さて。僕はこの局面をどうするべきなのか⋯?
『小遠征』の折、リヴィラの陣営の手助けをしながら、椿様の手を借りて僕たちはゴライアスを討伐した。
その後すったもんだもあったり、ヴェルフ様のご家族が来たりなんてことがあったが。
大体無事―――――――なんてこともなく。
「ベル様⋯ヘスティア様」
2人が消えた。ヘスティア様はラキアに攫われ、ベル様は【剣姫】様と共にヘスティア様を探しに行ったらしい。
そうか。そうかそうかそうか。
「家族を奪うのか」
ぶちのめす。
その後、ヘスティア様を失った
目前に一族の
碧。理性の伴った碧だ。
「君は、リリクス・アーデだね。見たよ。
「ありがとうございます。【
「フィンでいいよ。そっちの方が好ましい」
「ではフィン様と」
なんて。軽いジャブを交わしながら、本題へ移る。
「お願いがあります」
「⋯なんだい?」
「
「一番槍ィ!?ドチビんとこの子供に務まるわけないやろ」
と、横で聞いていたロキ様が大きな声を出して反応する。がしかし。こちらも譲れない。
「
故にこの殲滅は僕から始めなければならない。
「伝播能力の拡大なんて、お誂え向けの開戦の合図も持っていますからね」
と、瞳だけは笑っていない顔で伝える。
「なるほどね。道理だ。むしろ君以外に一番槍は務めさせるべきでもないだろう」
「ちょお!フィン!!」
「ロキ。この場面で一番槍を預けろと同胞が言うんだ」
「⋯はぁあああああああ⋯まぁ、このちびっこが言うとることも筋は通っとる」
許したろ。というロキ様の言葉に、
「寛大なる配慮感謝いたします。神ロキ」
「⋯くそ!ドチビにこんなええ子が着くなんて⋯!!」
うちにもよこせやこんな素直な子!!
「うちはみんな素直だろ?」
「うそつけ!」
そんな1人と1柱の掛け合いに苦笑しながら、フィンに跪いて。
「一番槍を拝命致します。勝利を、オラリオに」
まるで王や団長に仕える騎士の如く、勇者に誓いを立てる。
「良いだろう。往け、聖火の眷属」
勇者は、嬉しいような、悲しいような。虚しいような顔で応えた。
まるで、この騎士にだけは平穏無事に暮らして欲しかったとでも言うように。
血も赤もまとって欲しくなかったとでも言うように。
それでも騎士は『前』へ往く。その兇猛を持ってケジメをつけるために。
家族に手を出した軍神の国をぶちのめすために。
――――――――――
オラリオとの開戦を控え、俺たちは戦列を維持していた。
まぁ、十中八九どころか十中十一くらい負けるんですが。
ぼーーーーっと前を見ていると。
―――――――『深紅』が、垣間見えた。
揺れる髪は栗色。鎧は白と金に落ち着いた青。
掲げるのは、槍。鎧と共通の意匠が施されたそれは、太陽の光を受けて白く輝いていた。
――――――
声が、響いた。
子供と言うには低く、大人の男と言うには高い。
声を張った訳でもないそれは、軍の全般に強く伝播した。
冷たい声音に、あらん限りの熱を込めた怒りをもって。
「貴様らが手を出したのは
【
槍に焔が灯る。警戒態勢。しかし動けず。
「優しく、賑やかで、暖かくて。こんな俺にも愛を向けてくれた最高の神様だ」
【
「
【
「お前ら全員」
この兇猛でぶちのめす。
ゴァ⋯ッ!と焔が舞ったかと思えば――――
人が、宙を舞った。
「は??????」
焔が舞う。深紅が駆ける。槍が轢殺していく。
1度の突進で人の塊が弾け飛ぶように吹き飛ばされていく。
「ぎゃああああああ!?」
「なぁあああああああ!?」
「ちょっ、まっ!?」
深紅の軌跡だけが見える。舞い散る焔だけが見える。
【
なにより、あの宣誓。
「
ああ、まったく。やってくれる。ふざけるなよあのバカ主神!!
「これで死んだら来世まで恨んでやるからな――――――」
あっまって優しく轢いてぎゃあああああああああ!?
