【WEB版】極めて健全な美少女レベルアップ   作:佐伯凪

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第50話 盗聴器は聞くだけなら罪にならない

 愛七と横浜旅行を終えて一月(ひとつき)程経った頃。ついにその日がやってきた。

 

「達にい!! 達にいいるー!?」

 

 休日の朝。扉をどんどんと叩く音と可愛らしい声。愛七である。近所迷惑甚だしいことこの上ない。スマホの画面を確認すると、まだ六時半だ。

 無視して寝るという手もあったが、扉を壊されかねない勢いなので、しぶしぶ温かい布団から出て扉を開ける。外の寒気が一気になだれ込んできた。

 

「おはよう愛七。ていうかおはよう過ぎなので、あと1時間後でいい?」

 

「駄目!」

 

 駄目らしい。俺の些細な要望は一瞬で却下されてしまった。

 愛七はダンジョンダイブから帰って来たばかりらしく、ダンジョンダイバーらしい恰好にアーティファクトの猫耳と猫尻尾を装着している。どちらもアーティファクトなのだろうが、どう見てもコスプレにしか見えない。

 

「あのね、あのね! やっと見つけたの! これ!」

 

 興奮している愛七がズイと差し出してきたものは、チョーカーネックレスのようなものだった。一センチほどの大きさの丸い宝石のようなものが付いている。宝石のようなものは半透明の黄色で、中心部分が黒い。まるで黄色い眼球の様だ。

 

「何これ?」

 

天空の瞳(ホークアイ)!」

 

「まじで!?」

 

 『天空の瞳(ホークアイ)』。それは愛七が盲目の妹の為に探し続けて来たアーティファクトだ。

 

「やっと見つけたの! 達にい、あいにゃんやっと見つけたよ! これでさーにゃんに世界を見せてあげられる!」

 

 嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる愛七。その頭を優しくなでる。

 

「愛七、頑張ったな。早く紗奈さんに渡しに行ってあげなよ」

 

「うん! ほら、早く着替えて! 出かける準備して!」

 

「……ん? なんで俺が?」

 

「達にいも一緒に来るの! 当たり前じゃん! はやく!」

 

「えっと……」

 

「五分で準備して! はやくはやく!」

 

 俺が一緒に行く必要性が理解出来ないが、何を言っても無駄だろう。俺は素直に出かける準備を始める。ていうか、愛七の実家ってどこにあるのかも知らないんですが。

 

 

 

 

「それでねっ! 途中で予言の黒筆(キャットテール)を見つけてね! あ、予言の黒筆(キャットテール)ってこの猫尻尾の事なんだけど! これを付けると感覚がすごく鋭くなるの! あいにゃんは隠密型の闇属性だからそれともすごく相性が良くてね! ほとんど敵と遭遇しなくなったの!」

 

 移動中のタクシーの中で、愛七のマシンガントークが続く。どうやら愛七の実家は車で二時間程度のところにあるらしい。電車でもいけるのだが、一分一秒が惜しいのか、愛七は通りかかったタクシーを迷うことなく引き留めて乗り込んだのだ。

 

予言の黒筆(キャットテール)のおかげでね! 普通だったら行けないような場所にも行けてね! いっぱいレアなアイテムとか見つけられたの! これね、不死鳥の半綿羽(はんめんう)! 一日に一回だけね! 即死を防いでくれるレアアイテムなの! いくつか拾えたからあげるね!」

 

 愛七は俺にふわふわとした手のひら大のオレンジ色で柔らかい羽を手渡す。話を聞く限りだととんでもない代物なのだろう。

 

「それで探索してたらね! なんか隠された場所があってね! あ、これも予言の黒筆(キャットテール)のおかげで見つけられたんだと思う! その場所にね! 昔のダイバーの亡骸があってね! ちょっと怖かったけどもう骨になってたし、持ち物を見せて貰ったらあったの! 『天空の瞳(ホークアイ)』! あ、無くなったダイバーの持ち物はね! 見つけた人が貰っていいの! それでね! 最初は何かわからなかったんだけど着けてみるとね!」

 

「あの、愛七、ちょっと良いか?」

 

「世界がね! ぶわああぁぁって広がったの! まるで360度見えてるみたいにね! なんかこう、頭に直接風景が広がってね! 景色がすごくてね! それでね!」

 

「愛七、愛七。ごめん、ちょっといい?」

 

「これがあればさーにゃんも……達にいどうしたの?」

 

 とどまることを知らない愛七のマシンガントークをようやく遮ることが出来た。

 

「あのさ、俺が行っても場違いじゃない? 紗奈さんもご両親も俺のことなんか知らないだろうしさ。なんか、感動の場面に俺がいると異物感すごくない?」

 

「達にいは最大の協力者であり貢献者だよ? せっかくだから一緒に居て欲しいの」

 

「いや、でもなぁ……。産まれて初めて景色が視えるようになった紗奈さんの視界にさ、会ったことも無い男がいたら、それってホラーじゃない?」

 

「ちゃんと説明するから大丈夫! それと……はいこれ」

 

 愛七からポンと手渡されたもの。それはカメラだった。カメラには詳しくはないが、それなりにしっかりしたものの様に見える。高そうだ。

 

「何これ。写真でも撮ればいいの?」

 

「んーん。動画。折角の感動の場面だから、録画しておきたくて。だからカメラマンよろくね!」

 

「それが本音か」

 

「後、どうしてもあいにゃんがダンジョンダイバーやってたってばれちゃうから。怒られるときにそばに居て欲しいなって思って……」

 

「二つ目の本音が出たな」

 

 どうやら雑用係として連れて来られたらしい。

 

「あまりに気まずかったら逃げるからな」

 

「その時は追いかけるから! あいにゃんの予言の黒筆(キャットテール)からは逃げられないにゃ! にひひひ!」

 

 愛七がお尻から生えた猫尻尾をフリフリと振る。

 

「良くわからないけど、アーティファクトって地上で使っても大丈夫なの?」

 

「アーティファクトも魔法もスキルも、使うだけなら問題ないよ? 盗聴器も聞くだけなら問題ないよね。それと一緒」

 

 ちゃんと法整備は行われているらしい。

 その後も尽きることのない愛七のマシンガントークを聞きながら二時間弱。タクシーはようやく目的地へと到着した。

 

「おじさん、あそこの家の前で停めて! カーポートのある家!」

 

「あいよー。九千六百円ね」

 

「一万円から! お釣りはいらない!」

 

「かっこいいなお前」

 

 気前よく一万円を払い、愛七が意気揚々とタクシーを降りたので俺も後に続く。

 

「あ、車が無いからお父さんとお母さん出かけてるかも。やった!」

 

「だったら紗奈さんも一緒に出かけてるんじゃないか?」

 

「さーにゃんはあんまりお出かけしないから、多分家にいると思う。にひひひ、怒られないで済みそう」

 

「先延ばしにしてるだけな気がするけどな」

 

 愛七が玄関の前で髪の毛を整え、数回深呼吸する。心の準備が出来たのか、ゆっくりとインターフォンに指を伸ばした。

 

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