TS転生悪の組織の研究者VSど変態(魔法)少女 作:こばみご
どうしてもシリアスを経由しないと完結させられない。どうしよう……無理やりぶち込むしかないのか。色々を。
「眩しい……」
日差し。それは地下に引きこもっていた俺には、刺激の強いものだった。駄目だ、目を開くことができない。浄化されてしまう。
ほら、見てくれ。俺の手が溶けてか袖がダボダボになってしまっている。……元からだった。ネット通販だとこういう事がよくある。
「おお~、何だか感慨深いです!」
「二人とも、はぐれないようにしてくださいね」
「俺も……?」
一応大人なんだけど……でも、人混みに揉まれたら遠いところまで流されてしまう自信がある。なんと情けないことか……
ということで、現在俺たちは町の大きめのスーパーに来ていた。これから本格的に引きこもって怪物をせっせこ作らないといけないため、食べ物等を買いだめしておこうという算段である。
マリがもじもじしながら買い物を手伝って欲しいと言ってきたときは何事かと思ったが、荷物持ちくらいならいくらでもやろう。というか、そろそろ運動しないとダメダメになりそうだったし。
それよりも問題なのは、隣ではしゃいでいるサキだろう。正直気が気でない。一応サングラスで変装させているが、知り合いが見たら一発でバレるだろう。むしろサングラスのせいで怪しまれるような……
普通ならなんで外に出してるんだおバカとボスに言われそうなものだが、他ならぬそのボスの命令によってこうなっているのだ。川くらいの深さの理由がそこにはある。端的に言うならお引越しのついでだ。
「……ボス、運転できたんだな……」
「あの人、多芸ですから……」
「きっと苦労してきたんですね。ちょっと親近感が湧きました」
我ら悪の組織の研究所と本部は別の場所にある。リスク分散がどうのこうのという事だったが、怪物を作る工程で俺とボスの二人が必要であるうちでは、すこぶる効率が良くない。
サキを誘拐した時点でリスクなんぞ今更なので、じゃあもう一緒に住んじまおうぜという事になったのだ。これでいちいち通話しなくていいと思うと、楽でいいなと思ったり。
……で、ボスがトラックを運転してきたというわけである。引越し業者の変装までしていた。「誰もやりたがらないから、仕方なくな」とのこと。その割にノリノリだったけど。
ちょうどその時買い物の提案が出て、それにサキが食いついたわけだ。よぎるのは、もしかしたらこれを機に逃走を図るのではないか、という疑念。というか普通はそうだろう。今逃げられるのは面倒だと思った俺は反対したのだが。
『え?いや別に、そんな気はありませんけど。ご飯奢ってくれるかな~って思いまして』
『飯かよ』
『あとプリペイドカードが欲しいです。なるべく高いやつ!』
そういえばこいつは普通ではなかった。学生の身分で異種姦に勤しむ、普通という言葉を蹴飛ばしながら生きている人間だったのだ。図太さも兼ねているので厄介極まりない。コイツ無敵か?
とはいえ、これで彼女の知り合いにばったり出くわしたらすごく面倒くさいことになる。のでお留守番していなさいと説得しようとしたところ、まあいいじゃないかとボスが外出の許可をくれたのだ。気分転換くらいさせてやるべきだ、と。リスクがどうこう言ってたのはどこのどいつだ。最近上手くいってるからハイになっているのだろうか、脇が甘いように感じる。
しかし上司の命令には逆らえない。それが悪の組織、ひいては会社勤めの皆さんの理だ。精一杯嫌な顔をした後、俺たちは買い物に出かけ、そして冒頭に至る。平日だというのに、店には中々の客が跋扈していた。人混みってこんなにごみごみしてたっけ。すでに帰りたくなってきたが、どうにか持ちこたえよう。
「うどん買いましょう、うどん。安くて美味しいですよ」
「ああ、いいな。電子レンジで完結するから楽だし。全食うどんでもいい」
「いいわけないでしょう。バランスを考えてくださいバランスを」
まずは食べ物。マリに叱られてしまったが、うどんをかごに入れるのは止めない。地下に引きこもってるような奴が食事バランスなんて考えるわけもないのだ。がはは。……はい、ごめんなさい。
うどんを始めとする冷凍食品の他にも、缶詰やらレトルトやらをホイホイと詰め込んでいく。生の肉や野菜もいくつか入れていた。冷凍すれば期限が延びるという事らしい。まあ、マリの飯が食べられるならなんだって良いんだが。
「この際だ、白衣見るか」
「……白衣以外も買うべきかと」
「あ、私も部屋着が欲しいです」
食べ物を買った後は服屋に寄ることにした。やっぱり流石にサイズのあった白衣が欲しいのだ。あとサキの服が学生服か被検体の服かの謎の2択しかないので、一緒に買ってしまおうということに。
白衣だけでいいのに、これも良いんじゃないかと2人に押され着せ替え人形になったり、逆に2人がファッションショーを繰り広げるのをひたすら褒めるbotと化したりもした。正直、サキにその手の知識があることに驚いたが、本人曰くエロは衣装から始まるのだそうな。まあうん。
「んも、ふぉいひいれふ……」
「食ってから言いなさい」
「所長も、ソースが口元についてますよ」
