深紅の兇猛   作:眼鏡熊@ヒロアカ完走

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深紅の兇猛

 

 泥に落ちる。

 灰にまみれる。

 血と、汗と、大地の味が口腔を占める。

 ()に親はもう居ない。迷宮(ダンジョン)で野垂れ死んだ。

 勝手に俺に恩恵(ファルナ)を刻ませて、責任も取らずとっとと逃げた。

 怒りなんて最早ない。心にあるのは感情を埋めた灰だけ。

 俺以外になりたかった。俺になんてなりたくなかった。

 だから――――――――

 

 

 灰を被る、魔法を得た。

 手始めに性別を変えた。それっぽい体にそれっぽい感じの無害で弱いサポーターの女になる事にした。

 

 笑いそうになった。

 

 この身体に、口調を変えてやるだけで冒険者共は舐め腐るか信用する。

 だから、金を奪って逃げて、別の自分に変身し直す。

 身体を変えるのに抵抗は無い。実態が変わる訳でもないし。

 身体の細かいところなんて知ってる。金のためならなんでもしたから。

 

 ああ、それと言えば変身魔法を手に入れてからは割と楽なことも多かった。

 小人族(パルゥム)の美青年も気取れたから。

 金は稼ぎやすかった。いっそ改宗(コンバージョン)でもするか?

 いや、高いからやめとこう。

 

 なんて、現実逃避したまま。今日も灰に埋まった。

 激怒なんてもう、顔を隠している。

 

 

 

 

 ―――――――白に出会った。

 冒険者なんて似つかわしくない。凡そ町娘か令嬢の方が似合っているだろう少女に出会った。

 ああ、丁度いいからカモにしよう。と、犬人(シアンスロープ)の少女に化けて。

 

「冒険者様、冒険者ぁっ」

 

 媚びるように声をかけ、サポーターになった。

 

 

 気が狂いそうになった(・・・・・・・・・・)

 

 迸る炎雷。煌めく剣閃。

 才に溢れた冒険者に、忘れていた嫉妬が顔を出しそうになる。

 羨ましい。恨めしい。この差は、なんだ?

 種族か?生まれ育った環境か?運か?

 全部(・・)だ。俺には運がなかった。俺はロクな愛も受けなかった。俺は小人族(パルゥム)だった。

 心のどこかに『言い訳だろ』と嘯く何かがいる。

 不快だった。気持ちが悪かった。でも―――――

 

 

「はい。リリの分」

 

 

 暖かった。ぬるま湯のように居心地が良くて。俺のことを見てくれていた。

 サポーターだから。なんて取り分を減らすでもなく、ありがとう。と言って分前をくれる。

 裏切りたくない。ここで、ぬるま湯に―――――

 

 

「一緒にあいつを嵌めねえか?」

 

 

 崩れ落ちるような、音がした。

 必定。これは正しく自業自得。俺が周りを騙し続けたから。俺が我欲を優先させ続けたから。

 やったら、やり返される。ただそれだけの事だった。

 急速に心が死んでいく。何を高望みしていたのか。と、何を期待していたのか。と。

 人を騙して、奪ってきた俺に、誰かと歩む道なんてない。

 

 

 そう、思っていたのに―――――――

 

 

「リリィイイイイイイ!!!」

 

 

 暗闇を切り裂くような、声がした。

 福音のような、鐘音のような、傷つけたくないと思った、少女の声がした。

 傷をこさえて、それでも尚、美しい深紅(ルベライト)の瞳に、美しい処女雪のような白い髪。

 地獄にありて女神のような、ヒカリ。

 

 

「なんで、なんで()を助けたんですか!」

「えっと⋯女の子だから?」

 

 その言葉に余計腹立たしくなり、やけっぱちのように歌を紡ぐ。

 

「【響く十二時のお告げ】!これでもですか!?俺は男だったんです!貴女を騙していたんですよ!?」

「じゃあ―――――」

 

 リリだからだよ(・・・・・・・)

 その言葉に、溢れるように涙が流れる。

 欲しかった言葉が、願ってやまなかった存在の肯定が齎される。

 同時に―――――――

 心の赫怒が灰を焼く。お前は何をしている?

