ゼーリエ、アイドルになる。   作:ジュウヨン

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【第二部】3章:炎上からの“対立”
ゼーリエ、SNSの乗っ取りにブチ切れる(前編)


 

 

アーク・アルカナでの温泉旅行から帰ってきて、

しばらく経ったある日。

 

ゼーリエは協会の仕事に追われていた。

 

「チッ……」

 

「最近、やたらと忙しいな……」

 

書類を次から次に捌いても、一向に減った気がしない。

むしろ、さっきより増えているのではないかと疑いたくなる量だった。

 

その時。

 

「……失礼します」

 

玉座の間に現れたのは、ゼンゼだった。

 

「ゼーリエ様、大変です……!」

 

ゼンゼは最近、大陸魔法協会の仕事が忙しくなり、

芸能の仕事を減らしているらしい。

 

そのため、以前よりも協会で見かけることが多くなっていた。

 

「ゼンゼ、いきなりなんだ……」

 

書類から顔を上げ、

鬱陶しそうにゼンゼの方へ目を向ける。

 

ゼンゼは本来なら玉座の前で傅くはずだったが、

そんな余裕もないらしい。

 

そのまま早足でゼーリエの方へ歩み寄ってきた。

 

どうやら相当焦っているようだった。

 

「こ、これを見てください……」

 

ゼンゼの手にはスマホが握りしめられている。

 

「騒々しいやつだ」

 

「これが一体なんだと言うのだ……」

 

差し出された画面を確認する。

 

そして——

 

ゼーリエの表情が固まった。

 

「……な、なんだこれは……」

 

「私にもわかりません……

 気づいたらこんなことに……」

 

ゼンゼに見せられたのは、

アーク・アルカナの公式SNSアカウントの画面だった。

 

だが、明らかにいつもと様子が違った。

 

それは——

 

「……ゼンゼ」

 

ゼーリエの声が、低くなる。

 

「この“うんこボカーン”とはどういうことだ……!!」

 

思わず声を荒げる。

 

「……私にも、一切わかりません」

 

ゼンゼは力なく首を振った。

 

アーク・アルカナのロゴだったはずのトップ画像は、

コミカルなアニメ調のうんこの画像にすり替えられている。

 

そして——

 

ここ数時間の投稿が、すべて

 

“うんこボカーン”

 

で埋め尽くされていた。

 

しかも五分おきの投稿だ。

 

タイムラインには同じ言葉が延々と並び、

コメント欄ではフォロワーたちが騒然としていた。

 

「既に、SNSの運営には連絡をしていたのですが、

 まだ返信が返ってきておらず……」

 

ゼンゼの表情は、依然として青ざめている。

 

「くそ……!こんなのおふざけもいいところだ……」

 

ゼーリエは苛立った様子でスマホを取り出すと、

画面を開いた。

 

そして、何かを打ち始める。

 

それを見て、ゼンゼが慌てる。

 

「ぜ、ゼーリエ様……何をなさっているのですか?」

 

「ゼンゼよ、私はアーク・アルカナのリーダーだ」

 

指を止めずに言う。

 

「この不届き者に裁きを下してやる」

 

口元が、ニヤリと歪む。

 

「まあ、見ているが良い……」

 

 

【ゼーリエさんが投稿しました】

 

『我々のアカウントが乗っ取られた。

 これは悪質なイタズラだ。

 現在SNSの運営に対応を依頼している。』

 

 

思いの外、冷静な対応だった。

 

ゼンゼは思わず胸を撫で下ろす。

 

「……少し、安心しました」

 

ゼーリエが眉をひそめる。

 

「……何に安心したんだ、ゼンゼ」

 

「あ……いや……」

 

ゼンゼは一瞬言葉に詰まる。

 

「言え」

 

「……怒られるから、嫌です」

 

「怒らんから、言え」

 

「……」

 

少しの沈黙。

 

ゼンゼは観念したように、小さく息を吐いた。

 

「……てっきり、

 乗っ取り犯とレスバトルをされるものかと……」

 

恐る恐る視線を上げる。

 

だが、ゼーリエの反応は意外にも落ち着いていた。

 

