BrokenWorld~黒鉄の装着者~   作:半笑いの妖精

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第二十一話:下準備

 

 朝の一騒動が終わる頃には、公民館の前もようやく少しずつ元の風景を取り戻し始めていた。

 しかし、元通りではない。

 血の跡は残っているし、壊れた簡易バリケードもそのままだ。

 だが、悲鳴と混乱に満ちていた数十分前と比べれば、空気はずっと落ち着いていた。

 手遅れだった者は、いた。

 そこはもうどうしようもない。

 いくら支援機の回復が便利でも、完全に命が途切れた相手を引き戻せるほど都合のいい能力ではなかった。

 その事実に沈んだ顔をしている者もいる。

 泣いている者も、黙って俯く者もいた。

 それでも、生きている者は前を向くしかない。

 葛西さんと杉原を中心に、避難所の面々は淡々と後始末と負傷者の移送を進めていた。

 俺も支援機の回復を重傷者から順に回し、あらかた応急処置が終わったところでようやく手を止める。

 

「……こんなところですかね」

 

 浮遊支援機をいったん待機へ戻し、軽く息を吐く。

 葛西さんが横へ来て、小さく頭を下げた。

 

「ありがとうございました。田村さんがいなかったら、もっと酷いことになってました」

 

「当然の事をしたまでです」

 

 そう返したが、向こうは苦笑しただけだった。

 たまたま、で済まないのは互いに分かっている。

 だからこそ、曖昧な礼で流すよりも先に、こっちも本題へ戻した。

 

「……それで、昨日の続きですが」

 

 葛西さんもすぐに表情を引き締めた。

 場所を応接室に変える。

 

 今度は朝の光が窓板の隙間からわずかに差し込んでいて、昨夜よりも空気が乾いている気がした。

 杉原も同席している。

 さっきの襲撃を経たせいか、昨夜より明らかにこちらを見る目が変わっていた。なんとなくだが、実力を認めたような感じが混じっている。

 御し易くなる良い変化だ。

 

「条件の確認をしましょう」

 

 俺がそう切り出すと、葛西さんは頷いた。

 

「報酬は、食料の優先配給権を一週間」

 

「はい」

 

「それと、迷宮攻略で得たものは全て俺のものになる。探索隊の私物や、明らかにそちらの持ち物だと分かるものを除いて、迷宮そのものから得た報酬は俺が優先的に確保する」

 

「はい、それで問題ありません」

 

「次、発見した探索隊が生きていた場合は救助を優先する。ただし、状況次第では確認だけで撤退する可能性もある。その判断はこっちが行う」

 

 少し間を置いて、葛西さんは静かに答えた。

 

「分かりました」

 

 そこで一応、杉原の方も見る。

 

「そっちも異論は?」

 

 杉原は腕を組んだまま、短く首を振った。

 

「ありません。そもそもこちらが選べる立場にあるとも思ってないですし」

 

 現実を飲み込んでいるのは助かるね。

 

「なら、それでいきましょうか」

 

 そう言って、俺は話を区切った。

 口約束といえば口約束だ。

 だが今の世界で、紙の契約書だの印鑑だのに意味は薄い。

 必要なのは、互いに何を約束したかを明確に認識しておくことだ。

 条件はまとまった。

 

「目的は救助ですし動くのはなるべく早くが良いでしょう。すぐに出発します」

 

 そう告げると、葛西さんは少し迷ったあと半分想定していた言葉を口にした。

 

「……私も行きます」

 

「やめた方がいい」

 

 即答する。

 

 葛西さんが何故、と言葉を続けようとする前に、俺は先に理由を並べる。

 

「まず、ここで万が一葛西さんに何かあったら、この避難所はどうするんですか」

 

 その一言で葛西さんは閉口した。

 

「食料をどうにかできるのは葛西さんだけなんでしょう。なら、貴女はここに残るべきだ」

 

「……でも」

 

「それに」

 

 さらに言葉を重ねる。

 

「正直に言って、俺は貴女を戦力として数えることができない」

 

 冷たく聞こえる言い方だとは分かっている。

 だが、ここは曖昧にしない方がいい。

 

