深紅の兇猛   作:眼鏡熊@ヒロアカ完走

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春姫編

 

 その後、反響は物凄かった。

 押し寄せる団員希望者(借金発覚で消えたが)。

 新たな本拠(ホーム)

 新たな生活。

 悠々自適で、優雅な―――――――

 

 とは、ならず。

 

「借金がグロい」

 

 あの宴会の終わりに、僕は自室で独りごちる。

 あの後、僕とベル様はランクアップした。ベル様はなんか裏でLv.2を10数人ぶち抜いてLv.3も打倒したらしい。

 【アポロン・ファミリア】にヒュアキントス以外にLv.3がいたこともおかしいし、僕と2人揃ってランクアップしてるのもおかしい。

 

 最終ステイタスは

 

 

 リリクス・アーデ

 Lv.2

 力:SS1050

 耐久:SS1026

 器用:SSS1165

 敏捷:SS1001

 魔力:SS1065

 耐異常:I

 

 スキル

 【縁下力持(アーテル・アシスト)

 

 【白雪誓約(スノウホワイト・ゲッシュ)

 ・格上戦闘時獲得経験値に補正。

 ・魔法スロットを3に拡張。

 ・槍使用時発展アビリティ【槍士】の発現。

 ・補正値は誓約への誓いに比例。

 ・制約を守る限り効果持続。

 

 【深紅勇猛(ルベライト・フォルティア)

 ・任意発動(アクティブトリガー)可能。

 ・精神汚染効果侵犯時及び、激昂時自動発動。

 ・精神汚染効果に対する対抗。

 ・精神汚染効果侵犯時、全能力値(アビリティ)に超高補正。

 

 【赤勇騎唄(フィアナ・フォルティア)

 ・発展アビリティ【剣士】、【騎士】の発現。

 ・自身より大きな敵との戦闘時、『勇気』を宿す限り器用、敏捷の能力値に補正。

 ・任意の伝播能力拡張。

 ・『前』へと進む限り全能力値に補正。

 ・『勇気』を宿す限り効果持続。

 ・『勇気』の丈と質により効果変動。

 

 魔法

 【シンダー・エラ】

 

 【ルベライト・フィネガス】

 詠唱式:【兇猛の残滓よ。赫怒を以て魔槍を成せ。深紅への誓いを糧に】

 高揚魔法。発動時戦闘意欲上昇。

 

 【エクエス・ウェスタ】

 詠唱式:【イグニティオ】

     【エグザルド】

 付与魔法。限界を超えてチャージ可能。

 

 Lv.3で取った発展アビリティは【魔導】。なんでこれが出たかはわからないけど、まぁ儲けだろう。

 まぁそんなことより2億の借金の方が重いんですけどね!!

 

「ぐ、ぐぉおおおおお⋯!」

 

 し ん ど い。

 どうすればいいかなこれ?どうしようかなぁ!

 【闇派閥(イヴィルス)】だってキナ臭いし面倒は消えない。

 

「どうしよう」

 

 無理〜〜!!なんも出来ない!!!

 

 

 夜は更けていった。

 

 

 ―――――――

 

 引越しのあと、千草さんが訪ねてきて、命さんと出かけた。

 歓楽街に向かう命さん達を追いかけて―――――

 

 ベル様とはぐれた。

 

 やばい。やばいやばいやばい!!!

 本当にヤバい!!!

 

「ベル様ッ⋯!」

 

 これでLv.4だの5だのにエンカウントしてしまったら話にならない!!

 探せ!探せ探せ探せ!!!

 探せよ!!俺!!!

 これでベル様に何かあったら本当に殺すぞ!!!

 俺を!!!!

 

「【兇猛の残滓よ。赫怒を以て魔槍を成せ。深紅への誓いを糧に】」

 

 街中での魔法は違反とか知らん!!