 このひとに、何をした?ふざけるな、この人の優しさに甘えるな。

 お前は人生をかけて、このひとに贖わなければならない。

 

 

 

 忠誠を、誓おう。

 小人族(パルゥム)として、騎士あらざる愚物が、貴女にその誓約(ゲッシュ)を謳おう。

 溢れる涙を引っ込めて、心に宿る赫怒を確信しながら。

 俺は彼女に切り出した。

 

誓約(ゲッシュ)です」

「フィアナ騎士団の?」

「ええ。それです。貴女に誓います。()は貴女を裏切らない。貴女から貰った沢山のものを、絶対に忘れない。貴女だけを『前』には行かせない。僕の、生涯をかけて」

 

 その誓いを口にした時、瞳の輪郭に赤い『熱』を感じた。何かも知らない、どうあるのかも知らない、『熱』を。

 誓いを聞いたベル様は、綻ぶように

 

「うん。信じてる」

 

 笑った。

 嗚呼、負けだ。認めよう。僕は愚かにも貴女に心を奪われてしまった。

 貴女と結ばれようなんて思わない。僕にはなにもないから。貴女が汚れてしまうから。

 そもそも眼中に無いだろうけどね。こんな小人。ふざけるなベル様がそんなこと思うはずないだろ解釈違いも甚だしいぞ貴様。

 

 そして、歩き出す。

 

 

 

 ―――――――――――

 

『ヴモォオオオオオオオ!!!』

 

 また、絶望した。

 

「リリ、逃げて!」

「嫌です!!」

「なら―――――助けを呼んできて!私の為に!」

 

 ここで時間を稼ぐから!と奮戦する彼女を前に、無様にも頭から血を流す()は、

 

「ちくしょう!!!!」

 

 自分を殺したくなった。無力感に苛まれて心がズタズタになった。なにが、貴女だけを前に行かせないだ。なんの力も無いくせに!!

 なんの、力も⋯!!

 全速力で駆け出した。死にものぐるいで駆け巡った。

 そこで―――――――

 

 一族の、光に出会う。

 

「お願い⋯します⋯冒険者様」

 

 ベル様を、助けて。

 

 

 

 

 ―――――――――

 

 結局、それが成されることは無かった。だって、

 

「もう私は、アイズ・ヴァレンシュタインに助けられる訳にはいかない!!」

 

 彼女は『冒険者』になったから。

 僕は灰にまみれたままだから。

 彼女と僕が運ばれた後、僕は市壁の上で月を見ていた。

 

「畜生」

 

 心に憤怒が溢れ出す。怒りは醸造され、精錬され、赫怒言うにも生ぬるいものになる。

 

「畜生っ」

 

 拳で壁を叩く。拳から血が吹き出る。

 壁も壊せない自分の貧弱さに情けなくなって、怒りはそれを納めてくれない。

 

「なんで⋯なんで俺は⋯」

 

 こんなに、弱い。

 

 怒りは、収まらなかった。

 

 怒りを知る。

 怒りを知る。

 怒りを、識る。

 

 【怪物進呈(パス・パレード)】でもそうだった。

 『黒いゴライアス』の時もそうだった。

 そんな時だ、

 

 赫が、吹き出たのは。

 

「ぁ⋯ぁああああああああ!!!」

 

 目の前に、泣き崩れるベル様が居た。

 本拠(ホーム)を壊され、子供のように涙を流している彼女がいた。

 ここは、彼女にとってはただの拠点ではない。

 顔も見たことのない母が愛した居場所。

 育ててくれた義母(はは)が、愛した場所。

 そう、照れくさそうに教えてくれたのは彼女だった。

 

 護れなかった。

 お前に、力が無いから。

 お前が、愚鈍だから。

 お前が、お前が!!!

 

「俺が、弱いから」

 

 グシャグシャに砕けたような心をしかし、

 ――――――赫怒と誓いが繋いで留める。

 怒りを忘れるな。誓いを忘れるな。と、この身に宿る血と魂が教えてくれる。

 泣いた彼女を支えたいと、行動を起こそうとして。

 

「私に着いてこい。リリクス」

 

 過去が、顔を出した。

 赫が視界を支配する。

 それがどうした(・・・・・・・)

 ニヤつく団長の腹を殴りつけた。

 

「ガッ⋯!!?な、こ??」

 

 明らかに効いていた、俺はLv.1の筈なのに。

 頽れるザニスの首に手を添えて。

 

 ギチィ⋯!!!

