TS転生悪の組織の研究者VSど変態(魔法)少女 作:こばみご
眞下キョウコと八雲サキ。2人の魔法少女は、ともすれば後ろのユキネやアヤメよりも厄介だろう。後者の2人は純粋な能力の強さによってその座にいるわけだが、前者──彼女らの強みは、魔法の強さだ。こういう場合には、そちらの方が面倒くさい。「必中」はある意味、
そして、八雲サキ。彼女はあらゆるものを複製することが出来る。魔法ですらだ。規格外以外の何物でもないだろう。だからこそ、誰よりも最初に仕留める。それがタマモのとった行動だった。転移でサキの背後に立ち、腕を振り下ろす。今まで何度もやった、初見殺しかつ基本戦法。
「やることが狡い」
しかし、それはキョウコによって防がれる。サキの記憶から、それをやってくることは予想していたのだ。彼女の持つ槍がタマモの腕とぶつかり合い、金切り音が鳴り響く。タマモは舌打ちをして飛び退いた。防がれたことも面倒、だが、一番苛立たしいのは──
「(やっぱり、戦闘には響くわよね)」
アカネに着けられた傷、それは決して浅くない。むしろ、まともな妖怪なら既に死んでいる深手だ。それでも動けるのが狐塚タマモという化物だったが、流石に万全とは言えない。アカネとの戦闘時、その6割ほどの動きが、今の彼女が出せる力であった。
「お返しっス」
離れたタマモに、すかさずキョウコが槍を放つ。先程よりも近距離ゆえに、ほんの一瞬で目先に近づいたそれを、しかし手で軽く払いのける。地面に突き刺さり動かなくなるそれを一瞥もせずに、サキの方に向き直る。が、既にそこに彼女の姿はない。
「『ゲイボルグ』!」
声の方向は、上空からだった。上を取ったサキが、キョウコと同じように槍を投げる。それは魔法によって吸い込まれるようにタマモに飛んでいくが、彼女はその軌道が分かっているかのように──実際わかっているのだろう──半歩下がり、そして掴んだ。
「遅いわ」
「ひゃあ!」
複製はあくまで複製であり、コピー元には及ばない。現に今のサキのゲイボルグは、キョウコのそれを知っている者からすれば大した速さではなかった。彼女の魔法は、技量や出力がものをいう攻撃系魔法の複製には向いていない。使い方を間違えていると、タマモは分析する。
彼女によって返却された槍、それはサキの腹を貫くかのように見えたが、しかしそれを結界が阻む。それくらいの強度はあるようだ。
なら、自らの手で仕留める。サキの間近に転移したタマモは、既に左手に魔力を収束させていた。あとは放つだけ。それで彼女は死ぬ。
「ゲイボルグ」
だがそれは、キョウコがいなければの話だ。標的は自分、向かってくる槍を掴み、そしてタマモの腕に叩きつける。それにより間一髪で魔力弾の軌道が逸れ、彼女にあたることは無かった。そのまま、3人で落ちていく。
「サキ!」
「はいっ!」
キョウコの一言で、サキが魔法を行使する。複製されたのは煙幕弾。それは地面にあたると同時に白色の煙を展開し、彼女らの視界を遮った。
必中の魔法には、標的の選択と付与する対象の選択、2つのプロセスがある。そのうちの前者、標的の選択の際には相手を視界にとらえる必要があるが、一度選択さえしてしまえば、魔法を行使するまでそれは継続される。
「(私へのマーキングは既にしている、と……はあ、貴女も狡いじゃないの)」
煙幕の中、タマモはため息をつく。実際彼女の予測は当たっており、キョウコは既にタマモへのロックオンを済ませている。あとはそれを槍に付与し、投げるのみ。方向も、投擲してくるその瞬間までは誤魔化せるだろう。
だが、一回撃ってしまえば、必中を付与するにはもう一度こちらを視認する必要がある。それを考えると、煙幕外に出なくとも悪い事にはならない。そう考えたタマモは、その場にとどまることにした。
視界を遮られた程度では彼女の動きは鈍らない。耳で判断すればいいからだ。それを封じられても鼻で、そして肌で。既に一つの感覚にのみ頼るということからは卒業しているのだから。
「私のこと忘れてるでしょ」
「忘れてはないわよ。警戒する必要がないだけで」
だから、高速で迫りくる3人目にも対処ができる。アヤメの両の手による掌底、
タマモはアヤメの腕をつかみ、勢いに任せて放り投げる。方向は真後ろ、まさにゲイボルグの軌道上。盾にされたと考えたその次の瞬間、煙を破って槍が飛来した。狙いはタマモ、だがそれは前方にいるアヤメを巻き込まんとし……そして。