 

「【ルベライト・フィネガス】」

 

 深紅(ルベライト)が視界を満たす。誓約(ゲッシュ)が何かを導くように、思考に冷静さを戻してくれる。

 紅い兇猛が指し示すように、僕を導く。

 お前の白雪姫(しろうさぎ)はそこに居る。と、誘ってくれる。

 

 瞬間、疾駆する。猟犬の如く、風の如く。

 

 駆けて、駆けて、駆け抜けて――――――

 

 とある娼館の、窓に行き着く。

 

 嬌声も悲鳴も聞こえない。そんなことに半分安堵しながら、終わったあとだったら相手を縊り殺して汚れを消そうと覚悟して。

 

 ガキャリ、と砕きながら開ける。

 

 

 ――――――――――

 

 アマゾネスや男性冒険者から逃げて、春姫さんという娼婦の方の部屋で匿ってもらっていた。

 大好きな英雄譚の話をして、場所に似つかわしくない笑顔を浮かべる。

 そんな折――――――――

 

 ガキャリ、と、音が聞こえて。

 扉が開いた。

 

「――――――――お迎えに上がりました。ベル様」

 

 月を背に、深紅が輝く。栗鼠のようなふわふわの髪に、私と同じ深紅の瞳。

 誓いを立ててくれた彼だ。私のために怒ってくれた彼だ。

 私の、深紅。

 

「リリ」

「はい。はぐれてしまって申し訳ありません」

 

 そして、春姫さんに一瞥して。

 

「ベル様を匿ってくださりありがとうございます。このご恩は必ず」

「い、いえいえっ!むしろご馳走様ですといいますか、ありがとうございますといいますか⋯」

 

 なんて、あたふたと手を動かす春姫さんはやっぱり可愛くて、憧れてしまう。

 

「命様のお知り合いですよね?恐らく」

「命ちゃんを知っているんですか!?」

「同じファミリアです⋯そうですか。成程」

 

 すると、深紅は怒りを強めたように輝いて。

 

「神ヘルメスに確認する事項が増えたな」

 

 兎に角、

 

「1度帰りましょうベル様。ヘスティア様(お母さん)が心配してます」

「う、うん」

「さぁ」

 

 差し伸べられた手を、取って―――――

 抱き抱えられる

 

「!?!?!?」

「暴れないで下さい。必要だからやっていますので」

 

 そのまま、くるり、と背から倒れて。

 

「それでは、また」

 

 今度会う時は、貴女も連れ出しますね。

 そんなことを言って、リリはこの娼館から脱出した。

 

「⋯いいなぁ」

 

 狐人(ルナール)の消え入るような声が聞こえた。

 

 

 

 ――――――――

 

 駆ける。駆ける。駆ける。

 宵闇を斬り裂くように、深紅の光が夜のオラリオをかき分けていく。

 

「今度は、はぐれないようにしますね。だから」

 

 離れないで、くださいね。

 抱きしめられる力が強くなって、顔の赤みが強くなってしまう。

 

「ぇぁ」

 

 漏れ出る声が可愛くなくて、自己嫌悪に襲われる。

 

「本当に、無事でよかった」

 

 泣きそうな声に申し訳なくなって。

 

「ごめんね?」

「いいんです。僕が目を離したのが悪い」

 

 だから、と瞳を私に向けて―――――

 

「もう、目を離しませんから」

 

 信じて。とその怜悧な眼にどうしようもなく心が奪われそうになる。

 憧憬は、憧れはアイズさんだ。あのひとみたいになりたい。という気持ちは変わらない。でも、

 心の柔らかい部分をリリに奪われきってしまっている気がする。

 英雄になりたいという誓いも。彼女への憧れも変わらないのに。リリと一緒に居たいというワガママな自分もそこにいて。

 

「信じてるね」

 

 キュッ、とその手を強くした。

 

「はい」

 

 救われたような、喜びが溢れたような笑顔が綺麗だった。

 月は、見た事もないほどに綺麗だった。

 

 

 ―――――――――

 