結局。一番槍の後に溢れ出た冒険者達によって、我らはまた殲滅された。
―――――――――――
あれから、
【
どうか無事でいて欲しいと、乞い願うような面持ちのまま。
そして、ついに
――――――――朝焼けに人影が見えた。
逆光ゆえに表情は分かりえないが、背格好で。髪の色で。雰囲気でわかる。
ああ。嗚呼!無事だ。生きている。ヘスティア様の
ベル様に関しては不明だったが、まぁLv.3の時点でそうそう死にはしない。とは頭で理解していた。ただ、感情だけは別だ。何かあったかもしれない。無事に帰れないかもしれない。という不安感が頭から離れなかった。なにより、その場に
【剣姫】様を追いかけたことも、正味複雑だ。だって、あの人には
まぁ、そんなことはいい。今は、今だけは。
あの人たちが帰ってきた事を、祝福させて欲しい。
この情けなさに嘘をついて。頑張ったあの人達に笑顔を届けよう。
舞散った灰を心の匣に詰め込んで。心からの、心からの笑顔で。今は貴女達を迎えさせて欲しい。
「――――――――おかえりなさい。2人とも」
――――――――――
あの村での出来事が過ぎて、私は神様とアイズさんと三人帰路に着いていた。
色々あったけど、やっぱりオラリオを見ると落ち着く。
帰路を歩いて、門が見えてきた頃に――――
その、栗色を見る。
ふわふわの髪に、理知的な光が灯った瞳。どこか影が差したようなそれに、心配が顔を出す。
「リリ⋯!」
「リリくんだ!」
「同じファミリアの方ですよね⋯?」
と、アイズさんが私と神様に問いかける。
「うんっ!ボクの可愛い
「そうですか⋯家族思いの方ですね」
「そうなんだよ!」
まぁ、と神様は一拍置いたと思えば。
「ボクはついでかもね〜?」
と、いたずらな笑顔で私に問いかけた。
「そ、そんな訳ないじゃないですか神様!」
「ついで?」
不可解そうなアイズさんを尻目に私は慌てて神様に弁明する。
「リリくんはベルくんにゾッコンだからね」
「なぁっ!?」
「ゾッコン⋯?」
「ベタ惚れ、最愛とも取れるね」
ふふん。と胸を張りながら続ける神様に、どうにか論理を通そうとするが。
「羨ましいな」
ぽそり。と告げた声がやたらと響いて、その時の迷子のような顔が忘れられなかった。
「ヴァレン何某くんにも、現れるといいね」
ふわりと神様が笑って、アイズさんも切ないような、虚しいような笑顔で。
「そうですね」
私が、なれたらいいな。なんて未だ足りない力を歯がゆく思いながら、決心を心に打ち直す。
するとリリが――――――
「――――――――おかえりなさい。2人とも」
微笑んだ。救われたような顔で。満ち足りたような顔で。迷子が親を見つけたような顔で。それがどうしようもなく嬉しくて。気づけば駆け出していた。
「ただいまっリリ!!」
「うぁっ!?」
駆けて、駆けて。全力で抱きついて。
勢い余って押し倒してしまって、ああ、まずい!顔が近い!可愛い!かっこいい!と脳みそが暴走する。
困惑するような、安心したような、そんな栗色の瞳にただただ魅入られる。
「無事でよかった」
心底安心したような表情が綺麗で。ずっとそばに居たいと願ってしまう。
「迎えに来てくれてありがとう。リリ」
へにゃっ。と顔を崩して笑ってしまって変な顔になってないか心配になる。
「こちらこそ。無事に帰ってきてくれてありがとうございます」
ふわふわの笑顔が綺麗で。あぁ。やっぱり
――――――――■■だなぁ。
待っててね。まだ伝える勇気なんてないけど、覚悟も無いけど。いつかきっと伝えるから。伝わるまで伝えるから。
「待っててね」
「待ってますね?」
何も分かってないような顔がかわいい。
あぁ、うん。本当に。もう敵わないや。
――――――――
救われた少年を見た。白いまま英雄になった少女を見た。
ああ、やっぱり。
「狡いなぁ」
ずるいよ。ずるい。
わたしも英雄が欲しかったなあ。
「誰か、私を助けてよ」
声は、まだ誰にも届かなかった。
――――――――
僕は――――――
デートの服装どうしよう問題である。
いや。待て。待って欲しい。あるにはある。あるんだ!ただ⋯
デート向け用の服なんてないんだよ!!
