TS転生悪の組織の研究者VSど変態(魔法)少女 作:こばみご
ギャグ回じゃないことを申し訳なく思います。マジ陳謝。
現在地は3階のゲームコーナー。この場所なら、エスカレーターより非常階段の方が近いか。キョウコが煙幕でこちらを見失ってくれればいいのだが、そんなうまい話はない。超不運でこんな状況になったんだ、最悪を想定して動くべきだろう。
「ヹ、今変身って言いました!?変身!?キョウコちゃん魔法少女!?」
「おま、知らなかったのかよ!」
「全然知りませんでしたよぉ!1年からの付き合いなのに!……あ、でもそういえば、ちょくちょく授業を抜け出していたような……」
なるほど、だから呑気に俺に話しかけてきたわけだ。教えてくれなかったのか……まあ、色々理由があるんだろう。でも個人的には言っておいて欲しかった。
階段を下る。目的地は駐車場、俺たちを拾いに戻って来たボスが運転するトラックへ乗り込めれば勝利だ。マリの隠密を使えば気配を極限まで薄くできるので、その後ここから離れてもいい。どちらにしろ、アイツから距離を離さなければ──
──ぴしり。
「……え」
2階にたどり着くといったその時、上から異音が聞こえた。そちらを向いた瞬間、天井を突き破った何かが俺の方へ一直線に飛んでくる。咄嗟に横に避けるが、無理にそうしたせいで転んでしまった。なんとまあ情けない。
「あ……あっぶねえ……」
「大丈夫ですか!?」
「ギリギリ……」
降ってきた何か──よく見れば槍だ──は、今さっき俺のいた場所に突き刺さっていた。刃の部分が地面に埋まる程度にはすさまじい勢いだったようだ。間一髪、食らえば余裕で穴が開くだろう。なんとまあ殺意が高い。
「──ゲイボルグ」
踊り場から、低い声が聞こえた。冷たい怒りのこもった声だ。それと同時に、突き刺さった槍が震える。誰も触っていないのに、ひとりでに。音を上げ、地面を砕きながら浮き、刃先が俺の方を向いた。丁度心臓の辺りを。
「ッ!!」
再び俺の方向へと飛んできた槍を、身を左に捩ることで回避する。速度は早いが、まだ目で追える範疇だ。しかし問題はそこじゃない。
魔法少女や強い妖怪は、それぞれ固有魔法を持っている。俺達だって分析ぐらいはするので、誰がどんな魔法を使うのかは把握済みだ。
「……翠玉かよ……」
固有魔法から考えるに、目の前の奴は丁度この町にいる15人の魔法少女の中で3番目に強い魔法少女。コードネームは『翠玉』。由来はきらめく青緑色の髪。
もしここに旧式の怪物を呼び出せたとして、1分持つか分からない。上位の3人はそれくらい理不尽なのだ。本当に運がないな。サキの知り合いが実は魔法少女で、更に上澄みだなんて。俺が一体何をしたって言うんだ。……悪い事いっぱいしてるか。
彼女の固有魔法は、得物である槍を必中にするというもの。どこにいようが、軌道をひん曲げてでも襲い掛かって来る。恐らく射程は無限。
変身してから今の今まで俺が彼女の前に姿をさらすことは無かったので、ロックオン自体は変身していなくてもできるのだろう。俺をにらんだ時にはすでにロックオン済みだったのだと考えられる。殺す気満々だったってことですか?