 ファミリアの本拠(ホーム)で、ヘスティア様はぷりぷり怒っていた。

 

「リリくんが迎えに行ったからいいものの!!ベルくんになにかあったらどうするつもりだったんだ!!」

 

 まだ14の女の子なんだぞぉ!!!という声はいつもよりしっかり怖くて。あぁ、いい神様だなぁ。と実感する。

 

「リリくんはよくやったけどなぁあああんでそんなにニコニコしてるんだァ!」

「⋯眷属想いのいい神様だなって」

「ヴッ⋯こ、この子はさぁ!!!!!」

 

 ぎゅーーーーっ!と抱きしめられて撫でくりまわされる。

 なんで???

 

「僕たちで幸せにするからね⋯!絶対だからね!!」

「??⋯はい。信じてます」

「わかってないだろ!!」

「リリ」

「リリ殿⋯!」

「リリ助ェ⋯!」

「アーデ氏」

 

 瞳を潤ませているベル様を始めとした皆様が僕を見ていた。

 

「!?」

 

 思わずギョッとして弁明する。

 

「い、いや!思ったことを言っただけですよ!?」

「だ、だってさぁ!」

 

 ベル様がヘスティア様と正反対のところから僕に抱きつく。

 

「ちょ、ちょっと!?」

「リリのこと絶対幸せにするからね!絶対だからね!!」

 

 そうして抱きしめる力を強くするベル様の感触にパニックになりそうになる。

 昨日抱きしめたろって!?それとこれとは別だろうがよォ!!!

 柔くて、華奢で、守りたくなるそれ。

 ああ、もう。

 

「⋯もう大分幸せなのになあ」

 

 これ以上貰うのは欲張りじゃないのか。

 

「んなわけないだろふざけんなバカリリ助!!!」

「もっと幸せはありますからね!!」

「⋯今度ライラを連れてこなければ」

 

 よく分かりませんけど【狡鼠(スライル)】は逆効果では?

 

「リリィ⋯」

「はいはい。信じてますよ。ベル様」

「様を抜くところから始めない?」

「性分ですベル様」

「ベルお姉ちゃんも可」

「オイタはよしてくださいね。ベル」

「ぴっ」

「⋯ボクの子供たちがこんなにも可愛い」

 

 僕の主神がこんなにも暖かい。

 

「あ。ベルくんを置いてった命くんとヴェルフくんは説教ね」

「「ハイ」」

 

 

 

 

――――――

 

 僕はあの後ヘルメス様を訪ねた。聞きたいことがあったから。

 

「突然の訪問に応えて下さってありがとうございます。神ヘルメス」

「いやいや。俺も1度話したいと思っていたからちょうど良かったよ。リリクス・アーデくん。リリくんと呼んでも?」

「問題ありません」

 

 さて、本題に入ろう。

 

「単刀直入に聞きます。神ヘルメス」

「うむ。なんだい?リリくん」

あの|狐人(・・・・)は、どんな目的であそこに?」

「へぇ⋯君から見てもキナ臭かったのかい?」

「ここらじゃ狐人(ルナール)なんて珍しいですし、あんな高貴そうな雰囲気の方がいたら人気娼婦になってもおかしくないですよ」

「意外と詳しいじゃないか」

「まぁ、なんでもやりましたから」

 

 と、答えると、何処か傷ついたような表情になった神ヘルメスに疑問を感じつつ。

 

「貴方は商業系のファミリアの主神ですし、ベル様への傾倒具合から見て、今回のことをマイナスに見るか止めるかする筈。なにかキナ臭いことでもあったのか。と考えた方が自然でしょう」

「君みたいな子が【ヘスティア・ファミリア】に居て良かったよ。本当に」

 

 噛み締めるような神ヘルメスの言葉に少しモニョモニョして。

 

「で、あるんでしょう?」

勿論(・・)。⋯殺生石を運んだんだよ。おれがね」

「殺生石?」

「狐人の魔法を宿して、使えるようにする呪具さ⋯その術師の命と引替えに」

 

