BrokenWorld~黒鉄の装着者~ 作:半笑いの妖精
薄く脳裏を過った絶望の二文字。
出口は塞がれた。
しかも、壊しても壊しても再生する。
後ろには、数えきれないほどの茨の軍勢。
上空に逃げても、地上からソーンソーサラーの槍が飛んでくる。
このまま消耗し続ければ、いずれどこかで被弾し、捕まり、押し潰される。
肝が冷える。
嫌な汗が背を伝う。
喉の奥がひゅっと細くなり、呼吸が浅くなる。
「……っ、落ち着け」
無理矢理、自分へ言い聞かせる。
パニックになったら終わりだ。
今はまだ生きている。
まだ、動ける。
なら、打開策を探せ。
視界の端では、エネルギーゲージがじわじわと減っている。
飛行。回避。防御。支援機。
全部を同時に回しているせいで、回復量を強化したとはいえ流石に収支が追いつかない。
しかも地上からは、相変わらず茨の槍が次々と飛んでくる。
「チッ……!」
体を捻り、一本を回避。
もう一本は浮遊支援機の防壁へ掠らせて逸らす。
その合間にも、意識は必死に機能増設画面を探っていた。
何か。
何でもいい。
この状況を打破できる一手。
一覧を流す。
攻撃。防御。支援。特殊。
目で追う速度では足りず、半ば直感頼りに項目を拾っていく。
残ポイントは──
「……三万、ちょい?」
一瞬、思考が止まる。
さっきまでの逃走と、茨のモンスター連中の撃破でポイントが加算されていたらしい。
気づけば、残高が三万を少し越えている。
三万。
その数字を見た瞬間、脳裏にひとつの項目が浮かび上がった。
【重武装群(ヘビーアームズ):30000P】
・高威力、高射程の追加兵装パック。ただし、エネルギー消費量も極大。
「……これだ」
理屈より先に、そう確信した。
出口の茨壁は、最大出力のエネルギー弾で大きく抉れた。
つまり、壊せないわけじゃない。
問題は修復を上回る高火力。
だったら必要なのは、小回りや継戦じゃない。
一点突破の重火力。
そして、そのための項目が今まさに目の前にある。
迷いは一切なかった。
「取得!」
念じた瞬間、スーツ全体へ走る青いラインが一気に輝きを増した。
次の瞬間、装甲の外側へさらに装甲が重なる。
肩。
胸。
腕。
脚。
背中。
光の粒子が収束し、黒と青を基調とした重厚な追加兵装が、今着ているスーツの上から装着されていく。
「お、おお……!」
思わず声が漏れる。
変化は明らかだった。
スーツの輪郭そのものが、ひと回りもふた回りも大きくなる。
今までの機動型寄りのシルエットが、見るからに攻撃にステータスを振った兵器へ変貌していた。
両腕には、デカいバズーカみたいな銃砲が二丁。
腕に持つというより、半ば腕部そのものと一体化するように装着されている。砲身は太く、青いエネルギーラインが内部を走り、先端には収束機構めいたリングが幾重にも重なっていた。
背中には、巨大なミサイルポッド兼スラスターの追加機構。
折り畳まれていたユニットが展開し、肩越しに大型弾頭を収めたポッドが覗く。同時に、推進器としても機能するらしい大型ノズルが背部へ増設されていた。
脚部も変わる。
太腿とふくらはぎの側面に、マイクロミサイルポッドが二つずつの計四基。
見るからに物騒だ。
他にも、細かな砲口や補助装甲、サブアームに似た追加機構まで見える。
だが、今は全部を把握している暇はない。
「重……っ」
これは、ただの追加兵装じゃない。
スーツの上から着る、もう一つのスーツ。
「……
長い呼び名を省くように呟く。
今後はそう呼ぶことにした。
ヘビースーツを装着したことで、バイザー上に武装の詳細説明が次々と表示される。
目を走らせる。
まず、両腕のバズーカめいた銃砲。
【主砲ユニット】
・総エネルギーチャージ量:100000
・威力可変式
・最低出力:1発2000エネルギー
「十万……?」
思わず乾いた笑いが漏れた。
桁が違う。
今までのエネルギー弾とは、そもそも土俵が違う。
次に、背部のミサイルポッド。
【背部大型ミサイルポッド】
・総エネルギーチャージ量:50000
・1発1000E消費
そして脚部。
【脚部マイクロミサイルポッド】
・エネルギーチャージ量:各所10000
