長生きしまくったさ、エルフとして   作:おおは

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リュグナーとエルフ②

〇四話

勇者ヒンメルの

死から28年後

北側諸国

グラナト伯爵領のある宿の一室

 

 

 

 

 

 

 

「フフン~フフン~フンフンフン。フフン~フフン~フフフフン」

 

宿のベッドで俺はコートを脱ぎ、軽装になってベッドに潜り込む。

前世と違い、パンツ一丁で寝られないのが長年経っても残念で仕方がない。

まぁ今でもほぼ変わらん恰好で寝るときがあるが、貧相なので問題ない。

エルフってそういうものなのだろう。ゼーリエなんて男と間違えられたこともあったらしい(※1)

 

「さて……歌うのはいいがやることがないな……」

 

ベッドに突っ伏しながら俺は心地良さに身を委ねる。

隣の何故か同室になったフェルンとフリーレンのベッド達は至って綺麗だ。

 

「でもアウラとフリーレンの戦いは見に行ってみたいな……」

 

あのシーンは葬送のフリーレンでも屈指の名シーンだった。

見逃す手はないが、あれはまだ先の話だ。

 

「少し眠たくなってきた……」

 

ベッドに突っ伏したせいだ。

少し寝よう。俺は力を抜き、ベッドに身を包まれながら目を閉じた。

 

 

 

 

「そろそろ伯爵の屋敷だな」

 

フェルンとシュタルクが道を歩く。

周囲を歩く人はあまりいない。

ふと、ローブを被った人とすれ違った。

 

「……フリーレン様?」

 

振り返ったフェルンの声に、ローブはピタリと止まった。

 

 

 

「なんでこんな所にいるんだ?」

 

路地裏に移動したシュタルクが問いかける。

 

「まさか、脱獄したんですか?」

「……仕方がなかったんだよ。牢屋にいたらドラートとかいう魔族が襲ってきてさ。一応倒したんだけど。魔族って死んだら魔力の粒子になって消えちゃうじゃん」

「それがどうかしたんですか?」

 

フェルンが何でもないようなことのように問い掛ける。

 

「そいつ、牢番の衛兵を殺していたんだよね」

「……衛兵殺しで極刑にされるかもしれませんね」

「でしょ。面倒臭いから私は街を出るよ」

 

再びローブを被ったフリーレンが路地裏を出ようとする。

 

「待ってください。この街を見捨てるつもりですか?」

 

フェルンの呼びかけにフリーレンが振り返る。

 

「?フェルン達で倒せばいいじゃん」

 

さも当たり前であるかのように言った。

 

「……俺達が敵うような相手じゃねぇって」

「相手が強かったら戦わないの?」

 

フリーレンの問いかけに、二人は何も言わない。

 

「それに私は二人が魔族達より弱いだなんて微塵も思ってないよ」

 

再びスタスタと歩き出すフリーレン。

すると、突然シュタルクが土下座をした。

 

「待ってくれよ!!戦うからさ!!せめて手伝ってくれよ!!」

「……ならベトスにでも頼むといいよ」

 

未だ土下座をやめないシュタルクにフェルンが蔑むような視線を送る。

 

「往生際が悪いですよ。ベトス様に頼む頼まないにしても腹を括りましょう」

 

フェルンがシュタルの首根っこを掴み、ズルズルと引きっていった。

残されフリーレンはふと真剣な表情をどこかへ向ける。

 

「こちらの様子を伺っているな……七崩賢 断頭台のアウラ」

 

ローブ越しにフリーレンは不敵な笑みを浮かべた。

 

「私だって強い相手との戦いは大嫌いだ。嫌な事は早めに終わらせないとね――――――」

 

 

 


 

 

 

私は漸く一人で歩き出したシュタルク様と一旦宿に向かっています。

シュタルク様が先ほどから「一回でいいから!!頼みに行こう!!」と言って駄々をこねるので仕方なくベトス様に一応頼みに行くのと、侵入するつもりなので夜がいいと思ったからです。

 

「腹を括ったはずですよね?」

「でもさぁ、あの魔族強いんだぜ?」

「それ関係のある話なんですか?エンデを目指している時点で死ぬときは死にます」

「辛辣ッ!!」

 

涙目で叫ぶシュタルク様のことはさておき、如何にしてリュグナーと呼ばれた魔族を殺すかが問題になってきます。

フリーレン様曰く、私は魔力を隠すのが上手らしいです。

それを利用すれば倒すのはともかく、不意打ちはできるかもしれません、

そんな風に考えていると宿に着きました。シュタルク様と別れ、私はベトス様がいるであろう部屋の扉を開けます。

しかし、そこには思いもよらない光景が広がっていました。

 

「寝てる……」

 

何とベトス様がベッドで熟睡しているのです。

一体一日何時間寝ているのでしょうかエルフは。生きる時間に比例でもするのでしょうか。

もしそうなら私も年を取ればこうなる運命なのかもしれません。絶対に嫌ですね。

 

「すみません、起きてくれませんか?すみません」

 