何度か避けるが、槍の勢いは衰えない。このままじゃ埒が開かない、どうにか抑え込むしかないか。
腰のポーチから試験管を取り出す。中身はサキの魔力だ。怪物を作る要領で魔力を操作し、即席の壁を作り出す。槍はそれに突き刺さり、いくらか勢いを弱まらせた。このまま魔力で包んで……
「いや、駄目だこれ゛っ」
が、小手先ではどうにもならない。なおも進む槍はそのまま魔力壁を突き破って、そのまま俺の左肩に刺さった。そのまま慣性に振り回されて、2階の通路まで吹っ飛ばされる。
「ミコトさんっ!」
「……いてえ……」
腕はつながってるようだ。もちろん動かせはしないけど。これはあばら諸々も逝っているのかもしれない。後から痛みがやって来た。
が、槍は肩に刺さったまま動く気配はない。どうやら一度当たってしまえば魔法の効果が切れるようだ。相手を殺すまで止まらないなんていう殺意にまみれたものじゃなくて良かった。
「今のうちに!」
「う……」
それでも、この状況はすこぶる良くない。キョウコがサキに手を差し出した。距離が離れてしまったし、痛みが酷く体がなかなか動かすことができない。このままだとサキが奪い返されてしまう。
……しかし、当の本人は俺とキョウコを交互に見て、そのまま動けずにいた。手を取れば元の生活に戻れるだろうに、まるで迷子のガキみたいだ。…………お前エロと友人を天秤にかけてるわけじゃないよな?違うよな?
「……ごめんなさい、私にも事情があるんです。きわめて個人的な事情が」
「な……なんで」
「……………………やっぱりエ」
「違いますぅ!!私を何だと思ってるんですか!!」
サキからの全力の否定をくらったが、俺たちは君のことをド級の変態と思っているのだから、この場面でもそれを疑うのは当然だと思う。ホントに違うのか?嘘ついてるんじゃないか?
「……ゲイボルグ」
表情の影を深めた後、キョウコは再びそうつぶやく。彼女の右手に、新しく槍が生成された。使い捨て型の槍で良かった。場合によっては、俺の肩が今より悲惨なことになってたし。
槍の狙いはもちろん俺だ。だが、さっきとは込められた魔力が違う。倍くらいは違うぞ。ここから仲直りだなんてできそうもない。ごめんじゃ済まないこともあるのだ。
「アンタを殺せば、サキも正気に戻るはずっス」
「いや、違うんですって。その、私別に──」
「いいよ、もう」
ぶっきらぼうに答える。多分弁明しても聞いてはくれないだろう。その段階は終わっている。だからもう諦めよう。すこぶる不本意だが、俺は女子高生を誘拐して洗脳した輩になってやってもいい。外聞が悪すぎる。
でも、俺の外聞と組織の計画だったら後者を選ぶ。それくらいはするのだ。
「マリ!」
俺が名前を呼びつつ煙幕弾を投げたのと、マリがサキの手を掴んだのと、キョウコが槍を投げたのはほぼ同時。何とか間に合ったか。なんて考えながら、いやにスローで迫ってくる槍を見つめる。
一応回避を試みるが……多分ダメだなコレ。諦めながらも体を捻ろうとすれば、突然視界が赤で埋め尽くされた。すわ走馬灯かとも思ったが、どうやら違うようだ。
「私の名前は呼ばないのか?」
「……ほら、恐れ多くて」
ごお、という音が一瞬後れてやって来る。赤が視界から消える頃には、こちらに向かっていたはずの槍はない。声の主──ボスの炎に燃やされたのだ。引っ越し業者の変装ではなく、しっかりと正装で来ている。そういうの大事にするんだ……でも助かった。サンキューボス、フォーエバーボス。
彼女がついでという感じで俺の左肩にも炎を出せば、見る見るうちに刺さった槍ごと怪我が消えていく。まこと便利な魔法である。俺もそういうの欲しい。
「……排除しますか?」
「無理だ、無理。逃げ一択だよ」
「せめて撤退って言いません?」
華麗に俺を救ったボスは俺を俵担ぎしながら何だか情けないことを言っているが、他の魔法少女に来られるとまずいのでその通りではある。情けないが。
