TS転生悪の組織の研究者VSど変態(魔法)少女 作:こばみご
プロットは出来ているんです。プロットは……
「いいか、とりあえず説明から入るぞ」
夕食を終えて魔法庁の地下に戻って来た俺たちは、とりあえずユキネを強くする方法について話しあう。いきなり女の子になりなさいとか言われて納得できる方がいかれているので、順序立てて説明しなければならない。俺にはその義務があるだろう。
魔法少女の因子──マギアと呼ばれるそれは、男女で規格に差異があり……そして、当たり前と言えば当たり前だが、選ばれた人が生まれながらにして持っているものである。
目の上のたんこぶであった彼女らの力の源の秘密について暴き、ついでに利用できれば征服も簡単になる。
マギアの仕組みはざっくりいうのなら「高密度の魔力の塊であること」、「固有魔法の他に2つ魔法が組み込んであること」、そして「一種のセキュリティのようなものが搭載されていること」。つまるところ、3つ目の仕組みのせいでマギア自体を悪用することはかなり難しい。拒絶されるのだ。故に、妖怪たちも魔法少女本人を篭絡するように図るのだろう。
が、しかし。中にはそれでもマギアを紐解き、好き勝手弄り倒して遊ぶような輩がいる。会ったことがあるが、ソイツは単なる好奇心からそれをしていると言っていた。暇なの?聞けば、どうやら暇らしかった。はた迷惑な……
そして、本題。白藤ユキネはなかなか曰く付きな人物である。孤児だったり、預けられた所がモロ悪の組織だったり……そして、そこで
魔法少女の因子を後天的に得た、人工魔法少女。それが白藤ユキネという人物。まあコイツは男であるため、少女と言うと少し違うが。魔法少年……?
で。そんなユキネの魔力操作が壊滅的な原因は、この2つのうちの後者、性別的に対象外のマギアを移植されたせいであるというのが俺の考えだ。因子の適合がなってないというのは、もう1人の人工魔法少女である菅木アヤメが全く意に介していないことから考えにくい。
とするとやっぱり、男の身に女の因子を無理やりぶち込んだからこうなっているというのが自然な考察だろう。マジでどうしてそんなことしてしまったんだ。……好奇心なんだろうな……
「……そこまで繊細なものなら、私が魔法少女になる事もなかったんじゃないか?」
「そうは言うけど……実際変身できるだろ?」
「それは……そうだが……」
そこが面倒な所で、諸悪の根源とも言える。なまじ扱うことは出来ているのが、このややこしい状況を作り出しているのだ。パソコンでたまにある、よく分らないけどなぜか動いたという奴だろう。人体でなっちゃ駄目だろうそれは。
それで考えると……今の状況は、いわゆるエミュレータ越しにソフトを動かしているようなものだろうか。男女ではプログラムに差異があり、その翻訳に多大なリソースを取られる。故に魔力操作精度が犠牲になったり、頭痛を引き起こしたりする、のだろう。おそらく。だから……俺の予想があってるのなら、やっぱり根本的な処置が必要になるというわけだ。つまり……
「女の身体になれば解決ってわけよ」
「冗談は勘弁してくれないか」
「悪いが真面目だよ。いや、本当に」
「そんなバカな……」
ショックを受ける……というか、マジに言ってんのかよという顔をするユキネ。マジなんだって。サキみたいなことを言っている自覚はあるが、俺はなにもからかっているわけではないのだ。信じて欲しいのだ。ラーメン屋でも固まっていたが、ユキネはここでも天を仰いで苦い顔をしていた。心中はお察しである。かわいそう……
「……まず、肉体だけでいいのか?魂まで女になれとか言わないだろうな」
「いや、それは言わない。肉体だけで大丈夫だ、俺が保証する」
「……やけに自信ありげだな。なんでこの話だけそんなに確信を持てるんだ」
「いや、まあ、あれだよ。実例を見たことがあるから……」
再起動したユキネがやけに鋭い所を突く。前世が男の俺が問題なく魔法少女をやれていた時点でそれはないだろう。どうにか誤魔化したが、彼は訝しげな眼をこちらに向けてきた。そんな顔をされても……だって、俺が元は男だったんですとか言っても信じられないだろうし……