「ふん……確かに、以前の私ならそうしていたかもしれんな」

 

腕を組み、椅子の背にもたれながら言う。

 

「だが、考えてみろ……

 我々は武道館2daysを完売させたアイドルグループだ」

 

「……いつまでも、そんな稚拙でいられるか」

 

ゼンゼの表情がぱっと明るくなる。

 

「ぜ、ゼーリエ様……」

 

「ふん……こういう時こそ余裕を崩さんのが、

 王たる者の務めだ」

 

少し顎を上げ、堂々と言い放つ。

 

「ゼンゼ、貴様も覚えておけ……」

 

ゼンゼはすっかり感心した様子で頷いた。

 

「はい……流石です」

 

玉座の間に、わずかな静寂が落ちる。

 

その直後。

 

ピロン。

 

ゼーリエのスマホが、小さく音を立てた。

 

画面に通知が表示される。

 

 

 

【アークアルカナ公式アカウントさんから

 返信が来ています。】

 

『頭ボカーンしてるリーダーさん!オッスオッス!』

 

 

 

ゼーリエがスマホの画面を見つめる。

 

その目が、みるみる細くなる。

だんだんと呼吸も荒くなっていった。

 

「こ……こいつ……!」

 優しくしてやったというのに……!!」

 

低く唸るように呟く。

 

「ゼーリエ様……!やめてください……!」

 

ゼンゼが慌てて止めに入る。

 

しかし——

 

「黙れ、ゼンゼ……!

 舐められたままでいられるか……!!」

 

次の瞬間。

 

ゼーリエは物凄い勢いでスマホを打ち始めた。

 

親指が画面の上を高速で動く。

 

(絶対こうなると思ってた……)

 

ゼンゼは内心で頭を抱える。

 

 

 

【ゼーリエさんが返信しました】

 

『ふん。頭ボカーンしているのはどちらの方だ。

 アカウントの乗っ取りなどして、何になる。

 良い加減、大人になるが良い』

 

 

 

「ふん……言ってやったぞ」

 

満足げにスマホを置く。

 

(ダメだ……こういうのは基本触れたらダメなのに……)

 

ゼンゼは顔を青くする。

 

「安心しろ、ゼンゼ」

 

ゼーリエは腕を組み、余裕の表情を浮かべる。

 

「私が、アークアルカナの意志を代行する」

 

「……はい」

 

ゼンゼはぎこちなく頷くが、表情は完全に青ざめていた。

 

「ふん、見てみろ。乗っ取り犯のつぶやきが止まったではないか」

 

ゼンゼが慌ててアカウントを確認する。

 

すると、本当に——

先ほどまで続いていた投稿が、ぴたりと止まっていた。

 

「ゼンゼよ、いつの時代にも悪は滅びるものだ」

 

ゼーリエは得意げに言う。

 

「私が……正義の鉄槌を下してやった」

 

「……」

 

ゼンゼは何も言えない。

 

「如何に、自分が愚かなことをしていたか

 悔い改めている頃だろう……」

 

「……」

 

なおも沈黙。

 

「……早く仕事だ。休んでいる暇はないぞ、ゼンゼ」

 

そう言うと、

ゼーリエは何事もなかったかのように書類仕事へ戻った。

 

ペンを取り、次の書類に目を通し始める。

 

「……わかりました」

 

ゼンゼは頭を下げる。

 

(嫌な予感がするんだよなぁ……)

 

胸の奥のざわつきが、どうしても消えなかった。

 

 

……

 

三十分後。

 

玉座の間の扉が、勢いよく開いた。

 

「た、大変です……ゼーリエ様……!!」

 

ゼンゼが、先ほどよりもさらに青ざめた様子で飛び込んでくる。

 

「チッ……またか、ゼンゼ」

 

ゼーリエは書類から目も上げずに舌打ちする。

 

「私は、今忙しいのだぞ……!」

 

「申し訳ございません……」

 

ゼンゼはすぐに頭を下げる。

 

「ですが、これを見てください……!」

 

差し出されたスマホを受け取り、

ゼーリエが画面を見る。

 

すると——

 

アークアルカナの公式アカウントに、

動画と画像が次々と投稿されていた。

 