起こそうと揺すりますが、てんでダメでした。

恐らく起こすのはフリーレン様よりも至難の業でしょう。

しかし、これでは再びシュタルク様の癇癪を味わう羽目になります。

 

「……仕方ありませんね。あまり使いたくはなかったのですが」

 

私はある方法で運ぶことにしました。

 

 

時は経ち、夜。

 

 

「……なぁ、そんな運び方していいのか?俺らよりはるかに年上だぜ?」

 

グラナト伯爵の屋敷へと向かう私と微妙な顔をするシュタルク様の隣には、浮いているベトス様の姿がありました。

最後まで起こす努力はしましたが結局起きることはなかったので、コートだけ着せ、浮かせて運ぶことにしました。

魔族と戦う前に魔力を使うのは悪手ですが、シュタルク様の相手+ベトス様がいれば私達が死んでも街は無事になるだろうという二つの要因を天秤にかけて判断しました。

 

「大丈夫です。それにこれでも起きません」

 

私の隣で浮いているベトス様は浮いていてもぐっすりです。

すぅすぅという可愛い寝息まで立てています。

寝相が悪くないのがせめてもの救いなのでしょうか……。

 

 

やがて着いたグラナト伯爵の屋敷は立派な城壁で守られています。

常人には到底飛び越えれないほどです。

飛行魔法が基本一人専用であることを踏まえ、まずベトス様を上に放り投げます。

上がどうなっているのかは分かりませんが、大丈夫でしょう。

 

「なぁ本当にいいのかよ。こんな忍び込む真似して……放り投げて」

「では門番に和睦の使者を殺しに来たとでも言うつもりですか?」

「……確かにそうかもな」

 

シュタルク様が飛び上がって壁に手をかけ登っていきます。

相変わらず人間とは思えない挙動です。

途中で私に手を差し伸べてきましたが、気にせず飛行魔法で上がります。

するとそこにはようやく起き上がったベトス様の姿がありました。

 

「痛……ん……ここどこだ……?」

「ようやく起きましたかベトス様。ここはグラナト伯爵の屋敷の庭です」

「ええ……まさか俺を浮かせてここまで運んだのか?」

「そのまさかです」

「ええ、よくやったな……でも手伝いはする気がないぞ?」

 

ベトス様が立ち上がり、コートについた土汚れを手で払いました。

やはり手伝う気はないようです。

 

「どうしてですか?」

「君達の成長のため。恐らく、フリーレンもそのつもりでここの魔族を任せたんだろう」

「……なるほど。だそうですよ、シュタルク様」

 

私達がシュタルク様の方を見ます。

 

「分かったぁ……分かったから。戦うよ……」

「それでいいです」

「あ、でもここまで誘拐されたし付いていくか。グラナト伯爵と会うまではだが」

 

ベトス様が眠り目を擦りながら言います。

 

「分かりました。ではさっさと行きましょう」

 

コソコソと動き、ある窓のロックを魔法で外して中に入ります。

 

「やけに静かだな……」

 

屋敷の中は誰もいないようにシンとしています。

私達は月光だけを頼りに屋敷内を静かに駆けました。

 

 


 

 

「……私は魔法が大好きでね」

 

暗闇が覆う屋敷の広部屋で、リュグナーが窓越しの月夜を眺めながら呟いた。

 

「かの腐敗の賢老クヴァールが人生の大半を掛けて人を殺す魔法を開発したように、我々魔族は長い寿命の中で一つの魔法の研究に生涯を捧げる。だが魔法というものは不思議でな。大魔法使いフランメのような千年前の天才が作り上げた魔法が現在の魔法を凌駕することもある」

 

リュグナーが背後で椅子に縛られ血だらけのグラナト伯爵へと振り返る。

 

「天才は嫌いだ。積み重ねたものの美しさがない」

 

グラナト伯爵の前で屈むリュグナー。

傍には静かに控えるリーニエもいた。

 

「代々大魔法使いフランメの防護結界の魔法の管理を任されているのは貴方がたグラナト家だ。だから結界を操作する魔法があるはずだ。それを教えろ」

 

リュグナーがグラナト伯爵の目前で鋭い眼光を向ける。

だがグラナト伯爵は苦笑するだけで、無言。

 

「……少し時間を置くか。よく考えるといい」

 

リュグナーが余裕のある声で言いながら立ち上がる。

 

「人類にとっては待たせるのも、有効な外交戦術の一つだろう?」

 

リーニエを連れ、部屋の扉を開ける。

 

「吐かなければ待っているのは拷問の続きだけだ」

 

――――パタン。

 

扉が閉じられる。

静かになった部屋。

グラナト伯爵の眼前には、静かに佇む窓越しの月。

最後に見る月だろう、とグラナト伯爵は思った。

 

 

 

――――だがそうはならないらしい。

 

……ギィ。

 

ふと聞こえた扉の開閉音に、グラナト伯爵が視線を向ける。

 

「こんばんわグラナト伯爵。ただのレスキュー隊のご到着だ」

「……なんだ。エルフの魔法使いと昼間の冒険者のガキか……」

「ひでぇ有り様だな。ここまですんのかよ。今助けてやる」

 