「ただいま帰り……あれ、ユキネさん!数日ぶりですね!遊びに来てくれたんですか?」
「おかえり。遊んじゃいない、修行やってんだよ修行」
「……あんま修行って感じじゃないですけれど?」
とその時、部屋の扉がいきなり開かれる。サキが帰って来たのだ。ノックぐらいしようぜ。俺がいかがわしい事とかしてたらどうするんだよ。……乗ってきそうだな。
彼女はユキネを珍しいものを見る目で見つめている。そりゃあ、コイツが今の家に来たのは初めてだが。どう説明するのがいいんだろうか。……いや、そもそも。
「普通とは少し違うんだ。色々とな……」
「色々……聞いていいやつですか?」
「………………どう思う?」
「いやァ~~………………まあ……ユキネに任せようかな」
コイツにもろもろを話すかどうか、それが問題だ。別にユキネは性別を隠しているわけじゃないが……知っていればもう少し反応が違うと考えられるので、サキはユキネの性別を知らないだろう。外見は普通に女の子って感じだからな、コイツ。
で、じゃあそれを明かして今回の相談内容も伝えるかどうかと言われれば、正直御免こうむりたい。だって絶対コイツはアレな反応をするだろ。妙にうきうきした感じで。どこからえっちな話につなげてくるか、俺もう分かって来たからな。分かりたくなかったな……
ユキネは両腕を組んで難しい顔をしながら悩み……そして覚悟を決めたのか、一つ息を吐いた。
「今までサキに言っていなかったことがあるんだが……実は、私は男なんだ」
「え?何ですって?」
「私は男なんだ」
「…………?よく分かりませんけど、ユキネさん魔法少女になれるじゃないですか。じゃあ女の子なのでは?」
「私は魔法少女になれる男なんだ」
「だんだん訳が分からなくなってきました……!」
コイツも困惑することあるんだな。いつもは物分かりが良いのに、今回ばかりは飲み込みが悪い。おそらく男の娘なんて現実には存在し得ないとでも考えているのだろう。まあ、気持ちは分からんでもないけどさ。なんで変なところでリアリストなんだ。えげつない触手生物を生み出しているというのに。
「……あ、でも……もしかして兄ってそういう事ですか!?」
「……アヤメが喋ったのか?」
「あ、いえ、喋ったというか……呟いてたというか」
が、どこからか情報は掴んでいたらしい。ようやくピンときたサキが、先程とは打って変わって世にも珍しいものを見る目でユキネを観察している。本人は居心地が悪そうだ。まあでも、証明のために下半身見せてくださいとか馬鹿げたことをサキが言い出すこともなくて良かった。コイツはそういうこと言う。
「でだ。男に魔法少女の因子を突っ込んだ状態だからか、コイツの変身は不安定でな。それを解決するために相談してたんだよ」
「ほへー……まあ、男性には男性の因子があるらしいですしねえ」
「だからコイツを女の子にしたいと思ってるんだが」
「は???何言ってんですか???」
信じられないものを見る目で見つめられた。聞こえなかったわけでは……ないよな。サキにしては珍しく、頬を膨らませていた。怒っているようだ。もしかすると、性別という特級のアイデンティティを無理に歪めるような行為は、彼女には認められないのかもしれない。
「あ、あり得ません……男の娘は神聖不可侵なる文化遺産ですよ。どうしてそんなことが出来るって言うんですか……罰当たりですよぅ!」
「男の娘を何だと思ってんだ」
「恥ずかしいからやめてくれないか……?」
……多分そんな大層なもんじゃないなコレ。俺がユキネを女の子にしたいように、コイツは女の子にしたくないだけだな。解釈違いという奴か。千古不易の争いの元である。
しかしそうか、趣味嗜好は極まると宗教に匹敵するのか……でも神聖不可侵って言葉をこんなことに使わないで欲しい。マジで。というかそんな地雷みたいな概念、後世に伝える価値ないんじゃねえかな。争いの芽は俺たちの世代で摘んだ方が良い気がしてきた。
「他に方法はないんですか!?マギアを使わずに術を使う……とかは!?」
