「エントリーナンバー125番——……
ラヴィーネ!!」
司会者の張り上げた声が、
オーディション会場いっぱいに響き渡る。
——その瞬間。
「うおおおおおっ!!」
「ラヴィーネちゃぁぁぁぁん!!」
「やっぱり来た!!」
「受かると思ってた!!」
「ラヴィーネたん……」ハアハア
「覇権だろこれ」
「伝説の幕開けだな……」
割れんばかりの歓声。
いや——もはや悲鳴に近い。
床が震えるほどの熱気が、
一気にラヴィーネへと降り注ぐ。
スポットライトが、
真正面から彼女を照らしていた。
だが。
その中心に立つラヴィーネ本人だけが——
完全に死んだ目をしていた。
「…………」
拍手喝采。
歓声。
期待の視線。
その全てを浴びながら。
ラヴィーネの頭の中だけが、
異様なほど静かだった。
(……なんで……)
理解が、追いつかない。
壇上へ上がれと促されても、
身体が上手く動かない。
足が重い。
まるで処刑台へ向かっているみたいだった。
「ラヴィーネちゃん、こっち!」
「笑ってー!!」
「可愛い!!」
「マジで推せる!!」
観客席のあちこちから、
好き勝手な声が飛んでくる。
だが——
それらの声は、
ラヴィーネの耳にはほとんど届いていなかった。
聞こえているはずなのに、
意味として頭に入ってこない。
ただ、
遠くで何かが騒いでいる。
そんな感覚。
(なんで、私が……)
喉の奥が、
じわりと重い。
視界の端では、
最終選考まで残った候補者たちが拍手を送っていた。
パチ、パチ、パチ、パチ——
祝福の拍手。
……の、はずだった。
だがラヴィーネには、
それがまるで鋭い針の雨みたいに感じられる。
痛い。
刺さる。
胃が、きりきりと軋む。
中には、
悔しさを隠しきれていない表情の者もいた。
唇を噛み締める者。
俯く者。
涙を堪えている者。
そんな視線が、
全部ラヴィーネへ向いている。
(いやいやいやいや……)
(違うだろ……)
(なんで、私なんだよ……)
頭の中で、
否定の言葉だけがぐるぐる回る。
歓声は止まらない。
拍手も止まらない。
なのに——
ラヴィーネだけが、
この場に取り残されていた。
(……帰りたい……)
切実に、そう思った。
今すぐ。
本気で。
できることなら、
このまま床に穴が空いて落ちたい。
逃げたい。
消えたい。
現実感から逃れるように、
ラヴィーネはゆっくりと顔を上げる。
空でも見れば、
少しは落ち着くかもしれない。
そう思った。
だが——
視界に映ったのは、
無機質な照明と、
殺風景な会場の天井だけだった。
白い。
やけに白い。
それが逆に、
現実を突きつけてくる。
逃げ場なんてないと。
ここが現実だと。
「……っ」
ラヴィーネの喉が、
小さく引き攣る。
……。
どうして、
こんなことになってしまったのか。
そもそも——
なぜ、自分がここにいるのか。
時は、少しだけ遡る——。
⸻
玉座の間。
高い天井の下、
静かな空気が広がっている。
窓から差し込む午後の日差しが、
長い赤絨毯の上に淡く落ちていた。
その中心。
玉座に腰掛けたゼーリエは、
頬杖をつきながら書類へ目を通している。
机の上には、
大陸魔法協会関連の報告書。
芸能部門の収支。
スポンサー契約。
魔法陣設置計画。
そして——先ほどまで受けていた雑誌取材の資料。
つい数十分前まで、
騒がしかった取材班の姿は、もうない。
静寂だけが残っている。
「……ふん」
ゼーリエが、
興味なさそうに書類を閉じる。
だが——
その目は、
別のことを考えていた。
(この前は、なんとかなったが……)
脳裏に浮かぶのは、
少し前の騒動。
——“人でなしのユーベルTシャツ事件”。
ゼーリエが復讐のために作らせた大量のTシャツ。
売れ残り。
特典会。
寄付。
大陸魔法協会からの呼び出し。
そして——
会議室での、あの空気。
思い出しただけで、
ゼーリエの眉間に皺が寄る。
「ちっ……」
小さく舌打ちする。
あの時は、
ゼンゼが場を収めたことで何とかなった。
だが。
本当に、
“たまたま助かった”だけだ。
一歩間違えば——
自分はアーク・アルカナから外されていた。
大陸魔法協会の重鎮たちの空気は、
本気だった。
あれは脅しではない。
本当に、
切る気だった。
(……くだらん)
心の中で吐き捨てる。
だが同時に、
理解もしている。
協会という巨大組織からすれば、
一人の問題行動で全体が揺れるなど、
許容できる話ではない。
まして今のアーク・アルカナは、
影響力が大きすぎる。
以前とは、立場が違う。
テレビ。
広告。
スポンサー。
地方イベント。
魔法使いのイメージ戦略。
もはや、
一アイドルグループでは済まない。
アーク・アルカナが転べば、
協会そのものに傷がつく。
(だが……)
ゼーリエが、
ゆっくり目を細める。
問題なのは、
自分だけではない。