 

 あらん限りの力で締めた。

 

「俺をソーマ様のところに連れて行け」

 

 さもなくば、

 さらに力を強めると、周りの団員が慌ててとめる。

 

「わ、わかった!わかったからやめろ!!」

「それはシャレにならねえ!!」

 

 

 

 そして、【ソーマ・ファミリア】で。

 俺はソーマ様と対面していた。

 

「脱退の許可を頂きに来ました」

「金はどうした金はァ!」

「今までの所業全部ギルドに流していいんだぞ愚図」

「なっ」

「それともまた」

 

 絞められたいのか??

 努めて冷静に問いかけると、ザニスは顔を青ざめさせて言葉を止める。俺の目に、やたら視線を向けて。

 

「脱退してもいい。だが」

 

 これを飲んでなお、そう言えたならば。の話だ。

 差し出されるのは、神酒(ソーマ)。心を砕く酒。

 でも、怖くなかった。赫怒がいるから。

 グビ、と一口で煽り―――――

 

 舌を出す。

 

「まずい」

「⋯なんだと?」

「これならベル様とヴェルフ様と飲んだ安酒の方が万倍うまい」

「⋯そうか」

 

 変わったな。リリクス・アーデ。

 

「変わらなきゃならなかったんだよ。ソーマ様」

 

 育ててくれて。ありがとう。

 そう言うと、ソーマ様は弾かれたように顔を上げ、所在を失うように手を伸ばした。

 

「貴様⋯簡単に脱退できると――――」

「『邪魔をするな』」

「ヒッ」

 

 神威の、解放。

 水をさしたザニスに、ソーマ様は激怒を浮かべながら神威を顕にする。

 

「⋯団長もすげ変えなければな」

 

 なんて、おどけるように言いながら、ソーマ様は改宗(コンバージョン)をしてくれる。

 

「最後に⋯更新させてくれないか?」

「それは、何故?」

「罪を、忘れない為に」

「⋯分かりました」

 

 更新される。これまでの経験が全て、俺に還元される。

 更新と手続きの為の変更を終えて、写しを貰って――――――

 目を、疑った。

 

反則(ちーと)しました?」

「してない」

「ほんと??」

「ほんと。何があったんだ」

「俺が知りたい」

 

 現実逃避気味に、ステイタスの写しに目を向ける。

 

 

 リリクス・アーデ

 Lv.1(改宗可能)

 力:H106

 耐久:H189

 器用:G298

 敏捷:E468

 魔力:E498

 

 スキル

 【縁下力持(アーテル・アシスト)

 

 【白雪誓約(スノウホワイト・ゲッシュ)

 ・格上戦闘時獲得経験値に補正。

 ・魔法スロットを3に拡張。

 ・槍使用時発展アビリティ【槍士】の発現。

 ・補正値は誓約への誓いに比例。

 ・誓約を守る限り効果持続。

 

 【深紅勇猛(ルベライト・フォルティア)

 ・任意発動(アクティブトリガー)可能。

 ・精神汚染効果侵犯時及び、激昂時自動発動。

 ・精神汚染効果に対する対抗。

 ・精神汚染効果侵犯時、全能力値(アビリティ)に超高補正。

 

 魔法

 【シンダー・エラ】

 

 【ルベライト・フィネガス】

 詠唱式:【兇猛の残滓よ。赫怒を以て魔槍を成せ。深紅への誓いを糧に】

 高揚魔法。発動時戦闘意欲上昇。

 

 【エクエス・ウェスタ】

 詠唱式:【イグニティオ】

     【エグザルド】

 付与魔法。限界を超えてチャージ可能。

 

「ていうか、フィネガスって」

勇者(ブレイバー)の有名な魔法だな」

「いやですよこんなの!!俺があれのファンみたいじゃないですか!」

「違うのか?」

「違いますあんなの!!!」

 

 なんというか、ムカつくのだ。お前はそうじゃないだろう感があるのだ。

 だから嫌いだ。

 

「あ、あとこのステイタス漏らしたらぶっ飛ばしますからね」

「本当に変わったな」

 

 ドン引きした顔はちょっと人らしくて、あやしてもらった朧気な記憶がよぎった気がした。

 

 

 

 ――――――――――

 

 薄暮の朝に、彼女たちを訪ねる。ベル様達が待つ場へと向かう。

 

「あ、リリ!!って―――――」

 

 その、装備は?

