BrokenWorld~黒鉄の装着者~   作:半笑いの妖精

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第十話:実感

 

 試運転はまだ終わらない。

 ニードルマンやゴブリンを数体ずつ狩った程度では、新しく増えた兵装の本当の使い勝手は見えてこない。

 個々の性能は分かった。だが、それを戦闘の流れの中でどう繋げるかは別問題だ。

 だから、次は相手の数を増やした。

 単体や少数じゃない。

 D級の群れを相手にして、変化したスーツに体を慣らしていく。

 最初に見つけたのは、廃工場跡の駐車スペースにたむろしていたゴブリンの群れだった。

 ざっと十体。

 さらにその周囲を、スライムが三体ほど這い回っている。

 

「……ちょうどいい」

 

 バイザー越しに群れを捉え、静かに息を吐く。

 戦術演算を起動。

 すると視界の右端へ、複数の推奨ルートが重なって表示された。

 

【推奨:開幕範囲牽制→左翼分断→各個撃破】

【推奨:高機動接近→支援機による撹乱→近接制圧】

【推奨:障害物利用により包囲回避】

 

「……なるほどな」

 

 今までは、その場の勘と反応でやってきた。

 だが今は有利になる順序が最初から可視化される。

 まずは開幕。

 左手を上げ、群れの中心より少し手前へ最小出力のエネルギー弾を三連射する。

 

 放たれた三つの光弾が着弾し、爆ぜる。

 直撃でゴブリン一体の上半身が吹き飛び、周囲の二体がバランスを崩した。スライムも一体が弾け飛ぶ。

 それと同時に、浮遊支援機が左右へ展開。

 片方が低く唸るような音を発し、もう片方が上空へ小さな発光弾を撒いた。

 撹乱だ。

 ゴブリンたちの視線が一瞬、白く塗り潰される。

 その隙を狙って、脚部噴射を吹かす。

 シュッ、と短い推進音。

 体が地面すれすれを滑るように加速し、群れの左端へ一気に食い込む。

 短剣を振るう。

 一閃。

 二閃。

 三閃。

 強化された刃は、以前よりさらに軽く敵を断ち切った。

 首筋。脇腹。顎下。

 抵抗を感じる前に肉を裂き、骨を断ち、ゴブリンの体が次々と光へ変わる。

 だが数はまだいる。

 背後から棍棒を持った一体が振り下ろし、正面から別の一体が飛び掛かってくる。

 

「支援」

 

 言葉と同時に、浮遊支援機の一基が前方へ滑り込み、薄い光膜を展開。

 正面のゴブリンがその膜にぶつかって一瞬止まる。

 その間に、もう一基が斜め上へ足場を生成。

 

「しっ──」

 

 反射的に踏み込み、空中で軌道を変える。

 飛び越えざまに振り下ろした短剣が、棍棒持ちの額から顔面を縦に割った。

 着地。

 即座に噴射口で方向転換。

 横から迫るスライムへ短剣を突き立て、そのコアごと切り裂く。

 思った通りだ。

 動きの選択肢が増えたことで、群れ相手の戦い方がまるで違う。

 地上だけじゃない。

 前後左右だけでもない。

 空中の一歩。

 瞬間加速。

 支援機の牽制。

 戦術演算の推奨。

 全部が噛み合うと、数で押してくる相手に対してこちらが一手多く動ける。

 

「──はっ!」

 

 最後のゴブリンの喉を断ち、残ったスライムをエネルギー弾で吹き飛ばす。

 群れは、あっけないほど短時間で壊滅した。

 

『討伐ポイントを入手しました』

 

 連続して鳴る電子音声の中、軽く肩を回す。

 

「……悪くないどころじゃないな」

 

 むしろ、かなり良い。

 その後も試し打ちは続けた。

 道路沿いの陰に群れていたニードルマン七体。

 廃倉庫の中に溜まっていたヒルクライム五体。

 屋根裏へぶら下がっていたレイザーバットの群れ。

 さらに、それらが混成で現れる場面もあった。

 相手の数が増えれば増えるほど、新兵装の有用性が際立つ。

 レイザーバット相手には、浮遊支援機の足場と脚部噴射を使った立体機動が刺さった。

 今までなら上空の敵に対してはエネルギー弾へ頼る比重が大きかったが、今は自分から高度を取って斬りに行ける。

 ヒルクライム相手には、戦術演算が妙に優秀だった。

 音へ寄ってくる習性を逆手に取る位置取りや、狭い通路へ誘導して面制圧する手順まで提示してくる。

 ニードルマンの群れには、支援機の防壁と自分の噴射口機動を組み合わせることで、突きの射線をずらしながら側面へ潜り込む戦い方が安定した。

 そして、戦闘を重ねるごとに、スーツの反応が自分の体へ馴染んでいく。

 最初は意識して使っていたそれ。

 それが徐々に感覚へと近づいていく。

 確実に慣れてきている。

 脚部噴射のタイミング。

 支援機へ出す命令の粒度。

 短剣生成Ⅱの最適な形状。

 回避と接近の緩急。

 