「っ……な」
そして、ゲイボルグはタマモへと命中した。アヤメを巻き込むことは無く、後ろの彼女にのみにだ。予想だにしていなかったタマモは、身体に刺さった槍ごと後ろに跳ね飛ばされていった。
無視しがたいダメージを負いながら、彼女は考える。槍が目の前にいきなり現れた。音もなくだ。それは、今までタマモが何度も使って来た技術。
「で……できた!」
「……ガキが……!」
結界術の技の一つ、空間転移だ。空間同士を交換しているにすぎないそれは、しかし感覚としては理解しにくい。ガラスよりも透明なものをガイドもなく区切るのは、初学者には至難の業だ。
だから、煙幕を使った。あれは、ただ視界を塞ぐためのものではなく、補助としてのもの。色の着いた気体があれば、空間を測ることもやりやすい。そして、稲光で発光するアヤメを目印にして、実際にサキはやってみせた。それゆえの被弾。
分かっていたつもりだった。八雲サキの魔法は規格外だ。だが──少し違った。年にしては業の深い性癖のせいで脳味噌が蕩けているとばかり考えていたが、彼女は存外に頭が回る。魔法だけではなかったということだ。刺さった槍を引き抜き、その場に捨てる。あまり余裕はない。だからこそ、確実に仕留める。
タマモは魔法で煙を散らし、周囲に収束魔力弾を作りだした。その数は8。サキは驚いた顔をして結界を張るが、強度は高くない。当たれば、十分貫くことが出来るだろう。
「やらせないっス」
「それは無理よ」
そして、それをキョウコは許さない。すぐさま間に入り、タマモの狙いを逸らそうと試みる。同じくアヤメも雷を携え、彼女の目の前へと飛び出した。──鴨が2匹。
タマモはアヤメに接近し、結界を応用し作り上げた義手を彼女に向かって振りかぶる。しかし、それを予想していたアヤメは素早く飛び退き、指を鳴らして雷を放出した。飛来するそれを、彼女は結界を展開することで防ごうとするが、火力が高い。たいした時間も稼げずに破られる。
息つく暇もなく、雷を纏った拳が、タマモに振るわれた。それを彼女は鉤爪で防ぎ、そして魔法を散らす。そして、反撃。「電撃」と「凝弛」の応酬。
「ゲイボルグ」
目にもとまらぬ連撃。入り込む暇は、しかしキョウコにはあった。投げた槍がタマモの背中を貫かんとするのを、彼女は身体に貼るように結界を展開することによって防ぐ。だが、衝撃までは殺せない。タマモの身体がつんのめる。
一瞬の隙。このまま腕ごと砕く、そう考えたアヤメは更に一歩踏み出し、そして拳が彼女を捉え──しかし、透かされる。半歩、後ろへの転移。
「まず1匹」
「っ、クソ──」
やられた。その思考に至った時にはすでに、タマモは拳を振り抜いていた。残った右腕に魔力を乗せたそれは、上半身を守るように防御したアヤメの腹にめり込み、彼女が跳ね飛ばされる。身体が何回かバウンドし、そして壁に激突した。
「アヤメ先輩!!」
「よそ見しちゃ駄目よ」
キョウコが目を離した隙に、タマモは転移で至近距離まで接近する。咄嗟に受け槍の構えで防御するが、キョウコの方が押されていた。この距離では、投擲の体勢に移ることが出来ない。加えて彼女は戦い始めてまだ1年だ。いくら努力しているといっても、その方向性は魔法の扱いに寄る。つまり、槍捌きはまだ不十分。それを、タマモはよく知っていた。
体勢の崩れたキョウコへ、彼女が蹴りを入れる。それを槍で受け止めるが、勢いを殺しきれず、後ろへと飛ばされた。その方向には、収束魔力弾が。そう、未だ発射されていないまま、放たれる時を今か今かと待っていたのだ。そして、何も全てをサキに向ける必要はない。
「がっ……」
「キョウコちゃんっ!!」
彼女がそれに気づいた時には、既に彼女の方に放たれていた。それが6発。回避を試みるが、それも叶わず。魔力弾の1発がキョウコの右胸を貫き、彼女はそのまま慣性に引きずられながら倒れた。
「これで2匹……あとは貴女だけね」
「…………」
この場で最も戦闘慣れしていないのはサキだ。狙われるのは分かり切っている。同様に、それを防ぐために2人が妨害してくるであろうことも分かり切っていた。致命傷ではない、死にはしないだろう。だが、2人の意識はない。すぐに立ち上がることもまた、できない。
「手間取ったわ……けど、これで終わりね。さようなら」
つまるところ、方針は変わらない。サキを誰よりも最初に
