BrokenWorld~黒鉄の装着者~   作:半笑いの妖精

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第二話:機能取得

 

 顔にかかる圧迫感で目が覚める。

 

 起き上がり、ぼやけた視界に映る緑色の耐久値ゲージを見て、寝る前の出来事を思い出す。

 そういえば、スーツを着たままだった。

 解除を念じる間もなく意識を失ったのだから、仕方がない。

 幸い、見た目とは裏腹に通気性が良いのか、特に蒸れたりもせず、不快感はなかった。

 ひとつ伸びをしてから、今の外がどうなっているのか気になった。

 

 地震でフレームごと歪み、ヒビの入った窓から外を覗く。

 夕日に照らされ、濃いオレンジに染まった街道。そこに、その風景には似つかわしくない人型のモンスターが三体いた。

 

 その姿は、まるで子供が描く棒人間のようだった。

 手足や胴は針金のように細長く、一転して頭には黒いバスケットボールほどの球体が付いている。

 

 棒人間は、手に突き刺したナニかを頭部へと運ぶ。

 運ばれたそれをよく見てみると、チェック柄の布が見え──連鎖的に、それが人間の一部だと理解してしまった。

 

 ゾッと背筋が凍る。

 

 人間の死体を見たこともそうだが、何より生々しく捕食されている場面に肝が冷えた。

 

 とても見ていられず、窓際からベッドへ戻って座り込む。

 

 昨日の結果次第では、自分がああなっていたかもしれない。

 そう思うと恐怖心が滲み、スーツ越しの腕を撫でて、それを誤魔化した。

 

 たらればを言っても仕方がない。

 

 昨日のチャンスを掴み取って、今スーツを着ているのは俺だ。掴めなかったあいつが、食われている。

 心を落ち着けたところで、胃が食べ物を寄越せとキリキリ痛み始めた。

 あんなものを見た後で食欲は湧かないが、何も食べないわけにもいかない。

 買い置きしていたチョコ味のカロリーバーを齧りながら、ひとつ思い至る。

 

「……食料か」

 

 それだけじゃない。

 

 こんな世界になったんだ。そのうち生活インフラも使えなくなるだろう。

 

「今のうちに物資確保に出るべきだな……」

 

 モンスターや、同じことを考えた奴らに先を越される前に。

 

 そうと決まれば、早速動くとしよう。

 目的地は……近所の大型デパートでいいだろう。大体の物は揃っていたはずだ。

 

 手早く支度を済ませ、玄関を開けると、いつもとは違う雰囲気に緊張が走る。

 

 夕方とは思えない不気味な静けさ。

 そこに、不定期に聞こえてくる微かな破壊音と不快な鳴き声が重なり、まるで──いや、正に異世界へ迷い込んだような錯覚を覚える。

 改めて世界が変わったことを認識し直し、警戒心を最大限に高めて出発する。

 家を出て最初の曲がり角。

 立っているカーブミラーを確認すると、そこにはさっき見た棒人間型モンスターの姿があった。

 

「ふぅ……、っし」

 

 覚悟を決めて角から飛び出し、モンスターへ駆け寄る。

 細い胴体を掴み、スーツの強化に任せて地面へ叩き付けた。

 棒人間の頭部がバシャンと弾け、地面がインク瓶をぶちまけたように黒く染まる。

 無事に倒せたようだ。

 棒人間は光の粒子へと変わり、その一部がスーツへ吸い込まれていく。

 

『討伐ポイントを入手しました』

 

 バイザーに表示された残高は5。

 さっきまで3だったので、棒人間から手に入ったポイントは2ということになる。犬の倍のポイントらしい。

 ポイントの算出方法は謎だが、稼ぐなら犬より棒人間を狙うことにしよう。

 まあ、今はモンスターの強さなんてどうでもいい。

 それより今回で5Pに達した。と言うことはつまり、欲しいと思っていた機能が取れるってことだ。

 早速ポイントを使って取得する。

 

『機能【近接武器生成】がアンロックされました。エネルギー消費系機能を新規取得した事により、スーツにエネルギータンクが増設され、エネルギー残量が表示されるようになりました』

 

 無機質な声が流れ終わると同時に、全身に感じる重量がわずかに増した。

 そして、耐久値ゲージの下に新たなゲージが追加される。

 使い勝手はどんなものか。試しに使おうと思った瞬間、バイザーに武器の種類が表示された。

 どうやらスーツの機能は、念じるだけで操作できるらしい。

 剣、斧、槍、ハンマー。

 斬る、突く、殴るといった各種物理攻撃を行える武器種が取り揃えられており、さらに生成時にある程度の形や大きさ、重量、重心などもカスタマイズできるようだ。

 素人でも扱えそうな刃物といったら短剣だろう。次点で槍。

 漫画やラノベから仕入れたペラペラの知識だが、あながち間違ってもいないはずだ。

 剣のカテゴリを選択し、カスタム画面からサイズを縮小して作成する。

 エネルギーゲージが五分の一ほど削られると、右手に光の粒子が集まり、瞬く間に黒い無骨な短剣が現れた。

 握ると刀身に青いラインが走る。……端的に言って、めっちゃ格好いい。

 

