TS転生悪の組織の研究者VSど変態(魔法)少女   作:こばみご

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救済の徒(サルバシオン)

 12月の某日、夜の事。今にも雨の降りそうな曇天の下、狐塚タマモは執務室で書類を処理していた。内容は最近の妖怪の話やら、年末の話やら、悪の組織の話やら。2225年も終わりが近い、端的に言えば忙しかった。そんな時期にサルバシオンが動き出すんだから、魔法庁もてんてこ舞いだ。狙ってやったんじゃないかと、タマモは薄らと思っていた。

 

 書類から目を離しても、思い浮かぶのは彼女らのこと。それがどうしても、タマモを悩ませる。細心の注意を払ったというのに、なかなか上手くいかないものだ。幾度もしくじった結果が、今の窮地といえる。そしてそれら全ては、アカネに起因していた。

 

 彼女は確かに、タマモの喉元へと刃を突き立てている。それを成したのは、彼女の執念。ここまでとは、正直思っていなかった。それがタマモの所感だ。魔法少女覚醒のために妖怪をけしかけていたことが彼女に露見した時、恨みの矛先が自分を向くことは分かっていた。見誤ったのは、その強さ。血のつながりを軽く見たのが、そもそもの始まり。

 

「面倒ね」

 

 そう、口から出る。自分を縛るものが疎ましい。そして何より、これを些事だと切り捨てられない自分の力不足が歯痒い。だからこそ、並ぶものなきまで上り詰める必要がある。そしてそのために、ここまでやって来たのだ。

 

 力の収束によって人妖の能力を上げ、争わせ、そして残った方を食らう。そうやって彼女は強くなった。今や並の妖怪程度では片手で十分なほどに。だが、それでも足りない。もっと、全てを一蹴するほどの強さを手に入れる必要がある。そうすれば──

 

「……?」

 

 そこまで考えた時、視界の端、窓が光った。淡い光が薄らと色づいている。気に留めたタマモは立ち上がって窓際に立つが、それらしいものは外には見つからない。この時期はイルミネーションに命を懸けている家が散見されるが、どうも色が違うようだ。雷なら気づくし、火事というわけでもない。ならば一体……

 

 いや、考えすぎか。思えば、神経質になりすぎている。光の一つにここまで過敏になっていては、風の音すら声に聞こえてしまうことだろう。もっとゆとりを持つべきだ。タマモはため息をついた。存外、疲れているのかもしれない。休むべきなのか。

 

 

 そう考えて、窓から視線を外そうとして。しかし、ふと思い至った。というよりも、見えたというのが正しい。

 

 いつの間にやら、入口の扉が開いている。そこから差し込む光を反射していたのだ。そして窓には、薄らと映るアカネが、剣を振り下ろそうとしているのが映っていた。

 

「ッ!」

 

 咄嗟に防御しようとするが、すでに遅く。凄まじい衝撃がタマモの身体を襲い、彼女は窓を割って外へと吹き飛ばされた。2、3回バウンドした後に、自らの手をコンクリートに突き刺してブレーキをかける。

 

 なるほど、隠密か。本当に面倒だ。辻井の家はなんとしてでも根絶やしにしておくべきだった。そう考えても遅い。顔を上げれば、既にアカネは目の前でタマモを見下ろしていた。

 

「忙しかったか」

「いいわよ、貴女なら」

 

 ぽつぽつと、雨が降り始める。それはすぐに勢いを増し、地面に斑点模様を描き始めた。

 

 しかしその中でも、2人の周りだけが濡れていない。1人は、雨粒が音と共に気化する故に。もう1人は、雨が彼女を避けるが故に。

 

 タマモがゆらりと立ち上がる。光る街中で、最期の戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

「これで良いのか……?」

「良いんです。それにしても、皆さん意外と覚えられているみたいですね」

「あんまり覚えててほしくないんだけどぉ……」

 

 俺はヒトミちゃんに連れられて、魔法庁の中を進んでいく。一応、手錠をかけられつつ。これで周りからは連行されているように映るだろう。それが狙いだ。

 まあ……途中、俺が魔法庁にいた頃からいる職員とすれ違ったり、なんなら高校の同級生とばったり出会ったりしたけど。すごく驚かれた。なんで新しく入ったやつまで知り合いなんだ、ちょっと世界が狭いのではないか。久々に会ったら片方が捕まってるって、気まずいだろ……

 

 ヒトミちゃんがいれば顔パスができる。だからこれは極めて有効な作戦……とはいえ、市中引き回しはやはり来るものがある。まあ、今更な気もするが。それよか屈辱的なことは既にされているし。……よし、今の俺は無敵だと考えよう。それが良い。

