BrokenWorld~黒鉄の装着者~   作:半笑いの妖精

36 / 80
第三十六話:敗北

 

 意識を取り戻してもすぐにはその場から動けなかった。

 アドヴェント・ヒューマライトに投げ飛ばされたマキナ・フレームは鉄屑になり、俺自身もサブスーツ越しでも分かるほど全身が壊れていた。

 

 無理をすれば本当に死ぬ事になる。

 

 そう確信できる程度には、体の中身が滅茶苦茶だった。

 しばらく治療に専念するしかなさそうだ。

 

 

 治療に専念するために身を隠す場所としたのは崩れた高速道路の下。瓦礫でできた洞穴だった。

 天井代わりに斜めに落ちてきたコンクリ塊に側面を塞ぐ鉄骨と土砂。

 偶然できたにしてはかなり都合のいい空間で、外から見ればただの瓦礫の山にしか見えない。

 入口の隙間は人ひとりが這って通れる程度。

 奥行きはそこそこあり、身を縮めれば横にもなれる。

 埃っぽくて空気が悪く、居心地はとても良いとは言えないが、贅沢を言える立場じゃないし仕方ない。

 まずは生き延びなくては。

 

 収納から最低限の物を取り出す。

 寝袋やクッション等の寝具。

 ペットボトルの水。

 簡易保存食。

 そして、小さな灯り。

 それらをどうにか広げて、ようやく最低限の場所が整った。

 サブスーツのバイザーに改めて自分の状態を表示させる。

 

【全身状態:重篤】

【血管系:多数損傷】

【筋組織:広範囲断裂】

【骨格:多発骨折】

【内臓:重大損傷】

【生体回復機能:稼働中】

【完治予測:数日以上】

 

「……数日か」

 

 思ったよりマシと言うべきか。

 普通なら既に死んでいる程のダメージを受け、それが数日で治るとはスーツ様々だな。

 治癒に関してはスーツの生体回復機能に任せるとして、問題は快復するまでの身の安全だ。

 今の俺は木偶同然。モンスターに襲われれば為す術なくやられる事だろう。 

 

 あまり使い込みたくはないが、この状況なら仕方ないだろう。バイザーの兵器召喚カテゴリを開く。

 欲しいのは護衛が可能かつ信頼のおける戦力を携えた兵器。

 融通が利いて、いざという時は戦えて、なおかつこの瓦礫地帯でも動けるもの。

 

 中型カテゴリを上へと流していくと、ちょうど良さそうなのを見つけた。

 

【汎用変形機兵:500万P】

・状況に応じて形態変化を行う中型汎用兵器。

・機人型、機獣型、固定砲撃型などへ変形可能。

・護衛、索敵、近接戦、射撃戦、運搬など幅広い用途に対応。

 

「……おあつらえ向きだな」

 

 派手さはない。

 中型多脚砲戦車みたいな分かりやすい制圧力も、中型高速飛行砲艇みたいな機動戦能力も前面には出ていない。

 だが、今欲しいのは尖った強さではない。

 俺を守護しつつモンスターを撃破可能な護衛性能。

 現状に即した局地的環境へ適応できる柔軟性。

 

「これにしよう」

 

 こんな最適解を見つけた以上、迷う理由はない。

 

「取得……召喚」

 

 次の瞬間、瓦礫穴の外で青い光が走った。

 狭い内部では展開しきれないのだろう。召喚位置が自動で外へ調整されたらしい。

 直接目で見ようと体に鞭打って入口へ体の方向を変え、外を覗く。

 そこにいたのは、二メートル半ほどの無骨な機兵だった。

 黒とガンメタルの外殻。

 各部を走る青いライン。

 頭部は簡素な単眼型で、いかにも兵器という顔つき。

 腕脚は人型だが、関節部の可動域が広く背部には折り畳まれた追加脚と砲撃ユニットらしきものが見える。

 確かに色々と変形できそうなシルエットだった。

 

「……悪くない」

 

 護衛用としては十分すぎる。

 バイザーへ簡易ステータスが表示される。

 

【汎用変形機兵:召喚完了】

【待機形態:人型警戒形態】

【命令待受中】

 

 ついでに他兵器群の状態も確認しようとして、指が止まった。

 

【偵察ドローン:ロスト】

【小型浮遊砲台:ロスト】

【防護重盾機:ロスト】

【戦術管制ユニット:ロスト】

【中型多脚砲戦車:ロスト】

【中型高速飛行砲艇:ロスト】

 

「…やっぱりか」

 