「おお!」

 

 上がったテンションに身を任せて短剣を振り回していると、先にある十字路の横からモンスターたちが姿を見せた。

 合計で三体。

 一体は今倒した棒人間。もう二体は初めて見るモンスターだったが、名前はすぐに分かった。

 漫画やゲームではスライムと同格に描かれる、雑魚敵代表。

 緑色の肌と大きな鷲鼻が特徴的なモンスター。

 

「ゴブリン……!」

 

 モンスターたちもこちらを認識したらしく、向かってくる。

 

 ちょうどいい。試運転といこうか。

 

 こちらからも走り寄り、まずは先頭のゴブリンの首を、すれ違いざまに一閃する。

 何の抵抗も感じずに刃は滑り、ゴブリンが紫色の血を吹き出して崩れ落ちる。

 それを横目に短剣を逆手へ持ち替え、後続のゴブリンの顎下から突き上げた。

 同時に、側に立つ棒人間が突き刺そうと腕を伸ばしてきたので、それを避ける。

 そして、そのまま伸びた腕を横から掴んで引っ張り、倒れ込んだところへ新たに生成した短剣を振り下ろした。

 死体が光の粒子に変わったのを見て、終わったことを確認してから短く息を吐く。

 呼吸と精神を整える。

 残高は4になっていた。

 

 棒人間が2だから……ゴブリンは犬と同じ1ポイントらしい。

 まあ、ゴブリンのポイントはどうでもいい。

 それより今の戦闘だ。

 やはり、ちゃんとした攻撃手段があると安定感が段違いだったように思う。

 スーツのアシストも相まって、ちゃんと戦いになっていた気がするしな。

 最初にこの機能をアンロックしたのは大正解だったようだ。

 何より、見た目が格好いいしな。

 手に入れた力の性能に満足したところで目的を思い出し、先を急ぐ。

 

 

 荒れた街道を、スーツの性能を最大限使って移動すること数十分。

 ようやく目的地である大型デパートに辿り着いた。

 Pを稼ごうと──武器を使った戦闘訓練も兼ねて──倒せそうなモンスターを見つけたそばから倒していたら、だいぶ遠回りになってしまい、思ったより時間を使ってしまった。

 

 ただ、その甲斐あって戦闘にはかなり慣れたし、残高も100Pを越えたので良しとする。

 さて、反省もそこそこにデパートの様子を見る。

 入口は、まるで遊園地のホラーハウスのように物々しかった。

 破られたガラス扉。

 その周辺の地面や外壁には、血液だろう赤黒い染みが飛び散っている。二重になっている扉の奥には、誰かが築いたのであろうバリケードの形跡も見えていた。

 意を決して、崩れ果てたバリケードの隙間から店内へ入る。

 電力が届いていないようで照明は点いておらず、夜に差しかかっていることもあって、入口の時点でかなり薄暗い。

 当然、奥へ行くにつれてそのわずかな光も届かなくなり、暗闇が広がっている。

 この中を探索するなんて自殺行為だと、常人であれば諦めるところだろう。

 だが、俺にはスーツがある。

 機能増設から、とある機能を表示する。

 

【視界強化/暗視:1P】

・視界情報を増強し、暗所での視認性が向上する。

 

 暗視を取るついでに100Pも稼いだことだし、他にも気になった機能を取得しておく。

 

【エネルギー弾:25P】

・掌にエネルギーの弾を発射する砲口を増設する。威力は消費するエネルギー量によって変化する。

【エネルギー総量増加:10P】

・エネルギーの総量が増加する。

【耐久値増加:1P】

・耐久値が増加する。

【強化率上昇:1P】

・スーツの身体強化率が上昇する。

【装甲強化:10P】

・スーツの装甲が強化され、受けるダメージが軽減される。

【情報解析/モンスター:30P】

・視界に入ったモンスターを解析し、詳細を表示する。解析した情報は記録され、いつでも閲覧可能。

 

 総額78Pの大出血サービスだ。

 残りの30Pは保険として取っておく。他にも気になるものはあったが、何が起こるか分からない。未知や想定外の事態に備えておくべきだろう。

 