 そうして、周辺一帯のモンスターを狩り尽くした頃には、夜はすっかり深くなっていた。

 建物の陰にも、道路脇にも、少なくとも目に付く範囲に雑魚の姿はない。

 呼吸もそこまで乱れていない。生体回復機能のおかげか、細かなダメージも戦闘中に薄れていく。

 まだやれる。

 そう判断し、次の相手を探して町外れのさらに先へ足を伸ばした時だった。

 バイザーが二つの反応を捉える。

 

「……ん?」

 

 視線を向ける。

 少し先。

 崩れた住宅街の向こう、月明かりの差す空き地にいたのは、見覚えのある巨体だった。

 赤銅色の肌。

 二本の剛角。

 筋骨隆々の巨体。

 そして、手にした巨大な棍棒。

 オーガ。

 しかも、一体じゃない。

 二体だ。

 並んで徘徊するその姿を見た瞬間、ダンジョンのボスではなく、拠点を潰されたあの日の記憶が一気に蘇る。

 家を瓦礫に変えた怪物。

 赤い瞳。

 魔眼。

 そして、初見殺しの一撃。

 あの時は逃げようとして、動きを止められ、棍棒をまともに食らった。

 スーツの性能でどうにか生き残れたが、あれは本当に紙一重だった。

 だが、

 

「……今回は、違う」

 

 静かに呟く。

 視界の隅で、浮遊支援機が低く光った。

 戦術演算機能が待機状態から起動準備へ移る。

 脚部噴射はいつでも吹かせる。

 近接武器生成Ⅱは以前より高性能。

 予備外装まである。

 そして何より、もう魔眼の存在を知っている。

 初見殺しじゃない。

 分かっていれば、対策のしようはいくらでもある。

 オーガ二体が、まだこちらに気づいていないまま月光の下を歩いている。

 バイザーの解析ウィンドウが静かに開く。

 

 ▼

 モンスター名:オーガ

 ランク:C-

 詳細:生木の幹をへし折る膂力と強靭な肉体を兼ね備えた鬼型のモンスター。獲物への執着心が強く、犬より優れた嗅覚と聴覚で獲物をしつこく追跡した後捕食する。また、種族特性として暴威の魔眼を所持している為注意が必要。

 討伐P:1000

 ▲

 

 そもそも、倒すだけならオーガの知覚が及ばない上空から最大出力のエネルギー弾を叩き込むだけで、たぶん勝負はつく。倒すまで至らなくても致命傷には持っていけるだろう。

 オーガの魔眼は視線が通らなければ意味が無いし、上空への攻撃手段だって物を投げるくらいしか無いだろうし。それだって空を飛べる自分なら余裕で対応可能だ。

 

 だが、

 

「……それじゃ、試しにならない、か」

 

 呟く。

 今回の目的は、勝つことそのものじゃない。

 進化したスーツを試すことだ。

 新機能が増えた。

 火力も、機動力も、支援能力も上がった。

 戦術演算がどこまで使えるのか。

 近接武器生成Ⅱの性能が、C級相手にどこまで通じるのか。

 魔眼を知った上で、近接主体でもオーガを倒せるのか。

 

 それを確かめるなら条件を縛るべきだろう。

 

「よし」

 

 頭の中でルールを決める。

 エネルギー弾は最小出力のみ。

 使うとしても、牽制か足止めまで。

 決め手にはしない。

 主軸は戦術演算と近接武器生成Ⅱ。

 できる限り、スーツの判断補助と自分の近接機動だけで仕留める。

 浮遊支援機は使う。

 だが、火力で押し切る方向じゃなく、防御や足場、撹乱寄りで運用する。

 そう整理したところで、逆に頭が冴えた。

 

「……やるか」

 

 バイザーへ意識を向ける。

 