 

 さて、俺たちの目的地は訓練室。地下1階にあるそれは、当たり前というべきか、ほとんど魔法少女しか使わない。なので密談にはもってこいの場所だといえる。そして、そこでサツキは待っているらしい。ヒトミちゃんが話をつけてくれた。

 

「あの人も多分、昔を忘れられないのだと思います」

「あいつが?……もっとさっぱりしてるのかと」

 

 人気の少なくなった廊下を歩いていれば、ヒトミちゃんがそんなことを言った。彼女から視たサツキは、どうやらそうらしい。アイツは嫌なことがあろうと真正面から斬り伏せてしまいそうなもんだが……というか、実際に斬り伏せるところを見たことがあるからな。そんなサツキがいつまでも乗り越えられないものがあるだなんて、想像がしにくい。そんなの俺くらいなものだと、勝手に思っていたから。

 

 でもそうか。引きずってるんだな、アイツは。俺は最近まで、そんなことすらできなかったから、少し羨ましく感じてしまう。

 

「というか、それ勝手に視たんでしょ。あんまりのぞき見はいけないよ」

「すみません、もうやめられないんです。癖になってしまって」

「なんとまあ……知られたくないこともあるもんでしょ」

 

 重症だ……まあ、心は嘘をつけないし、そういったものを知りたいという気持ちは大いに理解できるけど。知らなくていいことまで知ってしまうというのは辛いものだろうし、自重して欲しいものだ。でも、そのおかげでことが上手く運んでる部分もあるからな……

 

「……では、知りたいことはどうでしょう」

「知りたいこと?」

 

「私が記憶を視れば、完全に思い出せるかもしれませんよ」

 

 こちらを見ながら、ヒトミちゃんがそう言った。驚いて、思わず足を止めてしまう。正直、良い提案だと思ってしまった。

 

 相棒の事で思い出せるのは、まだぼやけたものだけだ。金色の髪で、外面が良くて、でも内面は中々酷くて。俺といつも一緒にいた、きっと、絶対、大切だった人。思うほどに、ぽっかりと胸に穴が開いてしまったかのような、そんな感覚がする。ただでさえ寒い季節が、もっと冷たい気がするほどに。

 

 酷い顔で俺の頭に手を乗せたボスなら、鮮明に思い出せるのだが。記憶を消さなければ、きっと俺は壊れていた。だからボスの行動は正しいと思う。彼女を失ったのも、忘れてしまったのも、結局全て俺のせいだ。けれど……いや、だからこそ。

 

「いや、やめとく。自分の力で思い出したいからさ」

「……そうですか。分かりました」

 

 最期の言葉すら未だ思い出せない俺を見て、きっと彼女は怒っていると思う。それでも、他人の手を使って思い出すのも、違うと思った。せめて、自分の手で区切りをつける必要があると。

 

 ヒトミちゃんは一つ頷いて、そのまま何も言わなかった。それが有難かった。

 

 

「着いた。……まるで変わってないな」

「中は新しくなっていると思います。器具がしょっちゅう壊れますし」

 

 そして、俺たちは目的の場所に着く。入口の扉には、「訓練室」と書かれた貼り紙が書いてあった。俺のいた時と同じ紙に見える。若干薄汚くなっているが。そろそろ変えない?

 

「では、私はこれで。武運を祈っていますよ」

「うん。ヒトミちゃんも」

 

 案内はここまでだ。彼女はこの後、マリと合流して職員を避難させるという大事な仕事がある。戦闘の余波で建物がつぶれるとか、普通にありそうだし。

 

 そういえば、聞かない奴は殴ってでもいう事を聞かせるとか言っていたような。なんなら説明が面倒だから初手で気絶させて運ぼうとかいう話も……悪の組織らしくなってきたかもしれない。みんな血の気が多い。一応対話は試みて欲しいものだ。若干呆れながら、俺は訓練室の扉を開けた。

 

「……ん。やっと来ましたね、先輩」

「そんなに遅かった?」

「ええ、待ちくたびれました」

 

 中には確かに、斬谷サツキがいた。既に変身した状態で、刀に手を添えている。すぐに戦闘に入れる体勢。なんなら、殺気が飛んできている。お前も血の気が多いな。

 

「負けた方が言うことを聞く。それで良いだろ?」

「構いませんよ」

 

 まあでも、シンプルで良い。人はそれぞれの意見が違った時に、なにかしらの勝負で決める事がままある。今の俺たちには、それがただ、死合であるだけのこと。

 

「『変身』」

 