 驚いている彼女に苦笑してしまう。そうですよね。あなたにとっての僕はサポーターだから。

 

「おいリリ助!冒険者転向するなら言えよ!」

 

 装備作ってやったのに!と怒るヴェルフ様にも苦笑して、他に集まってくれている【タケミカヅチ・ファミリア】から改宗してくれた命様と【アストレア・ファミリア】から移籍してくれたリュー様にも会釈する。

 

「それにしても、待ってて欲しいって言ってたけど⋯何をしてたの?」

炎金の四戦士(ブリンガル)石火(フリント)にボコられてました」

「え?」

「【フレイヤ・ファミリア】の色ボケ小人族(パルゥム)共にボコられてました」

「なんでぇ!?」

「僕が聞きたいですよそんなことぉ!」

 

 あの後すぐ【フレイヤ・ファミリア】に拉致されて神フレイヤと対面した。

 わけのわからないまま話を聞いていれば、どうやら神フレイヤはベル様の『ふぁん』らしく。ベル様を泣かせた神アポロンにバチ切れしているのだとか。

 どう落とし前つけちゃろうか。と思っていたら丁度僕の魂が輝いただかで、成長の余地があるからと連れ去りやがったらしい。

 ソーマ様も次の日には拉致られていた。

 「改宗可能にしたのに⋯」と黄昏ていたが、それで【フレイヤ・ファミリア】所属になったら本末転倒だろボケナスとのこと。

 湿っぽい別れをしただけに、とんでもなく気まずかった。

 まあ、そこからは―――――――地獄だった。

 なれない槍を持たされ、代わる代わる格上にボコられてダメだしと瀕死と回復と飯を繰り返すだけの地獄。

 ステイタスはゴリゴリ上がっていって、数値はもう訳の分からないことになった(限界突破した)

 なんならアルフリッグ様に善戦して負けてレベルアップした。最初のレベルアップが敗戦とかふざけんな。

 そこで魔法の話を聞いたらしくゴブニュ様がフルセットの装備を整えていて、僕に譲渡してくれたのだ。

 内容は白と金の鎧に、青地のインナー。同じ装いの剣と、槍。剣と槍には『誓樹のウォールナット』と『勇鉄』、『ディル・アダマンタイト』が使われている。

 代金を聞いたら「負い目があるからなしでいい。今だけはな」と言われた。今後もどうせお世話になりそうではあるが、どうか。

 

 なんて話をしていると、ベル様が目を潤ませていた。

 

「私の、せいで」

「なわけないでしょう!?どう考えてもフレイヤ様の暴sぺけっ!?」

 

 何処かから石が飛んできた。絶対あの四兄弟だろ!!

 痛みに蹲りかけながらも、気を持ち直して。

 

()の選択です。拒否権がなかったとしてもアレは得難い経験でしたし、同族の先達からの経験値も美味かった。それに。貴女を助けたいと思ったのは僕の意思です。フレイヤさまは関係ない。感謝はありますけどね」

 

 あ。石来なかった。チョロ〜〜!

 

 ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!

 ガガガガガッ!!!

 

「うべ」

「リリィ!?」

「リリ助ェ!?」

「リリ殿!?」

「アーデ氏!?」

「リリくん!?」

「ど、どこから攻撃が!?」

 

 一瞬で警戒に移るリュー様を尻目に、僕はなんともなさげに続けた。

 

「問題ありません。色ボケの仕業ァ!?」

 

 ヒュガッ!

 またも投石。人の身体をなんだと!!!

 

「尊敬する先達の有難い指導です」

 

 その声に満足行ったのか、ひゅるるるるるる〜〜。と緩くポーチが飛んでくる。

 中身は回復薬と手紙。

 手紙の方には「生意気な口を叩くなチビ助」とのこと。これ絶対アルフリッグ様とヴァン様じゃないな。

 あ、なんか喧嘩の音聞こえる。

 

「な、なんというか」

 

 仲良くなったんだね。と苦笑するベル様の善意が痛い。

 いつかギャフンと言わせてやるからなホントに。

 何処からか、『お前にはまだ無理だ』と重なった5つの声が聞こえた気がする。

 

「行こうか」

 

 その声に頷き、僕は馬車へと駆け込んだ。

 出発の前に荷馬車の上で、ヘスティア様によるステイタス更新を行う。

 

「う、うわぁ⋯」

 

 これ改造食らってないの?という言葉に。残念ながら。と答えた。

 

