「達哉くん、こっちを見て。私だけを見て。ねぇ、視線を外さないで。お願い、お願い達哉くん」
「ぁ♡ すっごいわぁこれぇっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ く、癖になってまうぅ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
「………………っ♡ ……………………………………………………………………ぃ♡」
「達哉くん、私の事だけ考えて。他の事は考えないで。ね? おねがい、おねがい達哉くん。私以外に心を奪われないで。達哉くんは私だけのものなんだからね? ね?」
状況を説明しよう。
あの日、無事に『
そして一ヶ月がたった今日、突然由良ちゃん達三人がやって来たのだ。なんでも近くで予定していたイベントが、スポンサー企業の不祥事で急遽中止になったとか。それでやることの無くなった三人は俺の家に来ることにしたらしい。
とりあえずお茶を出して話を聞いてると、やはりファンの間で由良ちゃんのオーラ量が他の二人と比べて多くなっていないかという指摘がちらほらと出てきているとのこと。由良ちゃんの休止期間、そして復帰後のオーラ量、ファンの間ではまことしやかに由良ちゃんに男が出来たのではないかと噂されているらしく、炎上とまではいかないが火種がくすぶっている状況だ。
そのため、取り返しのつかない炎上に発展する前に、三人のレベルをなるべく合わせておく必要があるとのこと。なので俺の経験値を天ヶ崎さんと氷見さんに分けて欲しいと。
俺としては問題ないのだが、不服そうな顔が一つ。由良ちゃんである。
どうやら俺に天ヶ崎さんと氷見さんが触れるのが嫌らしい。あれ、俺達って付き合ってたっけ?
そこで話し合いの結果出た案が、『二人に触れている間は、由良ちゃんだけを見る』というもの。ちなみにこの『話し合い』に俺は全く参加していない。なんか勝手に三人で話をして勝手に決まってた。
というわけで、俺の右手には天ヶ崎さんが、左手には氷見さんが触れており、眼前の至近距離に由良ちゃんがいるってワケ。
状況説明終わり。
「すごぉ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ゆらりん、ずっとこれを堪能してたん?♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ずっこいわぁ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
「……………………………………………………抜け駆け、禁止♡………………………………………………………………………………………………………………………………ぁっ♡」
俺の腕を抱きかかえる様にしてその恵まれた体を密着させる天ヶ崎さんと、俺の手の平にまるで幼子のようなスベスベでプニプニな頬を頬ずりする氷見さん。健全な男子にとって、まさに夢のような状況である。
「あ。達哉くん、今何考えたの? ねぇ、私以外の事考えたでしょ? だめだよ、ダメだよ達哉くん」
至近距離にあった由良ちゃんの顔がさらに近づいてくる。どうやら俺は自由に思考をすることすら許されないらしい。基本的人権が侵されている。
部屋に充満する美少女フェロモンで頭がクラクラしてきた頃に、ようやく天ヶ崎さんと氷見さんは満足したようで、俺の手を離した。
「んぁっ♡ ほんま、これでレベル上がるの反則やわー。ダンジョンに潜るのが馬鹿らしくなってまうなぁ」
「……っ♡ 危険も無いし、気持ちいいし、良い事尽くし」
「ぅー、二人ともズルいよぉ……」
満足げな天ヶ崎さんと氷見さんに対して、由良ちゃんは不服気味な様子。切なそうな顔で太ももの間に腕を挟み、もじもじしながら物欲しそうにこちらを見てくる。
「達哉くん……わ、わたしも、少しだけ……」
そのまま俺の首筋にゆっくりと顔を近づけて来る。しかし、
「はい、ゆらりんはおあずけやで~」
「由良もレベルアップしたら差が埋まらない。無意味」
「ぅーー……、ぅーー……」
よほど切ないのか、由良ちゃんはうーうー言いながら俺を見つめて、その瞳から雫をこぼした。
「由良ちゃん。二人のレベルが追い付いたら、好きにしていいから。ね?」
あまりにもかわいそうなので、希望をあげることにした。