「⋯どうしよ」
本当にどうしよ。
「買い物行こう」
そうすれば、どうにかなるはず。
歩を進めて、北のメインストリート。種族ごとの専門店が立ち並ぶ通りに僕は―――――――
「じゃ、コーディネートと行こうか」
「ちゃーんとオシャレにしてやるぜ?鼻垂れボーズ」
何故か【
「何故、フィン様と【
フィン様は兎も角ライラ様とは面識が無かったはずだが⋯?
「リオンとベルから聞いてたんだよ。つーかライラって呼べ」
「リュー様とベル様からですか⋯承りました。ライラ様」
「つーかお前本当に様付けなんだな」
「性分ですので」
「ナメられんぞ?」
「ナメて貰った方がやりやすいんで」
ニィ。と思わず悪い笑が浮かぶ。
「ほぉ〜〜〜う?なんだ。気が合いそうじゃねえの」
「ええ。本当に」
ククク、ケケケ、へっへっへっへっへっへ。
「うーーーん、あの時は僕側だと思ったのにな」
全然ライラに近いな。困ったものだ。という顔は母親に似た息子を苦笑する父親に似ていて。
「まぁ、
そう言うライラ様の顔は父親に似た息子を誇らしげに自慢する母親に似ていた。
「僕を挟んで夫婦漫才みたいなことしないで頂けます?」
うへぇ。という顔で2人に抗議すると。
「お?夫婦に見えたか?どうするよ勇者サマ。結納してこいつ
「やめてくれ。君と結納すると徹底的に尻に敷かれそうだし、母親になるには年齢が近いだろう?」
「へっ、まぁ」
と、ライラ様は僕の頭に手を乗せてガシャガシャと撫でながら
「弟の方が近いかもな?」
「ヤです。こき使われそうなので」
「ほんっとに素直じゃねえ奴ら!!!」
あまって痛い痛い痛い!!本当に痛い!!!
「何するんですか!」
「素直じゃねえ勇者サマと新しい騎士サマのひねくれ具合いにキレてんだよ!」
「ライラが言うのか」
「ライラ様が言います?」
「よぉーしオマエらそこに直れ!!」
「公衆の面前ですよ?」
「まったく。落ち着いて欲しいね」
「コイツら⋯!!!チッ!まぁいい!おらとっとと行くぞ!今日は『小人の服屋』いくぞ!」
「あれ?『黄金の鬘』じゃなくていいのかい?」
「そこは防具のインナーの専門店だろうが!デート用なら『小人の服屋』一択だよ!」
ぷんすこ!と憤慨するライラ様を尻目にしょぼん。としたフィン様をみて毒気が抜かれる。
これだから素材がいい男は!!
「けっ!」
「いやお前も顔が良い側だからな?」
随分しおれた顔のライラ様の言葉が信じられない。
え〜?本当にござるかぁ〜??
「その顔ウザイからやめれ」
「うにゅ」
ライラ様から頬を潰される。なんでぇ?
