたびに、必ずと言っていいほど——

 

十分ほど頭を撫でられる。

 

一級魔法使いという立場もあり、

強く拒否することはしていない。

 

だが、本人としてはあまり気乗りしない行為だった。

 

ゼーリエは複雑な表情を浮かべる。

 

「……もちろん、まだ募集はしている」

 

「……ほ、本当ですか!?」

 

メトーデの顔が、ぱっと明るくなった。

 

その様子を横で見ていたフリーレンが、小声で言う。

 

「……この人だけしか来てないし」

 

「もうこの人で決定で良いんじゃない?」

 

ゼーリエも小声で返す。

 

「……ふざけるな」

 

「ちゃんと適性を見て判断する」

 

メトーデはまだ息が整っていなかった。

 

「本当にすみません……」

 

「仕事が長引いてしまって……」

 

「急いで来たんですけど……

 ギリギリになってしまいました……」

 

髪も少し乱れている。

 

本当に急いで駆けつけたのだろう。

 

「いや……構わん」

 

ゼーリエは小さく頷く。

 

「では……早速、面接を開始するぞ」

 

すると、メトーデが慌てて声を上げた。

 

「あ、あの……ゼーリエさま」

 

「……面接の前に、

 申し訳ないんですけど……」

 

少しモジモジしている。

 

ゼーリエの背中に、嫌な予感が走る。

 

「……なんだ」

 

メトーデが少し照れたように言う。

 

「……頭、撫でさせてもらっても良いですか?」

 

少し、間。

 

ゼーリエは深くため息をついた。

 

「……面接が終わってからにしろ」

 

メトーデの表情が、ぱっと明るくなる。

 

「……ありがとうございます!!」

 

メトーデが嬉しそうに頭を下げる。

 

「……あ、あとですね……」

 

また、もじもじし始める。

 

ゼーリエが少し眉をひそめた。

 

「……なんだ、まだ何かあるのか」

 

少しだけ苛立ちが混じる声。

 

メトーデが遠慮がちに続ける。

 

「……いえ、今度はゼーリエ様じゃなく……」

 

「……フリーレンさんになんですけど……」

 

フリーレンがびくっと反応した。

 

「え、私?」

 

一拍。

 

「……な、なに?」

 

メトーデが少し照れながら言う。

 

「……フリーレンさんの頭も……」

 

「……撫でさせてもらっても良いですか?」

 

しばらく、間。

 

フリーレンが困った顔でゼーリエを見る。

 

ゼーリエは目を逸らした。

 

「……め、面接が終わってからね」

 

フリーレンがぎこちなく答える。

 

「ありがとうございます……!!」

 

メトーデの表情が一気に明るくなる。

 

少し鼻息も荒い。

 

ゼーリエが咳払いをした。

 

「……よし、」

 

「改めて、面接を始めるぞ」

 

メトーデが背筋を伸ばす。

 

「はい、お願いします……!」

 

緊張しながらも、どこか嬉しそうだった。

 

こうして——

 

本日、唯一の面接が始まった。

 

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