・1発500エネルギー消費
「……全部、エネルギーチャージ式か」
なるほど、と息を吐く。
実弾ではない。
弾薬もミサイルも、内部エネルギーを変換して生成・装填しているらしい。
つまり、使い切ってもチャージさえ済ませればまた使える。
逆に言えば、エネルギー管理をミスれば重いだけの装備になる。そこまで考えて焦り──次の表示で、俺は本気で安堵した。
【現在チャージ状況:全兵装チャージ済み】
【即時使用可能】
「……っ、あっぶねぇ……!」
思わず本音が漏れた。
危なかった。
もしこれが取得しただけで中身ゼロだったら、三万ポイントを支払って動かないガラクタを背負うところだった。
けれど、結果は違う。
チャージ済み。
即応可能。
つまり今この瞬間から、このヘビースーツの重火力を使える。
「……賭けは俺の勝ち、ってわけだ」
口元が吊り上がる。
後ろでは、茨の軍勢がなおも迫っている。
ソーンソーサラーたちの魔術光も強まっていた。
だが、さっきまでの切迫感は少しだけ薄れた。
出口の茨壁をもう一度見る。
分厚い。
再生する。
厄介だ。
だが今の俺には、それをまとめて吹き飛ばせるかもしれない火力がある。
しかも、主砲だけじゃない。
背部ミサイル、脚部マイクロミサイル、そして大型スラスター。
突破口を無理矢理こじ開けるには十分すぎる。
浮遊支援機が左右へ展開し、戦術演算が新しい兵装込みで再計算を開始する。
【新兵装反映中……】
【推奨:出口前面広域制圧→高推力突破】
【成功率:極上昇】
「……いいね」
低く呟き、両腕の主砲を入口へ向ける。
重い。
だが、その重さが今は心強かった。
直感は間違っていなかった。
この状況を打開する何か。
それは、間違いなくこいつだ。
青いラインを灼けるように走らせながら、ヘビースーツの装甲が唸る。
両腕の主砲が低く充填音を響かせ、背部ミサイルポッドのロック機構が音を立てて解放された。
逃げるための火力。
突破するための重武装。
それが今、俺の全身に装着されていた。
次の瞬間、茨の軍勢に吹き荒れたのは暴虐の嵐だった。
主砲の砲口へ収束した赤黒い光が、唸りを上げて解き放たれる。
轟音。
今までのエネルギー弾とは比べものにならない。
光弾、なんて可愛いものじゃなかった。圧縮された破壊そのものが一直線に奔り、前方の茨壁と、その手前に殺到していたソーン系の群れをまとめて呑み込む。
着弾した瞬間、爆ぜた。
赤黒い閃光が森の中を塗り潰し、衝撃波が木々を揺らし、地面を抉る。
ソーンソルジャーの群れが、鋼線めいた茨ごと千切れ飛ぶ。
ソーンガーディアンの大楯すら、まともに防ぐこともできずに弾け、引き裂かれ、燃え尽きた。
「──っ、ははァ!」
思わず笑いが漏れる。
強い。
いや、強すぎる。
一体一体が、少なくともオーガよりも強いモンスターのはずだった。
C級上位、C+。普通に考えれば、群れで相手取るような存在じゃない。
だが、圧倒的な火力の前では、ただの植物の蔓でしかなかった。
味わわされた絶望を、そのまま返すように。
「消し飛べぇッ!!」
両腕の主砲が再び唸る。
赤黒い光弾が連続で放たれ、茨の軍勢へ突き刺さるたび、森の一角ごと破壊が巻き起こる。
ソーンソーサラーが魔術で壁を作ろうとする。
だが遅い。
形成途中の茨障壁ごと主砲が貫き、その向こうにいた細身の魔術師たちをまとめて蒸発させる。
さらに背面のミサイルポッドを解放。
ガコン、と重い音を立てて弾頭が起き上がり、次の瞬間には複数の大型ミサイルが夜空──いや、この偽りの空へ向かって飛び出した。
放物線を描き、敵集団の中央へ降り注ぐ。
爆発。
また爆発。
さらに爆発。
着弾のたびに茨の兵士が吹き飛び、ガーディアンの楯が裂け、木々が薙ぎ払われる。
地面がめくれ、根が千切れ、森そのものが局地戦場みたいに荒れていった。
それでもまだ、群れは尽きない。
「まだ来るかよ……!」
吐き捨てながら、今度は脚部のマイクロミサイルポッドを起動する。
太腿とふくらはぎ側面のポッドが開き、細かな弾頭が連続で射出される。
大型ミサイルほどの一撃ではない。だが、数と速度が違う。