「ったくよぉ。ほら行くぞ?」
「うぁい」
「はいはい」
そうして、3人で目当ての店への道に進んだ。
――――――――――
わいわいとした3人の
「まるで、家族のようじゃったのぅ」
【
老爺は独りごちながら、また作業に戻った
―――――――――――
『小人の服屋』にて。
「ん。やっぱここは相変わらずいい品揃えしてんなぁ」
並ぶ服。服。服。子供服とサイズは似通っているが、様相や意匠は確かに紳士服や淑女服のそれだ。
何となくサイズが合う服を探して、軽く見積もる。
「紫や黄色辺りがいいんじゃないか?」
「それはお前の趣味だろ!白と黒に赤のストライプとかよ」
「それこそ君の趣味だろう」
んーーーー、どうせなら色味合わせながらやってみるか。
ベル様の服装ってモノクロ多いように見えて意外と青も多いんだよな。
「ん?リリクス・アーデは青が気になるのかい?」
「リリでいいですよ。面倒でしょう?まぁ、ベル様と色合わせてもいいなと思って」
「わかった。ではリリと呼ばせてもらおう。うん。それもいいね」
「合わせようってぇ心意気はいいな。でも似合ってねえと意味ねえぞ?」
「それはもちろん」
さて、どうするべきか。
「無難に白シャツに青ベスト、黒のスラックスじゃねえ?」
「いや、あえてズラして白と青を反転させてもいいだろう」
「あ。このループタイ⋯」
白の紐にルベライトの嵌った留め金のループタイを見つけた。
「へぇ。ベル・クラネルの瞳に似ているね」
「お前の魔法使用時にも似てる」
どうせこれ買うんだろ。みたいなニヤニヤとした視線を向ける2人に辟易としつつ。
「当たり前じゃないですか。これあるんだったらもう決め打ちしますよカラーリング」
「ダサかったら切り捨ててやるよ」
「はっ倒しますよ」
Yシャツはジャストサイズの濃紺。白のベスト。黒のスラックス。それにループタイを併せて⋯
「試着してきます」
「ん。待とう」
「ちゃんと着れんのか〜?」
「なめすぎですよ」
そして、4点軽く併せて⋯
「お。良いじゃねえの。けど⋯」
「何か足りないな」
と、フィン様は辺りを見回すと。
「これなんてどうだろう?」
黒地に臙脂色の帯が特徴的な中折帽と、細いスクエアリムの銀地の伊達眼鏡を取り出した。
フィン様から手ずから被せられ、伊達眼鏡をかけられる。
「お、良くなったんじゃねえの?」
「うん。大人っぽくなったんじゃないかな」
うんうん。と頷くフィン様だったが――――――
その瞬間、顔を青ざめさせて血相を変える。
「この疼きは⋯!!」
「だぁあああああああんちょぉぉぉおおおあお⋯!」
地の底から、響くような聲が聞こえた。
あ、【
「街をぶらつくと聞いてみれば【
「すまない所用を思い出した僕は帰らせてもらう」
「団長!!!」
「がんばれがんばれ勇者サマ♡」
「ライラァアアアアアアア!!」
叫びと共にフィン様は走り去っていった。見事な逃げ様だった。これ【逃走】スキルない?どう?
「ま。アタシも帰るわ。デート頑張れよ鼻垂れボーズ」
「ありがとうございました。ライラ様」
「おう」
ひらひら、と手を振りながらライラ様は帰って行った。
「よし。会計しに行こ」
僕は何も見なかった。
――――――――――――
そうして、デート当日。
私、ベル・クラネルは前日からガッツリ決めた服装に身を包んでいた。
部屋着を脱いで下着をつけ、白のTシャツを着る。下には膝下丈の黒いキュロットパンツを履き、シャツをしまう。緩めてタックインにして、上から栗色の短丈アウターを羽織り、金地にルベライトのネックレスをつける。靴はブーツでいいかな。
続けては髪のセットだ。横髪を頭頂部から襟足部分に向けて編み込んで、後ろ髪の裏で纏める。
鏡を見てなんとなくまとまりを見て。
「ん。よし!ちゃんと可愛い」
大人っぽくなっただろうか。今日は何がなんでもドキドキさせてやるんだからね!!
絶対だからね!
―――――――――
朝起きて、服を前日買ったもので揃える。中折帽を被る前に、軽く髪をセットする。執事服を着た時のように髪をかきあげ、流し、ピンで止める。セットを確認してソフトハットを被り、伊達眼鏡をかける。
靴はカジュアルめよりはフォーマルめの革靴にしておこう。
「ん。問題なし」
まぁこれでベル様の隣を歩いても恥ずかしくはないだろう。
「さぁて」
楽しもう。
―――――――
歩いて、歩いて、心のワクワクと不安を綯い交ぜにしながら目的地に向かって――――――
