TS転生悪の組織の研究者VSど変態(魔法)少女 作:こばみご
「……ん」
いつの間にやら。本当にいつの間にやら、俺は知らない場所に寝そべっていた。昼のような明るさで、空は青くて、そして雲一つない。冬だというのに、寒さも感じなかった。なんなら、さっきまで感じていた痛みも全くない。
ゆっくりと体を起こして辺りを見回せば、そこは川辺のように見えた。せせらぎが聞こえる中で、風が草原を撫でている。それに合わせて彼岸花が揺れていた。まるで灯火みたいだ。
そして後ろを向いても、霧が視界を埋め尽くすばかり。進む道は、この川の向こうにしか無いだろう。顎に手を置き考えながら、一つ息をつく。
「んー……」
……死んだんじゃないか?俺。まあ、止血に回していた分の魔力も使い切ってしまったし、限界を迎えるのもやむなしだろう。それでも、最期に見た光景はボスがタマモを刺した瞬間だったから……きっと大丈夫だ。そう信じたい。あの人はやってくれた。そう思うことにしよう。あと、サツキをちょっとだけ祟っておこう。
でも……少し、寂しい。サキやマリを置いていくのに、罪悪感をひしひしと感じる。せっかく悲願が叶ったのだから、その後を一緒に過ごしてみたかった。2人の事だから、生きてはいけるだろうけど。元気にしてくれるだろうか、それだけが心配だ。
川の向こうを見れば、蝶が舞っていたり、カラスが石をつついていたり。なんとなく、現世ならざる雰囲気が漂っている。あちら側が、きっとそうなのだろう。……ところで、これ自分で渡らないといけないのか?面倒じゃない?
流れる水を見る。空色を反射しているであろうそれは、随分と綺麗な青色をしていた。しかし、水の中が見えないほどに濃い。深さがまったくわからないが、まあせいぜいが腰程度だと考えよう。溺れ死ぬこともないはずだ。もう死んでるし。
「……さようなら、か」
一言だけ、そう言って。俺は川へと歩き出す。一歩一歩を、踏みしめるように。じゃりじゃりと石の擦れる音が響いて、やがて足が水に浸かっていき──
「ストーーーーップ!!!」
「ぎゃああああああ!!!」
そして金髪の女が川から音をたてて浮上してきた。驚きの余り心臓が止まった。そして腰が抜け、尻もちをついてしまう。服が水を吸って、嫌な感触が肌に触れた。うええ。
「貴女が落としたのは金の私?銀の私?それとも普通の私!?」
「まず落とした覚えがねえんだけど」
「記憶」
「はい…………」
変わらない姿のチハルが──いや、変わってるな。髪をまとめてないせいで、貞子みたいになっている──憎たらしい笑みを浮かべて立っていた。ずぶ濡れで。そしてそのまま、俺に抱き着いてくる。ずぶ濡れで。
「まあ、いいでしょう。正直者の貴女には、私の全部をあげましょう!」
「どうしたんだよ、テンションおかしいんじゃないか」
「いいじゃん、久々なんだから」
体を擦り付ける勢いでしがみつくチハルは、そう言いながら手を動かし……すると不思議なことに、後ろにあった霧が晴れていく。そして、鳥居が1つ、その姿を現した。その内側は淡く光っていて──あそこに入れば……戻れるのだろうか。向き直る。チハルの顔を見た。
「なあ──」
「君は生きるんだよ。言ったでしょ」
後ろに結んだリボンを撫でながら、彼女は柔らかい笑みを浮かべる。端的に言えば、それは赦しの言葉。でも、気丈にふるまうその顔には、少しの寂寥が含まれているような気がして。背中に手を回して、抱きしめる。ないはずの温もりが手に伝わってくるような、そんな気がした。
「リボン、大切にしてね」
「……チハル」
数秒か、数十秒か。しばらくそうした後に、俺たちは歩き出す。石の擦れる音が、土を踏む音に変わり。そうして、光る鳥居の前へと立つ。光の先は、やはりどこかに繋がっているようで。ついさっきまで感じていた、冬の寒い空気が漏れ出ていた。
少し……いや、すごく。すごく悩んで、小さく一歩を踏み出す。鳥居を跨ぐと、体が光に包まれていき。
「……じゃあね!」
「おう」
お互いに、笑って。二度目の別れは、そうやって締めることにした。一度目では、出来なかったことを。俺は、ちゃんと笑えているだろうか。あいつはなんだか、苦笑しているみたいだけど。
そうして。振り向こうとした時、チハルは、何かを思い出したかのように口を開け。
