ゼーリエ、アイドルになる。   作:ジュウヨン

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ゼーリエ、武道館ライブが決定する(前編)

 

大陸魔法協会

アーク・アルカナ

会議室

 

窓の外は、すっかり夜の色に染まっていた。

 

アーク・アルカナのメンバーがテーブルを囲む中、

資料を手にしたメトーデが静かに口を開く。

 

「本日は……皆さんにひとつ報告があります」

 

その声に、自然と視線が集まった。

 

メトーデは一枚の書類をめくり、

落ち着いた調子で続ける。

 

「王都の国立武道館から……

正式なオファーが来ました」

 

一瞬、部屋の空気が止まる。

 

「キャパシティは……一万五千」

 

さらに一拍置いて、

 

「もちろん。

アーク・アルカナの単独公演です。時期は半年後」

 

——沈黙。

 

次の瞬間。

 

「……え?」

 

ゼンゼの小さな声が漏れた。

 

「ぶ……武道館……」

 

信じられない、という顔で呟く。

 

王都の中心にそびえる巨大な会場。

多くの伝説的なライブが行われてきた場所だ。

 

フェルンはゆっくり息を吐き、姿勢を正した。

 

「……我々も、ついに来ましたね」

 

静かな声だが、その目は確かに燃えている。

 

一方、フリーレンは顎に手を当て、少し考えるように言った。

 

「あのでっかいとこかー……」

 

少し間を置いて、

 

「音響、どうなんだろうね」

 

完全にライブ目線である。

 

そして。

 

テーブルの中央で腕を組んでいたゼーリエが、

ゆっくり口を開いた。

 

「……ふん、通過点だ」

 

そう言いながらも、口元はほんの少しだけ緩んでいる。

 

その様子を見て、ユーベルがニヤリと笑った。

 

「へー、ゼーリエ珍しく嬉しそうじゃん」

 

「嬉しくなどない……」

 

即答。

 

しかし、否定が早すぎた。

 

ユーベルがニヤニヤしている。

 

ゼーリエが目を逸らす。

 

「じゃあさー」

 

ユーベルが身を乗り出す。

 

「今回も手売りしよーよ」

 

その一言で、空気が変わった。

 

「手売りか……」

 

フリーレンが小さく呟く。

 

以前のライブを思い出したのだろう。

あの時の混乱と疲労は、まだ記憶に新しい。

 

「やっぱり、

私たちは手売りするしかないでしょー」

 

ユーベルはまったく迷いがない。

 

フェルンが真面目な顔で尋ねる。

 

「どれぐらいの数を手売り分として捌きますか?」

 

ユーベルは少し考えるふりをしてから言った。

 

「今回は——」

 

「1500ぐらいでいいんじゃない?」

 

その瞬間。

 

フリーレンの顔色が変わった。

 

「……1000でも大変だったんだけど、」

 

ぼそりと呟く。

 

隣でゼンゼが腹のあたりを押さえていた。

 

「……胃が痛い」

 

静かな悲鳴である。

 

だが。

 

テーブルの中央で、ゼーリエが腕を組んだまま言った。

 

「……いや」

 

全員が見る。

 

「キリが悪いな」

 

そして。

 

「今回は、2000でいくぞ」

 

断言。

 

「いいねー、さすがリーダー」

 

ユーベルがすぐに乗る。

 

フェルンも力強く頷いた。

 

「はい。頑張りましょう」

 

対照的に。

 

フリーレンとゼンゼは、さらに顔色が悪くなっていた。

 

フリーレンは遠い目で呟く。

 

「……半年後までに、体力つけないとなぁ……」

 

ゼンゼは椅子に沈み込みながら言う。

 

「……私、またライブ前に倒れるかもしれない」

 

そんな二人をよそに。

 

ゼーリエは腕を組み直し、静かに宣言した。

 

「ふん、武道館だろうが何だろうが関係ない」

 

その目には、確かな闘志が宿っている。

 

「我々は——」

 

ほんの少しだけ、口元が上がった。

 

「必ず、成功させる」

 

アーク・アルカナの武道館ライブ。

 

その計画が、こうして動き出した。

 

 

メトーデが資料を閉じ、静かに言った。

 

「では、ライブの発表については、

この後、配信にて皆さんで行いましょう……」

 

ユーベルがすぐに反応する。

 

「だから今日、夜のスケジュール押さえてたわけね……」

 

フェルンは小さく頷いた。

 

「チームでの配信も、

久しぶりな気がしますね」

 

ゼンゼも同意するように言う。

 

「……最近は個人の配信ばかりだから、

今日は一息つけるね……」

 

その横で、フリーレンが小声で呟いた。

 

「……ゼーリエとユーベルに任せよっと……」

 

するとすぐに、

 

「……フリーレン、聞こえてるぞ」

 

ゼーリエが低く言う。

 

フリーレンは目を逸らした。

 

フェルンが静かに言う。

 

「フリーレン様、前に出てください」

 

「酷いよ……私、疲れてるのに……」

 

フリーレンはぼやきながら肩を落とす。

 

するとユーベルが楽しそうに言った。

 

「じゃあ、フリーレンは私の隣ね〜」

 