そこに白を見た。何時もよりも大人びていて、でも可愛らしい。彼女らしい服装だった。
「ベル様」
声をかけると、ベル様は僕に気づいたように顔を上げ、その
待ちわびたような笑顔で駆け寄って来たベル様を、僕も駆け足で迎える。
「すみません。待たせてしまいましたね、ベル様。とても似合ってますよ。何時もより大人びていて綺麗です」
「ありがとう。リリ。リリも何時もよりお兄さんみたいでカッコイイよ」
「ありがとうございます」
褒め合って思わず2人して照れてしまう。顔が赤いし熱い。耳まで真っ赤だろうな俺も。
「じゃあ、行きましょうか」
「うん!」
差し伸べた手を取ってもらい、そのままエスコートに入る。
「もうすぐお昼ですし昼食から取りましょう。予約してあるので」
「そうなの!?すごいねリリ」
「そんなことありませんよ」
だってヘスティア様にケツ叩かれて予約したんだもん。フィン様から教えてもらった『ウィーシェ』という店を即予約して、今日。と言ったところだ。夕食も予約してるけどそれまでは緩く置いてるし。
「ねえリリ」
「はい?」
「今日はめいっぱい楽しもうね!」
「あ⋯」
その笑顔はとても綺麗で。否応にも自分の思いを自覚させられる。
あぁ、やっぱり好きだ。狂おしい程に。もう目なんて逸らせない。逸らしていたつもりもないけど。
「はい。楽しみましょう」
思わず口許は綻んで、心からの笑顔が出た。
「うん!」
純真で、天真爛漫で。どこまでも白い貴女をいつまでも護りたいとすら思う。
でも。貴女はきっと約束の道を、抱いた憧憬を追いかけると知っているから。
だからせめて。貴女を追いかけさせて欲しい。きっと貴女に届くから。届かせるから。せめて共に戦わせて欲しいと、烏滸がましくも決意する。
「そういえば、新しい
「最近やっと。リリは?」
「前よりも広い部屋も暖かい食卓もまだまだ慣れませんが、最近は少しだけ」
「そっか」
ニコニコと笑いながら隣を歩いてくれる。
歩幅を合わせてもらっている事実が情けなくて。小さいこの身を呪う。
「ね。リリ」
「?どうしまし―――――た?」
するり、と僕の後ろに回ったかと思えば、
瞬間、困惑。そして、不満。
抱き上げられるほどの身長差と、それを許して。どこか喜んでしまう自分が恨めしかった
「⋯どういうおつもりで?」
心無しムスッとしたような顔を作りながら問い詰めてみれば、
「元気なさげに見えたから、ついね」
えへへ。とへにゃへにゃした声が頭上から聞こえた。
「もっと無くなりそうですけど」
「ごめんね?でも、リリ可愛いから」
「⋯へえ?」
絶対わからせてやるからなホントに。ホントに。
「まぁ今はいいですけど」
エスコートするんですから下ろしてくださいね。
「んふふ。はぁーい」
まったくもう。
「じゃほら。改めて」
「うん。よろしく」
彼女の手を取って、緩く歩き出した。
そこからは取り留めもない話をしていた。
やれ、ヘスティア様がバイト漬けで不服だ。とか、ヴェルフ様が工房に篭もりっぱなしでご飯を私たちとたべてくれない。だとか、陰口と言うにはあまりにいじらしくて可愛らしいものから。
命様や春姫様の料理が美味しくて負けてられない。とか、リュー様の稽古が厳しいけど楽しい。みたいな所まで。
僕の方からはフィン様とライラ様の話をしてみると。
「なんか、仲良しだね?」
と、ジト目を向けられてしまった。頬を膨らませて不満です!と顔全体で不服を申し立てられてしまって。
「後輩に絡んで来ただけでしょう?」
「でも、私は
ベル様が
という心はお首にも出さずに、
「ベル様はそのままでいいんですよ」
貴女はずっと白いままで。貴女は貴女のままでいて欲しい。
「そう?そっか。でもね?」
ずっとそのままって訳じゃないんだよ?
というベル様の顔は何時もよりも大人びていて、どこか蠱惑的な――――――――
まて、待て待て待て!ないないない!ありえない!ベル様だぞ!純情白雪兎だぞ!!
もしも誰かの入れ知恵なら――――――――
「なんで怖い顔になるの!?」
「その入れ知恵は、誰から?」
「入れ知恵とかないよ?」
「え??」
「え?」
「え」
ポカン、とした顔を見られて。ベル様の顔も呆けて―――――激怒に染まる。
「リリは!私の事子供っぽく見すぎだと思う!!」
これでももう14歳だよ!リリとは1歳しか変わらないんだよ!?
