ゼーリエ、アイドルになる。   作:ジュウヨン

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【第一部】2章:“配信”スタート
ゼンゼ、ファンに戸惑う


 

大陸魔法協会・円卓会議。

 

重い沈黙の中、財務担当が口を開く。

 

「兆しはあります。しかし、まだ確実とは言えません」

 

別の幹部が続ける。

 

「もっと商業化を進めるべきです。定期ライブ、グッズ拡充、外部スポンサー……収支を安定させねば」

 

以前なら、もっと棘のある言い方だった。

 

だが今は違う。

 

「……先日のライブは、正直驚きました」

 

「娘が行きたいと言いましてな」

 

小さな笑いが起きる。

 

協会内にも、わずかだがファンが生まれている。

 

ゼンゼはそれを聞き、ほんの少し胸が軽くなる。

 

全員の視線が、ゼーリエへ向く。

 

「ゼーリエ様、今後についてどうしましょうか」

 

ゼーリエは腕を組み、目を閉じる。

 

「うむ……」

 

ライブで知名度を上げ、物販で稼ぐ。

 

悪くはない。

 

だが――

 

「それだけでは足らん」

 

協会を立て直すには、まだ弱い。

 

「メンバーの意見を聞く」

 

そう言うや否や、転移魔法陣が展開される。

 

「今からですか?」

 

「今からだ」

 

 

森の小道

 

転移の光が収まると――

 

そこにはフリーレン

 

そして、偶然にも――シュタルク。

 

「……ゼーリエ?」

 

「相談だ」

 

フリーレンがのんびり言う。

 

「ちょうどよかったね」

 

シュタルクは一瞬固まり、そして――

 

「え、えええ!? アーク・アルカナの!?」

 

目が輝く。

 

「……ん?私のファンか?」

 

やれやれと言わんばかりに

面倒くさそうに頭をかくゼーリエ。

 

しかし、ゼンゼが遅れて転移してくると、

 

シュタルクは完全に挙動不審になる。

 

「ゼ、ゼンゼさん!? 本物!? うわ、え、ちょっと待って!」

 

背負っていた袋を慌てて開ける。

 

中から出てくるのは――

 

緑のペンライト。

 

ゼンゼのブロマイド。

 

直筆カード(大事そうに包まれている)。

 

「俺……ゼンゼさんの大ファンなんです!」

 

「…えっ?」

 

ゼンゼが真っ赤になる。

 

「……なんだ貴様、“ゼンゼ”のファンか」

 

少し不満げに呟くゼーリエ。

 

「歌、めちゃくちゃ良かったです! あの低音の安定感、最高で……!」

 

早口。

 

止まらない。

 

フリーレンがぽつり。

 

「ゼンゼ、刺さる人には刺さるんだね」

 

「……どういう意味だそれは」

 

シュタルクが勢いよく頭を下げる。

 

「握手、してもらってもいいですか!?」

 

ゼンゼ、完全にフリーズ。

 

ゼーリエが横目で見る。

 

「ほら」

 

「……はい」

 

おずおずと手を出す。

 

がっしり握られる。

 

「応援してます!! 次のライブも絶対行きます!!」

 

ゼンゼの顔は真っ赤だが、目は少し潤んでいる。

 

(ちゃんと……届いてる)

 

ゼーリエはその様子を見て、静かに思う。

 

(数字に出ぬ価値もあるか)

 

フリーレンが言う。

 

「で、相談って?」

 

ゼーリエは視線を戻す。

 

「今後の展開だ。ライブと物販以外で、何ができる」

 

シュタルクが即答する。

 

「配信とかどうですか!?」

 

全員が見る。

 

「配信?」

 

「路上の感じ、好きなんですけど……裏側とか、レッスン風景とか見れたら絶対楽しいです!」

 

熱弁。

 

「あとゼンゼさんの単体のダンス動画とか……!」

 

「やめてくれ」

 

即答。

 

だがゼーリエは、顎に手を当てる。

 

(露出を増やすか……)

 

ライブは“点”。

 

配信は“線”。

 

継続的な接触。

 

悪くない。

 

ユーベルの笑顔。

 

フェルンの安定感。

 

フリーレンの歌唱力。

 

ゼンゼの努力。

 

