双子姉妹の感動の場面が終わった後は、その余韻を感じる暇も無かった。
目の見える様になった(正確には見えているわけではないが)紗奈さんが愛七の恰好について問い詰め、ダンジョンダイバーをやっていると聞いて怒ったのだ。愛七に正座させて説教をする紗奈さんと、怒られているのににやけている愛七。そんな中での愛七の両親の帰宅。
両親の方は愛七の恰好を一目見てダンジョンダイバーをやっていたと分かったのだろう。父は怒り、母は無き崩れた。紗奈に怒られている間は余裕のあった愛七だが、流石に父に怒られてしょんぼりしていた。
その後、目が見える様になったという紗奈さんの報告で両親は狂喜乱舞。今度は両手離しで褒められる愛七。もう何が何だか分からない状況である。
カメラを下ろして恐る恐る愛七の両親に挨拶をすると、いろいろと根ほり葉ほり聞かれて、昼過ぎまで質問攻めにされた。
その後、お祝いにお昼ご飯に行くという奥村一家に半ば強引に連れていかれ、豪華な昼食を食べ、ようやく解放されたのが先ほどのこと。
紗奈さんが白杖を使用せずに外を歩いたり、お店のメニュー表を見たりする度に両親が泣き始めるので本当に大変だった。周囲の人から見れば、危ない薬でもやってる一家に見えた事だろう。
「ご両親、めちゃくちゃ喜んでたな」
「……うん」
今はひとまず、愛七と二人で電車に乗ってマンションに帰っている途中である。隣に座っている愛七の表情は、重荷が降りたように晴れやかだが、どこか儚げで悲しげだ。
「喜んでたけど、怒ってたな」
「……うん」
愛七のダイバーライセンスは、愛七の両親により停止されるそうだ。当たり前だ。可愛い娘が嘘をついてダンジョンダイバーなんてやっていたら、まともな両親ならそうするだろう。
そして愛七の一人暮らしも終わることとなった。そのうち部屋を引き払って、両親と紗奈さんの住む家に戻るのだ。
「『
「……うん」
当初の目的を達成して、万々歳。そのはずだ。それなのに、どうして愛七は元気が無いのだろうか。
まぁ、理由は察しているのだが。
俺はため息を一つ吐いて、愛七の頭に手を乗せる。
「寂しくなるな」
「……」
俺の問いに、愛七は答えなかった。電車の窓枠に頬杖を突いて、ただただ流れる風景を見るともなしに見ているだけだ。
無言のまま電車で運ばれて、無言のまま歩き、マンションに帰り着いた。
「お疲れ様、愛七。また遊びに行くから、落ち着いたら連絡してね」
「……うん。あのさ、達にい」
「ん?」
「本当に、ありがとう。じゃあね」
「うん。またね」
愛七はそう言い残すと、部屋に入って行った。
――その日から一週間後。隣の部屋は、空になった。
◇
愛七が引っ越してから一か月後。スマホが一件のメッセージを受け取った。
「……愛七だ」
差出人の名前は、奥村愛七。メッセージは『絶対見てね』という短い文言と、URLのみ。流石に詐欺サイトに飛ばされることは無いだろうと思い、何のためらいも無くURLをタップする。
「……ライブ配信?」
どうやら今から始まるようで、画面にはポップな数字でカウントダウンが行われている。
7,6,5,4,3,2,1……
『こんにゃんこー! DTuberあいにゃんのライブ放送、はじまるにゃーん!』
可愛らしいポーズで開始の挨拶をする愛七。コメント欄には『久しぶり!』『なんで動画休んでたの?』などのコメントが大量に寄せられている。
『いろいろあったんだけど、まず最初に今日は特大の発表があるにゃ!』
愛七が手招きをすると、愛七そっくりの目隠しをした少女が画面端から現れる。紗奈さんだ。
『妹のさーにゃんだにゃー! さーにゃん、挨拶をどーぞ!』
『え、えっと。普通にしゃべればいいの? あの、皆さん初めまして。愛七……あいにゃんの妹のさーにゃんです。よろしくお願いします』
『ちょっとさーにゃん。ちゃんと語尾ににゃんつけないと!』
『や、やだよぉ……恥ずかしいもん』
突如登場した紗奈さんにコメントが湧く。愛七と似ていて美形であることがうかがえる顔と、愛七と異なり引っ込み思案な性格、そして黒色の目隠しにより醸し出されるミステリアスな雰囲気。紗奈さんはすぐに視聴者たちに受け入れられた。
しばらくの間、愛七主導で会話が繰り広げられ、今までの経緯が説明される。
20分程の雑談の後に、早々に愛七が放送を切り上げ始めた。
『今日は報告だけだからここまでにゃん。そしてこのチャンネルのこれからにゃんだけど、あいにゃんとさーにゃんの二人でDTuber配信をやって行こうと思うにゃ! みんな、続報を待てだにゃー!』
重大発表の後、すぐにライブ配信は終了した。
「……まじか」
怒涛の情報量に混乱していると、スマートフォンが着信を知らせる。発信者はもちろん『奥村愛七』だ。
「もしもし?」
『あ、達にい! 放送見てくれた!?』
「見た見た。今驚きで言葉を失ってたところ」
『にひひひっ! でしょでしょ!』
「ダンジョンダイバーに復帰するだけじゃなくて、まさか紗奈さんも一緒だとはね。よくあの両親が許してくれたね」
『二十歳になったら親でもダイバーライセンスの停止は出来ないからね! 勝手にダンジョンダイバーに復帰してやるって言ったら、渋々許可だしてくれたよ!』
「あまり親御さんを困らせちゃだめだよ」
『うん! それでね、これからはさーにゃんと二人でDTuberやっていくんだ! 達にいはあんまりそういう動画見ないって言ってたけど、たまには見てよ!』
「分かった。今チャンネル登録した」
『にひひひ、ありがとう! あとねあとね、さーにゃんと二人で渋谷ダンジョンの近くに引っ越すことになったんだ。達にいの所からも近い場所にするつもり! 引っ越しが終わって落ち着いたらまた連絡するから、絶対遊びに来てね!』
「うん、分かった。愛七もいろいろと忙しくなるだろうけど、がんばれよ」
『ありがとう、頑張る! またね達にい、絶対遊びに来てねー!』
「あいよー」
愛七が嵐の様にしゃべって、プツリと電話は切れた。
これからは愛七とあまり遊ぶことは無くなるだろうけど、会えなくなるわけではない。またメタフォーカスで遊びたいし、ちょくちょく会いに行くことにしよう。
「……てか、あいつ俺のメタフォーカス持っていきやがったな」
うっかりとかではなく、おそらく確信犯だろう。
「まぁいいや。バイトして、良いパソコン買うまでは貸しといてやるかー」
俺が未知の性体験を味わえるのは、大分先のことになりそうだ。
ーーーお知らせーーー
【スニーカー文庫様より、4月1日に発売予定!】
書籍タイトル『極めて健全な美少女レベルアップ』
以下の近況ノートに公式Xアカウント情報、健レベ特設サイトなどの各種URLを記載しておりますので、是非ご確認ください!
https://kakuyomu.jp/users/gottiknu/news/822139845262338366
★担当編集にゴネてゴネて、表紙の愛七のスカートを極限まで短くしました。
是非! 愛七の尻を! ご確認ください!