買うもんを買った後は、サキも期待していた昼飯の時間だ。時刻は昼の一歩手前、フードコートが混み始める前に席を確保できたのが幸い。もう少し遅かったらと思うと辟易してしまう、飲食店勤務の人には頭が上がらない。
そして俺たち3人は人類の最高傑作、ファストフードを食べていた。ハンバーガーなんて久しぶりに食べたが、やっぱりこの身体に悪い事間違いないであろう味は何にも代えがたい。美味い美味い。
……
…………
………………
「おかしい、普通に楽しんでいる」
「いや、普通は楽しむものでしょう!」
「俺たちが普通じゃないってこと忘れてるだろ」
マリが迎えのトラックに荷物を預けに行っている中。まだ遊びたいというサキの我儘を聞きゲームセンターに赴いた俺は、メダルゲームのコインを投入口にいくらか突っ込んだのち正気に戻った。まず悪の組織はスーパーで買い物なんてしないんじゃないか?キャッキャしながら服を買うことも、フードコートで談笑しながら飯を食うこともしないと思う。ましてやコイン落としなんて……あ、5枚落ちた。ラッキー。
まああるのかもしれないが、言いたいのはそういう事ではなく。緊張感が足りないって奴だ。さっさと買ってさっさと帰るのがこの場合の正解だろう。なんでメダルゲームやってんだ。
「良いじゃないですか。ボスも言ってましたけど、息抜きって言うのは大切ですよ。楽しかったらいいじゃないですか」
私は楽しかったですよ!と続けるサキ。そういうもんだろうか。マリも楽しんでいるようだったし、それに関しては良かったと言えるけど……やっぱり呑気すぎる気がするな。心配しすぎだろうか。
『 』
……ふと、誰かとこんな場所に来た記憶が蘇る。あれは誰とだったか……顔を覚えていないのが悲しい。この年で健忘症はヤバいぞ。……でも、今回のように楽しかったな。
「あ、コイン足してきますね!」
まあ、考えすぎてしまうのも、こんな職についてしまったのが原因か。だって端的に言ったらテロリストだし。権力が怖くないかと言われれば、普通に怖いし。
サキはともかく、マリだって成り行きでうちに入った。だから自分で選んだのは俺だけ。……でもなんでこの組織に入ったんだっけ。確か当時の自分は、諦めていて……あれ。
俺は一体、何を諦めたんだったっけ?どうしても思い出せない。
「あだっ。す、すいません」
「ああいえ、こっちもボーッとしてたっスから……」
と、サキと誰かの声で我に帰る。両替機は角だ、誰かとぶつかってしまったのだろう。そちらの方を振り向こうとして……端末が震えた。
マリからの連絡かと思ったが、魔力計測のアプリからの通知だった。警告の通知だ。近くで、大きな魔力を検出したというもの。怪物を放った覚えはない。なら妖怪か。いや、こういう場合は……
……冷や汗がぶわっと噴き出す。凄く嫌な予感がしてきた。そしてそういうのは、意外と当たるもんだ。
「…………サキ?」
「え、キョウコちゃん。えっ……キョウコちゃん!?」
「マジかよぉ~」
サキがぶつかったのが魔法少女。多分間違いないが、そこまではまだ良い。だがどうやら、俺の予想を超えてまずいことが起こっているようだ。つまり彼女たちは知り合いで、聞く感じは親しい仲という事。そんなことがあるかよ。驚きすぎてサキも二度呼んでいる。
「い、今までどこに行ってたんスか!逃げてきたんスか!?怪我は!?大丈夫!?」
「い、いやあ……全然、そういうのはないですよ」
「……良かった……」
挙動不審なサキを、キョウコと呼ばれた子がペタペタ触っている。一通りそうして無事であることを確認した後、深くため息をついた。相当心配されていたようだ。感動の再開だ、このど変態にも友人がいるのは良かった。が、こちらとしては何も良くない。というか、友人が魔法少女だってなんで教えてくれなかったんだ君。ええい、とりあえず他人のふりだ。
「どうしましょうミコトさん……上手く誤魔化せます?」
俺に話を振るんじゃない。口を耳に寄せるな。バレちゃうじゃん。もうダメじゃん。おしまいじゃん。思わず天を仰いでしまった。キョウコが仇を見る目で俺のことを見つめてきた。サキも汗をだらだら流しながらこちらを見つめてきた。お前じゃ。
「お前が……お前がサキを」
「あ、いや、その。悪い人じゃあ、ないんですよ!」
「な……誑かしたのか……!」
「してな……うーん」
「洗脳したのかっ!」
「それはしてない!!」
頼むサキ、もう喋らないでくれ。お願い。コイツが喋れば喋るほど俺に対する心証が悪くなっていく気がする。実際、我々以外の悪の組織がそういう事をした前例が存在するので、相手の警戒は当然なんだけど。なんだけどさ。
空間が歪むような殺気をこちらに放ってきている。というか、実際に魔力で歪んでいる。相手は臨戦態勢だ。こちらにも自衛用の道具はあるが、心もとない。
どっちにしろ、これ以上の対話は不可能だ。相手はサキを取り返そうとするし、こっちもコイツが奪い返されるのを全力で阻止する。誤解……誤解?を解く暇はなく、戦闘は必至。ならば。
「とりあえず……逃げるっ!」
「あっ、ちょっ!!」
「待てッ!『変身』!」
懐に隠しておいた煙幕弾を投げ、サキの手を引いて逃げだす。マリに連絡は入れた、彼女が来るまで鬼ごっこだ。良い子の皆は店で走らないようにしようね。俺は良い子ではないので走り放題だ。馬鹿を考えていないとやってられなかった。