BrokenWorld~黒鉄の装着者~   作:半笑いの妖精

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第三十八話:緑の力

 

 新たに手に入れた【有機性強化外装】の性能を、ひとつずつ確かめていく。

 まず目についたのは、追加された陽光ポイントの表示だった。

 バイザーの端に浮かぶ、緑色の数値。

 最初は、一秒ごとに少しずつ増える程度のものかと思っていた。

 だが実際に計測してみると、その増加量は想像以上だった。

 

「…1秒で1000くらいか」

 

 正午に近い日差しの下。

 遮るもののない場所に立つと、陽光ポイントは秒ごとに1000ずつ増えていく。

 試しに汎用変形機兵へ命じて、即席の日陰を作らせる。

 四脚形態から上部装甲を展開し、簡易的な庇のような形を取らせると、途端に増加量が500前後まで半減した。

 

「悪くないな」

 

 検証結果としては上々だ。

 完全にゼロにならないということは、直射日光だけではなく、反射光や散乱光でもある程度はポイントを得られるらしい。

 なら、曇り空。夕方。夜間の月明かり。人工光源。

 その辺りでどこまで取れるのかも気になる。

 

 後でそっちも測るとしよう。

 メモ機能でバイザーの片隅へ条件を書き留める。

 陽光ポイントの取得条件が分かれば、行動時間や戦術にも直結する。

 真昼に溜めて夜に使うのか。

 曇天でも実用圏なのか。

 地下や迷宮内ではどこまで落ちるのか。

 確認する価値は高い。

 次に、本命。

 溜めた陽光ポイントの使い道だ。

 機能増設画面を開くと、以前までの無機質なインターフェースへ、薄い緑のラインが混ざっていた。

 機械的なカテゴリ表示の中に、有機的な脈動めいたエフェクトが流れているのが妙にしっくりくる。

 

「…有機性」

 

 追加された項目を順に見ていく。

 予想通り、方向性は明確だった。

 討伐ポイント側が、火力、兵装、兵器召喚、機械的拡張へ寄っているのに対し、陽光ポイント側は生体、再生、補助、効率化へ偏っている。

 まず目を引いたのは、肉体融合系の強化群だった。

 

【有機筋繊維補強:50000YP(陽光ポイント)

・陽光ポイントを消費することで植物性の筋繊維補助組織をスーツ内部へ生成し、身体出力を強化可能。発動中は陽光ポイントを持続的に消費する。

【有機神経補助網:25000YP】

・陽光ポイントを消費することで反応速度と制御精度を向上させる有機的補助回路を構築する。発動中は陽光ポイントを持続的に消費する。

【有機循環強化:25000YP】

・陽光ポイントを消費することで外装装着者に植物性を付与し、回復力、持久力、環境適応性を高める。発動中は陽光ポイントを持続的に消費する。

 

「…生体強化が主か」

 

 身体能力全般の底上げ。

 それも、単純な筋力アップだけではなく、神経系、持久力、適応力まで含めて。

 しかも説明を読む限り、これはただの数値加算じゃない。

 植物の力を肉体へ融合させることで、戦う体そのものを作る方向に見える。

 悪くない。

 というか、かなり良い。

 俺の能力はこれまで強化外装による瞬間火力や兵器運用に寄っていた。

 そこへ基礎体力そのものに強化が加わるなら継戦能力は一気に上がる。

 さらに目を引いたのが、スーツや召喚兵器への有機性能付与だった。

 

【有機装甲自己修復:50000YP】

・陽光ポイントを消費して外装に有機修復機能を付与し、損傷を時間経過で自動修復する。発動中は陽光ポイントを持続的に消費する。

【光合成補助炉:100000YP】

・陽光ポイントを消費して外装および召喚兵器に太陽光を吸収してエネルギー効率や出力を向上させる補助炉を生成する。

【水分吸収循環:80000YP】

・陽光ポイントを消費して外装に周囲の水分を回収し、冷却、修復、出力補助へ利用する機能を付与する。

 

「おいおい…」

 