 瞬間。激怒に【スキル】が反応する。

 

「成程。随分とんでもない魔法もちなんですかね」

「恐らく」

「神イシュタルの性分は知りませんが、いい噂は聞きません」

「ああ。恐らく【フレイヤ・ファミリア】への対抗策になる魔法に色気を出したんだろうね」

「―――ベル様は、狙われますか?」

「恐らく。フレイヤ様への挑発と、春姫ちゃんとやらの心を折るためにね」

「殺しますね」

 

 神イシュタル。

 

「まてまてまてまて」

「問題でも?」

「問題しかない。殺すなら周りのファミリアメンバーだ」

「神が残っていれば関係ないのでは?」

「集める度に縊り殺せばいいだろう?」

「人の命をなんだと?」

「神の殺害ゴーサイン出す方がイカれてるだろ」

「チッ」

「口が悪い!」

「育ちが悪いもので」

「何も言えないからやめてくれないか???」

「まぁいいですよ」

 

 ベル様を傷つけるなら殺します。

 ファミリアに迷惑はかけたくないが、もうベル様は春姫様を知ってしまった。

 僕がとめても助けに行くに決まっている。

 だって彼女は冒険者になってしまったから。

 彼女の本質は英雄だから。

 

「それはそれとして【イシュタル・ファミリア】は壊しますよ」

「できるならね」

「やります。というか⋯」

 

 たーぶん俺がミスるか【イシュタル・ファミリア】がバカをやりすぎたら【フレイヤ・ファミリア】が出るので。

 

「は??」

「あと最悪かつての『最強』と『最凶』が出るでしょ?」

「え?なんでそれ」

「ベル様って可愛いですよね」

「あああああああああ」

 

 神ヘルメス頑張って。

 

「待ってくれ!!!!!」

「じゃ!」

「見捨てないで!!!」

「【苦労人(ペルセウス)】に聞けばいいでしょ」

「アスフィは十徹の反動で死んでるんだよぉ!」

「あんたホントアスフィ・アル・アンドロメダに謝った方がいいぞほんとに。マジで!!!!」

 

 

 

 ―――――――

 

 帰って来ると、冒険者依頼(クエスト)の連絡が来たらしい。

 それに伴って、様々な可能性を考慮して――――――

 

 まぁ、ぶっちゃけ()だろう。というのはわかった。

 

「受けましょうか。おそらく罠ですが」

「え!?」

「⋯ベル様」

 

 ()を信じてくれますか?

 

「勿論」

 

 心の底から、信じてる。

 その言葉に泣きそうになって。心の底で覚悟を決める。

 

「敢えて乗りましょう」

 

 責任は俺が取ります。

 

 

 そこからは、根回しだった。

 リュー様に【アストレア・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】への連絡を取ってもらって歓楽街に戦力を集めてもらうこと。

 後は、【フレイヤ・ファミリア】への連絡。敢えて罠にかかって根切りすること。

 フレイヤ様からは難色を示されたが、汚させないと誓いを立てたのでセーフ。ついでの如くボコられたのはアウト。ざけんな先達。

 因みにしっかり動くらしい。ケジメだって。怖いね。

 とまぁ、こんなことを済ませて、リュー様を置いて、『迷宮』へ。

 

 

 

 ―――――分断を食らう。二方向からの【怪物進呈(パス・パレード)】に、即時で反応。

 

「【兇猛の残滓よ。赫怒を以て魔槍を成せ。深紅への誓いを糧に】――――――【ルベライト・フィネガス】」

「【点火せよ(イグニティオ)】。【点火せよ(イグニティオ)】。【焼き尽くせ(エグザルド)】!!」

 

 【エクエス・ウェスタ】

 炎の突進が、道の先の怪物全てを焼き尽くし――――

 その先に、白装束の人々を見る。

 

「は?」

 

 【闇派閥(イヴィルス)】!?あんなものと関わりを持っているのか、【イシュタル・ファミリア】!