 リリクス・アーデ

 Lv.2

 力:A856

 耐久:S966

 器用:SS1065

 敏捷:B756

 魔力:S905

 耐異常:I

 

 スキル

 【縁下力持(アーテル・アシスト)

 

 【白雪誓約(スノウホワイト・ゲッシュ)

 ・格上戦闘時獲得経験値に補正。

 ・魔法スロットを3に拡張。

 ・槍使用時発展アビリティ【槍士】の発現。

 ・補正値は誓約への誓いに比例。

 ・制約を守る限り効果持続。

 

 【深紅勇猛(ルベライト・フォルティア)

 ・任意発動(アクティブトリガー)可能。

 ・精神汚染効果侵犯時及び、激昂時自動発動。

 ・精神汚染効果に対する対抗。

 ・精神汚染効果侵犯時、全能力値(アビリティ)に超高補正。

 

 【赤勇騎唄(フィアナ・フォルティア)

 ・発展アビリティ【剣士】、【騎士】の発現。

 ・自身より大きな敵との戦闘時、『勇気』を宿す限り器用、敏捷の能力値に補正。

 ・任意の伝播能力拡張。

 ・『前』へと進む限り全能力値に補正。

 ・『勇気』を宿す限り効果持続。

 ・『勇気』の丈と質により効果変動。

 

 魔法

 【シンダー・エラ】

 

 【ルベライト・フィネガス】

 詠唱式:【兇猛の残滓よ。赫怒を以て魔槍を成せ。深紅への誓いを糧に】

 高揚魔法。発動時戦闘意欲上昇。

 

 【エクエス・ウェスタ】

 詠唱式:【イグニティオ】

     【エグザルド】

 付与魔法。限界を超えてチャージ可能。

 

「しかし、騎士の聖火(エクエス・ウェスタ)ねぇ⋯」

「なんですか?」

「いや、随分騎士関連っぽいのが出てるなって」

 

 騎士に憧れでもしたのか〜い?と、にやにやするヘスティア様を尻目に、ふと、立ち返る。

 

「そういえばこれ何でなんですかね?」

「え?」

 

 分かってないの?自分で。と聞かれたので、すぐさま頷くと。

 

「無自覚怖〜〜」

 

 と、返された。無自覚とは?

 

「ま、今後次第だね」

 

 へにゃりと笑うヘスティア様にどうしても何も言えなくて、仕方なしに納得してあげた。

 

「行ってらっしゃい!信じてるぜ!」

『はい!!!』

 

 

 

 ―――――――――

 移動中の夜半、僕は中々寝付けなくて何となく起きて焚き火の番をしていた。

 すると、交代のベル様がやってきて。

 

「お疲れ様。リリ」

「おはようございます。ベル様」

「む⋯もう様付けやめない?リリももう冒険者だよ?」

「性分ですので」

 

 あと、貴女には負い目しかない。いや嘘だ。憧れもある。恩もある。誓いもある。

 そんな御方にタメ口なんてきけない。

 すると、ベル様は私をじっと見つめてくる。

 なんだか照れ臭くて目をそらすと、ベル様は拗ねたようにむくれた。

 

「⋯いつかタメ口にしてね?」

「善処します」

「ダメです。誓いに加えてもらいます」

「横暴です!」

「妥当です」

 

 だって、もう同じ家族(ファミリア)だよ?

 そうして拗ねるベル様には強く出れなくて、折れたように答える。

 

「そうですね。いつか⋯貴女に届いたなら、その時は」

「いつ私が離したの?」

「僕の勝手な感覚なので」

「頑固」

「ブレない男と呼んでください」

 

 ぷ、ふふ。あはははははは!

 何となくおかしくなってふたりで笑いあってしまう。

 今の現状が嘘のようだ。暗黒期は未だ終わらず、オラリオも前の『最強』に届いたなんて言いようもない。

 そんな弱体化甚だしいこの英雄の都で、彼女はただ輝いている。

 

「⋯届かせたいな」

「?」

 

 零すような声は運良く聞こえなかったようだ。

 ああ、届かせないとな。

 

「待っていてくれますか?こんな意気地のない僕ですが」

「遠くに行ってるつもりもないけど、家族を置いては行かないもん」

 

 当たり前でしょ?と胸を張るベル様はやっぱり眩しい。

 それに、とベル様は切り出して。

 

「リリって弟みたいで放っておけなくて」

 