『機能【視界強化/暗視】【エネルギー弾】【エネルギー総量増加】【耐久値増加】【強化率上昇】【装甲強化】【情報解析/モンスター】がアンロックされました』

 

 電子音声が流れると、どこからともなく光の粒子が現れ、スーツを包み込んだ。

 数秒後、包んでいた光が霧散すると、姿を変えたスーツが現れる。

 全体的にデザインが洗練され、生成した武器のように青いラインが入るようになっていた。

 一番変化した箇所は前腕部で、青いラインが複数本走り、その先端は掌へ集約されている。

 バイザーのUIや表示も変化しており、新たにモンスター情報の項目が追加されていた。

 視界も昼間のように明るくなり、隅々まで見えるようになった。

 

 早速、エネルギー弾を試してみる。

 左手に意識を向けると、腕のラインの光が強まり、エネルギーが供給されていく。

 威力は、消費するエネルギー量によって五段階に調整できるようだ。消費量は下から10、50、100、500、1000とのこと。

 今のエネルギー最大量は2000。

 つまり最小なら200発、最大威力なら2発撃てる計算になる。

 とりあえず、最小威力で撃ってみる。

 パシュッと発射音が響いた直後、テニスボールほどの青白い弾が放たれた。

 弾速はかなり速く、瞬きをする間もなく的にした商品棚へ着弾し、炸裂する。金属質の甲高い騒音と共に、大きな穴が開いた。

 

 最小でこの威力……?

 

 現状、エネルギーの回復手段は極微量の自動回復──十秒で1回復──しかない。

 だからこれ以上試し撃ちするつもりはないが……最大威力を確かめる時は、周囲の安全を確かめてからにするとしよう。

 新機能の威力に少し引きつつも気持ちを切り替え、最初に向かうのは旅行用品コーナーだ。

 ここでは、物資を運びやすくするためのボストンバッグを拝借する。

 

 ……今更だが、これって火事場泥棒だよな……。

 

 いやまあ、この状況で司法が機能するわけもないし、あれだ。超法規的措置ってやつだ。そういうことにしておく。

 

 ……もし咎められたとしても、俺にはスーツがあるしな。

 

 自問自答で正当化しつつ、案内板で旅行用品コーナーの階数を確認し、停止したエスカレーターを上る。

 2階、3階と上り、4階に足を踏み入れたその時、正面の商品棚から物音がした。

 即座に短剣を生成して構え、左手を棚へ向ける。

 何かがいるのは確定。なら、先手を取るべきだろう。

 取り越し苦労なら、それはそれでいい。

 商品棚へエネルギー弾を放ち、穴を開けると、モンスター──くすんだ灰色のアメーバ──が姿を覗かせた。

 モンスターがバイザーに映った瞬間、ウィンドウが浮かび上がる。

 

モンスター名:ディム・スライム

ランク:D-

詳細:薄暗い空間で発生するスライム。振動を感知するとその発生源に向かい捕食する。不定形かつ粘着質な体に絡み付かれると抜け出すのは至難の業。心臓兼頭脳の役割を持つコアを破壊、もしくは粘体から引き離すと絶命する。動きは緩慢な為、距離を取っての撃破が望ましい。

討伐P:2

 

 さっき取得した【情報解析/モンスター】の効果だろう。

 名前にランク、詳細、そしてポイント。思っていたよりかなり情報量が多い。流石、30Pも使うだけはある。

 情報に従い、空いた穴からこちらへのそのそと這い寄ってくるスライムへエネルギー弾を撃ち込む。

 光弾がスライムに当たると弾け飛び、飛散した一部が空中で光の粒子と化した。

 まるで花火みたいだ。

 ……なんて思うと同時に、血肉のあるモンスターに当てた時のことを想像してゲンナリする。

 絶対にハードスプラッタになるだろうから、撃つ時は覚悟しておこう。

 未来での心構えもそこそこに、スライム分の2ポイントが増えたのを確認し、目的の階へ急ぐ。

 警戒しながらエスカレーターを上っていくも、さっきのスライム以外には遭遇することなく、7階の旅行用品フロアへ辿り着けた。

 目当てのボストンバッグ──容量95Lの大型を三つ──を手に入れたところで、隣のコーナーが目に入った。

 

