BrokenWorld~黒鉄の装着者~   作:半笑いの妖精

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第一章:装着者
第一話:世界が変わった日


 

「お疲れっしたー……」

 

 夜勤が終わり、朝勤の同僚へ一応の挨拶をする。返ってきた同じく覇気のない声を背中のリュックサックで受けながら、職場を後にした。

 日曜の早朝ということもあって、人通りも車の姿もほとんどない。半都会のこの辺りでも、多少は澄んだ空気が流れていた。

 眠い目を朝日に焼かれながらの帰宅道中。

 それに気づいたのは、たまたま目に入った電線の微かな揺れだった。風かと思う間もなく、地面が揺れる。

 そこまでであれば、地震大国に住んでいる以上、何も珍しくない。だが、一向に収まる気配がない。

 それどころか、揺れはどんどん激しくなっていく。

とても立っていられず、地面に手をついたところで、ようやく避難という文字が頭に過った。

 小学生の頃、TVで繰り返し報道されていた災害の記憶を頼りに、朧げな避難行動を実行する。

 

 建物からできるだけ離れて、道路側へ……だったか?

 

 リュックで頭を守りつつ、這うようにして街路樹の側まで移動する。確か、ビルから飛散するガラスを受け止めてくれる……はずだ。

激しさを増す揺れにしばらく耐えていると、不意にそれはピタリと止まった。

 

 あまりにも不自然な停止に不気味さを覚えていると、それは現れた。

 一見すると犬のように見えた。しかし、よく見ればまったく異質な姿に息を呑む。

 四足獣のような体。コールタールのようにテカテカとした体表。花のように開く頭部の隙間からは、鋭い牙が所狭しと並んでいるのが見える。

 まるでサイコホラーに出てくる犬型のクリーチャーだ。

 現実にいるはずのない存在に脳が理解を拒む。だが、じわじわとにじり寄ってくる怪物が、ガバッと襲い掛かってきたことで我に返った。咄嗟にリュックを盾にする。

 リュックに牙が食い込んだのを見て、リュックごと押し返し、その場から逃げ出す。

 脇目も振らずに信号を一つ越えたところで、体力が限界に達し、全力疾走が途切れた。乱れる息を整えながら後ろを確認すると、怪物はすぐ背後まで迫っていた。

 再び襲い掛かろうとしているのを見て、反射的に横へ飛び込む。何とか避けることには成功した。

 怪物の苛立ったような不気味な唸り声は、死を連想させるには十分だった。

 身近に感じた死の恐怖によって脳のリミッターが外れたのか、視界がゆっくり流れ始める。

 何かないかと必死に考えた結果、それを見つけた。

 少し先にあるゴミ捨て場。電柱に立て掛けられた、黄色い回収不可の札が付いた棒状の何か。

 意を決してゴミ捨て場へ走り出す。

 後ろからは追いかけてくる足音。回復しきっていない体力に、夜勤明けの肉体という最悪のコンディション。だが、追いつかれれば死ぬという緊張感が、気力を振り絞らせる。

 万里のように感じた数メートルを何とか走り切り、目を付けた棒状の何か──歪み汚れた鉄パイプだった──を握る。そして、思い切り後ろへ振り抜いた。

 グニュリと、やや柔らかい感触。

 それと同時に、怪物が悲鳴を上げる。

 横倒れになったところへ、間髪入れず追い打ちを掛けていく。

 振り下ろし、蹴り飛ばし、叩き付け、踏み潰し、殴り付ける。

殺らねば殺られる。

 その一色に染まった俺の行動は、怪物が光の粒子となって消えるまで続いた。

 生き物を殺した実感と、恐怖からの解放感に呆然としていると、怪物が変化した光の粒子の一部が、自分の体に吸い込まれるように消えた。

 

『討伐ポイントを入手しました。また、世界初討伐ボーナスが付与されます。……対象個体に固有能力が存在しない為、固有能力が作成されます』

 

『固有能力【外装】を獲得しました。……世界初討伐ボーナスが付与された事により、固有能力【外装】は【強化外装】に進化しました。……能力詳細がインストールされます』

 

 そんな無機質な声が聞こえた瞬間、脳裏に詳細が流れ込んできた。

 

能力名:強化外装

ランク:固有

能力詳細

・身体能力を強化する外装(パワードスーツ)を自在に脱着可能。耐久値が無くなると強制解除され、24時間が経過するまで再装着不可となる。モンスターの討伐ポイントを消費する事で、外装の強化や機能の増設が可能。

残ポイント:0

 

 まるでゲームのようなそれに、あまりの非現実感から乾いた笑いが漏れる。

 

「強化外装……?」

 

 半信半疑ながら装着と念じる。

 その瞬間、全身を覆うように黒い機械的なスーツが展開された。

 顔に展開されたバイザーには、スーツの機能一覧や耐久値を表すゲージが表示されている。

 

マジ……?