トラックは自動運転でアジトに向かって走行中だそう。マリとボスの脚なら十分に追いつくことが可能だ。逃げるだけならすぐにできるが、問題は目の前の存在。煙幕で視界は妨害で来ているが、その程度のことで諦めるはずもない。
「逃がさない!!」
「それも無理だ」
音速は超えていたであろうキョウコの一突きを、軽く剣で受け止めるボス。そのまま素早く斬り返し、彼女を大きく吹き飛ばした。相手が持ち直す時間も考えれば、それなりの距離を稼げただろう。素早く方向転換をした俺たちは、そのままそそくさ逃げようと──
「逃がさないと、言った」
「マジかよ」
翠玉は、確かにそこにいた。淡く光る槍を携えて。二つに折れた槍を地面に刺して、最低限勢いを殺したのだろう。予想よりもはるか近く、はるかに泰然。
マリが隠密術を使っているが、それも完璧ではない。ある程度の力量を持った者ならば、この距離なら多少難はあれど認識できるだろう。今回の場合は、ロックオンが使えない程度でこちらの位置は分かっている形だ。
そして、その程度で戦えなくなるくらいならば、3番目の位置は取れない。彼女はマニュアルだろうと当ててくる。こちらに、絶対に。そう考えるべきだ。
「よし、君がなんとかしてくれ」
「はあ!?」
「少しは勘を取り戻すべきだろうさ」
意味わかんねえ無茶ぶりをしてきたボスは、後ろを振り返ることもせず、ただ前のガラスに向かって走っていた。勘ってなんだよ。人手がなさ過ぎて俺まで前線に駆り出されてた頃の話してる?
この人は定期的にこういう事をしてきては、俺を弄んでいる。しかも、俺なら出来ると本気で思っているのだ。質が悪い。
……一回凌ぐだけならば可能だ。持ってきたマリの魔力をすべて使う。手のひらにボール状に集め、迎撃の準備を整えておく。左肩にはもう一度犠牲になってもらおう。
「ッ!!」
投げられた槍は、真っすぐ俺に向かって迫って来た。速いが、丁度手を伸ばせば触れられそうな軌道。左手の甲から肩にかけて魔力をまとわせる。
なにも正面から受け止める必要はない。一度でいいならば、逸らせば足りる。
俺の左手中指に当たった槍は、そのまま腕を駆け上がり、肩を引き裂いて、ガラスを突き破り店の外まで飛んで行った。
「クソいてぇ……」
「良くやった。あとでボーナスをあげよう」
「いいから治してくれ……」
職分に合わない労働ばかりしてうんざりだ。でも、これで今度こそこれで終わりだろう。マリの隠密は距離を離せば気配が全く分からなくなるくらいには強力だ。後はジグザグに遠回りしながら合流すればいい。
俺たちは店を飛び出し、そのままビル群を駆け抜けていく。痛みのあとに罪悪感が残った。
「すみません、私も行きたいなんて言わなければこんなことには……」
「いえ、私です。所長のそばを離れるべきではなかった」
「……いや、どう考えてもコレのせいだろ」
「はは、耳が痛いな。……いたたたたた」
どうにか追跡を逃れたのち、俺たちはトラックの中で今日の反省会じみた事をしていた。各々あまりいい顔はしていない。俺の反省点としては、早く帰らせればよかったことだろう。そうすれば、無駄な戦闘は無かった。
そしてボスはといえば、大して気にしていない様子。ボケこの野郎。本当に反省して欲しいと思う。助けに来てくれたのは本当に良かったが、それとこれとは違うし。是非とも再発防止に努めてほしい。ボスの耳を引っ張りながらそう思う。
まあ、それはともかくとして。さっき引っかかったことを、俺はサキに聞いた。
「……で、なんであの時あの娘の手を取らなかったんだよ」
「えっと、説明が難しいですね……一言で言うなら……」
あの時。キョウコに手を差し伸べられたとき、サキは迷うだけでなく明確に拒否した。あの場面では、どう考えても手を取るのが一番だったろうに。いまいち信じられないが、その理由が肉欲ではないのなら、一体なんだというのか。
「愛ですね、愛」
……何を言っているんだ。コイツのことがよく分からなくなってきた。ただのエロガキではないのかもしれない。