「自衛ができるのは見ました。ゴブリンやニードルマン相手なら十分やれる。けど、森林迷宮の奥で相手するのはそういうレベルじゃない。C級上位の軍勢です。そこへ連れていって守りながら戦うのは、こっちの負担が大きすぎる」

 

 葛西さんは悔しそうに眉を寄せたが、反論はすぐには出てこなかった。

 実際、自分でも分かっているのだろう。

 あの足元から生やす射撃植物は便利だ。

 食料能力も貴重だ。

 だが、森林迷宮の奥で茨の軍勢を相手にするには火力があまりに足りない。もしかしたら奥の手があるかも知れないが、日常的に食料を生み出す為に豊穣ポイント(リソース)を割いている彼女にそれを運用するだけの余力があるとも思えない。

 

「……分かってます」

 

 絞り出すような声だった。

 

「分かってるんですけど、じっと待つしかないのは……」

 

「お辛いでしょう。しかし私としても譲るわけにはいきません」

 

 それは否定しない。

 だが、嫌だからといって無理を通していい状況じゃない。

 この人の能力は、この公民館の二十四人にとって生命線だ。

 

「私一人で行きます」

 

 はっきりそう告げる。

 

「その方が速いし、動きやすい」

 

 …一人で行きたい理由はもう一つある。

 というのもあまり手札を見せたくないのだ。

 重武装(ヘビー)スーツ。

 追加兵装。

 収納機能。

 今の俺が持つ手札を、まだ知り合ったばかりの相手に全部さらけ出す気はない。

 しかも今回の森林迷宮へ向かう道中で、いろいろポイントを使って装備更新や試運転もするつもりだ。

 故に一人の方が都合がいい。

 

 葛西さんはしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。

 

「……分かりました」

 

 まだ完全には納得していない顔だ。

 それでも、無理に食い下がってこないだけ理性的だった。

 

「それでは、よろしくお願い致します」

 

「ええ、必ず」

 

 そこで話は決まった。

 公民館の応接室を出る。

 廊下では何人かの避難民がこちらを気にしていたが構うことなく、迷宮へ向かって出発する。

 

 とにかく、準備だ。

 

 歩きながら地図を開き、周囲に危険がないことを確認して機能増設画面を開く。

 バイザーへ浮かび上がった残ポイントを見て、思わず口元が歪んだ。

 

【残ポイント:268036】

 

「……えげつないな」

 

 思わずそんな言葉が漏れる。

 ヘビースーツで茨の軍勢を吹き飛ばした時の稼ぎが、ほぼまるまる残っている。

 六桁だ。ついこの前まで、数千ポイントの機能ひとつ取るだけで真剣に悩んでいたのが馬鹿みたいだった。

 

「とりあえず、ヘビースーツを十全に使えるようにしておきたいよな」

 

 あれは強かった。

 強すぎるくらいだった。

 茨の軍勢をまとめて吹き飛ばし、絶望的だった状況を真正面から破壊した。

 だが同時に、問題もはっきりしている。

 消費エネルギーがデカすぎる。

 主砲。

 背部ミサイル。

 脚部マイクロミサイル。

 どれも桁違いの出力を持つ代わりに、戦闘継続中にガス欠したらただの重い棺桶になりかねない。

 森林迷宮へ再突入するなら、そこは絶対に補強しておくべきだ。

 

「必要なのは……供給源か」

 

 エネルギー系の項目へ意識を寄せ、一覧を流していく。

 回復量増加。

 回復速度上昇。

 総量増加。

 それらも重要だが、ヘビースーツの運用には足りない。

 もっと直接的な何か。

 高出力兵装専用の補助。

 そういうのが欲しい。

 スクロールしていくと、ほどなくして見つかった。

 

【高出力エネルギージェネレーター:50000P】

・スーツにエネルギーを供給する高出力発電機構を増設する。

・エネルギーは自動的に高出力兵装へ再チャージされる。

・100万エネルギーまでの余剰エネルギーを蓄えておくことが可能。

 

「……これだろ」

 

