BrokenWorld~黒鉄の装着者~ 作:半笑いの妖精
次の日。
目を覚ました俺は、まず兵器群の報告へ目を通した。
【小隊運用報告】
・討伐数:132体
・D級:113体
・C級:19体
・獲得討伐ポイント:32861
・損害:なし
・備考:防護重盾機のエネルギー残量やや低下
「中々優秀だな」
率直にそう漏れる。
寝ている間にこれだけ稼いでいるのなら、十分過ぎる成果だ。
単純なポイント収支としても旨いし、何より損害が無いのが大きい。
防護重盾機のエネルギー消耗も、補給すれば済む範囲だろう。
想定外の強敵に絡まれず、無理もせず、ちゃんと命令通り危険度の高い相手を処理して戻ってきている。
戦術管制ユニット込みでの小隊運用は、想像以上に安定していた。
「これなら夜間警戒と周辺掃除は完全に任せられるな」
バイザー上の戦闘記録をさらに開く。
遭遇地点。
敵性反応の傾向。
交戦時間。
消費エネルギー。
索敵の漏れがあった区画。
流石に完全ではない。
D級中心の相手だったからこそ損害無しで済んだ面もある。
ただ、それを踏まえても十分な完成度だ。
特に良かったのは、C級十九体を混ぜても崩れていない点だった。
単体ならともかく、混成で当たってきた場合の対応が気になっていたが、偵察ドローンの先行索敵、小型浮遊砲台の集中射、重盾機の押し上げがきっちり機能している。
実戦投入して問題ないレベルと言っていい。
「……よし」
短く息を吐く。
寝ている間に周辺を狩らせる運用は成立した。
今後は小隊数を増やしていけば、そのまま索敵範囲と討伐効率を広げられる。
公民館の防衛にも使える。
森林迷宮の外周警戒にも使える。
何より自分が別行動をしている間もポイントが積み上がる。
兵器召喚の強みがはっきり数字になって見えた。
報告を閉じ、次の予定を頭の中で整理する。
まず、公民館側は今日から森林迷宮の本格調査に入るはずだ。
攻略済みとはいえ、内部の使える部屋や物資の確認、危険箇所の洗い出しは必要になる。
その護衛と安全確認を請けるのは悪くない。
避難所との距離感を保ちつつ、拠点候補の整備状況も把握できる。
同時に、こちら側の課題もある。
兵器群の増強。
中型兵器の本格導入。
マキナ・フレームの試運転。
そして、次のダンジョン候補の選定。
やることは多い。
だが昨日までのように何から手を付けるか分からない状態ではなかった。
今は順番が見えている。
「まずは森林迷宮の整備か」
ぽつりと呟き、立ち上がる。
小隊は一晩働き通しだったが、まだ継戦可能判定だ。
とはいえ今日は一度回収して、消耗の確認と再編成をした方がいいだろう。
連続運用の限界も把握しておきたい。
バイザーへ簡易命令を送る。
【各小隊帰投】
【帰投後点検待機】
ほどなくして受理音が返る。
遠方に散っていた青い反応が、公民館周辺へ向けてゆっくり戻り始めた。
「便利だな、本当に」
独り言のように言い、軽く首を回す。
体調は悪くない。
眠気も抜けている。
昨日の疲れは、もう尾を引いていなかった。
後は朝飯でも食って、人の動きが本格化する前に葛西さんへ顔を出すか。
森林迷宮の調査隊に誰が出るのか、その辺りも早めに確認しておきたい。
そう考えながら、俺は表示を閉じて部屋の扉へ手をかけた。
今日もまた、積み上げる一日になる。
寝ている間に稼いだ三万ちょっとのポイントを思い返しつつ、まずはその土台をもっと太くしていくとしよう。
決意を新たに、朝食を摂ろうと収納から取り出したその時。
バイザーの端で、小さな通知が瞬いた。
【帰投中小隊より報告】
「ん?」
咀嚼を止め、意識をそちらへ向ける。
受け取ったのは、帰投を命じていた小隊の一つからの簡易報告だった。
文面自体は短い。
【避難所周辺にて新規人型反応を複数確認】
【推定数:数十】
【外見特性:非友好的傾向】
「……人?」
思わず眉をひそめる。
生き残り。
そう考えるのが自然ではある。
だが、数十人規模となると話が変わってくる。
偶然流れ着いた避難民というより、最初からまとまった単位で動いている集団だ。
嫌な予感がした。
即座に視界共有を開く。
映し出されたのは、公民館から少し離れた崩れた商店街跡の映像。
偵察ドローンが高所から覗き込む形で捉えたそれは、予感を裏切らなかった。
「……あー、最悪だな」
ぽつりと漏れる。
そこにいた連中は、どう見ても行儀が良さそうではなかった。
派手に染めた髪。
無駄に柄の悪い服装。
明らかに威圧目的で持ち歩いている棒や刃物。
中には刺青が見える奴もいる。立ち方、空気、連れ立ち方、その全部がカタギじゃないと語っていた。
半グレ、あるいはヤクザ崩れ。
そんな言葉が自然と頭に浮かぶ。
しかも厄介なのは、数だ。
数十人規模でまとまって動いている。
武装も統率も避難民より一段荒っぽい。
単に通り過ぎるだけならいい。だが、今のこの世界でわざわざ集団を維持している連中が、使えそうな場所を見逃すとは思えなかった。
「……ここを見つけたら、面倒なことになるな」
あるいは既に見つかっているのかもしれない。
