「どうぞ、粗茶ですけど」
「いえいえ、お構いなく~」
「アルフォートんま」
由良ちゃんが気を失った後、とりあえず落ち着けるところにという事でみんなで俺の部屋にやって来た。ちなみに由良ちゃんは天ヶ崎さんがおんぶで連れてきてベッドに寝かせてくれた。
人気爆発中のアイドルダイバーのメンバーが全員俺の部屋にいるだなんて、ファンからしたら嫉妬で憤死ものだろう。
「すっご。この部屋の中、顔面平均偏差値が高すぎて空気吸うだけで胸焼けしそう」
思わず口から出た俺の独り言を聞いて、天ヶ崎さんが苦笑いする。
「褒められてるのか貶されてるのか、判断に困るわ~」
「凛、そんなに脂肪多くない」
「っと、ごめんなさい。思わず素直な感想が口から出ちゃいました……。ところで、事情を聞かせて貰えますか?」
氷見さんがお茶菓子をもりもりと食べるので、たくさん追加で持ってきて俺もテーブルに着く。
こうやって三人を見ると、全員が美少女ながらも、美少女の方向性が違うことが良くわかる。清純派な由良ちゃん、おっとりお姉さん系の天ヶ崎さん、無表情不思議系の氷見さん。各方面のフェチに対して隙が無い布陣だ。人気が爆発するのも無理はない。
「そやなぁ。ゆらりんがおかしくなったんは、二ヶ月くらい前やったかなぁ。年末の特番とかドラマ撮影とかがあってめちゃめちゃ忙しい時期が落ち着いたころやね。ゆらりん、それまではあんまりスマホを見るタイプではなかったんやけど、ちょいちょい見る様になって。ライブや撮影の空き時間にはいつもどこかに電話をかけては、ため息をついて……」
おっと、それってもしかして俺が間違って着信拒否をしてしまったときのことですですかね?
「いつも落ち込んどったんやけど、それでもまだ普通のゆらりんやったんよ。それが変わったんが一月前にダンジョンダイブしたときのことやね。200階層でいつもみたいに狩りとレベル上げしとったんやけど、『
「俺、詳しいことは分からないんですが、『
ってどんな奴なんですか?」
「簡単に言うとお化けやねー。ダンジョンで未練を残して死んだ魔物の一部が『
「目に光が……確かに時々ありましたね」
由良ちゃんがヤンデレ化したのかと思っていたが、そうではなかった様だ。良かった。
「『
「サキュバスとかですか?」
由良ちゃんのあの感じ、憑りついたのはサキュバスの亡霊に違いない。
「ちゃうよ~。もしかしてスーパー経験値君、ゆらりんとエッチなことばっかりしとったん?」
天ヶ崎さんは呆れた表情で俺を、そして由良ちゃんを見る。
「あ、違いましたか。いえ、別にそういう訳ではないですけど……。あと、俺は無良達哉です。なんなんですかスーパー経験値君って」
めちゃくちゃ恥ずかしいこと言っちゃった気がするし、由良ちゃんの尊厳まで傷つけてしまったような気がするが、気にしないでおこう。
「ゆらりんに憑りついとったのは確か、ヘルハウンドやで」
「ヘルハウンド?」
「黒くて大きい犬型の魔物やよ。性格もかなり狂暴やからなぁ。無良君が生きてるってことは、多分ゆらりんもそんなに乗っ取られてはおらんかったみたいやねぇ。命拾いしたなぁ。ヘルハウンドが出て来とったら、無良君の首をガブーっ! ってやられて死んどったかもしれんよ~?」
「首を……」
思い出して、ゾッとした。度々感じる首筋への視線、そして毎回首筋にかみついてくる由良ちゃん。もしかしたらヘルハウンドの『
幸いなことに俺の経験値のおかげで、首に触れた瞬間に由良ちゃんの意識は飛んでいたけれど。もしかしたらそのままガブー! と食べられるところだったのかもしれない。もちろん食事的な意味で。まぁ性的な意味でも食べられそうではあったけど。
「事情は分かりました。由良ちゃんの『
少し寂しいけど、由良ちゃんとの生活も終わりになるのだろう。由良ちゃんを心配して待っているたくさんのファンもいるだろうし、アイドル活動を休止したままではいられないはずだ。