 ほう?ほぉ〜〜〜〜う?弟。お・と・う・と。言うにかいて弟もうされますかこの純朴少女。

 どこに行っても可愛がられてホイホイ着いていきそうになる貴女を止めているこの男の前で。

 ほうほうなるほどなるほど。これは認識に齟齬があるな。と感じた。

 彼女は14。僕は15。本来なら逆のはずだろう。

 

「そろそろ僕も明日に備えて寝ますね」

「明日が最後の移動日だもんね。おやすみなさい」

 

 そう答える天然純朴ぽやぽや白兎に、

 

「そういえば」

 

 立ち上がったままベル様の耳元に口を近づけた僕は、何時も意識して上げている声音を戻して。

 

()は貴女より歳上ですよ?」

 

 ベル。と言い残して、テントに戻った。

 

「〜〜〜〜〜ッ!?!?」

 

 声にならない鳴き声を上げたうさぎを置いてけぼりにして。

 

 

 ―――――――――

 

 びっくりした。

 びっくりしたびっくりしたびっくりしたびっくりしたびっくりしたびっくりしたぁ!

 

「⋯えぅ⋯えぁ」

 

 あんな声を、出すなんて。あんな、あんな大人のヒトみたいな声を出すなんて!

 それにベルって、ベル(・・)って!!!敬称抜いてくれた!!!!

 心臓がうるさい。【英雄願望(アルゴノゥト)】の大鐘楼(グランドベル)の時みたいに。

 顔が赤い。熱が暴れ回って消えてくれない。

 傷が、圧倒的な感情で塗りつぶされている。

 心を支配した、怒りも悲しみも、アポロン様やヒュアキントスさんへの印象すら、どうでもいい(・・・・・・)。今はリリのことしか考えられない。

 

「あぁ、もう」

 

 勝手に遠くに置かないでよ。リリ。

 私の近くにいて欲しい。

 恥ずかしがり屋な栗鼠に逃げられた時のような感覚が抜けない。

 

「うぅ〜〜〜!!」

 

 アルフィアお義母さんに言いつけてやる!!

 と、ザルドが聞いていれば「やめてやれ!!!!」と本気で止めるレベルの報復を、軽く考えているベルはしれっと確定させた。

 

「⋯そういえば、リリに()使えるかな」

 

 ―――――――残光。

 

 ベルの言葉は夜闇に溶けて行った。

 

 

 ―――――――――――

 

 翌日、未だ顔の赤いベル様から、とある技術の話を聞いた。

 その名は――――――『残光』。

 能力強化持ちと、斬撃系の武器を持つ冒険者限定の技能。

 かつての『最強』と『最凶』の使っていた技能。今となってはオッタルと、『学区』の『騎士』が使うもの。

 

「オッタルさんも使うものですよね」

 

 叩き込まれて教えられました。と告げると、ベルは跳ね上がるように顔を向けた。

 

「使えるの!?」

「滅茶苦茶しんどいですけど、一応」

「何か嬉しいな⋯リリも使えるんだ」

 

 リリも⋯リリ、も???

 

「ベル様も使えるんですか!?」

「お義母さんと伯父さんに教えて貰って」

 

 えへへ、と笑う彼女が怖い。それ言外にゼウスとヘラの血縁関係ですって話してるようなもんですって。

 あと聞いた感じまだそのおふたり生きてますよね?

 え???【アポロン・ファミリア】あれに喧嘩売ったの??

 バッカじゃねえの!?

 と、脳みそが著しい混乱を受け入れられず、思考が分割する。

 

「へ、へ〜〜。お揃いですネ☆」

「ね!」

 

 ニコニコと笑うベル様は可愛いなぁ!(脳死)。

 これ俺が無様晒したら死ぬくね????

 ああダメだロールプレイ切れてるわ。

 ⋯ヨシ。なんとかなった。

 

「⋯勝ちましょうね?」

「うん。勝とう」

 

 あ。最初に言いたいことあるので皆さんは少し抑えててくださいね。

 と、大きめの声で言うと、全員から承諾が帰ってきた。

 さぁ、後は全部ぶち壊すだけ。

 バカの皮算用も。クソッタレな神の奸計も。ニヤついた冒険者の慢心も。

 この兇猛でぶちのめす。

 

 

 ――――――――――――――

 