ライブ中や地上波の出演番組で、ゼーリエが半目になったり、

極端に顔が崩れている瞬間の切り抜きだった。

 

しかも——

 

一分置きに。

 

次々と投稿されている。

 

ゼーリエの肩が、ワナワナと震え始める。

 

「ふぅー……」

 

「ふぅー……」

 

スクロールする。

 

「ふぅー……!」

 

「ふぅー……!!」

 

画面をスクロールするたびに、

だんだんと息が荒くなっていく。

 

(だから言ったのに……)

 

ゼンゼは遠い目をした。

 

そして——

 

ピロン。

 

通知音が鳴る。

 

 

 

そしてまた、

新たにゼーリエの半目の写真が一枚投稿された。

 

それもライブ中の。

 

よりにもよって、

やけに気合いの入った半目顔の。

 

 

 

——プツン。

 

ゼーリエの中で、何かが切れる。

 

「……コイツを、殺す」

 

低く呟く。

 

スマホを開き、

静かに画面へ入力を始める“大魔法使い”。

 

顔を真っ赤にし、スマホを握りしめるその姿には——

 

もはや、先ほどまで語っていた“王の余裕”など、

微塵も残っていなかった。

 

 

 

玉座の間には、

五人の魔法使いが集まっていた。

 

もちろん、

アーク・アルカナのメンバー一同だった。

 

珍しく少し怒っているユーベルが声を上げる。

 

「ちょっと!収録中だったんだけどー!」

 

フリーレンは青ざめている。

 

「歌番組中に召集はまずいよゼーリエ……」

 

「放送事故だよ……」

 

フェルンは片手に焼き鳥を持っていた。

食べロケ中だったのだろう。

 

焼き鳥を口に頬張る。

 

「本当に……モグモグ……

 いつも……モグモグ……

 突然ですね……モグモグ」

 

玉座の上から怒号が飛ぶ。

 

「貴様ら、黙れ……!!」

 

ゼーリエの額に青筋が浮かんでいた。

 

「アークアルカナの看板に泥……」

 

拳を震わせる。

 

「いや、クソが塗られたのだぞ……!!」

 

肘掛けに、強く拳を叩き付ける。

 

そしてスマホを掲げた。

 

「これは、どうすれば良い……!!」

 

画面を覗き込む一同。

 

フェルンの顔色が一瞬で変わる。

 

「こ……これは……」

 

フリーレンも覗き込み、目を丸くした。

 

「み、見事なまでに乗っ取られてるね……」

 

その瞬間。

 

ユーベルが吹き出した。

 

「ヒィーヒッヒwwwwwwwwwwww」

 

肩を震わせる。

 

「マジでやばいwwwwwwwwwwwwww」

 

腹を抱える。

 

「お腹痛くてしんじゃうwwwwwwwwwwww」

 

そしてそのまま床を転がり始めた。

 

玉座の間をゴロゴロ転がり回る。

 

ゼーリエのこめかみがぴくぴくと震える。

 

「ユーベル、笑い事ではないぞ……!!」

 

ユーベルは腹を抱えたまま言う。

 

「でもwww

 これは笑わない方が失礼まであるよwwwwwww」

 

画面を指差す。

 

「うんこボカーンって何wwwwwwwww」

 

「しかもゼーリエ半目だしwwwww」

 

ゼーリエは低く言った。

 

「今日は貴様の無礼を許してやる……」

 

そして指を突きつける。

 

「だから、貴様のレイルザイデン【大体なんでも切る魔法】で、

 投稿画面を斬り裂け……!!」

 

「もしかすれば——

 この大犯罪者にも裁きが下るかもしれん……」

 

目が鋭くなる。

 

「私が、許可をする……!!」

 

玉座の間に、ユーベルの笑い声が響く。

 

「それ、ただスマホが真っ二つになるだけだよwwwwwww」

 

ゼーリエは真顔だった。

 

「何が起こるかわからん

 とりあえず一度やってみろ……」

 

そして続ける。

 

「もちろん、お前のスマホでだ……!」

 

ユーベルは腹を抱えて大笑いした。

 

「こいつマジでやばいwwww」

 