仮に今後、
ゼーリエが何もしなかったとしても——
他のメンバーが問題を起こす可能性はある。
人間とは、
そういう生き物だ。
感情で動く。
迷う。
壊れる。
長命のエルフであるゼーリエは、
嫌というほど見てきた。
どれほど優秀な者でも、
ある日突然、折れる。
それは珍しいことではない。
(そうなれば——代わりを……)
そこまで考えて。
ゼーリエは、
わずかに眉を動かした。
……いや。
違う。
それは、違う。
アーク・アルカナは、
そんな単純なものではない。
ゼンゼ。
フリーレン。
フェルン。
ユーベル。
メトーデ。
誰か一人でも欠ければ、
今の形にはならない。
歌だけではない。
人気だけでもない。
空気そのものが、
あのメンバーで成立している。
ゼーリエは——
それを理解していた。
誰よりも。
(……代えは、効かん)
ぽつりと、
心の中で呟く。
認めたくはない。
だが事実だった。
今のアーク・アルカナは、
偶然の噛み合わせで成立している。
欠ければ、
二度と同じ形には戻らない。
「…………」
静寂。
時計の針の音だけが、
小さく響く。
ゼーリエは、
ゆっくりと背もたれに体を預けた。
(最悪——私だけが抜ければいい)
それなら、
まだどうにかなる。
他のメンバーなら、
残れる。
続けられる。
おそらく——
全員、
同じことを考えるだろう。
自分が犠牲になればいい、と。
——そういう連中だ。
だから厄介で。
だから、
信頼できる。
……。
ゼーリエは、
小さく目を閉じる。
長い時間を生きてきた。
弟子も見送った。
仲間も失った。
別れには慣れたつもりだった。
なのに——
最近、
妙に胸の奥がざわつく。
失う想像をすると、
ほんの少しだけ息苦しくなる。
その感覚に、
ゼーリエ自身が戸惑っていた。
(ふん、馬鹿らしい……)
エルフが、
今さら。
たかが数年付き合った程度の人間に。
そう思うのに——
頭では切り捨てられない。
アーク・アルカナを、
失いたくない。
その感情だけが、
妙に鮮明だった。
もっとも——
そんなこと、
本人は絶対に認めないが。
……。
現在——
大陸魔法協会の財政状況は、
以前よりも目に見えて回復の兆しを見せていた。
机の上に積まれた報告書にも、
その数字ははっきりと表れている。
数年前まで、
協会内では「先細り」とまで言われていた。
魔法使いの需要低下。
技術革新。
人材不足。
慢性的な赤字。
古い体制。
問題はいくらでもあった。
だが——
時代が変わり始めていた。
特に大きかったのは、
通信技術の発展だ。
近年、
各地で急速に進められている“電波エリア拡張事業”。
その基盤として、
広域魔法陣による中継・安定化技術が必要不可欠になっていた。
結果として——
魔法使いたちの仕事が、
一気に増えた。
しかも。
それは単発ではない。
維持。
保守。
監視。
調整。
継続的に金が動く。
大陸魔法協会は、
そこへ深く食い込むことに成功していた。
今では、
大手キャリアのインフラ事業に、
協会所属の魔法使いが関わるのも珍しくない。
以前なら、
考えられなかった規模だ。
だが——
ゼーリエは、
その報告書を見ながらも、
表情を変えない。
(……それでも)
それに負けていないのが——芸能事業。
——アーク・アルカナ。
そして、
そこを中心として広がった、
大陸魔法協会の芸能プロダクション。
最初は、
誰も本気にしていなかった。
魔法使いがアイドル。
魔法使いが芸能人。
そんなもの、
色物で終わると。
だが現実は違った。
テレビ。
雑誌。
広告。
ラジオ。
配信。
地方営業。
イベント。
気付けば、
魔法使いタレントを見ない日は無くなっていた。
討伐専門だった魔法使いが、
バラエティで天然を晒して人気になったり。
無愛想な一級魔法使いが、
ドラマ出演で女性人気を獲得したり。
以前なら考えられない現象が、
次々起きている。
だが——
その中心にいるのは、
やはりアーク・アルカナだった。
人気。
知名度。
影響力。
どれを取っても、
別格。
他のタレントたちは、
良くも悪くもまだ駆け出しだ。
今の芸能部門は、
アーク・アルカナという巨大な柱の上に成り立っている。
もし、
その柱が折れれば——
連鎖的に、
全て崩れかねない。
スポンサー離れ。
世論悪化。
新人の失速。
協会への不信感。
十分あり得る。
(一体、どうすれば……)
ゼーリエが、
小さく唸る。
長い耳を指先で軽く叩きながら、
思考を巡らせる。
守るだけでは、
限界がある。
壊れないように祈るなど、
愚策だ。
リスクは、
前提として考えなければならない。
——その時だった。
ふと。
ゼーリエの脳裏に、
一つの考えが走る。
(……一本が折れても)
(もう一本を、前もって用意しておけば良いのではないか?)