 始まった。戦争遊戯(ウォーゲーム)の競技は『攻城戦』。

 門構えの前に降り立つのは、栗鼠のような小人族(パルゥム)の少年。

 少年は一人、城の前で歩みをすすめ、大きな声でつむぎ出す。

 

 『【兇猛の残滓よ。赫怒を以て魔槍を成せ。深紅への誓いを糧に】』

 

 親指に深紅が宿る。それを見て驚愕したのは神ロキとその眷属たち。

 

「あれは!!!」

 

 あれはフィンのものと同質。人に力を与え、狂わせる兇猛の赫。

 

「僕の⋯【ヘル・フィネガス】?」

 

 それを見たフィンは、名状しがたい焦燥に追われる。喜ぶべきそれは、何故か悲哀の感情と怒りを表している。

 

『【ルベライト・フィネガス】』

 

 その親指を額に押し付け―――――――

 その瞳が、深紅に染まる。

 【ヘル・フィネガス】のアカとは違う。その、深紅。

 ベル・クラネルを知るものなら既視感を持つそれは、理性の輝きを確かに示していた。

 

『先ずはこれを聞いているであろう神アポロン』

 

 その声は怒りを宿し、熱を込めすぎて伝わらないほどに平坦だった。

 

『貴方は』

 

 ―――――――赦さない。

 灼熱の怒りが噴出し、隠されていた熱を吹き出す。

 

『貴方は僕の敬愛するあの人の、家族との思い出を奪った』

 

 【点火せよ(イグニティオ)】。その言葉と共に、その剣に炎が宿る。

 

『貴方はあの人に涙を流させた』

 

 【点火せよ(イグニティオ)】。今度は炎が溢れていく。

 

『でも、本当に許せないのは()だ』

 

 【点火せよ(イグニティオ)】。炎はその勢いを増していき、剣どころかリリの背よりも高くなる。

 それを―――――――――

 

 凝縮した(・・・・)

 

『彼女の敵を倒せない()も。涙を拭えない()も。この手で全てを終わらせられなかった()も』

 

 赦せない。

 リリはその手を振りかぶり、剣を抜き放つ体勢をとる。

 

だから(・・・)。今からするのは八つ当たりだ。ただの癇癪だ。神アポロン』

 

 お前たちを叩き潰す。

 選手宣誓はもう終わり。

 

『戦争だァ!!!』

 

 【燃え上がれ(エグザルド)】。その言葉と共に振り抜き、

 瞬間。『残光』。かつての『最強』達の一撃が、城壁を断ち切り城に大きな傷を残す。

 

 それを見たアポロンは。

 

「なっ⋯な、なぁ!?」

 

 とんでもない顔をしていた。あの技能は、なんだ!?なぜ斬撃が飛んだ!?アレ(・・)は、なんだ!?

 

「「「「かっっっっっっけぇええええええええ!!」」」」

「イケメンすぎるでしょあの子!!!」

「ナイト様すぎメロ!!!」

「アポロン当て馬以下なのおもれ〜〜!!」

「勝てるかなあれ」

「勝つだろもう。『残光』叩きつけてる上にLv.5の【疾風】いんだぞ」

 

「⋯マジ???」

 

 ヘルメスはただ1柱、あの少年がなし得たことの異常性に気づく。

 あの少年の変化に気づく。

 ああ、ああ!これだから!

 

「これだから君たちは最高なんだ!!」

 

 ひゃっほぅ!!!と諸手を上げて叫ぶ神を他所に、ヘスティアは冷や汗を流しながら盤面を見る。

 

「やり過ぎないでくれよ???リリくん」

 

 いやまじで!

 

 

 

 ―――――――――

 

「随分愛されてんな」

「愛されてますね」

「愛されていますね」

 

 三者三様のその言葉に、私は顔を赤らめるだけだった。

 もう!!もう!!!

 

「リリのバカァ!!」

 

 『英雄の残光(アルゴ・ウェスタ)』。次いだ残光が城壁を更に切り裂いていく。

 

「行くよ!!」

「おう!」

「「はい!!」」

 

 

 

 ―――――――――

 

 駆け抜ける。駆け抜ける。駆け抜ける。

 深紅に輝く瞳の奇跡だけが見えて、溢れる炎とその飛ぶ斬撃に、仲間が打ち倒されていく。

 最高速度で、最短ルートで轢殺していく。

 

「なんだ⋯あれは!なんなんだ!あの男は!!」

 

 アレは、知らない。あんな怪物ならとっくに有名になっているはずだろう!