「ほ、ほんと!? いいの!? 私、達哉くんのこと、めちゃくちゃにしちゃうかもしれないけど、本当にいいの!? はぁ……はぁ……」
一体何を想像してるのか。由良ちゃんは熱い吐息を漏らす。
「由良ちゃんの身体に害が及ばない程度にね?」
「うんっ。うんっ! ありがとう達哉くん!」
「ところで由良ちゃんと天ヶ崎さん達のレベル差ってどのくらいなの?」
俺はテーブルでお茶を飲みながらリラックスしている天ヶ崎さんと、お菓子をモフモフと頬張っている氷見さんに声をかける。おばあちゃんち並みにくつろぐやん。
「ウチは271やで~」
「凛は273」
「めっちゃ高いね。由良ちゃんは?」
由良ちゃんに目を向けると、由良ちゃんは目を泳がせながら逡巡したあと、明後日の方を見ながら言った。
「さ……285……」
そんな露骨に怪しい様子の由良ちゃんを二人が見逃すはずもない。
「ひみりん、測定」
「『
「あー! ひどい! ひどいよぉ!」
氷見さんが由良ちゃんに向けて唱えると、淡く由良ちゃんの身体が輝いた。
「驚きの鑑定結果はいかに?」
「305」
鯖読んでるなぁ。
「嘘つきリーダーはくすぐりの刑やー!」
「『
「魔法は反則ー!!」
至近距離で拘束魔法らしきものを撃たれた由良ちゃん。視えない何かに縛られたように、両手両足が拘束される。その無防備な体に天ヶ崎さんと由良ちゃんが手を伸ばした。
「うりうり~。こちょこちょしたるでぇ~」
「つんつん。つんつん」
「やめっ! くすぐったいっ! あははははは! くすぐったいからっやめてぇっ! あは、あははははは!」
「ちゃんと謝るまで許さへんでー」
「謝罪を要求する」
「ひゃはっ! あははははははは! ごめんなさいっ! 嘘ついてごめんなさいっ! あははははははは!」
「笑いながら謝るやつがおるかぁー!」
「誠意を感じない」
「ひっ! ひっ! ひゃははははははは! だって、だってくすぐられてるもんっ! あはははははっ! 達哉くんっ! 見ないで! 見ないでぇっ!」
見ないでって言われても。服が乱れ、身を捩らせ、頬を染めて涎を垂らしちゃってる美少女の姿を見ない訳がない。
由良ちゃんは十分ほど擽られ続けて、ようやく解放された。
◇
由良ちゃん達(正確に言うと天ヶ崎さんと氷見さん)が俺の経験値を貰いに来るようになって数週間。もはや俺の部屋はトリニティスパークのたまり場と化していた。
テーブルに座って楽し気におしゃべりをする三人に、俺はふと思いついた疑問をぶつける。
「最近俺の経験値でレベル上げしてるけどさ、大丈夫なの?」
「ん? 何がやー?」
ベッドに座っている俺に背を向けて居る天ヶ崎さんが、首を捻ってこちらを見る。良い角度だ。見返り美人とはまさにこのこと。
「ほら、普通はダンジョンに潜ってレベル上げるじゃん? だからさ、ダンジョンに潜ってないのにレベル上がってるのって不自然じゃないかなーって思って」
「……いやほら、ダンジョンに潜ってるかどうかーなんて誰も把握してへんし、早々バレるもんでもないやろ?」
「ダンジョン管理局の人にはバレるんじゃないの?」
俺は凉夏さんがダンジョンに潜っていった時のことを思い出す。たしかダイバーカードをダンジョン管理局の人に見せて、管理局の職員はパソコンで何かやってたはずだ。おそらく入退場記録的なものがあるのだろう。
「……せ、せやかてわざわざ見る人もおらん、やろ?」
「トリニティスパークは大人気アイドルダイバーなんだから、ダンジョン管理局の中にもファンは当然いると思うよ。入退場記録なんてそんなガッチガチにセキュリティ固めるものでもないと思うし、誰かがふと情報にアクセスしたりするんじゃない? んで、それを匿名掲示板とかに書かれたらヤバいんじゃない?」
「……そ」
「そ?」
「それは言えてるわ……」
何か反論が来るかとも思ったが、どうやら何も言い返せなかったらしい。
三人は互いの顔を見て頷き合い、立ち上がった。
「よし、ダンジョンに潜ろう!」
「ファンの人たちを不安にさせる訳にはいかんからなぁ!」
「隠蔽工作、開始」
氷見さん、隠蔽って言っちゃダメでしょ。別に悪いことはしてないんだし。
そういったわけで、トリニティスパークの三人は再びダンジョンに潜るようになって、俺の部屋に来ることが減った。
部屋に充満する美少女フェロモンが壁にまで染みついてきた気がするので、これを機に大掃除でもして匂いを消してしまおう。そうじゃないとムラムラして仕方がない。
事故が起こったのは、それから1週間後のことだった。