「…………」
ゼーリエの目が、
ゆっくり細まる。
それは単なる予備ではない。
保険。
継承。
そして——次世代。
仮に、
今のアーク・アルカナが崩れたとしても。
次を繋げる存在がいれば、
全ては終わらない。
しかも。
現状の“一枚看板”状態を緩和できる。
負担も分散できる。
新人育成にもなる。
……。
ゼーリエの口元が、
わずかに上がる。
悪くない。
むしろ、
かなり合理的だ。
そうと決まれば——
ガチャ。
玉座の間の扉が開く。
「ゼーリエ様、よろしいでしょうか」
入ってきたのは、
メトーデだった。
きっちりと書類を抱え、
相変わらず隙のない立ち姿。
以前のメトーデは、
討伐任務や復興支援が本業だった。
その傍らで、
マネージャー業務をしていた。
だが——
今は違う。
芸能事業の管理。
スポンサー調整。
現場統括。
企画運営。
タレント管理。
その全てに深く関わっている。
もはや、
協会芸能部門の中心人物と言っても過言ではない。
実際、
ここ最近の急成長は、
彼女の存在が大きかった。
「メトーデか……」
ゼーリエが、
頬杖をついたまま視線を向ける。
メトーデは、
一礼して口を開いた。
「つい先日の会議の件についてでして——」
だが。
その言葉を、
ゼーリエが遮る。
「アーク・アルカナの姉妹グループを作るぞ」
「…………え?」
珍しく。
メトーデが、
一瞬だけ本気で固まった。
目をわずかに見開く。
「それはまた……
随分と、急なお話ですね」
だが、
次の瞬間にはもう笑っている。
慣れていた。
ゼーリエが突然、
とんでもないことを言い出すのには。
「我々は、
次の世代を育てなければならん」
ゼーリエが、
静かに立ち上がる。
長い髪が、
さらりと揺れた。
「アーク・アルカナが折れた時——」
「次を、引き継げる存在が必要だ」
鋭い目。
そこに迷いはない。
合理性だけで語っているように見える。
だが——
メトーデは、
その言葉を聞いた瞬間に理解していた。
この人は、
恐れているのだと。
失うことを。
だからこそ、
先を作ろうとしている。
「アーク・アルカナは、折れさせません」
メトーデが、
柔らかく微笑む。
だが——
声音は静かに鋭い。
「私が——この身に代えても守り続けます」
笑顔のまま。
一切の冗談なく。
その場に、
冷たい熱量が落ちる。
絶対に壊させない。
そんな鋼の意志が、
はっきりと滲んでいた。
「——ですが」
メトーデが、
柔らかな声で続ける。
「姉妹グループを作るというのは、
素晴らしいと思います」
そう言って、
手に持っていた資料をゼーリエへ差し出した。
「たった今、こちらへ伺った件についてです」
「……?」
ゼーリエが、
わずかに眉を動かす。
資料を受け取り、
ぱらりと目を通す。
その瞬間——
「ふん……これは、面白いな」
口元が、
わずかに吊り上がった。
先ほどまで考えていた内容と、
綺麗に噛み合ったのだろう。
メトーデが静かに頷く。
「はい。タイミングが合えば、
良いデモンストレーションになるかと……」
その言葉を聞いた瞬間。
ゼーリエが、
勢いよく立ち上がった。
ガタンッ、と椅子が鳴る。
「よし——そうと決まれば」
「オーディションの企画と調整だ」
先ほどまで悩んでいた空気は、
もう消えていた。
切り替えが早い。
ゼーリエが、
ビシッとメトーデを指差す。
「メトーデ、準備しろ」
「お任せください」
メトーデが、
迷いなく頷く。
だがすぐに、
実務的な視線へ切り替わる。
「ですが——
オーディションの開催時期は、
いかがなさいますか?」
その問いに、
ゼーリエは指を一本立てた。
「一ヶ月だ」
「本物の熱意がある者を選別するために、
敢えて短く設定する」
即答だった。
迷いはない。
短期間で動ける者。
無茶でも飛び込んでくる者。
そういう人材だけを拾うつもりなのだろう。
実にゼーリエらしい。
メトーデも、
納得したように小さく頷く。
「なるほど……」
