【WEB版】極めて健全な美少女レベルアップ   作:佐伯凪

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第62話 唐突に始まる美少女大戦

 カッパを着ていたとはいえ、水族館でびしょびしょになってしまった俺と由良ちゃんは家に帰ることにした。由良ちゃんはまだデートを続けたがっていたが、流石にメイクが落ちて靴も濡れてしまった状態でデートは続行できない。ビチャビチャになったウィッグも外しているため、ゆらりんだとバレるのも時間の問題だろう。

 風邪を引いてしまう可能性もあるため、早く帰ってシャワーを浴びたほうが良いと説得すると、由良ちゃんが一つ条件を出した。

 

「じゃあ、帰り着くまではずっと手を繋いでおいて」

 

「俺は構わないけど……」

 

 俺の答えを聞くが早いか、由良ちゃんは右手をするりと繋いで来た。恋人繋ぎで。

 

「帰り着くまで離さないから♡」

 

「由良ちゃん……ありがとう」

 

 俺の『手繋ぎデートをしたい』という願望をかなえるために、ここまで本気で頑張ってくれる由良ちゃん。感謝しかない。

 手を繋いだまま水族館を出て、地下鉄に乗る。

 

「こんどは♡ え、映画館とか行きたいよねー♡」

 

「それも楽しそうだね! あとはゲームセンターとか楽しそう!」

 

「ゲームセンターも、いいね♡♡ 達哉くんはスポーツ観戦とかもするの?♡♡」

 

「うーん、スポーツはあんまり見ないかなー。一回お父さんと一緒に野球を見に行ったことがあるけど、遠すぎて良く見えなかったから。スポーツはテレビで見る方が好きかも。解説もあるし」

 

「そうなんだ♡♡♡ でも、たしかに解説とか実況があると、知らないスポーツでも楽しめるもんね♡♡♡」

 

 地下鉄で他愛の無い会話をしている時も、もちろん手はつないだままだ。周りに人が沢山いるので最初はひやひやしたが、由良ちゃんは思った以上に普通に会話をしてくれている。途中言葉がつっかかったりするときはあるが、怪しまれるほどではない。

 ただ、俺を見つめてくるその瞳だけは蕩けきっている。

 繋いでいる由良ちゃんの手がしっとりと汗ばんできたところで、地下鉄は最寄り駅に到着した。

 

「由良ちゃん、大丈夫?」

 

「もちろんっ♡♡♡♡♡♡♡ ぜんっぜん平気だよっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

 

 快楽に耐えながらも、とびっきりの笑顔で笑う由良ちゃん。こんなにかわいい子がこんなに尽くしてくれるなんて、俺はなんて幸せなんだろうか。

 手を繋いだまま家へと歩く。どれだけ強がっていても、由良ちゃんはそろそろ限界だろう。歩く足が少しふらついている。

 

「あっ」

 

「おっと」

 

 由良ちゃんが小さな段差に躓いてよろけた。咄嗟にその腕を引き寄せて、由良ちゃんがこけないように支える。

 倒れ込んで来た由良ちゃんの顔が、俺の首筋にうずまるように接した。

 

「んぁっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ ぉっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

 

「由良ちゃん大丈夫!? 由良ちゃん!?」

 

「む、むり♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡かもぉっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

 

 身体を引き離そうとするも、ものすごい力で由良ちゃんに抱きしめられて離せない。

 

「ごめんなさい♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡達哉くん♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ごめんなさい、ごめんなさい♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

 

 由良ちゃんは何度も誤った後、ようやく顔を上げた。光のない瞳で、俺を見据える。

 

「由良ちゃん……?」

 

「ごめんね、達哉くん。我慢できなくなっちゃった……食べちゃうね……?」

 

 由良ちゃんが強い力で俺を抱き締めたまま、その綺麗な顔を近づけて来て……

 

「ひみりーん、ゆらりんおったでー! あそこー!」

 

「目標確認。捕縛する」

 

 唐突に響いた声。そちらに顔を向けると、見たことのある顔が。由良ちゃんと同じアイドルグループのメンバー、天ヶ崎萌々香さんと氷見凛さんだ。

 凛さんがこちらに駆けてきながら右手を前に出し、詠唱した。

 

「『拘束する大蛇(リストレクション・セルパン)』」

 

 氷見さんの手からほとばしる黒く長い光。その光が由良ちゃんに到達する直前に、由良ちゃんが腕を振るった。

 

「『紐解く天使の光(デリエ・アンジュ)』……何しに来たの?」

 

 白く光る由良ちゃんの手が黒い光に触れると、氷見さんが放ったその光は霧散した。

 驚くほど冷たい声で言いながら、由良ちゃんが二人の方へと顔を向ける。

 

「急に逃げ出したから捕まえに来たに決まっとるやーん!」

 

「見つけるの、苦労した」

 

「探してなんて、頼んでないよ。良いところだったのに」

 

「ゆらりんの事心配して一生懸命探し回っとたのにぃ~……って、ゆらりんのその目……やっぱり……」

 

「『彷徨う亡霊(ウィル・オ・ウィスプ)』。憑りつかれてる」

 

 突然始まったファンタジーな戦いと、何や事情がありそうな雰囲気の会話。察するに、ダンジョンに潜った際に由良ちゃんが魔物的な何かに精神攻撃をされて、その影響が発生しているということだろうか。分からん。

 

「もー、こうなったら実力行使! ちゃっちゃと祓って連れて帰らせてもらうわ~。いくで、ひみりん!」

 

「まかされたし」

 

「私達の幸せを邪魔するなら、容赦しないから!!」

 

 臨戦態勢になって構える三人。

 今、美少女大戦の火蓋が落とされた。

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