 ほとんど即断だった。

 いや、これ以外ない。

 現状のヘビースーツの弱点は明確だ。

 継戦能力。それに尽きる。強化した今のスーツの全てをもってしても最低威力の主砲一発分にしかならない超高コストな兵器達。

 それを、常用可能へと引き上げるこの機能だ。

 選択した追加兵装へエネルギーを供給。

 自動再チャージ。

 さらに余剰エネルギーを100万まで蓄積可能。

 

「100万って……」

 

 改めて笑ってしまう。

 桁がもう違い過ぎる。

 だが、ヘビースーツの主砲やミサイルの消費量を見た後だと、そのくらいあって初めてまともに運用できるのかもしれない。

 つまりこれは、便利機能じゃない。

 ヘビースーツの実用化機能という訳だ。

 

「取得」

 

 念じた瞬間、無機質な電子音声が流れる。

 

『機能【高出力エネルギージェネレーター】がアンロックされました』 

 

 次の瞬間、スーツ背部と腰回り、さらに胸部の奥へ何かが増設され、重みが増した。

 外見の変化は劇的ではない。

 だが、内側の構造が大きく変わったのが分かる。

 エネルギーの流れが、今までと違う。

 単にスーツ全体のエネルギーがあるのではなく、そこからさらに高出力兵装専用の系統が分離された感覚。

 太っとい配線が一本、背中へ通ったみたいな、そんな手応えだった。

 バイザーにも新しい項目が追加される。

 

【高出力兵装エネルギー系統:接続済み】

【蓄積エネルギー:0/1000000】

【再チャージ対象:未選択】

 

「対象か」

 

 何に優先供給するかを決められるらしい。

 ヘビースーツの主砲か、背部ミサイルか、脚部マイクロミサイルか。あるいは全部か。

 説明をさらに開く。

 どうやら、優先順位を設定する形式のようだ。

 同時チャージも可能だが、その場合は効率が分散する。逆に主砲優先にすれば、ミサイル系は後回しになる…といった感じだ。

 

「……戦い方次第だな」

 

 少し考えた結果。

 主砲。

 背部ミサイル。

 脚部マイクロミサイル。

 その順番でエネルギーをチャージすることにした。

 やはり一番欲しいのは決定打だ。

 脚部のマイクロミサイルは便利だが、威力や制圧力の面ではやや劣る。主砲と大型ミサイルの方を先に確保したい。

 設定を終えると、すぐに数値が動き始めた。

 

【主砲ユニット:再チャージ開始】

【背部ミサイルポッド:再チャージ待機】

【脚部ミサイルポッド:再チャージ待機】

 

 高出力ジェネレーターが回り始めたのだろう。

 内部で低く唸るような感覚がある。もっとも実際に音や振動があるわけではないが、動力炉が背中に載ったような頼もしさがあった。

 

「……いい」

 

 これはかなり当たりだ。

 これでヘビースーツは、単発の切り札から一段上の装備になる。

 少なくとも撃ったら終わりの一発屋ではなくなる。

 

 五万という大きな買い物をして、今の残高はざっくり二十一万八千ポイント。

 まだまだ余裕はある。

 

「なら次は……」

 

 自然と次の強化候補へ視線が向く。

 高出力を回せるようになった。

 なら、その高出力を支える土台も欲しい。

 まず思い浮かぶのは、耐久と装甲。

 ヘビースーツが重火力特化なら、撃ち合いに耐えるだけの防御も欲しい。

 次に機動。重くなった分、取り回しが悪化するなら危険だ。

 そして索敵。森林迷宮みたいな環境では、火力だけで解決できない場面も多い。

 

「……とはいえ」

 

 今の俺の目的は森林迷宮を攻略することじゃない。あくまでも行方不明の探索隊の捜索だ。場合によってはそれが救助及び脱出になる。

 

 つまり瞬間火力だけではなく、守護力と生存力と対応力が要る。

 

 その視点から考えるなら…。

 

「手数と防御、か」

 

 次に取得したのは支援機の拡張だ。

 理由は今言った通り。

 