笑いすぎて涙を拭う。

 

ユーベルが笑いをどうにか堪え、続ける。

 

「……まあでも、私たちが何かしなくても

 SNSの運営がそのうちなんとかするでしょ……」

 

一息つく。

 

「あーお腹痛かったw」

 

そこへゼンゼが口を開く。

 

「そのはずなんだが、

 なかなか時間が掛かっているようだ……」

 

フェルンも頷いた。

 

「待つしかありませんね……」

 

ゼーリエは目を閉じる。

 

しばらく黙り込んだ後、ゆっくりと口を開いた。

 

「……これは、太古の女神が

 我々の手で裁くことを望んでいるに違いない」

 

拳を握りしめる。

 

「つまり、神の意思……!」

 

ユーベルがニヤける。

 

「こんな時に謎の信仰心を見せてこないでよw」

 

その横で、フリーレンが腕を組んで考え込んでいた。

 

「……」

 

ゼーリエがそれに気づく。

 

「どうしたフリーレン。何かあるのか?」

 

フリーレンは少し困った顔をした。

 

「いやぁ……言うか迷ったんだけどね……」

 

ゼーリエが身を乗り出す。

 

「なんだ。聞かせろ」

 

フリーレンは露骨にめんどくさそうな顔になる。

 

「ややこしくなりそうだから、

 正直嫌なんだよね……」

 

ゼーリエのこめかみがぴくりと動く。

 

「いいから……! 早く言え……!!」

 

フリーレンはため息をついた。

 

「うーん……気乗りしないなぁ……」

 

そして、ようやく口を開く。

 

その瞬間。

 

ゼーリエが息を呑んだ。

 

しかし——

 

他のメンバーは、あまり興味がなさそうだった。

 

方向性は、すでにまとまっている。

 

(早く仕事に戻りたいなぁ……)

 

そんな空気が、玉座の間に漂っていた。

 

 

 

 

 

——一方その頃。

 

SNSでは。

 

トレンド

 

1位 うんこボカーン

2位 頭ボカーンしてるリーダー

3位 ゼーリエ半目

 

というワードが、無慈悲にランク入りしていた。

 

武道館ライブを終えたアーク・アルカナの勢いは、

止まることを知らなかった。

 

良い意味でも……。

 

もちろん、悪い意味でも……!!

 

 

 

 

次回、

フリーレンの考える手とは。

 

 






ここまで読んでいただきありがとうございます。
ジュウヨンです。

今回は久しぶりの連日投稿です。
毎回読んでくださっている方から嬉しい言葉をいただき、
急にモチベーションが上がって筆が進みました。(スマホ)

『ゼーリエ、アイドルになる。』も、とうとう今回で50話です。

ここまで続けてこられたのは、
いつも読んでくださっている皆様のおかげです。

本当にありがとうございます。

ところで、今回のSNS乗っ取りの流れですが、
これは連載前からやりたかったネタでした。

プロットを整理している時に見つけて、
ノリノリで書きました。

既にオチのプロットにも着手しているので、
わりと早めに続きも出せると思います。

ふざけた流れではありますが、
次回はゼーリエ様のカリスマが少しだけ爆発します。
カリスマというか、人間力というか。
自分の中では「理想の人間像」みたいな感じですね。

ライバルユニットの登場までは、
もうしばらくギャグ回が続きます。

やっぱり、ギャグを書いている時が一番楽しいですね。

別で連載している
『社畜な俺。メンヘラな口裂けにビンタしたら同棲することになった。』を書いていると
精神が削れるので、アーク・アルカナで息抜きしています。

メンバーのバランスが本当に神がかっているんですよね。

ただ、温泉回でも少し触れましたが、
その分ユーベルの原作のような危うさが犠牲になっているのも事実です。

とはいえ、本作のユーベルは本当に良い役割をしてくれています。
もしユーベルがいなかったら、
ゼーリエとフリーレンのボケを
フェルンとゼンゼが過労寸前まで捌き続ける地獄絵図になっていたと思います。

長々と失礼しました。

感想や評価、お気に入り登録などいただけると大変励みになります。
今後ともよろしくお願いいたします。
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