 どうやらキャンプ用品コーナーらしく、様々なキャンプギアが陳列されている。

 ワンタッチテント、メスティンをはじめとした調理器具、火起こし道具などなど……。

 どれも便利そうで持っていきたくなるが、ここで手荷物を増やして本命の物資を持ち帰れなかったら本末転倒だ。

 未練を残しつつ、7階を後にする。

 次の目的地は2階の本屋。

 ここでは主に、サバイバル本や農業などの一次産業に関する本を集めていく。

 今ならまだスーパーやコンビニから物資を集められるが、これが一か月後、三か月後、半年後になれば、物資が枯渇するのは自明の理だろう。

 そうなってからでは遅い。

 だから、今のまだ余裕があるうちから備え、試しに育ててみようというわけだ。

 後の生活を左右する物だけに、じっくり時間を使って吟味した結果、二十冊の本を貰っていくことにした。

 農業関係の本が十冊、建築や技術関係の本が六冊、サバイバル知識の本が四冊だ。

 これらが未来の自分の助けになることを願い、いよいよ主目的である食料品の収集へ移る。

 エスカレーターへ向かうと、さっきのスライムを討伐した際に騒いだせいか、濁った灰色のスライムが群がっていた。

 そういや、振動を察知するんだったか。

 テーブル上のRPGだったら正気度が1減るかもしれないその光景へ、光弾を雑に撃ち込んで強引に解決する。

 聞き慣れた、もはや環境音と化した電子音声で殲滅を確認し、食料品売場へ向かう。

 野菜や果物はモンスターに食い尽くされたのか、ほとんど残っていない。

 もっとも、保存の利かない生鮮食品を持って帰る気はないのだが。

 最優先で狙うのは、水やお茶だ。

 人間、水がなければ三日と持たないと、どこかで聞いた覚えがある。

 ボストンバッグへ手当たり次第に詰め込み、十円ガムすら入らないくらいパンパンにしたところで、次は食糧へ移る。

 消費期限の長い缶詰やレトルト食品、インスタント食品──カップ麺は嵩張るので基本的には袋麺──を中心に、嗜好品も必要だとチョコや飴なども入れていく。

 そうして三つのボストンバッグが、強化後のスーツ越しでも重さを主張してきたところで切り上げた。

 一つは背に、二つは両脇へ挟むように持って立ち上がる。

 スーツのアシストがあってなお感じる重量に少しよろめきながら、デパートを後にした。

 

 こんな状態で外へ出るのは少し不安だが、行きと違ってスーツ自体も強化されているし、何より遠距離攻撃手段であるエネルギー弾もある。大丈夫だろう。

 

 最悪、二つある食糧入りバッグのうち一つを切り捨てればいい。

 

 視界に入ったモンスターに風穴を開けながら移動すること数十分。

 すでに日が沈み、夜の帳が下りた中、家の近くまで来たのだが……様子がおかしい。

 行きの時にはなかった破壊痕がそこら中にできており、家へ近づくにつれてその頻度は短く、規模も広がっていっている。

 強烈に嫌な予感を過らせつつ、今出せる全速力で自宅のアパートまで急ぐ。

 行きで棒人間──バイザーによるとニードルマンというらしい──を倒した角を曲がり、アパートのある場所を確認すると……。

 そこには、年季の入った二階建ての小型アパートの姿はなかった。

 代わりに広がっていたのは、瓦礫の山。そして、そこで眠る鬼型の魔物の姿だった。

 

モンスター名:オーガ

ランク:C-

詳細:生木の幹をへし折る膂力と強靭な肉体を兼ね備えた鬼型のモンスター。獲物への執着心が強く、犬より優れた嗅覚と聴覚で獲物をしつこく追跡した後捕食する。また、種族特性として暴威の魔眼を所持している為注意が必要。

討伐P:1000

 




今話獲得機能:8

機能名:近接武器生成
消費ポイント:5P
機能等級:1
機能詳細:エネルギーを消費する事で簡易的な近接武器を生成可能。生成した武器は耐久値が無くなる、もしくはスーツから離れて10秒が経過すると消失する。

機能名:視界強化/暗視
消費ポイント:1P
機能等級:1
機能詳細:視界情報を増強し、暗所での視認性が向上する。

機能名:エネルギー弾
消費ポイント:25P
機能等級:1
機能詳細:掌にエネルギーの弾を発射する砲口を増設する。威力は消費するエネルギー量によって変化する。

機能名:エネルギー総量増加
消費ポイント:10P
機能等級:1
機能詳細:エネルギーの総量が増加する。

機能名:耐久値増加
消費ポイント:1P
機能等級:1
機能詳細:耐久値が増加する。

機能名:強化率上昇
消費ポイント:1P
機能等級:1
機能詳細:スーツの身体強化率が上昇する。

機能名:装甲強化
消費ポイント:10P
機能等級:1
機能詳細:スーツの装甲が強化され、受けるダメージが軽減される。

機能名:情報解析/モンスター
消費ポイント:30P
機能等級:1
機能詳細:視界に入ったモンスターを解析し、詳細を表示する。解析した情報は記録され、いつでも閲覧可能。


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