「とほほ……」

 

フリーレンは渋々立ち上がる。

 

その様子を見ながら、ゼンゼは誰にも気づかれないように

そっと胸を撫で下ろしていた。

 

 

その夜。

 

アーク・アルカナの公式配信が開始された。

 

配信タイトルは――

【 緊急告知 】

 

配信が始まって間もなく、画面の同時接続数は一気に伸びていく。

 

同接 約40000。

 

画面の向こうでは、メンバーが横並びに座っていた。

 

ゼーリエが口を開く。

 

「今日は、久しぶりにチームでの配信だ」

 

隣でユーベルが手を振る。

 

「やっほー」

 

フェルンは丁寧に頭を下げた。

 

「こんばんは」

 

フリーレンは画面を見ながら、少し笑う。

 

「なんか懐かしい感じだね」

 

ゼンゼは、静かに頷くだけだった。

 

その間にもコメント欄は凄まじい勢いで流れていく。

 

“この感じ懐かしいな”

“フェルン本当に可愛い”

“ユーベル毎日テレビで見るね”

“ゼーリエが善人ってマ?”

“↑鬼の目にも涙やぞ”

“↑↑ゼーリエは気まぐれ大魔法使いだからな”

“ゼンゼ様……今日も美しい”

“フリーレンまじで可愛いな”

 

コメントの流れを眺めながら、ゼーリエが言う。

 

「では……タイトル通り、緊急告知だ」

 

ユーベルがニヤニヤする。

 

「驚くよ〜」

 

その横で、ゼンゼがフリップを持ち上げた。

 

少しだけ緊張した様子で、フリップを構える。

 

そして。

 

恐る恐る、めくった。

 

そこに書かれていた文字。

 

 

【アーク・アルカナ 王都 国立武道館ライブ決定】

 

 

次の瞬間。

 

コメント欄が爆発した。

 

 

“えぐすぎいいいいいいいいいいい”

“うおおおおおおおおおおおおお”

“……ついにきたか”

“絶対行く”

“マジで、デカくなったな”

“アーク・アルカナ最強!!”

“初期からのファンだけど、泣いた”

“手売りしてた時が懐かしいね”

“もう流石に手売りはないのかな”

 

 

コメント欄は、

武道館ライブ決定の話題で大きく盛り上がっていた。

 

その中に、ある言葉が何度も流れていく。

 

——手売り。

 

ゼーリエの視線が、その文字に止まった。

 

「手売り——」

 

思わず口に出しかけた、その瞬間。

 

ユーベルが横から割り込む。

 

「初期から見てたらやっぱり驚くよねー!」

 

話題を強引にずらす。

 

フリーレンも続く。

 

「前やった10000のホールライブより大きいからね〜」

 

フェルンは胸に手を当て、静かに言った。

 

「はい、感無量です……」

 

その横でゼンゼが、

同意するようにブンブンと首を縦に振っている。

 

チームの素晴らしい連携。

 

しかし——

 

コメント欄は止まらない。

 

 

“なんかゼーリエ手売りって言ってなかった?”

“手売りあるの!?!?”

“ゼーリエ喋れ”

“めちゃくちゃ誤魔化そうとしてない?”

“ゼンゼ様の首振り尊い”

 

 

その流れを見ながら、ゼーリエは思い出していた。

 

——『手売りの件は、配信では伏せましょう。』

 

王都の混乱を防ぐため、

メトーデからそう言われていたことを。

 

ゼーリエはコメントを見ないふりをする。

 

そして、大きく咳払いし

わざとらしく、

 

「……アークアルカナは、

ここから大きな転換期を迎える」

 

漠然としたことを言い出す。

 

しかし。

 

コメント欄は、

完全に手売り一色になっていた。

 

 

“ゼーリエしらばっくれるな”

“ゼーリエ、しゃべれ”

“手売りあんの!?”

“他のメンバーも黙ってる”

“ゼンゼ様、どちらなのですか”

“フェルンー教えて”

“フリーレンこっそり歌でどっちか教えて”

“ユーベルなんかプルプルしてない?”

 

 

フリーレンが、そっと耳打ちする。

 

「……ゼーリエ、どうすんの」

 

フェルンも小声で言う。

 

「これは……なかなか厳しいですね」

 

ユーベルは笑いを堪えながら肩を震わせていた。

 

「……ちょwこれどうすんのw」

 

ゼンゼは静かに慌てている。

 

「ゼ、ゼーリエ様……」

 

メンバーたちの声がゼーリエに集中する。

 

ゼーリエのこめかみに青筋が浮き出る。

 

机を指で叩く。

 

歯ぎしり。

 

沈黙。

 

そして。

 

次の瞬間。

 

ゼーリエの怒りが爆発した。

 

「貴様ら……」

 

「うるさい……!!」

 

配信画面に静かな怒号が響く。

 

「手売りはする……!」

 

一拍置き、

 

「だから、黙っていろ……!!」

 

沈黙。

 

——そして。

 

ユーベルが爆笑した。

 

「さっすがリーダーwwww最高wwww」

 

フリーレンは気まずそうな顔をする。

 