ガキと呼ばれた赤髪の青年、シュタルクが懐から小刀を取り出す。

手を縛っている縄に小刀を当てた。

 

「……震えているな」

「悪いかよ」

「いや、勇敢だ。死んだ息子も出陣前は震えていた……」

 

グラナト伯爵が血に濡れながらも、目を細める。

 

「クソ。縄が切れねぇ。魔法か?」

「……儂のことはいい……どうせもう助からん」

 

吐き捨てるように言うグラナト伯爵。

すると入口で静観していたエルフの少女、ベトスがシュタルクの隣に立った。

 

「ちょっとどいて。流石に見捨てるつもりはない」

 

小刀を必死に動かすシュタルクが横に避けると、ベトスは手を縄に翳した。

 

大体何でも切る魔法(レイルザイデン)

 

バスン。

 

切れなかった縄は一瞬にしてバラバラになった。

 

「この魔法は一定使い勝手がいいが、才能がないとそれ以上使えないのが不便だな」

「……何だ、お前はガキのお守りか?」

「まぁそんなところでもあるかもしれない」

「だったら儂はもういいから街の人々の避難を……」

 

グラナト伯爵が言いかけた時だった。

ガチャリと、部屋のドアが開かれる音がした。

 

「……リュグナー様、鼠。」

 

紫色の髪をした少女の姿をした魔族、リーニエが言う。

リュグナーは静かに部屋を見渡した。

 

「グラナト卿。これは?」

「ただの反逆だ。気にするな魔族。ささいな事だろう」

 

グラナト伯爵がフッと笑う。

リュグナーは表情を変えずに自身の魔法、バルテーリエを発動する。

だが既に動いている者がいた。

 

「魔族と正々堂々戦うかっての……霧を操る魔法(ネベラドーラ)

 

ベトスが虚空から取り出した杖を持ち唱えると、部屋を濃密な白霧が覆った。

部屋にいるもの全てが輪郭を失う。

シュタルクも、グラナト伯爵も、リュグナーも、リーニエも。

 

「これは……魔力の霧か」

 

霧越しにリュグナーの驚く声。

 

「リュグナー様、魔力が練りにくいよ」

「……物理的な視界に加え魔力探知もかなりのレベルで妨害されている。実に興味深く、厄介な魔法だ。やはりあの魔法使いも相当な手練れか」

 

霧の中リュグナーが部屋の配置の記憶を頼りに動こうとする。

だが次の瞬間、霧を突き抜けて白色の閃光がリュグナーを襲った。

左腕と左脇腹を穿ちながらリュグナーを壁に叩きつける。

 

(この魔法は……)

 

壁にもたれ掛かりながら僅かに驚くリュグナー。

視界の先には窓から飛行魔法で入って来た紫色の髪をした魔法使いの姿。

いつか見たことがあるような、冷酷な視線をリュグナーへ向けている。

魔法を発動しようとするリーニエをリュグナーは動けないままだが止めた。

 

「……小娘、この魔法はなんだ?」

 

血をどくどくと流しながらもリュグナーは至って冷静に問いかけた。

 

「一般攻撃魔法。確か魔族の魔法体系では人を殺す魔法(ゾルトラーク)と呼ばれているものです」

「これが人を殺す魔法(ゾルトラーク)だと?馬鹿なことを言うな。我ら魔族は人を殺す魔法など半世紀以上前に克服している……この魔法を誰から習った?」

「……?時間稼ぎのつもりですね。早く止めを」

 

フェルンが冷たい視線と共に杖を向けるが、間にリーニエが立ちはだかる。

 

「フェルン、伯爵の怪我が酷い。やりあう時間はねぇぜ。退くぞ」

「その通りだ。早く回復の魔法が使える僧侶のところに行かないといけない」

「……はい」

 

グラナト伯爵を担いだシュタルクとベトスの説得に、フェルンは杖を構えつつ退いていった。

部屋に残ったのは魔族である二人だけ。

 

「止血が終わり次第追うぞ。お前は戦士の方をやれ。私の血が付着している。見失うことはない」

「リュグナー様が手を下すほどの相手なの?全員私が……」

「エルフの魔法使いはお前じゃ勝てない。それに、お前が先ほどの魔法を食らっていたら死んでいた。あれは改良が施されている。最早魔族を殺す魔法だ」

 

リュグナーの脳裡に過るのは、同じ魔法を受けた過去の記憶。

満身創痍の自分と、大量の同族の死体の上で浮かぶエルフの少女。

その視線と、衛兵に取り押さえられたエルフの少女の視線が重なる。

 

「……そうか。思い出した。フリーレンだ。人類の人を殺す魔法(ゾルトラーク)の研究解析に大きく貢献し、歴史上で最も多くの魔族を葬り去った魔法使い」

 

リュグナーの表情が忌々しいものを見たかのように鋭くなる。

 

「葬送のフリーレン。……私の嫌いな天才だ」

 

 

To be continued.

 

 




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