 

「イケロス様へ、忠誠を―――――」

 

 瞬間。勘に従って片腕を切り飛ばす。装束内を確認。

 

「自爆装置持ちか!」

「がああああああ!?」

 

 【点火せよ(イグニティオ)】!加速をもって【闇派閥】を切り飛ばし、気絶させる。

 白昼堂々内通開示とは豪胆だ。間抜けとも言える。

 

「ベル様!!」

 

 そのまま駆け出して―――――――

 

 

 間に合わなかった(・・・・・・・・)

 視界の端に収まる、ヒキガエルに連れ去られるベル様。

 赫怒の総量が増加する。信じてくれた彼女を踏みにじった。

 彼女の信頼に応えられなかった。その事実が、怒りの深度を増していく。

 

「―――――――クソが」

 

 腹が立つ。腹が立つ。強さが足りない。力が足りない。

 俺は、弱い⋯!!!

 

「クソがっ!!!」

 

 握りしめた手から血が流れ落ちていく。

 

 

 

 

 夜。

 俺は【アストレア・ファミリア】への号令をリュー様にお願いして、一人、【イシュタル・ファミリア】のホームの前に立った。

 【魔法】は既に発動している。燃える剣と、深紅の眼を携えている。

 【スキル】によって伝播能力を拡張させて。

 

「―――――神イシュタル。その無様な嫉妬と不愉快な奸計のケジメをつける時だ」

 

 『残光』。輝く斬撃は本拠(ホーム)を烈断し、狂乱を齎す。両足に焔をまとって―――――――

 吶喊。

 

「殺す」

 

 深紅が、駆け抜けた。

 

 

 

 ――――――――――

 

「あの子は一番槍を終わらせたの?」

「はい」

「私の子供たちは揃っているわね?」

「無論。揃っています」

「今までのは許してあげたけど、今回のはダメ。一番槍も騎士くんに譲ってあげたけど」

 

 イシュタル(あなた)は別。

 

「さぁ、喇叭は鳴ったわ」

 

 ――――――――戦争よ。

 女神の軍勢が、偉大なる戦士たちが、その力を以て。

 蹂躙を始める。

 

 

 ―――――――――

 

 深紅が駆ける。焔が舞い散る。

 戦闘娼婦(バーベラ)も、男の構成員も、何もかもを轢殺していく。

 たまたま別の場所で花を買っていた冒険者は、何もかもを轢殺しながらかけていく猟犬のごとき深紅を目にして、もはや眉唾となった英雄譚を思い出す。

 

「フィアナの、単騎駆け」

 

 かの古代で偉烈を成した、古き英雄達を懐古する。

 勇者(ブレイバー)や、炎金の四戦士(ブリンガル)狡鼠(スライル)を空見するような、勇猛なる小人。

 この世界において大いにハンデを食らう、弱いはずの種族に、恐怖を抱く。

 

「アイツら、とんでもないもん起こしてくれやがったな」

 

 堕ちた太陽を解雇する。処女雪を踏み荒らしたが故に討ち滅ぼされた愚かな神と眷属を思い出す。

 お前たちが起こしたせいだ。

 お前たちが目覚めさせたせいだ。

 アレがなければ、少なくは。

 

「眠れる獅子を起こすこともなかったのに」

 

 どこか他人事めいた言葉が夜にとけた。

 

 

 ―――――――――

 

 焔の流星が、橋の前に落ちてきた。

 私とフリュネさんを遮るように、よく知る愛おしい栗色が舞い落ちてきた。

 

「遅れてしまって申し訳ありません」

 

 【楷位昇華(レベルブースト)】の光を纏う私に、栗色が振り返って―――――

 血より深い深紅が見える。

 私を見て救われたような、安心したような眼が見える。

 

「貴女を助けに来ました」

 

 まるで騎士のように。英雄のように。私に跪いてそう告げる。

 