残りの魔力弾が、満を持してサキに放たれた。結界とぶつかり合い、しかしひび割れる。数秒もすれば割れてしまうだろう。口を結んだ彼女は、今にも守りを食い破らんとするそれをじっと見つめて。
そう、見つめていた。タマモが魔力弾を作ってから今まで、ほとんどの時間を費やして。それは警戒の意味もあったが──それだけではない。どういう仕組みで動き、どのような効果を生む魔法なのか、それを見ていたのだ。そして……理解した。
サキが手のひらを前にかざす。そこから魔力が揺らぎ、そして魔法を形成した。それは結界を貫き向かってくる魔力弾に干渉し、その勢いを削いでいく。そして身体にあたる寸前で、魔力弾は解けた。それは確かに、タマモと同じ魔法。
「まだ、終わりません……!」
「……パクんじゃないわよ」
結界、そして霧散。二重の防御によって、攻撃を防いだ。この土壇場で、たった数分見ただけで、彼女は「凝弛」を習得してみせたのだ。タマモは奥噛みし目を細めるが、すぐに頭を回す。
「(少なくとも二つ同時に魔法を使えるってわけね。でも拙い、熟練度はそれぞれ上げる必要があるみたい)」
同時に何種類の魔法を使用できるのかは分からないが、どれも十分に扱えているとは言い難い。それぞれ何度も使い慣らしていく必要がある。強い魔法だ、ゆくゆくは化けるだろう。だが、今この場ではただの器用貧乏だ。自分の魔法を複製された彼女は、しかしこれまでの戦いでそう結論付けた。なぜなら──
「『結局のところ、1人では大した戦力にはならないから』。んなことはこっちも分かってんだよ」
彼女が真価を発揮する時は、今のような複数人で戦闘する状況だ。戦場の隙間、思考の虚を突くような魔法の使い方は、魔法とよく合っている。しかし裏を返せば、サキ1人でなにかを出来るわけでもない。本人の戦闘能力が育っていないからだ。魔法それぞれに慣れる必要がある点は「複製」の明確な弱点と言えるだろう。魔法少女になって日の浅い彼女は、どうしてもそこが劣る。
だが、だからといって複数の魔法を扱える強みが消えるわけでもない。加えて、彼女が同時に扱える魔法の数は3つ。1つは結界術に使い、1つは応変に使い分け、そしてもう1つは、泣き言を漏らすために使っていた。魔法庁に向かって「読心」を使い、ぎゃいぎゃいと救援要請を出していたわけだ。もっと言うならば、サキたちの目的は──時間稼ぎ。
「玉垣ミコト……」
白い髪が、月光に反射した。獲物の刀を腰に提げ、両手を開けた状態で。所々が赤く染みた衣装を着た彼女が、静かにそこに立っていた。目つきが、完全に昔に戻っている。
「……随分とボロボロね?」
「ちとやりすぎちまってな」
この状況で聞きたくない声にタマモの口が下がるが、しかし彼女の姿は満身創痍と言って差し支えない状況。1発収束魔力弾を放ってみれば、それはミコトの目の前で不自然に曲がり、そしてあらぬ方向へと着弾する。魔法は未だ強固。しかし、本人の反応速度が芳しくはない。相当に消耗している。実際、タマモとそう大差ないだろう。
「ミコトさぁん!!」
「オ゛ウ゛ッ……ほれ、大丈夫だから」
「うう……キョウコちゃん達は」
「どうせ生きてるよ。頭か心臓潰さない限りはピンピンしてるさ」
「……ええ……?」
傷の程度など分からないサキは心配そうに尋ねたが、あまりにも軽い返答に困惑していた。日常茶飯事とまではいかないが、この場にいる者の大体はそういった傷を何回か負っている。つまるところ慣れていた。
「とにかく、これ。急いで書いたから汚いが、作ってくれないか。多分必要だから」
「なんですかこれ……大きい……銃?」
ミコトはそう言って、サキに紙を押し付ける。いきなりの事に驚きつつ見れば、それは銃の設計図のようであった。身長に迫る長さをした全長に、特殊な形をした銃身。その特徴が余白に書きなぐられている。初めて見るはずなのに、サキには何故か懐かしく見えた。
「お前の姉ちゃんの武器だ」
「はい?」
「八雲チハルの──金の魔法少女の武器だよ」
八雲チハル。確かに、自分の姉の名前だった。金の魔法少女。ミコトが話していた、相棒の名前がそんな呼ばれ方をしていた。何を言っているのかよく分らないが、文脈的に2人は同一人物ということだろう。ミコトの言葉を咀嚼して、サキはしばらく考える。目線が上に行き、斜めに行き、それに体までもが釣られる。
「…………姉が……魔法少女ォ……???」
そして、心底信じられないといった訝しげな顔で、サキは呟いた。