【戦術演算:起動】

【対象:オーガ×2】

【脅威分析中……】

 

 青いガイドラインが視界へ走る。戦術演算は思考を読み取っているのか、エネルギー弾を用いる戦術を提案せず、近接主体の作戦が構築されていく。

 

 オーガ二体の動きや位置関係、互いの死角、接敵ルートが幾重にも重なって表示される。

 

【推奨:開幕は魔眼対策優先】

【推奨:視線の正面軸を避けた高速侵入】

【推奨:片方の機動阻害後、分断撃破】

【注意:両個体同時交戦時、棍棒の面制圧範囲拡大】

【推奨武装:中型片手剣/高貫通性短槍】

 

「槍、か」

 

 確かに理に適っている。

 相手はリーチが長い。

 こっちも懐へ入るだけでなく、一瞬の外側から急所を突ける手段が欲しい。

 意識を向けると、武器生成画面が展開される。

 以前より細かくなった項目をざっと確認し、今回は二種を選んだ。

 一つは、右手用の細身の短槍。

 長さは俺の身長よりやや短い程度。刺突重視で、穂先は細く鋭く、青いラインが中央を走っている。

 もう一つは、左手側の逆手短剣。

 こちらは取り回し重視。近距離での切り返しや、槍を捨てた後の追撃用だ。

 光が収束し、武器が手に馴染む。

 

「……いいな」

 

 重心も悪くない。

 短槍は思ったより軽く、それでいて芯のある感触がある。これなら噴射口の加速を乗せた刺突とも相性が良さそうだった。

 浮遊支援機へは、開幕は防御優先とだけ命じる。

 二基のドローンが静かに散開し、俺の左右やや上方へ待機した。

 深呼吸。

 オーガ二体はまだこちらに気づいていない。

 距離はある。だが、不意打ち一発で終わらせる気はない。

 むしろ、最初の接触からきちんと観察したい。

 物陰を蹴り、俺は月光の差す空き地へ躍り出た。

 オーガ二体が同時に顔を上げる。

 赤い双眸。

 天へ反る剛角。

 棍棒を握る腕の筋肉が、月明かりの下で鈍く光る。

 そして来た。

 視線が、絡む。

 あの時と同じ、血が凍るような圧迫感。

 全身を止めようとする悪意の波が、正面から叩きつけられる。

 だが、知っている。

 

「正面に立つな、って話だよな……!」

 

 戦術演算のガイドに従い、視線が完全に重なる前に脚部噴射を短く吹かす。

 体が斜めへ滑り、魔眼の正面軸から半歩ずれる。

 圧が、抜けた。

 完全には消えない。

 だが、前回みたいに全身が凍りつくほどじゃない。

 

【推奨:有効】

 

【次行動:左個体外膝部へ先制刺突→後退回避】

 

「了解!」

 

 返事するみたいに呟き、そのまま左側のオーガへ突っ込む。

 距離を詰める。

 オーガが低く唸り、棍棒を横薙ぎに振り抜いてきた。

 重い。

 空気そのものが潰れるみたいな一撃。

 だが、予測線が見えている。

 滑り込むように低く姿勢を落とし、棍棒の下を潜る。

 同時に、短槍を斜め下から突き上げるように繰り出した。

 狙うのは胸じゃない。首でもない。

 左脚、膝の外側。

 ゴッ、と硬い手応え。

 筋肉に包まれた関節部へ穂先が深く食い込み、オーガの巨体がわずかに傾く。

 やはり通る。

 以前の鉄パイプや短剣とは違う。

 近接武器生成Ⅱで増した攻撃力はC級相手にも十分通用する。

 

「グォォッ!」

 

 オーガが怒声を上げる。

 だが、刺したまま留まらない。

 即座に槍を引き抜き、脚部噴射で横へ跳ぶ。

 直後、もう一体の棍棒がさっきまで俺のいた地面を叩き砕いた。

 床石がない空き地のはずなのに、地面が爆ぜたみたいに土と瓦礫が舞い上がる。

 まともに食らえば、やはりただでは済まない。

 

【推奨:片方を障害物代わりに利用】

 