 ロスト。

 破壊済み、あるいは完全に機能停止した個体に出る表示。

 ひとつやふたつではない。

 全てだった。

 阿瀬との戦いで奪われた超小型兵器群。

 展開していた中型兵器。

 その全てが、アドヴェント・ヒューマライトの出現と、その後の混乱の中で消し飛んでいたらしい。

 

 ……まぁ無理もない。

 

 マキナ・フレームですら投げ飛ばされて鉄屑になったのだ。

 その周辺にいた超小型や中型兵器が無事なはずがない。

 とはいえ、喪失感はあった。

 せっかく形にし始めていた小隊。

 運用が軌道に乗り始めていた兵器群。

 それら全部が、一瞬で吹き飛んだ。

 

「……ほんと、洒落にならねぇな」

 

 苦く呟く。

 S級。

 その理不尽はこういうところまで残酷だった。

 だが、落ち込んでいる暇はない。

 今の俺に必要なのは失ったものを数えることではなく、拾った命を前を向いている一手”を活かすことだ。

 汎用変形機兵へ命令を飛ばす。

 

「周辺警戒。敵性反応を発見した場合は俺を優先防護。不要な交戦は避けろ。どうしても必要な場合のみ迎撃」

 

 単眼が淡く光る。

 

【命令受理】

【周辺警戒開始】

 

 機兵は一歩下がり、入口のすぐ外で警戒姿勢へ移った。

 次の瞬間、四肢の一部が展開し、人型からやや前傾の警戒形態へ変わる。背部の補助脚が半展開され、地面への接地面積が増えた。

 

「へぇ……」

 

 狭い瓦礫地帯で踏ん張るための姿勢か。

 

 中々に頼もしい護衛を得て、ようやく少しだけ気を抜けた。

 

 

 それからの数日は、ほとんど治療に費やされた。

 朝、昼、夜の区別は曖昧だった。

 瓦礫の隙間から差し込む光の色と、バイザーの時刻表示だけが外の時間を教えてくれる。

 食べる。

 水を飲む。

 痛みに耐える。

 眠る。

 起きる。

 また状態表示を確認する。

 その繰り返しだ。

 生体回復機能は凄まじかった。

 普通なら一生ものの傷になっていておかしくない損傷が、時間をかけて着実に修復されていく。

 折れた骨が繋がる。

 裂けた筋繊維が戻る。

 内臓の損傷も、日に日に致命的から重傷へ変わっていく。

 ただ、痛みが消えるわけじゃない。

 むしろ治りかけの時期特有の嫌な鈍痛や痒みに痺れは増えた気もする。

 しかしそれでも死にかけから動ける状態まで戻っていくのは大きかった。

 

 汎用変形機兵もかなり優秀だった。

 

 昼間は人型か機獣型で周辺を巡回。

 夜は入口付近で砲撃支援型へ近い待機姿勢を取る。

 時折バイザーへ簡易報告が入る。

 

【周辺反応:小型モンスター2】

【迎撃完了】

【周辺安全:維持】

【人型反応:なし】

【高脅威反応:なし】

 

 完璧ではない。

 だが、動けない今の俺にとっては十分以上の護衛だった。

 瓦礫の洞穴の中で、じっと回復を待ちながら、何度も同じことを考えた。

 阿瀬。

 アドヴェント・ヒューマライト。

 マキナ・フレームの破壊。

 兵器群の全損。

 そして、その全部を越えた先に必要な力のこと。

 

「……まだ全然足りないな」

 

 何度目かも分からない独り言が漏れる。

 B-級の時点で目を剥く様な戦力を持つようなレベルだ。

 A級ともなれば国家規模の戦力をもってしてようやく勝利が可能ってところだろう。

 そしてS級はその更に向こうの存在。

 

 痛む体を抱えたまま、俺は瓦礫の天井を見上げる。

 この洞穴で過ごした数日は、休息であると同時に、敗北の咀嚼でもあった。

 負けた。

 たまたま偶然生き残っただけ。

 あの時、かなり優勢だった阿瀬ですら、S級の出現を見た瞬間に迷わず消えた。

 つまり俺たちはあの光の前では等しく雑魚でしかなかった。

 

「……次は」

 

 掠れた声で呟く。

 次があるなら。

 またあの理不尽が現れるなら。

 その時はせめて玩具扱いではなく牙くらいは届く存在でありたい。

 そんなことを考えながら、俺は今日もまた、狭い瓦礫の洞穴の中で静かに回復を待った。

 

 




今話購入兵器:1

【汎用変形機兵】
消費ポイント:500万P
・状況に応じて形態変化を行う中型汎用兵器。
・機人型、機獣型、固定砲撃型などへ変形可能。
・護衛、索敵、近接戦、射撃戦、運搬など幅広い用途に対応。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。