トリステイン魔法魔術学校に突如襲来してきた謎の紅い竜。そいつは瞬く間に男子学生二人とミスタ・ギトーを抹殺した。男子学生二人はともかくトライアングルメイジであるミスタ・ギトーまで倒されるとは思っていなかった。
さて、サイトと水精霊騎士隊はその竜と対峙している。先程の虐殺を見せられて勝てるなど到底思ってないが、ここで背を向けても殺されるのは火を見るよりも明らかなので仕方なく竜と対峙しているのだ。
「 いいか...絶対、死ぬなよ。時間稼ぎをすれば助けが来るはずだ」
前までの水精霊騎士隊なら貴族の誇りやらで名誉ある死を望んでいたが、彼らは戦争を経験している。そのお陰か生き延びるのを彼等は第一としている。無茶はしないだろう。
「グオオオオオ!!」
竜が突進してきた。それを横に走って回避する水精霊騎士隊。地響きをあげながら横を駆け抜けていく紅き巨体に冷や汗を流しつつも全員無事だ。竜は前方を噛み付くような動作をした後、止まりこちらに向く。
「エア・ハンマー!!」
呪文を唱えたのはマリコルヌ。空気の塊が竜にぶち当たるが、微動だにしない。これは大体予想できたから驚きはしないが。
竜が前方に噛み付くような動作をした後、翼を使い宙に浮く。狙いはマリコルヌ。口から火球を発射した。
「うわぁ!!」
マリコルヌはぽっちゃりな体を限界まで使い、地面に体を放り投げて回避するが、ローブの端が少し焦げた。
「いけ!!ワルキューレ!!」
今度はギーシュがバラをあしらった杖を振り、四対のゴーレムが作り出して、ホバリングしている竜に飛びかかる
が、竜はそのまま天高く舞い上がり、ワルキューレの攻撃は空を切った。
「グオオ!!グオオ!!グオオォォォォォオオオオオオオオ!!」
上空から3発の火球を発射し、ワルキューレを全て破壊した。竜は羽ばたきながら舞い降り、着地した。
「うおおおおおおおおお!!」
サイトは竜が着地するのを見計らい一気に近付く
「相棒!!俺でガードしろ!!」
デルフリンガーがそう叫び反射的に盾のように構えるサイト。そして、それがサイトの明暗を分ける。
竜が体を半回転し、尻尾を振った。それはデルフリンガーにぶち当たり、サイトごと吹き飛ばす。サイトは受け身をとったおかげで怪我はないが手が痺れた。あんな棘だらけの尻尾の攻撃をまともに受けたらタダでは済まないだろう。サイトは本日何度目か分からない顔を蒼くする。
そこからは戦闘という名の蹂躙であった。堅い鱗は魔法や剣を弾き、圧倒的な飛行能力は的確に水精霊騎士隊を追い詰めた。
そんな中サイトは疑問に思った
「(なんで....)」
レイナールも思った
「(なんで...)」
そしてそれは水精霊騎士隊全員の悲鳴に近い疑問になる
「「「「「(なんで誰も助けに来ないんだよ!!?)」」」」」
あれからもう5分は経っている。学院前で戦ってるのだから生徒はともかく教師の加勢が来てもおかしくないはずだ。なのに来ない。サイト達の脳内に嫌な予感が湧き上がる。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォ!!」
咆哮をあげる竜を見て嫌な予感がした。そう思ったのはきっとサイトだけではないだろう
その頃、学院内では
「ギーシュ....」
学院の窓からモンモランシーが奮戦している水精霊騎士隊、特にギーシュを心配そうに見ている。今の水精霊騎士隊は薄氷の上を歩いていると例えれるほどの生死の瀬戸際であった。死者が出ていないことが奇跡だと言えるほどだ。だが、その薄氷はもうすぐ割れそうだ。みんな激戦で疲れてきたのか目に見えて動きが鈍ってきている。やられるのは時間の問題だろう
「くっ、一体どうすれば....」
モンモランシーは思案する。自分の得意系統は水。それも、回復系が得意なため、戦闘はあまり得意ではない。あんな所に飛び込んだって何の役にも立たず、下手したら足手まといになるだろう。だけど、このまま行動しないのはというもどかしさが心を苦しめる。そもそもの事の始まりは5分前、学院の中に急いで逃げ込んだ後のことだった
5分前
「はあ、はあ、はあ...」