「では、その方向で——」
そこまで言いかけた時。
ゼーリエが、
ほんの少しだけ視線を逸らした。
「……あと」
「メンバーに伝え、
問題がなければこれでいくぞ」
「…………」
一瞬だけ、
メトーデの動きが止まる。
今。
確かに。
“メンバーに確認する”と言った。
以前のゼーリエなら、
まず出てこない発想だった。
基本的には、
自分で決めて押し通す。
それが当たり前だった人間だ。
なのに今は——
自然に、仲間を前提にしている。
メトーデが、
ほんの少しだけ口元を緩める。
(相談……)
(ゼーリエ様も——
成長していらっしゃるんですね)
その変化が、
どこか嬉しかった。
「はい……」
メトーデが、
にこやかに頷く。
「打ち合わせ後、
問題無ければすぐにでも動き出しましょう」
言葉を、付け足すように。
「ちゃんと、皆さんにしっかり相談して……」
その返答を聞いた瞬間。
ゼーリエの顔が、
みるみる赤くなる。
「……っ」
まるで、
思考を読まれたみたいに。
「な、なんだその顔は……!」
露骨にそっぽを向く。
長い髪が、
赤くなった耳を隠した。
「別に私は、この前のことがあったからでは——」
言い訳しかけて、
途中で止まる。
余計に恥ずかしくなったのか、
ゼーリエは不機嫌そうに舌打ちをする。
「……ちっ」
メトーデは、
それ以上何も言わなかった。
ただ。
少しだけ、
楽しそうに笑っていた。
⸻
「え……」
「マジで!?」
夕方。
自室のベッドへうつ伏せになりながら、
なんとなくスマホを眺めていたカンネが、
勢いよく身体を起こす。
画面に映っていたのは、
ニュースアプリの速報記事。
『アーク・アルカナ、
姉妹グループのメンバーオーディションを開催』
「…………」
カンネの目が、
みるみる見開かれていく。
タップ。
記事を開く。
すると、
関連ニュースがずらりと並んでいた。
『次世代メンバー発掘企画』
『アーク・アルカナ、新展開』
『大陸魔法協会が新人育成へ本格始動』
『姉妹グループ、オーディション応募殺到か』
コメント欄も、
既に異様な勢いで流れている。
『絶対応募する』
『人生変えるチャンスじゃん』
『倍率エグそう』
『受かったら人生勝ち組』
『ゼーリエ様に会いたい』
『男でもいけるかな』
『↑しね』
『↑↑失せろ』
「…………」
カンネの喉が、
ごくりと鳴る。
……なぜか、
スマホが震えている。
いや。
違う。
震えているのは、
自分の手だった。
「っ……」
胸が、
ドクドクうるさい。
頭の中が、
急に真っ白になる。
こういう時は——
『気が動転した時は、
まず呼吸を落ち着かせろ』
ふと、
親友の声が頭の中で蘇る。
『カンネ——
お前はいつも落ち着きが無さすぎんだよ』
大きく息を吸う。
すぅぅぅぅ……。
ゆっくり吐く。
はぁぁぁぁ……。
もう一度。
吸って——
吐く。
吸って——
吐く。
「…………」
数回繰り返して、
ようやく手の震えが少し収まった。
カンネは、
再びスマホ画面へ食いつく。
今度は、
さっきよりも真剣に。
舐め回すみたいに、
細かい部分まで読み始める。
応募条件。
開催場所。
選考内容。
年齢制限。
……あと。
「応募方法は、えーっと……」
途中から、
よく分からなくなる。
でも。
「……まあ、
なんとかなるでしょ!」
勢いで突破できる気がした。
根拠はない。
だが、
カンネはそういう生き物だった。
そのまま、
開催日程の欄へ視線を移す。
そして——
「……え?」
数秒、固まる。
「一ヶ月後!?」
思わず、
ベッドの上で飛び跳ねた。
「こんなの、
もうすぐじゃん!!」
「悠長にしてらんない!!」
頭の中で、
勝手に“オーディション当日”のイメージが膨らみ始める。
ステージ。
照明。
観客。
歌。
ダンス。
「まずは体力つけないと!!」
完全に、
やる気になっていた。
カンネが、
慌ただしく立ち上がる。
そのまま、
部屋のタンスへ突撃した。
ガラッ!!
