小箱ライブまで。
あと二週間。
協会の会議室に、五人が集まる。
机の上には、羊皮紙と簡易な試作品。
ゼンゼが咳払いをする。
「今回のライブに向けて、グッズを制作します」
「……ふむ」
ゼーリエは腕を組む。
ゼンゼが続ける。
「実験的な意味合いが強いため、少量ロット生産にしています」
「最低限の数です。売れ残りは許されません」
フェルンが即座に頷く。
「在庫は悪です」
「……え、そんなに?」
フリーレンが小さく首を傾げる。
「はい。悪です」
フェルンが断言する。
「こっわ……」
フリーレンが怯える。
◇
案①:魔法ペンライト
「まずは王道です」
ゼンゼが取り出す。
魔力を込めると、各メンバーの色に光る簡易魔導石。
「色はどうしましょうか」
フェルンが問う。
ゼーリエは即答。
「私は、黄だ」
「理由は?」
「“大魔法使い”だからだ」
沈黙。
ユーベルが笑う。
「じゃあ私は紫かな〜なんか怪しくて好きなんだー」
「やっぱり、ユーベル様は“怪しい感じ”を
目指されているんですね」
フェルンが冷静に言う。
「……フェルン、なんか言った?」
ユーベルが不自然に微笑んでいる。
フェルンは気にせず、進める。
「フリーレン様はどうされますか?」
フリーレンは少し考え。
「……私は白かなぁ」
「落ち着きすぎでは?」
「いいじゃん、眠くなる感じでさ」
ゼンゼは小声で。
「私は……緑で」
「……無難だな」
ゼーリエが控えめに返す。
「……私は、無難がいいんです」
ゼンゼの表情が少し暗くなる。
そして、フェルン
「では、私は青にします」
少し間を空けて、
「……本当は紫が良かったんですが、
ユーベル様にとられたので仕方ありません」
「いやーごめんね〜」
ユーベルが一瞬、申し訳なさそうな素ぶりをするが、
すぐにいつもの表情に戻る。
最終的に、五色展開。
生産数——各色20本。
合計100本。
売れ残ったら地獄。
◇
案②:ブロマイド
「印刷費が安いです」
ゼンゼが説明する。
「そして、ランダム封入にすれば……」
「うむ、商売の匂いがするな」
ゼーリエが満足げ。
フリーレンがポツリと言う。
「うん、“センター”もいるしね」
全員の視線がユーベルへ。
「え?」
「お前が一番“映える”」
ユーベルはくるりと回る。
「うん、任せてよー」
その瞬間の笑顔。
確かに、強い。
フェルンが真面目に言う。
「ゼーリエ様の威厳あるカットも必要です」
「ふん、当然だ」
即答。
フリーレンがぽつり。
「私は少なめでいいかなぁ」
「……だめだ。均等だ」
ゼンゼ、珍しく強い。
◇
案③:手作り感グッズ
「予算がないなら……手間をかける」
ゼーリエの提案。
「直筆メッセージカードだ」
「……本気ですか?」
ゼンゼが青ざめる。
「ですが、枚数は?」
「各30枚だ」
ゼンゼの表情が暗くなる。
少し間が空く。
「……各30枚ですか」
「うむ、少量ロットだ」
ユーベルが笑う。
「手書きとか、応援したくなるよね」
その一言で、空気が変わる。
ゼーリエが小さく頷く。
「……そうだ」
「“一生懸命感”だ」
技術ではない。
完璧さでもない。
“近さ”。
“応援したくなる距離”。
フェルンが真面目に言う。
「なら、サイン会も短時間ですが設けましょう」
ゼンゼが震える。
「対面か……」
「逃げるな」
ゼーリエが一刀両断。
◇
案④:ロゴステッカー
「ロゴはどうしますか?」
ゼンゼが羊皮紙を広げる。
ゼーリエが魔法で空中に描く。
五つの魔法陣が重なり合う紋章。
中央に——小さな星。
ユーベルが覗き込む。
「この星、私?」
ニヤリと笑みを浮かべる。
「……調子に乗るな」
だが、否定はしない。
フリーレンが静かに言う。
「このロゴ、すごくかっこいいね」
ゼーリエは一瞬だけ目を細める。
(これは売れるな……)
⸻
会議終盤。
机の上には決定事項。
・魔法ペンライト(各色20本)
・ランダムブロマイド(少量)
・直筆メッセージカード50枚
・アーク・アルカナのロゴステッカー
ゼンゼがまとめる。
「……本当に売れるでしょうか」
静かな不安。
ゼーリエは立ち上がる。
「売れなければ、次を考えるだけだ」
ゼンゼの腰が引ける。
「……簡単に言いますね」
ゼーリエが首を横に振る。
「……簡単ではない」
一拍置いて。
「だが、止まらん」
ユーベルが笑う。
「売れ残ったらさ、私が全部買うよ」
「……金はどこから出す」
ゼーリエの目が細くなる。
ユーベルがニヤける。
「もちろん、気持ちで」
「気持ちは通貨にならん……」
ゼーリエが即答。
笑いが起きる。
緊張が、徐々にほどけていく。
ゼーリエは全員を見る。
「……これは実験だ」
「路上で積み上げたものが……本物かどうかのな」
小さな箱。
小さなロット。
だが。
成功すれば――
“次”がある。
ゼンゼは深呼吸する。