「随分可愛い援軍じゃないか!!イイねぇ、好みだ」

 

 アタイが可愛がってやろうかぁ!?なんてセリフに、心が烈火に染まる。

 ふざけるな!!!誰にもやらない。私のものだ。

 そんな、何時もとは違う心の激しさに困惑しながら、深紅から目が離せない。

 

「貴女は、春姫様を」

 

 僕はアレを、轢き潰します。

 

「轢き潰すって⋯!Lv.5だよ!?」

関係ありません(・・・・・・・)。アレが貴女を苛んだのなら、アレを討つのは僕の役目。貴女は貴女の理想を叶えて欲しい」

「⋯勝って、くれる?」

「必ずや」

 

 そんな深紅を目におさめて、願うように抱きしめる。

 

「信じてるね」

「はい」

 

 信じてください。

 抱いた腕を離すと、リリはフリュネさんに向き直り。

 

「お前の相手は僕だ」

「ハッハァ!!やってみせなぁ!」

 

 瞬間、橋を崩落させる。

 え!?

 それにリリは走って追いかけて、瓦礫を駆け下りていく。

 

「リ、リリィイイイイイイ!?」

「大丈夫です!信じて!」

「う、うん!!」

 

 本人が大丈夫というならそうなのだろう。

 気を取り直してアイシャさんに向き直ると――――――

 

「イイね」

 

 女豹のような顔をしたアイシャさんが獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「イイ、イイじゃないか。リリクス・アーデ。アタシにも味見させてくれないかい?」

「ダメです!!!!」

「釣れないねえ」

「絶対ダメ!!何がなんでもダメー!!!!」

「嫉妬深い女は嫌われるよ?」

「リリは私の事大好きだもん!!!」

 

 これでいいのか?と、カオスが苦笑いしている気がした。

 

 

 ―――――――

 

 堕ちる、堕ちる、堕ちる。

 着地をミスったヒキガエルを尻目に、優雅に降り立って。

 

「さぁ」

 

 ―――――――――勝負だ。

 その槍に炎を宿し、両脚にも纏わせながら。覚悟を灯して告げる。

 その目にヒキガエルはニヤニヤと笑みを浮かべながら。

 

「お前なんかに勝てると思ってるのかい!?随分と自信満々だねぇ!ベッドの上でわからせてやるよ!!」

「ベッドに行くのはお前一人だよ」

 

 怪我の療養でな。

 

「やってみなぁ!」

 

 拳を振り上げて猛追する。Lv.5。しかし、怒りを高めすぎた深紅はそれを完璧に捉えて。

 左手で引き抜いた剣に、流された。

 

「は?」

「舐めすぎ」

 

 【点火せよ(イグニティオ)】。炎を剣にも宿して、固まったその体躯に炎の斬撃と刺突を見舞う。

 

「がっっっ!?」

 

 Lv.3と言うには隔絶した威力に、ヒキガエルは確かな驚愕を湛えた。

 

「お、前!!Lv.3のはずだろう!?」

 

 勿論。仕組みはある。ひとつは貯金(エクストラポイント)。限界突破のアビリティとランクアップによるボーナス。もうひとつは、【スキル】。【白雪誓約(スノウホワイト・ゲッシュ)】。発展アビリティ【槍士】の発現。【深紅勇猛(ルベライト・フォルティア)】 。【魔法】による精神汚染をトリガーに全能力値(アビリティ)に超高補正。【赤勇騎唄(フィアナ・フォルティア)】。【剣士】、【騎士】の発現に、効果による【器用】と【敏捷】。それに加えて全能力値(アビリティ)への補正。

 その全てを使って、Lv.5と言う2つ上の高みにどうにか足をかけている。

 体感のアビリティはLv.4最上級。対人戦においては【器用】が下駄を履かせてくれる。

 それに、同じLv.5でもアルフリッグ様とか、単体の炎金の四戦士(ブリンガル)の方が強いし。

 

 

 まぁ、何が言いたいかと言いますと。

 

 これで負けたら殺されるッッッッ!!!