「できないわけではないが……とてもじゃないが戦闘は出来ない。威力が無いからな」
「うわ、なんだよ精度良いじゃねえか。はよ言え」
「どこかの誰かが女になれだとか言ってきたから、頭から飛んでしまったんだ……」
駄々をこねるサキに、ユキネが指先からにゅっと糸状の魔力を出す。「織魔」だ。難なく扱えているあたり、どうやらわざわざ術として覚え直して、実際に使えるか試行錯誤していたらしい。生まれた時から覚えているのが魔法、あとから学んで覚えたものが術。近年は専らそう呼ばれているが、ユキネの場合前者が諸事情で大して使い物にならない。とすれば確かに、同じものでも後者で試してみるのは理にかなっているか。
マギアを介さずに、大気の魔力を束ね色々なものを形作る。大体記憶がなかった頃の俺がやってたことだ。しかし、覚えているものを覚え直すって、中々高度なことしてるな……
ユキネは○×△□等簡単なものから、雪の結晶まで……さながら空に絵を描くように、糸を動かしていた。凝の練習みたい。まあ、今度は逆に強度が無いが……
「でもこれだとやっぱりマギアが悪さしてることになるな。お前も分かってたんだろ」
「……まあ、そうだが。認めたくはないだろう、そんな、どうしようもないだなんて……」
「気持ちは分かる。かなり。……アイツも認めたくないみたいだ」
「ぐるるるるる……」
サキが俺を睨みながら威嚇していた。しかも四足でだ。なんでだよ。やっぱ犬なのかお前。
が、こんな状態ではいよいよユキネの性別を変えるくらいしか思いつかない。そこまでではないにしろ、少なからず身体を適した形に変える必要があるだろう。彼がどう思うかによるが……
「だが、女……になるといっても、どうするんだ?」
「今考えてるのは……人体改造で女にするか、女体を作ってそこに魂をぶち込むか……もしくはそういう術を使うか」
「……やるならせめて自分の力でそうしたいんだが……」
どれが良いかとかは分からないが、可能性があるものをあげるとこの3つになる。1つ目は素材が必要で、2つ目は他人の魂を移す技術が必要。3つ目はまあ、うちの神社の蔵に教書がたくさんしまってあるから、そういった術があってもおかしくない。正直最終手段だが。
しかしこうして考えてみると、今すぐには出来ないものが多い。あと少なからずリスクがあるし。ユキネが自分でやりたいと言うのも納得だ、他人に命を預けるのは抵抗があるだろうしな。……いや、違うか……恥ずかしいからか……今更ながら、なんでこんな真面目に女体化について考えているんだろう……
「まあ、俺ももう少し考えるから……お前も頼むよ」
「もう普通に稽古をつけてくれるのでは駄目なのか……?」
「残念ながら駄目です」
「あ、人格排泄とかはどうですか?」
「コイツは無視していいよ」
「じゃあ人格嘔吐!!」
「新ジャンルを作ろうとするな」
眉を八の字にしてげっそりしているユキネには同情するが、しかし強くなりたいというなら通らなければならない道である。犬モードから戻って来たサキのとんでもねえ発言はスルーだ。魂を抜き出す方法としては案外妙案なのがムカつく。
だがまあ確かに……俺の時は一周回ってそういうもんかと納得できただけで、性別がいきなり変わるというのは受け入れがたいものだろう。思い返してみると、ユキネも最初の頃は魔法少女衣装を恥ずかしがっていたし。まあ、そらそうだよな。いきなりフリフリな服を着せられて……
……そういやコイツは……最初は変身すら碌に出来なかったのに、いつの間にか魔法も扱えるようになってたな。技術、もそうだろうが……当時のユキネはなんて言ってたっけか。
『いや……慣れたよ、流石に。あんなことされたらそうなるだろ?』
『まあ、そうだな。あれは……災難だった』
今思えば、アレは意外と効果があったのかもしれない。身体だけの問題ではない、という仮説……試してみる価値はあるか?
「……」
「……どうした?」
「よしユキネ、明日総合スーパー行くぞ。サキもついて来な」
「……な、なんでですか?」
「形から入るんだよ!」
「…………」
何かを察したユキネが、口を結んで固まった。観念しなさい。