とぷんすこぷんすこ怒るベル様を見て、あ〜大丈夫そうかな。とほっこりする。
「リリ!?」
「ほら、ご飯行きましょベル様」
「リリ!!!!」
「ん〜?」
ガバッ!と抱きに来るベル様をひょいと避けながら軽い軽い足取りで喫茶店に足を運ぶ。
「リリぃ⋯」
しょぼんとした顔を見ると後ろ髪が惹かれてしまうが、まぁそれはそれ。
「
べーるちゃん。とケラケラ笑えば、
「んにゅう⋯!」
頬を赤らめて、キッ!と睨め付けるベル様が可愛い。
さてさて、美味しいご飯を食べに行こう。
―――――――――――――
私の前で私を待ってくれるリリを睨めつけながら、不承不承彼の横に向かう。
あぁ、本当に。きらいだ。いつもは騎士然として私の後ろにいます。みたいな顔をして。
私が泣きそうになった時に限って私の前に立って、その障害を打ちのめすし。
私が彼を可愛いといえば、急に年上然とした顔で私をからかってくるし。
私が遠いなんて言っておいて、その実私の方が彼を追いかけているような気にさせてくる。
ライラさんと話したと聞いて不安になりもした。だって、私より大人で私よりも魅力的な同族の女性だから。
でも、それでも私のことを見る彼の瞳は変わらないから。
そんな貴方が、
「ほら、拗ねてないで来てください」
「敬語使ううちは行かないもん」
なんて言えば、彼は困ったように笑って。
「今日だけは敬語を抜いてくれなきゃ許さない」
私のための日でしょう?ちゃんと私を見て。
貴方に寄り添って欲しい私を、見てよ。
「わかりました」
「
「⋯わかった。わかったよベル。今日だけはタメ口ね」
「〜〜〜ッ!!やったぁ!」
あぁ、嬉しい。嬉しい!距離が近づいた気がする。仕方ないと諦めてくれる彼が本当に■■だ。
ゆるい笑顔も、何時もよりも大人びたような顔も好きだ。
リリが、■■だ。
⋯■■だなぁ。
「ほら、そろそろちゃんと行かないと遅れるよ」
「はぁーい!」
「ベルが敬語使ってどうするの?」
ケラケラと笑うリリはいつもより自然体だったから、やっぱりいつもは無理してないかな。と不安にはなるけど、彼に誘われて駆け出していく。
さぁ、最高に楽しい一日にしよう。
――――――――
ベル様を連れて喫茶店『ウィーシェ』へ。
「予約のリリルカ・アーデです」
「お待ちしておりました。こちらへ」
窓際の2人席に向かい、軽く椅子を引いてベル様を――――っと、ベルに腰掛けるよう促す。
「ありがとうリリ」
「どういたしまして?」
「なんで疑問形なの?」
クスクス笑うベルを尻目に向かいに腰掛ける。
「まぁ性分だよ性分」
「ふーーん。まぁいいけどね」
良いよ良いよ。
そう流してくれるベルに感謝しながらメニューを開く。
「さて、どれにする?」
「ん⋯私は紅茶とランチセットのボロネーゼにしようかな」
「じゃあ僕は珈琲でそのランチセットにする」
「真似っ子だー」
「ボロネーゼ美味しいでしょ???」
「それはそうだけど⋯」
「嫌?」
「嬉しいよ!」
「ならいいじゃん」
「許しましょう」
「許された」
と、一度話を中断して、お冷を持ってきてくれた店員さんにオーダーした。
待ち時間が暇なので、また最近の身の回りの話へ。
「リリ最近人気だよね」
「そう?」
「うん。
「そっか⋯僕としてはそこまで自覚はないかも」
「どこ行ってもリリの話聞くよ?」
「僕もベルの話をよく聞くね」
と、あーだこーだ話していく。
やれ、あの時の騎士然とした姿が淑女方に人気だとか、ナイフや剣で駆け抜ける貴女が老若男女に人気だとか。
そんな話をしていれば、ボロネーゼとサラダ、ドリンクのセットが着いた。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
「ゆっくりとお楽しみ下さい」
カトラリーを準備して、ふたりで手を合わせる。
「「いただきます」」
サラダから頂いて、シャキシャキとした野菜の食感とドレッシングを味わう。
その後、ボロネーゼをフォークで巻いて、頬張る。麺によく絡まったソースが美味しい。
「おいしい!」
「おいしいね」