 

 あまり現状は飲み込めていない。だが、少なくとも自分に特別な力が宿ったのは間違いないらしい。

 

 スーツの性能は思った以上に強力だった。体は羽のように軽いし、軽く殴った壁にはヒビが入る。かなり強化されているようだった。

 流石に耐久面のテストは行わなかったが、見るからに堅そうだし、信頼はできそうだ。

 あんな怪物が現れるようになった今、かなり心強い能力と言えるだろう。

 

 それに──

 

「討伐ポイントを消費して、機能の強化・増設が可能……か」

 

 今のままでも強力なこのスーツを、さらに強化できるということだ。

 

 怪物《モンスター》を倒す必要はあるが……。

 

 あの犬型モンスターは、生身の俺でも倒せた。

 

 このスーツがある今なら、もっと楽に倒せるだろう。

 

「はは、ははは……!」

 

 定職にも就かず、アルバイトを転々とする日々。端的に言えば、底辺の負け組。それが俺だ。……もっとも、この時代、あまり珍しくもないのかもしれないが。

 

 そんな負け犬の人生から一転してこれだ。

 

 これほど分かりやすい人生逆転のチャンスも、そうそうないだろう。

 込み上げる喜悦に身を震わせていると、背後で物音がした。

 気持ちを切り替えて振り返る。

 そこには、さっきも見た犬型モンスターの姿があった。

 見れば見るほど不気味な姿に鳥肌が立つ。……が、その程度だ。さっきまでの恐怖は微塵もない。言うまでもなく、このスーツのお蔭だった。

 近くに転がっていた鉄パイプを拾い、軽く振りながら襲ってくるのを待つ。

 飛び掛かってきたモンスターの開いた口へ向けて、フルスイングする。

 グチャッ、と湿った音と共に、モンスターの顔が大きく歪んだ。空気の抜けたゴムボールみたいに鈍く弾み、そのまま動かなくなる。

 すぐにモンスターの体は光の粒子となり、その一部が体に吸収される。すると、さっきも聞いた無機質な声が流れた。

 

『討伐ポイントを入手しました』

 

 バイザーで先ほどの詳細を表示させると、残ポイントが1になっていた。

 何かできないかと、そのまま強化・増設の一覧を表示させる。

 

 1Pでも結構取れるやつあるな……。

 

【装甲強化:1P】【耐久値増加:1P】【強化率上昇:1P】……etc

 

 強化項目はポイントが低い順に並んでいるようで、下へスクロールしていくと、2Pや3Pを消費する項目が出てきた。

 

 見ているだけでも結構楽しい。

 

 そうして目を通していると、気になるものを見つけた。

 

【近接武器生成:5P】

・エネルギーを消費する事で簡易的な近接武器を生成可能。生成した武器は耐久値が無くなる、もしくはスーツから離れて10秒が経過すると消失する。

 

 消費ポイントは5と多めだが、その効果は有用の一言だった。

 

 モンスターが現れるようになった今、武力は何より優先すべきだろう。

 目標を決めたところで、自分が夜勤明けだったことを思い出す。

 生命の危機や能力への興奮で忘れていたが、限界が近い。

 家に帰るためにも、最初に襲われた場所に戻って、身代わりにしたリュックを拾う。

 外ポケットに入れていたスマホは激しく損傷しており、電源すら入らない。まあ、こんな状況でネットが機能するとも思えないし、生き延びた代わりだと思えば安いものだ。

 他にも、中に入れていたモバイルバッテリーや財布、水筒などは軒並みひどい有様だ。

 だが不幸中の幸いか、家の鍵は無事だった。

 重いまぶたを必死で開き、フラフラの足取りで自宅へ向かう。

 途中で二回、モンスターに襲われたものの、何とか無事にアパートにたどり着くことができた。

 

 さっきの地震によるものだろう。

 外壁が所々剥がれ、ヒビも走っている小型アパートの姿が見える。少し歪んだ外階段を上り、玄関をくぐった瞬間、ドッと疲れが吹き出した。

 

 意識が飛びかけながらもベッドまで移動し、倒れ込む。

 そしてそのまま、意識を手放した。

 

 




今話獲得能力
能力名:強化外装
ランク:固有
能力詳細
・身体能力を強化する外装(パワードスーツ)を自在に脱着可能。耐久値が無くなると強制解除され、24時間が経過するまで再装着不可となる。モンスターの討伐ポイントを消費する事で、外装の強化や機能の増設が可能。
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