「あ、あと」
──サキをよろしく。ついでにね。その言葉が聞こえると同時に、俺の意識はだんだんと薄れていって──
「……天井がない」
そして俺は目覚めた。同じ空の色をした、皆の居る場所で。
「魔法庁は倒壊の危険があるので、一応外に。私たちのことは、医療班の方が順番に見ています」
「俺はもう?」
「いえ、まだです。最後ですね。どうせ大丈夫ですし」
「俺の扱い……」
というわけで、どうにか生き延びることが出来たわけだけれども。医者の人は俺を見るなり、どうして生きているんだという顔をしていた。サキも腰を抜かしていたし……みんなして失礼じゃないか?まあ、自分でも何で無事なのか分からないけど。魔力は使いきったし、傷は深かったし……
なんなら、ボスまで苦笑していた。オメーは人のこと言えねえだろ。
魔法庁を見れば、確かに見る影もなくボロボロになっていた。窓は全部割れているし、心なしか傾いて見える。そりゃあ、真打の余波を受ければそうもなるか。しかも狐塚タマモのだしな。むしろ何で耐えているんだという話になるだろう。建物のくせにガッツがある。
ともかく。俺以外も全員無事らしく、職員の人たちにも被害はなかったらしい。喜ばしい事だ。タマモを相手取ってこの結果は、奇跡とも言える。アイツが人質戦法やらの卑怯をしなかったというのもあるが。
ただ、やっぱり職員の大半がボコられ、気絶させられたところを運ばれたらしい。時間がなかったんですと、犯人たちは言っていた。実際そうだけれどもさ……
「起きたら全部終わってたっス……」
「ありがとうキョウコちゃん」
「ありがとうございますキョウコちゃん」
「感謝する、キョウコ……ちゃん」
「なに!?なんスか!?皮肉っスか!?」
とりあえず、今回の戦いで大いに貢献したキョウコちゃんにお礼を言っておくことにした。本人は大した活躍が出来なかったとしょんぼりしているが、必中の真打という極上のハッタリにタマモが嵌ってくれたおかげで時間が稼げたわけだから、彼女の功績は大きい。そもそも、ボスが駄目なら彼女に任せようと考えていたほどだし。二礼二拍手一礼だ。
そうして、年末を騒がせた悪の組織の騒動は幕を閉じた。が、物事には後始末というものがあるのだ。狐塚タマモは実は妖怪みてえな邪悪な存在だったんですというのは、普通に考えると大問題なわけで。これまでの妖怪騒動はマッチポンプなんじゃないのと疑われても仕方がない。というか、何か実際にそういう側面があったらしい。うそぉ。
しかし、そういった点は職員の人たちが頑張ってくれるらしい。職場が使い物にならなくなって大変だろうに、ありがたい限りだ。大人の方々には頭が上がらない。知っている職員の人たちにお礼を言いに行けば、そんなことよりも年末に事を起こすのだけはやめて欲しかったと言われた。はい……
なので、残った問題は俺らの処遇なのだが。魔法少女の皆は意外と分かってくれたり、キョウコちゃんからの一発(詠唱込み)は痛かったりしたが、それは別にして公的な何かがいるはずだ。そう考えてサツキに尋ねてみれば。
「先輩がうちに戻ってきてくださるので、私からは何も言う事はないですよ」
「おれぇ~~?」
どうやら、概ねそれでいいらしい。タマモ討伐への貢献と、今までサルバシオンがもたらした損害の(比較的)少なさを考えれば、玉垣ミコト1人の命で禊は足りるそうだ。ちなみに本人の意思は考慮されていなかった。気づいたら確定しており、ついでにしれっとマリがついてくること含め諸々を今聞かされたくらいだ。綺麗じゃない取引はともかくとして、俺に一言言えよ。ひどいよ。
「私がいますから、所長もそう心配しないでください」
「すまないミコト、頑張ってくれ」
「ふざけんなマジで。ふざけんなマジで本当に!」
ボス──もう組織は解体したしいいか。アカネさんは死んだことになって、ひっそりと暮らすことになったらしい。たまに協力してもらうことと、監視をつけることがあるくらいで、後は自由なのだそう。ユキネも彼女についていくようだ。なあ、一番美味しいポジションだよなそれ。しれっとさ、そういうのはさ、良くないと思うんだけど。言えば、思ってないような謝罪をされた。殴りてえ。なんか俺に対する扱いが酷くないか?