もぐもぐ、もぐもぐと食べるベル様がウサギみたいでつい笑いそうになる。
濃い味が残った舌にコーヒーを流し込んで、深煎りであろうキリッとした苦味に舌鼓を打つ。
「ほわぁ⋯」
ベル様も紅茶を飲んでご満悦のようだ。
「満足いただけましたか?」
「敬語⋯!満足だけど」
不服です。という顔を隠さないベル様は何時もより子供っぽかった。
「ごめんごめん。ついね?」
「次は許しません」
「次やったら」
「すっごいことします」
「すっごいこと???」
え、気になる。
「あと泣きます」
「絶対しない」
絶対。
「よろしい」
「ありがた⋯ありがとう」
「ん!!!」
とか言って漏れそうになった敬語を慌ててしまえば、ベルは仕方がないなと言ったふうに許してくれた。
「え、おいしいね」
「ね。なんか珈琲も苦味しっかり出てるのに柔らかい感じが⋯」
「お答えいたしますか?お客様」
舌鼓を打っていれば、店員さんが穏やかな口調で話しかけてくれた。
「お願いします」
「水にアルヴの聖水を使っているんですよ。だから味がしっかりと出て美味しいんです」
「アルヴの聖水⋯!」
エルフ御用達の水か。
「なるほどそれで⋯」
「もちろん素材の癖や適性もある為、他で作ろうとしてもなかなか出来ませんよ?」
と、得意げに笑う店員さんは年嵩と種族を鑑みてもかなりお茶目で、僕もベルも笑ってしまった。
そのままボロネーゼとサラダを平らげて、最後にお互いドリンクを飲み干して。
「ありがとうございました」
「おいしかったです!」
「またのご来店お待ちしております」
店外に出て。
「夕飯までどうする?」
「そうだね。どうせなら服でも見る?」
「そうしよ!!」
そして、北のメインストリートに向かった。
―――――――――
「先ずはリリの服見ない?」
「僕のほうからでいいの?」
「だってリリの方が多分奥にあるでしょ?」
「それはそうかも?」
「なら私の服は戻りがてら見れた方がいいよ」
「そうだね。そうしようか」
「うん!」
確かにそういえば入口あたりにはアクセサリショップもあるし最後の方がいいか。
そうして、奥の方に行ってフィン様たちと行った店に着く。
「ホントにリリたちのサイズにあった紳士服って感じするね」
「ね。すんごい助かる」
と、笑いあって服を見ていく。
あれもいいね、これもいいねと話しながら見ていくと、
「あ、これいいかも」
と、臙脂色のYシャツを手に取る。ハンガーにかけたまま身体に軽く合わせてもらう。
「うん、うんうん。なんかしっくり来るかも」
「ループタイとは合わない気はするけど」
「それはそう。でも青い宝石とかガラスのループタイなら良さそうじゃない?」
「たしかに。ヘスティア様っぽさも出ていいかもしれない」
「ね。これもフォーマルめとは言いづらいけどYシャツよりカジュアルにしたいなら長袖とか半袖のシャツにしてジャケットとか付ければいいし」
「そうだね。どっちも買っちゃってもいいかも」
「いいの?」
「だってそっちの方が合わせやすいし」
と、服を見ていると。
「お客様方、少々よろしいですか?」
「?はい。大丈夫ですよ」
「入口あたりの『兎の春』でレディースのサイズ違いなども取り扱ってますよ」
「本当ですか!?」
ベルのテンションが高い。
「他種族でもペアルックに出来るようにデザイン揃えて別店舗でサイズ違いを取り揃えたりだとかしているんですよ」
「なるほどなるほど⋯ありがとうございます!」
「いえいえ。楽しんでくださいね。是非」
「はいっ」
と、ニコニコして店員さんはそのまま場を離れた。
「ペアルック⋯する?」
「しようよ!」
「ん。しようか」
と、臙脂色のシャツ、Yシャツ、黒のジャケットを手に取る。
「あれ?白とかにしないの?」
「ベルとペアルックにするならアウターは黒にした方が映えるよ」
「えへへ⋯そっか」
ベルがふにゃふにゃとした顔になる。
「じゃあ、会計しに行こうか」
「うん!」
会計を済ませて、店外へ。
「ほらほら!行こう!」
と、紙の手提げを抱えてない方の手を取られて北のメインストリートを通る。
少し歩くと、目的の『兎の春』についた。店内にはヒューマン用の多サイズの服が取り揃えられている。