モンモランシーはギーシュのお陰で危機一髪とはいえ学院に逃げ込めた。ここは学校の中の大広間。ここに今、学院中の生徒や教師が集まっている。皆、不安そうな表情だ。
そして、モンモランシーはあのドラゴンの事を思い出す。あのドラゴンの力は..戦闘経験が少ない私でも分かる。圧倒的だ。戦闘経験が多い水精霊騎士隊もどうなるか分からない。だからこそ、トライアングルクラスの力を持っている教師達が手助けしてくれると、そう思った。
正確にはそう思い込んでいた。
「さて、あとはあの水精霊騎士隊が片付けてくれるな」
教師団の中の一人がそういった。耳を、疑った
「ちょ、ちょっと待ってください!!先生方は助けに行かないんですか!?」
声を荒げたのはケティ
「そう声を荒げるなミス」
そう対応したのは水使いの教師アギル。二つ名は『冷水』。30代半ばで心なしか意地汚なそうに見える顔立ちをもつトライアングルクラスのメイジだ。『水に勝る属性はない』と豪語していてミスタ・ギトーとはいつも仲が悪かった
「これが声を荒げずにいられますかいられますか!!まさか、水精霊騎士隊を見殺しになさるおつもりですか!?」
ケティが食い下がる
「まあまあ、ミス・ロッタ。我々も心苦しいが苦渋の決断なのだ。それに彼らは騎士隊。我らを守るのが仕事だろ?そして私達教師は君達を守らなければならない。そうだろ?ん?」
苦渋の決断と言う割には何処か涼しそうな顔で言うミスタ・アギル。さてはこれでサイトが死ぬのを望んでいるのか。この学院にはサイトの事を認めている人もいる。だけど逆に認めない人も多い、というよりこちらの方が多いだろう。ミスタ・アギルもその一人であった
「(こんな時にオールド・オスマンがいれば...)」
モンモランシーが心の中で歯噛みする。残念なことにオスマンは今、王宮に呼ばれている。信頼出来る教師であるコルベールもその付き添いだ。学院の最高戦力であるタバサ、キュルケも首都トリスタニアに、ティファニアも孤児院に行っている。まさに最悪なタイミングであのドラゴンは襲撃してきた
「私達のことは大丈夫です。行ってあげてください。あのドラゴンが入ってこれないような所にいますから」
モンモランシーはそう言う
「いや...しかし....」
それに対し歯切れを悪く言うミスタ・アギル。
「まさか...あのドラゴンに立ち向かうのが怖いのですか?」
モンモランシーが少し皮肉を混ぜて言う。
「!?..し、失礼であるぞ!!教師にそのような口を!!」
ミスタ・アギルが何故か慌てる。なんだ、図星か。
「そうですか。では、先生方はこちらで待ってて下さい。私が行ってまいります」
「なっ......」
ミスタ・アギルが何か言おうとするが
「先生方はここでティーでもお楽しみになっておいてください!!」
モンモランシーは鋭くそう言い、踵を返して歩く。教師達は呆然としていた。ただ一人を除いて
「お待ちなさい。ミス・モンモランシ」
声をあげたのは『赤土』のシュヴルーズ。土のトライアングルメイジで教師だ
「何でしょうか?」
「私も行きましょう」
面を食らったような顔になったモンモランシー
「で、ですが...」
「先程もミスタ・アギルが言ってたでしょう?教師の役目はあなた達に知識を与えること。そして、あなた達生徒を守ることです」
ミス・シュヴルーズはにっこりとそう言う
「分かりました。では、行きましょう」
「ええ」
そんなやりとりがあり、激闘を見守りながら作戦を考えていたら5分が経っていた。
「本当にどうすれば...」
モンモランシーは焦る。
「ミス・モンモランシ、焦ってはダメですよ。焦りは視野が狭めて真実もチャンスも見えません」
「そう言われましても...」
ミス・シュヴルーズの方を振り向こうとした時モンモランシーの視界の端に茶色い影が映った。
「あれは...ヴェルダンテ?」
ギーシュの使い魔であるヴェルダンテが心配そうに戦いを見ていた。場所は土の塔付近。
その時、モンモランシーの頭の中である閃きがでて、自然と笑みがでる
「何か思いついたようですね」
「ええ」
さあ、反撃の時だ
自分の文才のなさに泣ける。もっと頑張らないと。