「で。サキはどうするんだ」
「んー……そう、ですねえ……」
そして。色々やってついに残ったのは、サキの今後のみ。一応、死亡したというのは取り消されたので……端的に言えば、魔法少女としてやっていくか、そうでないか。そこが大事だった。彼女は悩んでいるような、そうでもないようなそぶりを見せながら、指先で机をなぞっている。それがマリの淹れたコーヒーに触れ、サキは両手でそれをあおった。……どうやら、まだ良さが分からないらしい。
しばらくそうしてから、サキは姿勢を正し。俺を見ながら、彼女は口を開いた。
「今なら、自分の事を少しだけ肯定できる気がするんです。だから……魔法少女を、やってみようかなって。ミコトさんたちも、キョウコちゃんもいますし」
「姉を殺した職でもか」
「あの人も、覚悟の上だったんだと思います。だから、私も」
「……。分かったよ」
俺たちが、きっかけかもしれないが。でも、それだけではないだろう。そう感じさせるような、意志のこもった瞳をしている。なら、言えることはないか。サキも成長している。もう、ただのど変態魔法少女ではないみたいだ。ただのど変態魔法少女ってなんだよ。
「それで、その……覚えてますか?『ずっと聞きたかったことがある』、って」
「ああ……あったな、そんなこと」
前に、魔法少女たちに本拠地が襲撃された日の事。その直前、彼女は確かにそんなことを口にしていた。今の今までまったく忘れていた。大変な時だからと、今までは口に出さなかったのだろう。
「姉が……死ぬ前に言ったんです。『私が死んだら、ミコトを頼って』って。その時は、何のことか分からなかったんですけど……」
チハルはそう、サキに言い含めていたらしい。俺にも言ってきたあたり、思ったよりは妹のことを心配していたようだ。なんとも、不器用だが。彼女はどこか期待したまなざしで、こちらを見つめてくる。やっぱり、犬っぽいというか。思わず、口の端が上がった。
「分かった。俺が引き取るなりなんなりする。ついでにマリも」
「えっ?」
「本当、ですか?」
固まるマリに、目を輝かせるサキ。チハルに言われる前から、なんとなく考えていたことだ。2人とも、身寄りがない。彼女らの家族は、死んでしまったから。代わりになれるかは分からないが、なるだけ何かをしてやりたい。面倒を見るくらいなら、俺にだってできるはずだ。
それに。ここ数か月のことを思い浮かべる。変な思い出ばかりだけど……思…………本当に碌な思い出がないな。どうしよう。ほとんどがピンク色なものと結びついているのはどうしてだろうか。どうして俺はエロありにしてしまったんだろうか。改めて考えても酷いもんである。……でも。
「なんだかんだ、楽しかったしさ」
呆れ顔のマリに、笑みを浮かべるサキ。馬鹿な話もしたけれど……むしろだからこそ、あの日々は楽しいものだった。だから、これからもと。そう思ってしまうのだ。そしていつか、家族と呼べるような、そんな存在になれたら。それはきっと、とても嬉しいことだろう。そうして俺たちは、喜び抱き合った。
「……あ、借金……」
「うげ」
……なんとか借金だけ切り離せないだろうか。俺は唸った。
終わったァーーッ!!
というわけで、今作はこれで一区切りとさせていただきます。
評価感想ここすき誤字報告(欲しい!!!)、何より今まで読んでくださり、本当にありがとうございました。感謝してもしきれない。ここまで来れたのは皆様のおかげです。
色々語りたいですが、そこまで需要もないので、ひっそりと割烹にあげると思います。暇すぎる時に良ければ見てね。
後日談はボチボチ上げる予定です。楽しみにしたりしなかったりして待っててください。
改めて、本当にありがとうございました。
──
〇八雲サキ
・16歳
・黒髪
・変態
中々ぶっ飛んでいる彼女だが、異種が好きな以外はまともに寄っている。曰く、寝取られは性癖の末路。諸説あり。
意外に頭が回る。信じられないが、成績もいいらしい。本当に信じられないので通知表を見せてもらったところ、なんと本当に良かった。偽造を疑ったところ、怒られた。
サンちゃんの魔改造に精を出しすぎている。魔法庁の地下3階を私物化するのはやめていただきたい。ちょっとしたエロトラップダンジョンになってたぞ。嘘だろ。
──
〇八雲チハル
・享19 生きていれば24歳
・黒髪
・腹黒
実は金髪は染めたもの。毎日のようにしていたそうだ。母の髪色と同じなのが嫌だったらしい。変身すると地毛も金になるので、「ずっと魔法少女計画」なるものを企んでいた。アホのネーミングセンスだ。
仲良しこよしを遠巻きに馬鹿にしていたようだったが、あれは羨ましかっただけだろう。だから、浮いていた俺と気が合ったのかもしれない。
そんな彼女は、サキをその道に往かせた諸悪の根源である。そんなそぶりは……意外とあったな。でも頼むから、ネットリテラシーをしっかりして欲しい。もし今度会ったら説教してやる。