帰投中のその部隊への命令を上書きしてその集団の監視を命じる。
ここで黙っていても仕方がない。
公民館側にも今すぐ共有するべき情報だ。
立ち上がり、食べ終わった食事を片付け、部屋を出る。
◆
葛西さんは、昨日と同じく調理場の近くにいた。
朝の配給準備をしていたのか、何人かへ指示を出している最中だったが、俺の顔を見るなり少し不思議そうに目を細めた。
「おはようございます。どうしました?」
「ちょっと、話があります」
声色で察したのか、葛西さんの表情がすぐに引き締まる。
「……分かりました」
人目の少ない場所へ移る。
今度は調理場の横にある小会議室だった。
扉が閉まったのを確認してから、俺は本題へ入った。
「先に一つ。昨日の夜に私の能力の一つである兵器召喚を使った機械の小隊をここ周辺へ出してました」
葛西さんが軽く瞬きをする。
「兵器召喚……」
「そのまま兵器を召還する能力です。かなりコストは掛かりますが…。それは置いておくとして、それで偵察、砲撃、防御を分担する小型の兵器を小隊単位で動かしていたんです」
全部を細かく説明する必要はない。
だが、何を情報源にしているのか不明なまま話すよりは、最低限の説明は入れておくべきだろう。
「その小隊が、今朝方、避難所周辺で新しい人の集団を見つけました」
そこで、葛西さんの顔色が変わった。
「人……?」
「はい。数十人規模です」
「そんなに……?」
「で、問題はその中身です」
バイザーの共有映像を簡易表示で浮かべる。
葛西さんの目が、明らかに険しくなった。
「……これ」
「ええ、お世辞にも友好的とは思えません」
むしろかなり悪い部類だ。
葛西さんは数秒、無言で映像を見ていた。
それから低く息を吐く。
「不良…いえ、ほとんどヤクザですね」
頷く。
この手の連中は崩壊前の社会ですら面倒だった。
法も秩序も薄れた世界で、暴力と数で押すことに躊躇のない人間集団。
しかもここには食料を生み出せる葛西さんがいて、守るべき避難民がいるのに防衛力は低い。
さぞ良い獲物として映る事だろう。
「今のところこちらへ来ている動きはありません」
「しかし行動範囲が近い。近々で接触するのは間違いないでしょう」
「……そうですか」
葛西さんは静かに頷いた。
だが、その顔にははっきりと緊張が浮かんでいる。
無理もない。
モンスターは怖い。だが、人間の厄介さはまた別種だ。
特に持つ能力が食料生産系であることを知られた場合の面倒さはモンスター以上かもしれない。
少しの沈黙。
それから葛西さんが、小さく口を開いた。
「……皆には、どこまで伝えるべきでしょう」
そこが難しい。
パニックを起こさせても困る。
だが、知らないまま無防備でいさせるのも論外だ。
「まずは戦える人を集めて共有…ですかね」
考えをそのまま言葉にする。
「見張り強化、単独行動の制限、周辺警戒の範囲拡大。最低でもそれくらいはした方が良いでしょう」
「はい」
「あと、森林迷宮の整備計画を急いで進めた方がいいかもしれないですね」
葛西さんが顔を上げる。
「新拠点候補が使える状態になれば、最悪の場合そっちへ分散退避できる。今の公民館だけに籠るより選択肢が増えます」
「……なるほど」
そこでようやく、葛西さんの表情に思考の色が戻る。
不安一辺倒ではなく、状況整理へ頭が切り替わった様だ。
「一つ、確認してもいいですか」
「どうぞ」
「田村さんのその兵器で……集団の監視は続けられますか?」
「はい、大丈夫です。この映像の距離のまま、近づきすぎずに位置と人数の推移は追えます」
「……助かります」
葛西さんが本当に安堵したように息を吐く。
それから少しだけ迷い、静かに言う。
「やっぱり、田村さんがいてくれて良かったです」
「お礼を言うにはまだ早いですよ」
苦笑混じりに返す。
「相手が何を考えてるか分からない以上、今はまだ前段階です」
知らない脅威ほど厄介なものはない。
特に、人間相手ならなおさらだ。
「とりあえず、戦える人を集めて周知しましょう」
俺がそう言うと、葛西さんはしっかり頷いた。
「伝える役は自分がやります」
そう言うと、葛西さんは目を瞬かせた。
「いいんですか?」
「この情報を出したのは私ですしね」
「……お願いします」
小会議室の空気が少しだけ重くなる。
モンスターだけでなく、人間の厄介事まで近づいてきた。
この終わった世界は本当に休ませてくれない。
だが、避けようのない状況なら、せめて先に見つけて備えるしかない。
「とりあえず、兵器小隊には監視継続を指示しておきます」
「はい」
「向こうがどこまでこっちに寄るか、それ次第で次を決めましょう」
そう言って、俺は再びバイザーの片隅へ意識を向けた。
夜の間にポイントを稼いだ小隊は、次は人間の脅威を監視する目になる。
便利だが、それだけ状況がきな臭いということでもある。
どうせなら、ただの考えすぎで終わってくれればいい。
そう思いながらも、たぶんそんな都合よくはいかないだろうと、もう半分くらい確信していた。
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