「……まあ、そうなるよね」

 

フェルンとゼンゼは、遠い目をしていた。

 

カメラの横では、メトーデが静かに微笑んでいる。

 

当然ながら。

 

コメント欄は、さらに盛り上がっていた。

 

 

“草”

“仲間割れやん”

“やっぱゼーリエはゼーリエだわ”

“言った”

“王都大混乱”

“いつやんの”

“言ったwwww”

“結局手売りで草”

“王都終わった”

“武道館前に王都壊れる”

 

 

ゼーリエは一度咳払いをしてから、

静かに言った。

 

「もういい」

 

少し間を空け、

 

「……いつかはまだ決まっていないが、

手売りはするつもりだ」

 

そして続ける。

 

「……だが、一週間後の20時に、

オンラインでチケットの販売が開始されるのは確定済みだ」

 

一拍置き。

 

「それを、必ず買え……!」

 

力強く言う。

 

隣ではユーベルが腹を抱え、

ゼンゼの顔が引きつっている。

 

コメント欄が流れる。

 

 

“どうせなら手売りで買いたい”

“またゲリラか……”

“王都の路上で張っとこっかな”

“手売りで買いたいのがファン心理”

“王都で張ります!!”

 

 

そのコメントを見た瞬間。

 

ゼーリエの目が細くなった。

 

「王都で……張る、だと……?」

 

画面の空気が一瞬止まる。

 

そして次の瞬間。

 

ゼーリエがぶちぎれた。

 

「そういうことをする輩が現れるから、

言わないつもりだったんだ……!」

 

横からユーベルがすかさず突っ込む。

 

「そもそも最初から言っちゃ

ダメって話だったのにwww」

 

ゼンゼは肩を震わせながら、

必死に笑いを堪えている。

 

ゼーリエがギロリとユーベルを睨んだ。

 

フリーレンは、どこか懐かしそうに言う。

 

「懐かしいね、このノリ……」

 

そして、感慨深そうに深く頷いた。

 

フェルンも小さく微笑む。

 

「ですね……」

 

少し、しんみりした空気が流れる。

 

コメント欄にも同じような声が流れていた。

 

 

“この感じ懐かしいなぁ”

“初期を思い出す”

“やっぱチーム配信は良いね”

 

 

その時。

 

カメラの横から、メトーデがフリップを差し出した。

 

ゼーリエたちの視界に入るよう、

そっと掲げる。

 

そこには文字が書かれていた。

 

めくる。

 

〔     ちょうど良いので

 このまま、今回は告知型にしましょう ]

 

さらにめくる。

 

[  場所も目処は立ってますし、       

 既に時間や人員整理は調整してます。]

 

もう一枚。

 

[ こうなった以上、告知をしないとなると、

    前回より混乱するのは目に見えてます   ]

 

そして、最後の一枚。

 

[ 手売り販売の日程が確定次第、

    SNSで発表しましょう。

    それを今言ってください    ]

 

メトーデからの指示だった。

 

ゼーリエは——

 

露骨に、

そのフリップを凝視していた。

 

フリーレンが小声で言う。

 

「……ちょ、ゼーリエ見過ぎだよ」

 

ユーベルが吹き出す。

 

「リーダーやばいwwww」

 

フェルンは少し感心したように言う。

 

「誤魔化さない感じが潔いですね」

 

ゼンゼは苦笑していた。

 

「視聴者にも、見てるのバレてるみたいですね……」

 

その通りだった。

 

コメント欄は既に反応している。

 

 

“なんか目線変じゃない?”

“ゼーリエなんか見てね?”

“↑ライブの成功を夢見てんだよ”

“↑泣いた”

“さすが我らの王”

“カンペかなんか見てるだろこれ”

 

 

それを見て、ゼーリエは少し笑った。

 

そして遠い目で言う。

 

「……ふっ、やはり我々は変わらんな」

 

その言葉に、フリーレンが冷静に返す。

 

「……うん、ゼーリエは特にね」

 

ユーベルが腹を抱えて笑う。

 

「本当にそうwwwww」

 

ゼンゼも、つられてクスッと笑った。

 

フェルンも、静かに微笑んでいた。

 

ゼーリエは一度咳払いをして、

仕切り直すように言う。

 

「では、手売り販売の日程や場所については、

後日我々のSNSアカウントで告知する」

 

その言葉に合わせて、ユーベルが手を振る。

 

「来れる人は来てね〜」

 

フリーレンも少し砕けた口調で言う。

 

「芸能人と会えちゃうよ〜」

 

フェルンは丁寧に頭を下げた。

 

「待ってます」

 

ゼンゼは短く付け加える。

 

「……オンラインでも買えます」

 

そして——

 

配信は終了した。

 

最終的な平均同時接続数は、42000。

 

コメント欄には、

まだ興奮の余韻が残っていた。

 

 

“武道館はさすがに草”

“もうトップアイドルじゃん”

“どこまでもついていくぜ”

 

 

大型ライブの決定。

 

それは、アーク・アルカナの勢いが

さらに加速している証だった。

 

そして、久しぶりの手売り。

 

彼女たちの勢いは、

まだまだ止まりそうにない。

 

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