引き出しを開ける。
「えーっと……動きやすい服は……」
服を掘り返す。
これじゃない。
これも違う。
うわ、なんでこんなのここに入ってんの!?
ずっと探してたんだけど!!
ぐちゃぐちゃになりながら、
タンスの中を漁っていく。
そして——
「あっ!!」
見つけた。
以前、
学校の体育で使っていたジャージ。
「これだ!!」
勢いよく引っ張り出す。
だが。
他の服が絡まっていた。
ズルルルッ!!
巻き込まれるように、
大量の衣服が雪崩れてくる。
「うわっ!?」
だが、
カンネは気にしない。
「細かいことは後!!」
ジャージを抱え、
その場で素早く着替え始める。
数十秒後。
「よし!!」
準備完了。
拳を握る。
「走ろう!!」
その瞬間。
階下から、
母親の怒鳴り声が飛んできた。
「カンネーッ!!」
「さっきからバタバタうるさいわよ!!」
だが——
今のカンネには、
一切届いていなかった。
ダダダダダダッ!!
勢いそのままに、
階段を駆け下りる。
玄関を開ける。
バンッ!!
そして——
住宅街へ飛び出した。
夕暮れの風が、
顔へぶつかる。
「よぉぉし!!」
テンションは最高潮。
……その時。
カンネが、
ぴたりと止まる。
「……あ」
忘れてた。
大事なことを。
そして、
次の瞬間にはもう笑っていた。
「ラヴィーネにも、
明日教えてあげなきゃ!!」
「きっと、喜んでくれるはず!!」
その明るい声が、
夕暮れの住宅街へ響き渡る。
——なお。
その“善意”によって、
ラヴィーネの人生が大きく狂い始めることを。
カンネは、
まだ知らない。
◇
その頃。
「……くしゅん!!」
浴室。
湯気の立ち込める中で、
ラヴィーネが突然くしゃみをした。
「…………」
鼻を押さえながら、
怪訝そうに眉を寄せる。
身体は温まっている。
湯船にも、
しっかり浸かっている。
風邪ではない。
なのに。
妙な寒気が、
背筋を走った。
(なんか……)
ラヴィーネが、
ゆっくり視線を落とす。
(嫌な予感がする……)
理由は分からない。
だが、
本能が警鐘を鳴らしていた。
ラヴィーネは、
反射的に立ち上がる。
ざばぁっ——
大量の湯が、
浴槽の外へ波打った。
静かな浴室に、
水音だけが響く。
「…………」
数秒。
ラヴィーネは、
じっと考え込む。
だが——
(……まあ、気のせいか)
結論は、
いつも通り雑だった。
深く考えるのも面倒だ。
ラヴィーネは、
何事もなかったかのように。
再び——
ゆっくりと浴槽へ身体を沈める。
……また、その頃。
カンネは、
満面の笑みで走り込みをしていた。
ラヴィーネと一緒に、
アイドルとしてステージに立つ未来を——思い浮かべながら。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ジュウヨンです。
またしても更新が空いてしまいましたが、ようやく投稿できました。
今回、アーク・アルカナの姉妹グループの発足が決定しました。
それにより、今までずっと出したかったラヴィーネとカンネをようやく出すことができました。
ラヴィーネが特に大好きで、見た目だけで言えば葬送のフリーレンで一番好きかもしれないです。
いや——ソリテールも捨て難いですね。
その二人のキャラデザが原作ではだいぶ好みです。
今後は、色々な原作キャラを出していくので、
今後ともよろしくお願いします。
ここまでで、本作で好きなキャラを教えてください。
-
ゼーリエ
-
ゼンゼ
-
フリーレン
-
フェルン
-
ユーベル
-
メトーデ