 戦術演算が次を示す。

 なら、その通りに。

 今度は傷を負った左側のオーガを軸に回り込み、もう一体の進路を制限するように動く。

 二体が完全に横並びになれない位置関係を維持しつつ、傷を入れた方へ圧を掛ける。

 浮遊支援機が一基、左オーガの顔前へ閃光弾じみた小さな光を弾けさせた。

 視線がそちらへブレる。

 その隙へ踏み込む。

 短槍を捨てるように収納し、右手へ新たに片手剣サイズのやや長い刃を生成。

 以前なら短剣一択だったが、生成Ⅱでカスタム幅が増えた今なら、この切り替えも一瞬だ。

 

「っ、おらぁ!」

 

 踏み込み。

 加速。

 斬撃。

 オーガの脇腹へ深く刃が食い込み、赤黒い血が噴く。

 同時に後ろへ抜けようとしたが、もう一体が反応して棍棒を振り上げていた。

 速い。

 だが、読みの内。

 

【推奨:上方回避】

 

 視界の補助ラインに従い、浮遊支援機へ足を掛ける。

 足元に展開した光の板を蹴り、上へ逃げる。

 棍棒が下を薙ぎ払い、空振りした。

 

「よし……!」

 

 着地と同時に、最小出力のエネルギー弾を地面へ一発。

 狙いはダメージじゃない。土煙だ。

 青白い弾が炸裂し、視界が一瞬曇る。

 その間に、傷を入れた左オーガの背後へ回る。

 魔眼も、正面から見なければ脅威は激減する。

 知っていれば、付き合い方はある。

 背中側から膝裏を切り裂き、振り返りざまの肘打ちを装甲で受け流し、さらに太腿へ二撃目。

 巨体がよろめく。

 

「一体目、もう少し……!」

 

 前回は魔眼で止められ、棍棒の一撃を食らった相手。

 だが今回は違う。

 怯まない。

 止まらない。

 知っている脅威なら、対処法を組み立てられる。

 そして今の俺には、それを形にするだけのスーツがある。

 月明かりの空き地で、二体のオーガと交差しながら、俺はさらに速度を上げていった。

 

 戦闘を始めて十分程。形勢はじわじわとこちら側へと傾き始めていた。

 最初の数分は戦術演算の警告に気を配り、二体のオーガが持つ圧倒的な膂力とリーチを注意する必要があった。

 だが、時間が経つほどに分かってくる。

 モンスターの癖とも言うべき所作。

 間合い。

 攻撃の起こり。

 魔眼を通そうとする時の、ほんのわずかな溜め。

 勿論、戦術演算の補助も大きい。

 最初は提示される推奨行動をなぞるだけだった、しかし今では自分の感覚と噛み合い始めていた。

 どの位置なら二体の連携を崩せるか。

 どちらを先に誘導すれば、もう片方の動線が窮屈になるか。

 どのタイミングで脚部噴射を吹かせば、最小限の動きで攻撃を躱せるか。

 全部が実戦の中で少しずつ繋がっていく。

 左側のオーガは、膝と脇腹に深い傷を負っていた。

 右側の方も、太腿と前腕、肩口へ何度か刃を通している。

 どちらもまだ倒れない。だが、動きの鋭さは確実に落ちてきていた。

 

「グォォォォッ!!」

 

 怒声と共に、右のオーガが棍棒を振り下ろす。

 それを半身で躱し、地面へめり込んだ棍棒を足場代わりに跳ぶ。

 浮遊支援機の光足場を一歩だけ踏み、空中で体を捻る。

 そのまま左のオーガの肩口へ斬撃を入れ、着地と同時に脚部噴射で離脱。

 直後、左のオーガが反撃に腕を振るう。

 その拳が頬を掠め、装甲に鈍い衝撃が走った。

 重い。

 棍棒じゃなくとも、この一撃だけで人間なら潰れる。

 だが、今は冷静だった。

 前みたいな恐怖はもうない。

 あるのは、どう料理するかという思考だけだ。

 

【推奨:現状維持】

 

【両個体の軸線重合率上昇】

 

【数手内に高効率撃破機会発生予測】

 

「……高効率撃破、ね」

 

 口元がわずかに吊り上がる。

 戦術演算がそう言うなら、何かあるのだろう。

 なら、その機会を作る。

 意図的に、少しだけ下がる。

 完全な後退ではなく、あくまで追わせる距離を保ったまま。

 傷ついた左のオーガが先に出る。

 右のオーガが、それを追うように半歩遅れて踏み込む。

 巨体ゆえに、どうしても進路が重なる瞬間がある。

 そこへさらに浮遊支援機の片方を左側へ回し、短く閃光を弾けさせる。

 左のオーガがそちらへ顔を向ける。

 それに引っ張られるように右のオーガもわずかに体を寄せる。

 並んだ。

 ほんの一瞬。

 だが確かに、二体の首筋が一直線へ近い角度で揃った。

 