逃げ場を失ったソーンソルジャーの列へ。
迂回しようとするソーンガーディアンの側面へ。
樹上から魔術を撃とうとしたソーンソーサラーの足場へ。
次々と着弾し、小規模な爆炎が連鎖する。
茨の軍勢が、まるで火炎放射器を浴びた枯草みたいに崩れていく。
『討伐ポイントを入手しました』
『討伐ポイントを入手しました』
『討伐ポイントを入手しました』
電子音声がもはや連続しすぎて環境音のようだった。
だが、ヘビースーツの暴虐はそれだけじゃ終わらない。
主砲の再装填を待つ一瞬。
その間すら無駄にせず、俺は脚部噴射で前へ出る。
跳ぶ。
踏み潰す。
叩き砕く。
強化外装の上へ重武装群を纏った今のスーツは、もはや人型戦車だった。
膂力すら、さっきまでとは別物に跳ね上がっている。
眼前へ迫ったソーンガーディアンの楯を、左腕で受け止める。
そのまま右の主砲ユニットで顔面を殴りつけた。
鈍い破砕音。
茨の編み込みが内側から千切れ、巨体が真横へ吹き飛ぶ。
別のソーンソルジャーが飛び掛かってくる。
全身に触れるだけで傷を与える鋼茨の兵士。
だが今の俺には関係ない。
「邪魔だ」
低く吐き捨て、そのまま掴む。
バキバキと嫌な音を立てて茨の体が軋む。
引き千切るように持ち上げ、近づいてきた別個体へ叩き付ける。二体まとめて地面へ沈み、その上へ踵を落として粉砕した。
浮遊支援機も遅れずに動く。
片方は前面に防壁を張り、飛来する茨の槍を逸らす。
もう片方は高所へ逃げようとするソーンソーサラーへ小型光弾を撃ち込み、照準を補助する。
その光へ合わせて、主砲を一閃。
赤黒い光が、木立ごと焼き切った。
視界の先で、茨の軍勢が次々と消えていく。
ついさっきまで、自分に薄く絶望の二文字を浮かばせた相手だ。出口を塞ぎ、数で圧し、森そのもので絡め取ろうとしてきた敵だ。
その敵が今は、ただ“巻き込まれて消えていく何か”に変わっていた。
「そうだ……! それでいい!」
喉の奥から声が漏れる。
追い詰められた焦りも、逃げ場を失った冷たさも、全部ごちゃ混ぜになったまま、それでも引き金を引き続ける。
茨の壁が再生しようと蠢く。
なら、その再生ごと焼き払う。
ソーンガーディアンが楯を重ねて壁を作る。
なら、その壁ごと吹き飛ばす。
ソーンソーサラーが後方から蔦を伸ばし、拘束しようとする。
なら、木々ごと更地に変える。
もはや攻略とか戦術とか、そういう段階を踏み越えていた。
圧倒的な火力による蹂躙。
出口を覆う茨壁へ、主砲とミサイルの集中砲火を叩き込む。
赤黒い爆光と連続する爆炎が、入口一帯を丸ごと焼き、穿ち、抉る。
修復が追いつかない。
いや、修復しようとしているそばから、さらに上回る破壊が叩き込まれている。
再生しようと伸びる蔓ごと焼き千切られ、編み込まれる前に吹き飛ばされていく。
【推奨:今】
【突破経路確保率:高】
「分かってる!」
戦術演算の表示に唸り返しながら、最後に背部ミサイルをまとめて一斉射出。
着弾。
爆発。
爆炎。
入口前の茨壁が、ついに大きく崩れた。
今度は修復よりも先に、穴が広がる。
俺は迷わず脚部噴射を全開。
背部スラスターも吹かし、ヘビースーツの重い巨体ごと前へ突っ込む。
穴の向こうは、月夜の現実。
森の匂いと、外の冷たい夜気がぶつかり合う境界を、文字通りこじ開けて飛び抜ける。
背後では、なおも茨の軍勢がざわめいていた。
だがもう遅い。
出口の外へ飛び出した瞬間、俺は振り返りざまにもう一発、最大出力の主砲を入口へ叩き込んだ。
赤黒い奔流がダンジョンの口ごと抉り、追撃の気配をまとめて吹き飛ばす。
その閃光を背に、俺は夜の現実側へ着地した。
重い。
うるさい。
エネルギー消費も馬鹿みたいだ。
だが、それでも。
「……っ、はは……!」
息を切らしながら、笑いが漏れる。
賭けは俺の大勝。
重武装群。
ヘビースーツ。
あの絶望を押し返すための一手として、これ以上ない答えだった。
今話獲得機能:1
機能名:重武装群(ヘビーアームズ)
消費ポイント:30000
機能等級:2
機能詳細:高威力、高射程の追加兵装パック。ただし、エネルギー消費量も極大。
裏ステータス:3→6