初回の悪夢がよぎる。
だが今は、隣に四人いる。
「……やりましょう」
ゼーリエが頷く。
「うむ、当然だ」
ゼンゼは机の上の試作品を見る。
魔法ペンライト。
ブロマイド。
メッセージカード。
ロゴステッカー。
——全部売れなかったらどうしよう。
その考えを、必死に振り払った。
初ライブ。
勝負は、もう始まっている。
「……よし、少し休憩だ」
ゼーリエが椅子に腰を落とし、
ぼんやりと天井を見つめる。
⸻
小箱のキャパシティ——二百。
数字だけ見れば、小さい。
だが。
路上から積み上げてきた彼女たちにとっては、
巨大な壁だった。
そして、作戦会議再開が再開する。
「チケットはどうしますか?」
ゼンゼが羊皮紙を抱えながら問う。
「路上のあと、手売りだ」
ゼーリエは即答。
「顔を見て、直接売る」
フェルンが静かに頷く。
「来てほしいと、直接伝えるのですね」
「うむ、そうだ」
フリーレンがぽつり。
「それ、断られたら傷つくね……」
「……傷つく」
ゼンゼが青くなる。
ユーベルは笑う。
「でもさ、目の前で“行く”って言われたら嬉しいよね」
その言葉で、方針は固まる。
「うむ、その通りだ」
ゼーリエの表情が少し柔らかくなり、
窓から王都を見下ろす。
⸻
路上ライブ後 。
——初の手売り
夕暮れ。
演奏が終わる。
拍手。
まだ三十人ほど。
ゼーリエが一歩前に出る。
「今日は、告知がある」
少し緊張が走る。
「来月、小箱で正式なライブを行う」
ざわり。
「キャパは二百」
観客の中に、驚きの声。
「当日は物販もある」
「ペンライト、ブロマイド、直筆カード、ロゴシールだ」
ユーベルが横から手を振る。
「サインもするよー」
フェルンが丁寧にお辞儀をする。
「ぜひ、きてください」
フリーレンが柔らかく言う。
「待ってるよ〜」
ゼンゼの顔が赤い。
そして——
「今から……チケットを手売りする」
一瞬の静寂。
逃げ道はない。
ゼンゼの手が震える。
◇
「……一枚、ください」
声を上げたのは、常連の青年。
ゼンゼの目が見開く。
「……本当ですか?」
「本当です」
一枚目。
——売れた。
ユーベルが小さくガッツポーズ。
「やったね」
そこから、ぽつりぽつりと手が挙がる。
「……二枚ください。友達と行きます」
「僕は三枚ください」
「迷ってたけど……行きます」
ゼーリエは冷静を装っているが、胸の奥がわずかに熱い。
(……ゼロではない)
その日——
売れたのは、38枚。
——
協会の廊下。
「……たった38か」
「200には遠いな」
批判は止まらない。
ゼンゼは、
歯を食いしばる。
(私たちの苦労も知らないで……)
だが、ゼーリエは言う。
「初動としては上出来だ」
「……本気で言ってますか?」
ゼンゼの怯えを感じ取ったのか、
ゼーリエが自信満々に言う。
「当然だ。この波は広がっていく」
数字は、伸びている。
⸻
二週目。
路上ライブ。
ユーベルが観客に言う。
「この前チケット買ってくれた人ー」
数人が手を挙げる。
「ありがとー当日も頑張るから期待しててよ!」
ユーベルが明るく答える。
常連の青年が照れ臭そうに頭を掻いた。
その光景を見た新規客が、ざわつく。
“行く人がいる”という事実。
それは空気を変える。
終演後。
チケットはさらに42枚売れた。
累計80。
⸻
三週目。
とうとう、
口コミが広がる。
「路上の子たち、箱でやるらしいよ」
常連が友人を連れてくる。
フェルンの成長。
フリーレンの歌。
ゼンゼの安定感。
そして何より——
ユーベル。
汗だくで、必死で、楽しそうで。
妖しい目で、まっすぐ見る。
終演後。
累計——132枚。
◇
夜。
執務室。
「……残り68枚です」
ゼンゼの声は震えていない。
「うむ、いけるな」
ゼーリエが確信する。
ユーベルは笑う。
「絶対いけるでしょ」
フリーレンが小さく言う。
「埋まらなくても、来た人は本物だね」
ゼーリエは静かに断言する。
「いや……埋める」
一拍。
「路上で証明しただろう」
あの、ゼロから始まった日。
立ち止まらなかった街。
今は違う。
「来週の路上で……決め切るぞ」
⸻
前日
チケット残り——12枚。
王都の広場は、以前より人が多い。
演奏が終わる。
ゼーリエが息を整える。
「残り、12枚だ」
ユーベルが叫ぶ。
「一緒に満員にしよーよ!」
沈黙。
そして。
一人、手が挙がる。
また一人。
そして。
——最後の1枚。
子供の父親が、手を上げた。
「家族も連れて行きます」
完売。
二百。
⸻
ライブ当日。
小さな箱。
外に、列。
ゼンゼが震える。
「本当に……二百人……?」
ゼーリエが静かに言う。
「さあ……どうなるか」
だが目は、確信に満ちている。
路上から始まった火。
200人の前で、炎になるか。
扉が、開く。
ここから、
——本当の勝負が始まる。