 防御や攻撃の一部を切り離して任せることで、自分の思考のリソースを別の事へ集中できるようにしたかった。

 

 今の浮遊支援機も十分便利だ。

 足場。回復。簡易防壁。牽制。

 だが、逆に言えば器用貧乏なだけであって、頼れるかというと言えば素直に頷き辛い。

 

 森林迷宮みたいな場所で本当に欲しいのは、もっと役割が尖った支援だ。

 

 だからまず、攻撃側。

 

【攻撃支援機:30000P】

・攻撃行動の支援を行うドローン。実弾やエネルギー弾、エネルギーを結晶化させた高威力の爆弾にブレードを展開して近接攻撃を行うことも可能。基本的に自律行動だが、命令することも可能。

 

「……いいね」

 

 実弾。

 エネルギー弾。

 爆弾。

 ブレード近接。

 

 攻撃に特化して最適化された支援機の姿を想像して口角が上がる。

 

 そしてもう一つの防御。

 

【防御支援機:30000P】

・防御行動の支援を行うドローン。エネルギーを用いて広範囲の攻撃を防ぐバリアや、範囲を絞ることで高威力の攻撃を防ぐシールドを展開可能。本体自体もかなり高耐久であり、それ自体も盾として使用可能。基本的に自律行動だが、命令することも可能。

 

「こっちもなかなか…」

 

 防御をある程度任せられるなら、それだけで余計な思考のノイズが減る。

 どこから飛んでくるか。

 どの程度の攻撃をどう受けるか。

 回避を優先するか、防ぐか。

 そういう判断の一部を自律支援へ肩代わりさせられるなら、戦いやすさは段違いになるだろう。

 特に前回の茨の槍の波状攻撃みたいな広範囲かつランダムな攻撃にはかなり有効なはずだ。

 

「取得」

 

 迷わず二つとも取る。

 

『機能【攻撃支援機】がアンロックされました』

 

『機能【防御支援機】がアンロックされました』

 

 電子音声に続き、背部ユニットの構造がまた変わる。

 今までの浮遊支援機とは違う、より鋭角的で攻撃的な機影と、分厚く鈍重さを感じさせる防御寄りの機影が、意識の内側に追加される感覚があった。

 バイザー表示も更新される。

 

【浮遊支援機】

【攻撃支援機】

【防御支援機】

 

 役割が完全に分かれた。

 これで状況に応じて、行動補助、攻撃、防御に特化した使い分けが可能になる。

 

「よし……」

 

 満足感がある。

 だが、まだ止まらない。

 出し惜しみはしない。

 これから行くのは、C+が雑魚敵として湧く魔境だ。

 あのオーガ・メイジと同格のソーンガーディアンやソーンソーサラーが群れの一部として押し寄せてくる森だ。

 そんな場所なら、B級のボスがふらっと出てきてもおかしくない。

 いや、居る前提でいた方が良いだろう。

 クラウド・エンペラー。

 アーマード・トロル。

 アースメイル・ワイバーン。

 この世界は、理不尽な上位存在を平気でねじ込んでくる。

 だから、切り札が要る。

 便利で、しかも奥の手になり得る機能。

 消費ポイント順にソートして、トップに君臨するそれ。

 

【高機動戦闘ビークル:150000P】

・スーツ装着者の意思を汲み取り姿を変形させる機動兵器。陸海空全てに対応可能。スーツの機能を強化した武装が自動構築される。

 

 表示を見つめたまま、思わず黙り込む。

 高い。

 馬鹿みたいに高い。重武装スーツの5倍だ。

 だが、読めば読むほど価値も分かる。

 高機動で、戦闘にも使える機動兵器。しかも陸海空全対応。

 スーツ機能を強化した武装の自動構築。

 

「……ロマンの塊かよ」

 

 思わず笑ってしまう。

 だが、ロマンだけじゃない。

 森林迷宮みたいな地形変化が激しい場所。

 逃走路の確保が難しい状況。

 例えばB級モンスター相手に正面戦闘ではなく、離脱しながら戦う必要がある場面。

 そういうケースを考えると、この機能は保険にもなる。

 しかも陸海空全部に対応可能というのが大きい。

 拠点喪失後の移動。物資運搬。ダンジョン外縁の偵察。

 戦闘以外でも用途が広すぎる。

 そして何より、奥の手として単純に強い。

 