見せられるものは、ある。

 

ゼーリエは小さく笑う。

 

「ふむ、面白い」

 

シュタルクが目を輝かせる。

 

「ほんとですか!?」

 

「……まだ採用するとは言っていない」

 

だが。

 

火は、またひとつ灯った。

 

ゼンゼは握手の余韻を感じながら思う。

 

(もっと、頑張ろう)

 

大陸魔法協会の未来は、

 

まだ模索の途中。

 

だが確実に――

 

広がり始めていた。

 

 

玉座の間

 

黙り込み、考え事をするゼーリエ。

 

「配信か……悪くないな」

 

静かに呟き、立ち上がる。

 

「では、他のメンバーにも意見を聞くか」

 

次の瞬間、転移魔法陣が足元に展開された。

 

魔力の光が静かに広がり、ゼーリエの姿を飲み込む。

 

 

転移先は森の奥。

 

木陰で刃物を研いでいたユーベルが、音もなく顔を上げる。

 

「リーダーじゃん、どうしたの」

 

「配信という案が出た。どう思う」

 

ユーベルは少し考え、にやりと笑う。

 

「配信は“距離感”が大事だよ。近すぎてもダメ、遠すぎてもダメ。

でもさ、ゼーリエがちょっと素を見せたら……絶対バズるよ」

 

「……“素”だと?」

 

ゼーリエが眉をしかめる。

 

「威厳はライブで出せばいいんだよ。配信では“人間味”。

例えば……寝起き雑談とか?」

 

「却下だ」

 

即答だった。

 

だがユーベルはくすくす笑う。

 

「でも、“本音を少しだけ漏らすゼーリエ”は強いよ」

 

ゼーリエは無言で転移魔法を再展開した。

 

 

次に現れたのは静かな書庫。

フェルンは魔法理論の書物を読んでいた。

 

「フェルン」

 

「ゼーリエ様」

 

驚く様子もなく、

 

きちんと立ち上がり一礼する。

 

「配信についてどう思う」

 

フェルンは少し考え、冷静に答えた。

 

「安定収益化なら、定期更新と明確なテーマ設定が重要です。

魔法講座、実演、解説。知識系は長期的に強いです」

 

「ふむ」

 

「あと、切り抜き前提の構成を意識すべきです。

一配信に“名言”を一つは作る」

 

ゼーリエはわずかに目を細める。

 

「名言を“作る”とはな」

 

「偶発ではなく設計です」

 

理詰めである。

 

「……お前は商売人に向いているな」

 

「いえ、合理的なだけです」

 

_________

 

最後に戻った先はフリーレンの家。

相変わらずシュタルクがゼンゼに熱視線を送っている。

 

「ゼーリエ様! 俺、切り抜き職人やります!」

 

ゼーリエが怪訝そうな表情でシュタルクに目を向ける。

 

「……貴様は何が目的だ」

 

「ゼンゼ様の名場面を世界に!」

 

ゼンゼは顔を真っ赤にしている。

 

「わ、私は別にそんな……」

 

フリーレンがぼそっと言う。

 

「配信で料理するのとかどう?

ゼンゼが髪の毛で野菜切りまくってさ」

 

「……自分で言いたくないが、衛生的にダメだろうそれは」

 

冷たい目でフリーレンを見つめるゼンゼ。

 

「料理配信!?」とシュタルク。

 

ゼンゼは困惑しながらも少し嬉しそうだ。

 

フリーレンが続けて耳打ちする。

 

「ほら、シュタルクも喜んでるし」

 

「髪でいこうよ」

 

完全に茶化している。

 

「……しつこいな、お前」

 

ゼンゼが呆れて、

目を少し細めた。

 

 

再び、

協会本部

 

ゼーリエは静かに言った。

 

「よかろう。配信を始める」

 

重役たちがざわめく。

 

「だが——」

 

彼女の金の瞳が細くなる。

 

「“商売のための配信”ではない。

我らのアイドルとしての価値を示す場とする」

 

「知識系、企画系、雑談。すべて試す」

 

「そしてミニライブも行う」

 

「……だが安売りはせん」

 

静寂。

 

「最初の配信はーー全員集合だ」

 

遠くでシュタルクの歓声が響いた気がした。

 

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