 

 

「ォオオオオオオオ゛!!!」

「こ、このぉ!?」

 

 苦し紛れのラッシュを縫うように、前へ前へと進んでいく。

 炎を槍の石突に移動させて―――――

 

 ガォン!!

 

 投擲。

 

「ぐっ!?」

「【点火せよ(イグニティオ)】【点火せよ(イグニティオ)】【点火せよ(イグニティオ)】」

 

 【エクエス・ウェスタ】!!

 空いた手に焔を纏めて、出力を溢れさせて殴りつける。

 

「ごえっ」

 

 汚い音を漏らしながら、ヒキガエルの腹に拳が捩じ込まれて―――――――

 

「【焼き尽くせ(エグザルド)】」

「がぁあああああああああ!?」

 

 ゼロ距離で解放する。

 

「ご、のぉ!?」

 

 そして、堪えたようによろけるヒキガエルの顔に。

 

「【点火せよ(イグニティオ)】【エクエス・ウェスタ】」

「ぁあああああああ゛!?」

 

 炎を叩きつける。

 

「お、まぇ!?」

「【点火せよ(イグニティオ)】【エクエス・ウェスタ】――――――【焼き尽くせ(エグザルド)】」

 

 『残光』

 斬撃を至近距離で叩きつけてなお、ヒキガエルは気を失わない。

 そんなところに――――――

 

「リリクス・アーデか」

「――――――【フレイヤ・ファミリア】」

「オ、オッダルゥ!?」

 

 【猛者(おうじゃ)】を始めとした、『最強』が現れた。

 

「な、なぁ頼むよ!あのクソガキをぶちのめしてくれ!礼ならいくらでも身体でしてやるからさぁ!」

 

 あんな女神よりオレがいいだろ!?

 

「あっ」

 

 そんな、とんでもない暴言を聞いて、オッタルさん達の顔を確認して――――――

 

「あとはお好きに」

「感謝する」

 

 燃える脚でとっとと逃げたあとに、怒声と爆音と悲鳴が聞こえた。

 

 

 

「バカにつける薬はないか」

 

 

 その後、救われた娼婦を見た。否。ただの女の子を見た。

 彼女の成した優しさを見て、やはり彼女には敵わないなと思い直して。

 また、朝が来る。

 

 

「ベル様、リリ様、これから貴方たちの事を見守らせてくださいね」

 

 ふわり、と笑った彼女の顔は綺麗だったけど、それはどういう⋯?

 

「いいね。わかるクチじゃないか」

「いいですよね。尊くて」

「うんうん」

 

 あ、ヘスティア様が爆速で気に入った。

 珍しいなぁ。

 

「リリ」

「どうしました?ベル様」

「アイシャさん⋯【麗傑(アンティアネイラ)】には気を付けてね?」

「???⋯はい」

「絶対わかってない!!」

 

 ぷすーーー!!とふくれっ面になる彼女が可愛らしくて。

 ぷっ、と指で押して頬から空気を抜いた。

 

「リリ!!!!」

「ごめんなさーい!?」

 

 速すぎる彼女に追いかけられて。また、いつもみたいに日々が始まる。

 新しい家族を迎えて。

 

「あ!!!作戦失敗の埋め合わせはデートだからね!!」

「えっ」

「拒否権なしだからね!!」

「えっっっ?」

「断ったら泣くからね!!」

 

 拒否権無しでは?

 

「は、はい」

「嫌々なら良いけど⋯」

 

 むす、と怒るベル様に、周囲からとんでもない殺気が来る。

 おいこれ絶対先達の混じっているだろう!?

 

「喜んで応じさせていただきます。お嬢様(ベル様)

「ん。よろしい」

 

 頭の中で服装どうしようか、なんて考えながら。

 今日も【ヘスティア・ファミリア】の日常は過ぎていく。

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