「こんなん取るしかないだろ……」

 

 残ポイントを確認する。

 高出力エネルギージェネレーターで五万。

 攻撃支援機と防御支援機で六万。

 

【残ポイント:158036】

 

 取ったら残りは8000ちょいか。…いやいやいや、8000ってオーガ8体分だぞ?…感覚がバグって来てんな。前まで5Pとかで一喜一憂してたのにな。

 

 変わっちまった自分に自嘲しつつ、取得する。

 

『機能【高機動戦闘ビークル】がアンロックされました』

 

 電子音声が響くと同時に、脳裏へ大量の情報が流れ込む。同じくして今までとは比べものにならない規模の変化が始まった。

 スーツ全体の青いラインが一斉に発光し、物陰の狭い空間すら照らし出す。

 背部。肩部。腰部。脚部。

 各所の装甲が連動して再構築されていく感覚。

 

 搭乗姿勢。

 変形シークエンス。

 陸上走行モード。

 飛行形態。

 水上・水中適応の基礎挙動。

 そして、それぞれの形態で自動構築される兵装群。

 

「……ぅぐ」

 

 少し頭を押さえる。

 情報量が多い。

 だが、理解できないわけじゃない。

 

 この機能はスーツそのものが機動兵器へ組み替わる。

 つまり、外部の乗り物を別に持つわけじゃない。

 俺が中心になって、その周囲へ機体が展開される。

 パワードスーツの延長線上にある、変形型の戦闘ビークル。

 バイザーが更新された。

 

【高機動戦闘ビークル:待機】

【形態:陸/海/空】

【兵装自動構築:有効】

【必要起動エネルギー:10000】

 

「……10000か」

 

 高出力エネルギージェネレーターを先に取っておいて正解だったな。

 この土台がなければ、これもまた高いだけのガラクタになりかねなかった。

 

 とはいえこれで揃った。

 高出力の兵器や兵装を継続運用するジェネレーター。

 攻撃と防御を分担できる支援機。

 そして、機動兵器の切り札。

 残ポイントは大きく減った。

 だが、それは必要な出費だ。

 

 俺はゆっくりと息を吐き、バイザーに並ぶ新たな機能群を見つめる。

 本番の前に試運転は必要だろう。

 どれだけ強力な機能を取得しても、理解して使いこなせなければ宝の持ち腐れになる。

 特に今回追加したのは、どれも今までとは桁違いの装備だ。

 どれも、説明文を読んだだけで分かった気になって本番へ持ち込むには危険すぎる。

 使いどころ、挙動、消費、癖。

 最低限それらを把握しておきたい。

 

「……近場で手頃な相手がいると助かるんだが」 

 

 そう呟きながら地図機能を開くと、ちょうどいい反応が引っかかった。

 森林迷宮から少しだけ離れた住宅街の外れ。

 崩れた空き地と半壊した倉庫群の辺りに、複数の赤点が固まっている。

 バイザーの表示によると、Dランク帯の魔物の群れらしい。

 

「当たりだな」

 

 強すぎず、数もそこそこいる。

 新機能の慣らしには丁度いい。

 空を最短で飛び、到着する。

 崩れた倉庫。

 雑草の生えた駐車場跡。

 その周辺をうろついていたのは、見慣れた連中だった。

 ゴブリン。

 ニードルマン。

 ディム・スライム。

 そして少し離れた場所にオーガが一体孤立している。

 

「……寄せ集めか」

 

 数は全部で十数体。

 雑魚の群れとしては十分な密度だ。

 しかし今の俺にとっては丁度良い的でしかない。

 

「まずは支援機から」

 

 腰を落とし、意識を新規機能へ向ける。

 

「攻撃支援機、展開」 

 

 背部ユニットの一部が開き、今までの浮遊支援機よりも鋭角的な二基のドローンが滑り出す。

 機体は黒く、青い発光線が細く走っている。砲口めいた構造と、格納されたブレードユニットが見えた。

 