 あれはまさに『不世出の怪物』。ウサギに手を出したことを起点として現れたような、最悪の深紅!!!

 

 次の瞬間。目の前に炎が広がって――――――

 

 意識は闇に落ちていった。

 

 

 ―――――――

 

 塔の前に立つ。

 この手に満ちる炎の槍を、解き放つように鍵言を告げる。

 

「【焼き尽くせ(エグザルド)】」

 

 炎が、塔を焼き切っていく。

 倒壊する。そこから現れたのはヒュアキントス。

 彼女を泣かせた。最悪の敵。

 

「貴様ァ!」

「【点火せよ(イグニティオ)】」

 

 足に炎を纏わせて加速。

 全身全霊の拳を叩きつける。

 

「ごぶっ!?」

 

 仰け反り倒れそうになる顔を掴んで。

 

「【点火せよ(イグニティオ)】」

 

 その顔を焼く。

 

「ァああああああああああああ゛あ゛!!」

 

 そのまま、パッと手を離して。ボディブローを叩き込む。

 

「ギ、サマ!ただのサポーターだった筈だろう!」

 

 なんだそれは、なんだ。お前は!!

 

「そのままじゃ居られなかっただけだ」

 

 お前があの人を泣かせたから。

 

「居たくなかっただけだ」

 

 あの人を守りたかったから。

 

「だから」

 

 お前を倒す。

「やってみろ!!」

 

 ひらりと輝くフランベルジュを、槍で掬い取り、かちあげる。

 そのまま右腕に槍を打ち込んで――――

 

 捻じる(・・・)

 

「がああああああ!?」

 

 攻撃の手を封じた。

 

「【我が名は】ぐあっ!?」

 

 詠唱を始めようとする相手の横顔に拳を叩き込む。【魔力暴発(イグニス・ファトス)】はなし。

 

「この――――――」

「待ってやろうか?」

「⋯何?」

「詠唱を待ってやろうか?平行詠唱もまともに出来ないのだろう?」

「貴様どこまで⋯!」

「舐め腐ってるのは貴様だろうが!!!」

 

 炎をまとった拳で叩きつける。

 

「ぐべっ!?」

「俺たちにしたことをどれだけの子供にした?あの人の苦しみと同じものをどれだけの人間に味合わせた!!」

 

 ドガッ!バキッ!!ゴスッ!!!

 拳の乱打にヒュアキントスはガードも出来ず素直に食らうしかない。

 

「馬鹿やった糞野郎に落とし前つけさせるのは当然の事だろうが!!!」

 

 ドゴンッ!!!という大きな音と共に、ヒュアキントスの顔面が殴り抜かれる。

 

「ヒュアキントス様ァ!」

「ヒュアキントス様を援護しろ!」

 

 背後から応援。槍に集めた炎を操作して――――

 

「【焼き尽くせ(エグザルド)】。『残光』」

 

 槍による薙ぎ払いの『残光』でまとめて叩き斬る。

 

「化け物がァ!」

「化け物はお前たちの方だろ?人の想いも尊厳も踏みにじったお前たちに、ここに残る資格はない」

 

 ぶっっっっ潰れろ!!!

 炎を纏った鉄拳が、ヒュアキントスの腹をぶち抜いて。

 ヒュアキントスはその意識を失った。

 

 

 

 ―――――――――

 

『勝者は、【ヘスティア・ファミリア】!!』

「な⋯が⋯!」

「ああ、そういえばアポロン」

「へ、ヘスティア!!ど、どうか手心、を?」

 

 その笑顔に、一瞬硬直して。

 

「キミが壊したあそこ。【ヘラ・ファミリア】ゆかりの地なんだ。しかもヘラが愛した眷属の、大切な場所」

「ぁ」

「君が負けたら引渡しよろしくって言われてるんだよね」

 

 ベルくんが送還以外で!!って言ってたから。

 

「まぁ、送還はされないと思うけど。無理に集めた団員は手放す!財産も土地も無くす!オラリオから永久追放だ!!」

 

 頑張ってくれたまへ。アポロンくん♡

 

「あ、ああ⋯ぁああああああああああ!!!」

 

 こうして、太陽は失墜を迎えた。

 

 この後、リリクス・アーデには非公式の2つ名が着く。

 その名も―――――――

 

 

 【白兎の騎士(ラビット・ナイト)

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