俺のベッドの上ですぅすぅと寝ている由良ちゃんを見る。かわいい。今日でこの寝顔も見納めか。
「と、ところで無良君……」
「ん? どうかしましたか?」
「う、ウチらにも、経験値くれたりせーへん?」
「へ?」
思わず聞き返して天ヶ崎さんに視線を向ける。桃色の髪を指で弄りながらもじもじしていた。乳がデカい。
「や、あの、ほら。ウチらってアイドルダイバーやん? いつも一緒にダンジョンに潜ってレベル上げて、アイドルもやっとるんやけどね、ゆらりんだけレベルが高かったら、変な疑いかけられるやん? ゆらりんは狩りじゃなくて異性交遊で経験値稼いでるんやーっ! って。それってアイドルとしては致命的やん? な?」
「えーっと。まぁ、そうなんですかね?」
「そうなんよそうなんよ! やらかね、ウチらも経験値貰ろて、ゆらりんとなるべくレベル差が無いようにする必要があるんよ! そう、これはゆらりんの為やよ! ほら、今はネットの誹謗中傷とか怖い時代やん!?」
何やら必死に頼み込んでくる天ヶ崎さん。ただ経験値が欲しいだけの様にも見えるが、言っていることには一理ある。愛七の時にもレベルアップ関係でひと悶着あったのだ。アイドルともなれば、動画配信者よりもファンが過敏になるのは頷ける。
「なるほど、由良ちゃんのためですか。分かりました、それなら……」
「だ、だめだよっ」
俺が頷きかけたとき、頭上から由良ちゃんの声が上から降って来た。視線を向けると、由良ちゃんが体を起こしてベッドに腰かけている。
「おはよう由良ちゃん。体調は大丈夫?」
「うん、平気。ずっと心がもやもやしてたけど、それがすっきりした感じ。萌々香ちゃんと凛ちゃんもありがとう。私を探しに来てくれて。さっきは襲い掛かっちゃってごめんね。なんか、身体の中がカァッってなって、自分が止められなくて」
「大丈夫やよー。憑りつかれてたんやから、しかたあらへんよ。大事なメンバーなんやし助けるのは当たり前やー」
「ん、平気。怪我もしてない。由良が無事で良かった」
「萌々香ちゃん、凛ちゃん……」
由良ちゃんは涙ぐみながら天ヶ崎さんと氷見さんを抱き締める。美少女三人による感動シーン。場所が俺の部屋じゃなければ映画のワンシーンの様だっただろう。
「ほいたら、感動の再開も終わったことだし、無良君の経験値を……」
「そ、それはダメぇっ!」
法要が終わった後、天ヶ崎さんが俺の方ににじり寄ってくるが、由良ちゃんがそれを止める。
「ほ、ほら! 休んでた分の仕事も溜まってるし、早く事務所に帰らなきゃ! 早くっ!」
「えー、全部ゆらりんのせいやんかー」
「いいから帰るのっ! 早くっ! ごめんね達哉くん。落ち着いたらまた帰って来るから!」
「ちょっとくらいええやんかー……ってゆらりん力つよっ! ほんま、レベルいくつまであがったんよ……」
「エンゼルパイ、凛のエンゼルパイが……」
どうやら今日の所は解散らしい。
由良ちゃんは天ヶ崎さんと氷見さんの腕をグイグイと牽いて、玄関に行き、扉の外に押し出した。
「ごめんね達哉くん。いろいろと迷惑かけちゃって」
「全然。由良ちゃんが居てくれてすごく楽しかったよ。いなくなっちゃうのが残念なくらい。由良ちゃんの荷物、まとめておくね」
「え、なんで?」
「え?」
あれ、おかしいな。由良ちゃんは『
「えっと、私、しばらくは忙しくなるけど、ちゃんとここに帰ってくるから。ちゃんと、ね?」
由良ちゃんがにっこりと微笑み、小声で言った。目に光が無い。
「……もう、逃がさないから」
「すうぅぅぅぅぅ…………っとぉ……。氷見さん、ちょっと
「? いいよ」
氷見さんは首をかしげながらも
俺はそれを由良ちゃんの近くで鳴らす。
何度も何度も、カラーンカラーンと心地の良い音が鳴り響き空に消えていく。
「ふふふ、達哉くんどうしたの? 私、もう憑りつかれてないよ?」
どうやら由良ちゃんのヤンデレは、『