中を探すと、たしかに『小人の服屋』にあったものとサイズが違う同じ服があった。
「あ!これだよね」
「そうですね。これがあってると思います」
軽くハンガー越しで合わせてみるとやっぱり良く似合う。
「うんうん。良いね。何時もと雰囲気が違う。新鮮な感じ」
「そうかな。えへへ⋯」
そして、アウターを選ぶにあたって。
「僕と丈合わせる?それとも短丈にする?」
「どうせなら丈合わせようよ」
ペアルックだもん!と張り切って言うベルは可愛かった。
「そうだね。そうしようか」
「よぉし会計行こう!」
「ん」
そして、会計で。
「会計こちらです」
「はい」
「リリ!?」
「お願いしまーす」
「はーい」
「リリィ!?店員さん!?」
「ありがとうございます」
「いえいえ。分かりますよ」
「ですよねー」
と、店外に出ると。
「私が払うべきでしょ!」
「知らない」
「なんで!」
「知らない。僕が払う。払いたいから払う」
「むぅ」
「ほらアクセサリショップいくよ」
そして、アクセサリショップ『宝石の煌めき』に行く。
「じゃあループタイ探そうか」
「ぷぅ」
「ゆるして?」
「や」
「ゆーるーしーて」
「や!!」
強情だなあ。
「文句は後でちゃんと聞くよ」
「ほんと?」
「ほんと」
「絶対ね」
「絶対絶対」
そして、ループタイ探しに行く。
ふたりで青い宝石とかガラスのコーナーをみて、金属の地金の色を選定する。
「銀色の方がいいかな」
「そっちの方がヘスティア様みあるよね」
「ん。そうしようか」
そんな話をしながら選んでいくと、
「あ!これ」
「いいかもね」
炎をモチーフにした銀色の地金に青い宝石がハマったループタイの留め具を見つけた。
「これにしよう!」
「これしかない感じするね」
「うん!」
そうして、ベルは留め具を会計に持って行って、僕が支払おうとすると。
「ではこれで」
「ありがとうございます」
「ベル?」
「よろしくお願いします」
「はい」
「ベル??」
「リリ。店員さんが困るでしょ!」
「ベル⋯!」
店外に出て。
「なんで払わせてくれないの」
「知らない」
「覚えておいてね?」
「なんでえ!?」
なんて、軽く喧嘩しながら帰り道に向かって。
「ほら!神様が心配する前に帰ろ!」
ベルは駆け足で歩きながら、こちらに振り返って――――
夕焼けに照らされた、彼女を見た。
処女雪のような髪は橙の光に照らされてその色相を変えて、瞳の
「綺麗だ⋯」
「?リリ?」
「いや、今行くよ」
ベルを追いかけて、二人で並んで歩く。
「ね」
「どうしたの?」
ベルは僕に向き直って、太陽みたいな笑顔で。
「今日は楽しかったね!」
「ええ。本当に」
本当に、楽しかったなぁ。
これでデートは終わり。帰ってヘスティア様にペアルックを見せたら泣きながら抱きつかれたのは、別の話。
――――――――
予告
その日、『
――――赤に染まった。
燃える都市、焼ける空、崩れる街。
地上へ漏れ出たモンスターの対応に追われていた中で、それは聞こえてきた。
五つの柱を、皮切りに。
「聞け、オラリオ。―――聞け。【
声が聞こえる。
「『約定』は待たず。『誓い』は果たされず。この大地が結びし神時代の契約は、我が一存で握り潰す」
「全ては神すら見通せぬ最高の『未知』。純然たる混沌に導く為」
「傲慢?――結構。暴悪?――結構」
「脆き者よ―――――汝らの名は『正義』なり」
その、言葉に。
「――――――それは違う」
声を出す。
『騎士』は、その声に力を込めて『巨悪』に否やを叩きつける。
「それだけは、違う。お前たちには負けない。『悪』には屈しない」
「ほう?ならお前は俺達の『巨悪』を正せるかな?」
「
お前が邪魔だ。
「
この『兇猛』で叩き潰す。
「はっ!やってみせろ!」
この時代は――――――
「終わらせる」
「終わらせない」
整えられた舞台も。決められた筋書も。神の計略も。悪辣なる意思も。
あまねく悪意をぶちのめす。
深紅の兇猛異端児編、前章。
異端英雄のオーバーチュア―再臨の■■■■■■―
乞うご期待!