YMT(ヤオモモの弟マジ天使) 作:HIGHレボリューション
雄英高校ヒーロー科、1年A組の寮「ハイツアライアンス」。
休日ののどかな午後、共有リビングには普段からは想像もつかないほど、ふにゃふにゃに蕩けた声が響き渡っていた。
「ああっ……千(せん)っ! 今日もなんて愛らしいの! お姉様、千のためならマトリョーシカでも何でも創り出してあげますわ!」
ソファの中央に座る八百万百は、膝の上にちょこんと座る小さな男の子を抱きしめ、頬ずりを繰り返していた。男の子はふんわりとした黒髪に、くりくりとした大きな瞳。どう見ても幼稚園の年中さん、5歳児にしか見えない。
「ももねえさま、くるしいよぉ……」
「ごめんなさいね! でも千が可愛すぎるのがいけないのですわ!」
その異常なまでの溺愛っぷり――完全なる『ブラコン』と化した八百万の姿に、お茶を飲んでいた麗日お茶子や芦戸三奈、耳郎響香たちは目を丸くしていた。
「や、八百万さん……その可愛い子、親戚の子?」
麗日が恐る恐る尋ねると、八百万は誇らしげに胸を張った。
「いいえ、麗日さん。彼は私の『双子』の弟、八百万千ですわ!」
「「「ふたごォ!?」」」
リビングにいた全員の声がハモった。上鳴や切島も驚いて身を乗り出す。
「いやいや八百万! どう見ても5歳児じゃん! 俺らと同い年ってこと!?」
「ええ、そうですわ」
信じられないという顔をするクラスメイトたちに、八百万は千のさらさらな髪を撫でながら説明を始めた。
「実は、八百万家の男子には代々特異な体質がありまして。幼少期で一度、見た目も精神も成長が完全にストップしてしまうのです。千も現在、5歳の状態から時が止まっていますの」
「えええ! じゃあずっとこのままなの!?」
「ふふ、それが違うのです。20歳の誕生日を迎えた途端、これまでの遅れを取り戻すように急激に成長し……それはもう、息を呑むほど容姿端麗な大人の男性になるのですわ! 父もそうでしたのよ」
八百万はうっとりと両手を組んだ。
「今はこんなに天使のように愛らしく、20歳になれば誰もが振り返るほどカッコよくなる……ああっ、私、千が愛おしすぎてどうにかなってしまいそうですわ!」
「ヤオモモが限界オタクみたいになってる……」
耳郎が呆れつつも、千のあまりの可愛さに頬を緩ませた。
「あのね、せんの個性はね、『うごかす』なの!」
千が舌足らずな声で言いながら、テーブルの上に置いてあったボールペンに小さな指で触れた。
すると、ぽわんと温かい光が灯り、無機物であるはずのボールペンがまるで芋虫のようにウネウネと動き始めたのだ。
「おお! すげえ!」
「千の個性は『生命付与(アニメイト)』ですわ。触れた無機物を、彼が思い描いた通りに動かすことができますの。今はまだ精神が5歳ですので、おもちゃのように動かすことしかできませんが……その無邪気な使い方がまた堪りませんわ!」
八百万は自分の個性「創造」で次々と小さな動物のフィギュアを創り出し、千に渡していく。千が触れるたびに、小さなライオンやウサギのフィギュアがテーブルの上をトコトコと歩き出した。
「ももねえさま、すごい! どうぶつさん、いっぱい!」
「ええ、ええ! 千が望むならお城でも何でも創って見せますわ!」
「ヤオモモ、そろそろ落ち着きなよ。脂汗かいてるって」
耳郎がツッコミを入れるが、八百万の耳には届いていないようだった。
「ねえねえ千くん! お姉ちゃんの手も動かせるー?」
芦戸が楽しそうに千に近づくと、千はにぱっと天使のような笑顔を向けた。
「おねえちゃん、ピンクでかわいい! せん、ピンクすき!」
「ぐふっ……!」
芦戸が胸を押さえて倒れ込んだ。そのあまりの破壊力に、A組の女子たちは次々と陥落していく。
「ああっ、ダメですわ芦戸さん! 千の初めての彼女は私だと決まっていますのよ!」
「八百万さん、姉弟だから! 落ち着いて!」
大慌てで麗日が制止に入る中、千は不思議そうに小首を傾げた。
「ももねえさま、なんでおこってるの? せん、ももねえさまがいちばんしゅきだよ?」
その一言で、八百万はついに限界を迎えた。
「〜〜〜〜〜〜っっ!! 千!!」
そのまま千をぎゅっと抱きしめ、幸せのあまり床に崩れ落ちる八百万。
「……20歳になって超絶イケメンになったら、八百万、心臓もたないんじゃないか?」
「だな……」
切島と上鳴が遠い目をしながら呟く。