 5年ぶりに、その言葉を口にした。身体が光り、衣装が作られていく。巫女服をベースとした、それを動きやすくしたような服。ただ、色は白一色。汚れが目立つので、あまり好きでは無い。

 

 昔と同じ衣装なので、長くなった髪をどうにかしてはくれない。だから、懐からリボンを取り出して、軽く纏めておく。これで大分マシだろう。

 

「なんだか、懐かしいですね」

「確かにな。……随分と久しぶりだ」

 

 魔法少女とは、人のためにその力を使う者のことである。

 

 昔、俺の先輩からそう教えられた。その先輩も、さらに上の人から教わったらしい。面々と受け継がれている、心構えのようなものだ。サツキはそうあろうとしていた。そして俺は、とっくに諦めた。

 

 腰の刀を抜いて構える。俺たちはどちらともなく、一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

「キョウコちゃん!」

「……サキ」

 

 みんながそれぞれ戦いに行った所で、私はキョウコちゃんと対峙していた。雨の降る中で、魔法庁の周りをぶらついていた彼女は、不思議と小さく見える。傘もさしていない、そのままだと風邪をひいてしまいそう……ついでに私も。うう、冬の夜に、しかも雨中でこんな格好で出歩くのは寒い。変身するのはもう少し待った方が良かったのかも……

 

 私の声に振り向いたキョウコちゃんは、目を見開いて驚いていた。信じがたいものを見たような、そんな顔をしている。みんながそんな感じなので、私もそろそろ罪悪感が湧いてきたり……

 

「キョウコちゃん、私」

「……本当に、堕転してたんスね」

「堕……なに?なんですか?えっちな話?」

 

 そんなキョウコちゃんは、苦しそうな顔をしながら、急によく分からない単語を口にした。でも、最近どこかで聞いたことがあるような。

 

 あ、そういえば、ミコトさんがそんなようなことを言っていたような気がする。計測器を5度見くらいして、「……故障か?」なんて呟いていた。なんでも、私の魔力は正の方向に傾いているそうな。……それでいいのでは?

 

「ずっと、考えてたんス。もしサキが敵になったら、私は戦えるのかって」

「私は敵じゃありません!」

「……」

 

 口を結んで、彼女は静かに槍を構える。手が震えていた。言外に、信じられないと言われているみたいだ。今の私のことを受け入れたく無いのかも。それが少し、悲しかった。でも、ここでつまづいちゃダメだ。

 

「キョウコちゃん。私たちは魔法庁の襲撃に来ました。でもそれには理由があるんです」

「どうせ世界征服とか、そんなもんでしょう」

 

 くう、他の組織のせいでうちが風評被害を被っている。改めて考えてみると、なんて幼稚な目標なんだ。取り合えずって感じがしてもやっとする。もっとパッションを感じるような個性を出してほしい。それができないならお願いだから謹んでほしい。

 

「まあ、世の悪の組織はそうなんですけど……うちは違います!局長は実は妖怪で、魔法少女の皆を食べていたんですよ!私たちはそれを止めるために……」

「戯言だ。サキは騙されてるんスよ!正気に戻るっス!」

 

 うう、やっぱり、信じてはもらえない。確かににわかには信じられないだろうけれど……というか正気ですよ私は!やっぱり、未だに洗脳されていると思われている節がある。

 

「サキを傷つけたくないんス……だから、お願いっスよ……」

「キョウコちゃん……」

 

 悲痛な声だった。私のことを思ってくれている。それだけは確かだ。……私も、覚悟を決めないといけない。重い口を、頑張って開く。これからを思うなら、言わなければいけない。和解の第一歩だ。

 

「キョウコちゃん、ごめんなさい……実は……」

「……サキ?」

「実は私は変態なんです」

「は?」

 

 ポカンと口を開けて、キョウコちゃんは固まってしまった。い、言ってしまった、ついに。知られたら軽蔑されると思って、キョウコちゃんには隠していたのに……

 しばらく動作を停止したあと、今度はぷるぷると震えだしたキョウコちゃん。再起動しているのか、それとも脳が理解を拒んでいるのだろうか。まあ、仕方ない。そうなるだろうと思って、今まで隠してきたわけだし──

 

「ふざけるな!どこまで馬鹿にすれば気が済むんだ!」

「う、え」

「私の知ってるサキは、優しくて儚い女の子なんだよ!!」

「誰ェ〜〜~??」

 

 え、ど、え?何?今、なんて言ったのだろうか。聞き間違いでなければ、私が優しくて儚い人だって言っていたような。 ……やっぱり意味が分からない。どう考えても私に似合わない形容詞だ。私に対する認知の歪みが凄い!

 

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