「そこか……!」

 

 決定的な隙を見つけた瞬間、思考が一気に研ぎ澄まされる。

 

【推奨武装変更】

 

【生成:鋭利さ重視/到達長重視/大太刀型】

 

【推奨行動:脚部噴射全開→左下から右上へ一閃】

 

 大太刀。

 今まで考えもしないカテゴリ。

 だが、生成Ⅱなら可能だと理解している。

 右手の剣を即座に消去。

 同時に、意識を武器生成へ割り振る。

 長く、そして鋭利に。

 重さよりも切断力を優先。

 強度は最低限、ただこの一振を通すためだけの刃。

 青白い光が右手へ収束し、次の瞬間には漆黒の大太刀が形を成していた。

 反りは浅い。

 だが刀身は異様に長く、青い発光線が刃文のように走っている。

 握った瞬間に分かる。これは断つための武器だと。

 

「──ッ!」

 

 脚部噴射、全開。

 背部ノズルもわずかに噴かし、一気に前へ滑り込む。

 地面が流れる。

 空気が裂ける。

 視界の中で、二体のオーガの首筋だけが鮮明に浮かび上がる。

 左下から、右上へ。

 戦術演算のラインと完全に重ねるように、全身をひねって大太刀を振り抜いた。

 斬撃。

 音が、遅れてきた。

 最初に感じたのは手応えじゃない。

 むしろ、拍子抜けするほど軽かった。

 鋭利さへ特化した大太刀は、オーガの分厚い首筋すら“切る”というより“通り抜ける”ように滑った。

 肉を裂き、骨を断ち、血を置き去りにして、青い軌跡だけが月光の下へ残る。

 一瞬の静寂。

 次の瞬間。

 ドバッ、と遅れて噴き上がる血飛沫。

 左のオーガの首が宙を舞う。

 半拍遅れて、右のオーガの頭部も胴から離れた。

 巨体が、二つ。

 ほんの数歩だけ前へ進み──

 そのまま膝から崩れ落ちる。

 

「……っ、しゃあ!」

 

 着地と同時に思わず吠える。

 撥ね飛ばした。

 C-級オーガ二体の頸を、一閃で。

 頭部を失った巨体が地面を揺らして倒れ、赤黒い血をぶち撒ける。

 だが、その死体も長くは残らない。いつものように光の粒子へと変わり始める。

 

『『討伐ポイントを入手しました』』

 

 討伐が同時だったからか、重なって響く電子音声。

 宙へ舞った頭部も、崩れた胴体も、まるで最初から存在しなかったかのように粒子へ変わり、その一部がこちらへ吸い込まれていく。

 静かになった空き地で、俺は大太刀を握ったまましばらく立ち尽くした。

 荒い呼吸。

 脈打つ鼓動。

 噴射口の余熱。

 そして、手の中に残る確かな感触。

 

「……強ぇな」

 

 ぽつりと漏れる。

 スーツが。

 追加兵装が。

 戦術演算が。

 近接武器生成Ⅱが。

 全部ひっくるめて、今の俺は明らかに前とは別物だった。

 前回は初見殺しがあったとはいえ、一撃を食らい辛くも勝利した相手。

 それを今は、条件を縛った近接主体の試運転で二体まとめて仕留めている。

 もちろん、慢心していいわけじゃない。恐らくオーガより…あのオーガ・メイジより強大な相手なんてごまんと存在するだろう。

 

 だが、それでも。

 自分が確実に強くなっている。

 その事実を、これ以上ない形で実感できた。

 大太刀を光の粒子へ戻し、代わりに視線を夜の街へ向ける。

 周辺のモンスターはほぼ狩り尽くした。

 試運転としては、十分すぎる成果だ。

 

「ダンジョン、もう一回潜ってもいいな……」

 

 自然とそんな言葉が漏れていた。

 ホームセンターダンジョン。

 あそこで得た迷宮核と50000Pが、確実に俺を次の段階へ押し上げている。

 なら、次にやることも自然と決まる。

 もっと強くなる。

 拠点を固める。

 ダンジョンを攻略する。

 この終わった世界で、生き残るために。

 月明かりの下、二体のオーガが消えた空き地で、青いラインを走らせた強化外装が静かに輝いていた。

 




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