 続けて。

 

「防御支援機、展開」

 

 今度は一回り大きく、厚みのある機体が二基。

 こちらは盾そのものを飛ばしているみたいな造形で攻撃支援機とは根本から違う。

 さらに、既存の浮遊支援機も展開。

 空中に六基の機体が並ぶ。

 見た目の物々しさに、自分でも少し笑いそうになった。

 

「……増えたな」

 

 だが、問題はここからだ。

 数が増えた分、きちんと制御できるか。

 自律行動にどこまで任せられるか。

 それを見なければ意味がない。

 まずは軽く命じる。

 

「攻撃支援機、前衛の牽制優先。防御支援機は俺の周囲二メートルを防衛」

 

 即座に反応が返る。

 攻撃支援機二基が左右へ開き、防御支援機は俺の前後やや斜めへ位置取った。

 浮遊支援機はさらにその外側で待機。

 

「いいな……」

 

 そこへ、群れの一部がこちらへ気づいた。

 ゴブリンが喚き声を上げ、ニードルマンが細い腕を槍のように突き出して駆けてくる。

 ディム・スライムも、地面を這って寄ってきた。

 

「いけ」

 

 その瞬間、攻撃支援機が動いた。

 片方が短い連射音を響かせ、小型の実弾らしきものをゴブリンの膝へ叩き込む。

 もう片方は青白いエネルギー弾を放ち、ニードルマンの頭部を掠めて体勢を崩させた。

 

「実弾とエネルギー弾、ちゃんと使い分けるのか」

 

 思わず感心する。

 しかも、防御支援機の方は俺が意識するより先に、ニードルマンの突きの線上へ滑り込んでいた。

 薄いシールドが一瞬だけ展開され、刺突を弾く。

 そこへ脚部噴射で踏み込む。

 近接武器生成Ⅱの片刃剣で、ゴブリンを一閃。

 返す刃でニードルマンの頭部を両断。

 近づいてきたスライムへは浮遊支援機の光弾と俺の蹴りを重ねて潰す。

 

『討伐ポイントを入手しました』

 

「……かなりいい」

 

 想像以上だ。

 攻撃支援機はただ撃つだけじゃない。

 敵の足を止める、照準をずらす、死角側へ回って横合いから撃つ。

 単なる砲台ではなく、連携を前提にした攻撃手段として動いている。

 防御支援機も優秀だった。

 広範囲バリアまではまだ試していないが、少なくとも対点防御はかなり信頼できる。

 

「次、少し強めに行くか」

 

 残りの群れへ向き直る。

 今度は複数のゴブリンとニードルマン、それから後方にオーガ。

 数を揃えた形で押してくる。

 

「攻撃支援機、後方のオーガに爆弾。防御支援機は俺と同時に前進だ」

 

 命令と同時に、攻撃支援機の一基が前方で光を収束させた。

 次の瞬間、硬質な結晶爆弾のようなものが射出される。

 弧を描いて飛んだそれがオーガの胴体へ突き刺さり、一拍遅れて炸裂した。

 青白い爆光。

 肉片と光の粒子がまとめて吹き飛び、オーガは断末魔すら上げずに消し飛ぶ。

 

「爆弾の威力たっかいな……!」

 

 同時に前方では、防御支援機が左右へ開いて俺の前進路を確保していた。

 ニードルマンの突きやゴブリンの投石が、ほとんど届く前に弾かれる。

 そこへ自分の近接を重ねるだけで、群れがみるみる減っていく。

 攻めを任せる。

 守りを任せる。

 その分、自分は次の動きの組み立てに集中できる。

 判断のノイズが減る、という予想は正しかった。

 

「……なるほどな」

 

 これなら森林迷宮の茨の軍勢相手でも、かなり戦いやすくなる。

 ソーンソーサラーの魔術に防御支援機を合わせ、ガーディアンの楯へ攻撃支援機の爆弾をぶつける──そんな絵まで自然に浮かんだ。

 そして、最後に試すべきものが残っている。

 

