【WEB版】極めて健全な美少女レベルアップ   作:佐伯凪

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アイドルダイバーの幼馴染
第53話 着信拒否


『アイドルダイバー、トリニティスパークのゆらりんこと浜野由良さんが、アイドル活動を一時休止して一ヶ月が経ちました。事務所からはまだ復帰の声明はありません』

 

「え、まじで?」

 

 つけっぱなしのテレビから流れてきた音声に思わず顔を上げる。聞き間違いかと思ったが、テレビのテロップには『浜野由良、アイドル活動一時休止』の文字が。

 画面の中でコメンテーターが神妙な顔で口を開く。

 

『アイドル活動休止の前から、ファンの間でもゆらりんの体調を心配する声が上がっていましたからね。心配ですね』

 

「まじか。全然知らなかった。うーん。西村さんに連絡してみようかな」

 

 俺はスマートフォンのアドレス帳を開き、由良ちゃんのマネージャーである西村さんの番号をタップする。ショートメールを打ち込もうとして、その手を止めた。

 

「いやいや、人気アイドルのマネージャーに、ただの昔の同級生が連絡するっておかしな話だよな……」

 

 相手は(きら)びやかな芸能界で活動する人気アイドル。それに対して俺は彼女いない歴イコール年齢の童貞拗らせたクソ陰キャ野郎である。連絡を送ったところで西村マネージャーに迷惑をかけるだけだろう。

 

「由良ちゃん。昔の級友として応援してるよ。無理せずがんばれ」

 

 俺に出来ることなど何もないのだ。せめてもの応援の言葉を口にして、俺は朝食兼昼食を買いに行くために立ち上がった。

 マンションから出て近くのコンビニへと向かう。3月も中旬になり、だんだんと暖かい日も増えて来た。開花予想日を間近に控えた桜の木が、少しだけ薄桃色をのぞかせている。

 

「達哉……くん……?」

 

 のんびりと歩いていると、背中に声をかけられた。

 

「ん?」

 

 振り向くと、そこにはモフモフとした帽子を深く被った女の子が。整った顔に、白い肌。髪の色は何故か黒色だが、その顔は紛れも無く、ゆらりんこと浜野由良の顔である。服装は地味な色のモッズコートを着ており、テレビで見るときのようなオーラは無い。

 

「あれ、由良ちゃん? えっと、体調は大丈夫なの?」

 

 俺の問いには答えず、由良ちゃんは揺れる瞳で俺を見つめている。

 

「えっと、由良ちゃん?」

 

「達哉くん……ごめんなさい、ごめんなさい……。お願いだから、()けないで、逃げないで……。やっと、やっと見つけた……」

 

 尋常ではなさそうな由良ちゃんの雰囲気。何故か俺に謝罪の言葉を何度も口にして、許しを請うかの様な瞳で見つめてくる。その大きく綺麗な瞳から、ポロリと雫がこぼれた。

 

「ヒック……ごめ、ごめんなさい……達哉くん……ごめんなさい、ごめんなさいいぃ……」

 

「ちょ、ちょっと由良ちゃん!? 落ち着いて、ね? えっと、と、とりあえずどっか入ろう? ね?」

 

 通行人はまばらだが、もしもゆらりんだとばれた絶対に騒ぎになるし、そのゆらりんが泣いていればますます騒ぎは大きくなるだろうし、そのゆらりんを泣かせている俺は絶対写真を撮られてSNSで晒される。

 どうして人気アイドルである由良ちゃんが俺に謝り続けているのかは分からないが、ひとまず場所を移すことにした。

 

 

 

 

 とりあえず人の少ない近くの喫茶店に入り、コーヒーと紅茶を注文する。さめざめと泣き続ける由良ちゃんとおろおろしている俺を見て、喫茶店のマスターであるおじいさんが『私にもこんな青春があったなぁ』というような遠い目を向けて来た。

 おろおろしながら待っていると、ようやく由良ちゃんが少し落ち着いた。

 

「ごめ、ごめんなさい……。迷惑かけちゃったよね」

 

「いや、全然。ご飯を買いに行こうと思ってただけだったし、別に予定も無かったから」

 

「ありがとう。ありがとう達哉くん……こんな私にも、まだ優しくしてくれるんだね」

 

「こんな私って……。あの、現状が良くわからないんだけど……」

 

 困惑する俺を見て、由良ちゃんは涙をぬぐいながら自虐気味に微笑んだ。

 

「とぼけなくていいよ。本当は私なんかに会いたくなかったよね……それなのに会いに来て、本当にごめんなさい。だけど、だけど会いたかったから。ごめんなさいを言いたかったから……」

 

「いや、会いたくないなんてことは……」

 

「久しぶりに会ったばかりなのに、いきなりカラオケに連れ込んで、無理やり襲おうとした女なんて、嫌だよね。幻滅したよね。だから、着信拒否、したんだよね……? グスッ」

 

「着信拒否……?」

 

 俺には由良ちゃんの電話番号を着信拒否した記憶など無い。何かの間違いか、由良ちゃんの勘違いだろう。

 

「達哉くんに会いたくて、マネージャーに連絡先を教えて欲しいって頼んだんだけど、大事な時期だからダメって言われて。だからマネージャーがスマホを置いて行ったときに、勝手に達哉くんの連絡先を見たの。ごめんね、こんなことして……」

 

「いや、別に番号くらい良いけど……」

 

「突然電話するのも変かなって思って、ショートメールを送ったんだけど、返事は来なくて。勇気を出して電話したら、つ、つながらなくて……。うぅ……何回かけても、何回かけても、通話中のままで……。調べたら、着信拒否されてるときは……グス……通話中になるって、ネットに書いてあって……ふええぇ……」

 

「ショートメール……着信拒否………………あ」

 

 俺はスマートフォンを取り出してショートメールを確認する。ショートメールのごみ箱フォルダを。

 そして数か月前に受信した一件のショートメールを開いた。

 

『こんにちは。連絡が遅くなってごめんなさい。

 本当はもっと早く連絡したかったんだけど、新曲のPV撮影と番組出演で忙しくて……

 でも、やっと仕事が落ち着いて、ゆっくり出来る時間が増えました。

 いきなりで申し訳ないんだけど、今度会えないかな? 来年のドラマ出演も決まったけど、それまでは時間があるから。

 とりあえず、連絡貰えると嬉しいです。         【浜野由良】』

 

 最後まで読んで、冷や汗があふれ出て来た。

 完全にスパムメールだと思ったこのメール。有名人を偽った古いタイプのフィッシング詐欺だと思っていたこのメール。そして即行で着品拒否にしたこの番号。

 まさかの、本物であった。本物の有名人からのご連絡であった。

 

「ごめんなさいごめんなさい……本当にごめんなさいいぃ……」

 

 さめざめと泣き続ける美少女アイドルを前にして、今更『スパムメールだと思ってました、テヘ』なんて、言えるわけが無かった。

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