「……高機動戦闘ビークル」

 

 呟く。

 周囲の敵をあらかた片付けたのを確認してから、意識をその項目へ向ける。

 

「起動」

 

 次の瞬間、スーツ全体が低く唸った。

 装甲が展開し、分離し、再構築される。

 脚部が折り畳まれ、背部ユニットが大きく伸び、肩と腰の装甲が外側へせり出す。

 

「おお……!」

 

 思わず声が出る。

 自分を核として、周囲に機体が組み上がっていく。

 数秒後、そこにあったのは人型スーツではなかった。

 地を這うように低く長い機体。

 黒と青を基調にした、重厚かつ鋭角的な陸上高機動兵器。

 前部には装甲化されたカウル、左右には武装ユニット、後部には大型スラスターと可変翼めいた機構まである。

 

「……バイクと戦車と戦闘機を足して割ったみたいだな」

 

 感覚的にはそんな感じだった。

 しかも、自分の視界や意思との接続が異様に自然だ。

 ハンドルを握るというより、“機体そのものが手足の延長”になっている。

 バイザー表示も大きく変わる。

 

【陸上高速形態】

【兵装自動構築:完了】

【主機関:安定】

【推進出力:正常】

 

 試しに、ゆっくり前進。

 想像以上に滑らかだ。

 少しアクセルを踏み込むように意識すると、地面を蹴るような加速で一気に前へ出る。

 

「速っ……!」

 

 慌てて速度を落とす。

 これは練習なしで全力を出したら危ない。

 だが同時に、逃走や強襲には極めて有効だと直感できた。

 しかも兵装表示を見る限り、この形態にはヘビースーツの主砲やミサイルを元にした武装が自動構築されているらしい。

 試し撃ちは今はしない。さすがに目立ちすぎるだろう。迷宮内でのお楽しみとしよう。あのクソ茨ども震えて眠れ…!

 

 恨み言はさておき、高機動戦闘ビークルは、ちゃんと切り札になり得る事が分かった。

 

「……よし」

 

 機体を元のスーツ形態へ戻し、静かに息を吐く。

 試運転としては、上々どころじゃない。

 攻撃支援機も、防御支援機も、高機動戦闘ビークルも、全部ちゃんと使える。

 もちろんまだまだ習熟は必要だが、それは攻略しながらやっていくとしよう。

 

 朝の薄光の中、俺は静かに立ち尽くす。

 森林迷宮。

 茨の軍勢。

 行方不明の探索隊。

 厄介な条件は何も変わらない。

 だが、それに挑む自分の側は、さっきよりずっと整った。

 

「……行くか」

 

 誰に聞かせるでもなく、そう呟く。

 試運転は終わった。

 次は、本番だ。

 俺は地図を閉じ、森林迷宮へ繋がる道へ視線を向けた。

 




今話獲得機能:4

機能名:高出力エネルギージェネレータ
消費ポイント:50000
機能等級:2
機能詳細:スーツにエネルギーを供給する高出力発電機構を増設する。エネルギーは自動的に高出力兵装へ再チャージされる。100万エネルギーまでの余剰エネルギーを蓄えておくことが可能。

機能名:攻撃支援機
消費ポイント:30000
機能等級:2
機能詳細:攻撃行動の支援を行うドローン。実弾やエネルギー弾、エネルギーを結晶化させた高威力の爆弾にブレードを展開して近接攻撃を行うことも可能。基本的に自律行動だが、命令することも可能。

機能名:防御支援機
消費ポイント:30000
機能等級:2
機能詳細:防御行動の支援を行うドローン。エネルギーを用いて広範囲の攻撃を防ぐバリアや、範囲を絞ることで高威力の攻撃を防ぐシールドを展開可能。本体自体もかなり高耐久であり、それ自体も盾として使用可能。基本的に自律行動だが、命令することも可能。

機能名:高機動戦闘ビークル
消費ポイント:15万
機能等級:2
機能詳細:スーツ装着者の意思を汲み取り姿を変形させる機動兵器。陸海空全てに対応可能。スーツの機能を強化した武装が自動構築される。
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