 思わず笑う。

 装甲の自己修復。

 光合成による補助エネルギー。

 水分吸収による循環補強。

 どれもとんでもなく実用的だ。

 特に自己修復は大きい。

 今までも修復機能はあったが、あれは時間が掛かる上に、一度壊れてからの回復が基本だった。

 それが戦闘中、あるいは戦闘後に即時性を持って軽傷を塞げるなら、生存率はまるで違う。

 光合成補助炉も強い。

 昼間に動く限り、立っているだけでエネルギー効率が改善する可能性がある。

 ビークルやヘビースーツの消耗にまで絡められるなら、戦闘時間の概念そのものが変わる。

 

「…召喚兵器にも乗るのがデカいな」

 

 ここが、特に重要だった。

 説明文を読む限り、有機性能はスーツだけではなく、召喚兵器にも付与できるらしい。

 つまり、偵察ドローンや浮遊砲台のような兵器群に自己修復や補助吸収機構を持たせられる可能性がある。

 壊されても直る。

 日の光で効率が上がる。

 水分を吸って長持ちする。

 兵器召喚の弱点だった消耗品的な要素を軽減できるのは大きい。

 

「…機械と植物の融合、か」

 

 そう考えると、今の能力名はよくできていた。

 

有機性強化外装(バイオテック・パワードスーツ)

 

 機械の鎧に、生体のしぶとさと補助機能が混ざったそれ。

 ただの兵器ではなく、生体装備に近いものへ変わり始めている。

 そして、まだ終わりじゃなかった。

 画面をさらにスクロールした時、兵器召喚カテゴリの最下部に新しい分類が追加されているのが目に入る。

 

「…有機化学?」

 

 少し眉を上げ、そのタブを開く。

 すると今までの兵器一覧とは毛色の違う項目がずらりと並んでいた。

 

【簡易浄水生成機:100000P】

・陽光ポイントを用いて水分を飲用可能な物へ変換する有機性装置。

【簡易食料生成機:150000P】

・陽光ポイントを消費する事で簡易食料を生成する有機性装置。

【有機性拠点建材:100P~】

・自己接合、自己補修を行う有機性建材。拠点構築に適する。

【有機培養床:200P~】

・植物生成、薬草育成、簡易農業支援に適した有機性土台。

 

 兵器召喚の新カテゴリ【有機化学】。

 その内容は生活基盤──生きるための力に特化していた。

 飲料水。

 簡易食料。

 建材。

 培養床。

 

「…葛西さん」

 

 小さく、その名前が漏れる。

 確かに、あの人の能力が統合されたなら、こういう方向性が出てきても不思議じゃない。

 食料を生み、植物を扱い、拠点を支える力。

 それが、俺の能力へ別の枝として追加された。

 戦闘力だけじゃない。

 拠点維持。

 水の確保。

 最低限の食料生成。

 さらには有機性建材による住環境整備まで視野に入る。

 

「…凄いな、これ」

 

 率直にそう思った。

 今までの俺は戦闘力の積み上げだけでここまで来た。

 その結果としてS級に叩き潰され避難所も失った。

 だがこの新しい枝は違う。

 戦闘で勝つためではなく、その先に拠点を維持するための力だ。

 水がある。

 食料がある。

 拠点を補修できる。

 それは戦場の外に見えて、実際には最重要の戦力基盤でもある。

 

「…兵器と拠点、両立可能ってことか」

 

 これから先、S級やそれ以上を相手にするなら、根無し草では限界が来るだろう。

 兵器群を運用するにも、休息と補給が要る。

 決戦兵器を扱うにも、立て直す場所が要る。

 最初の拠点のようなその場凌ぎの廃墟ではない、真なる要塞。

 有機化学カテゴリは単なる便利機能じゃない。

 今後の俺の生存戦略そのものに関わる。

 バイザーを閉じずに、汎用変形機兵の作る日陰から一歩出る。

 陽光がスーツ表面を撫でる。

 緑のラインが、以前よりほんの少し脈動するように見えた。

 

「…いい」

 

 自然と口元が緩む。

 絶望の後に手に入れた力としては、十分すぎるほど実用的だ。

 火力だけでは届かない場所がある。

 今回、それを骨身に染みて理解したばかりだった。

 だからこそ、この方向性はありがたい。

 戦う。

 壊す。

 倒す。

 それだけじゃなく、

 耐える。

 維持する。

 立て直す。

 その力まで手に入ったのだとしたら、次はもっと遠くまで行けるかもしれない。

 

「…まずは検証だな」

 

 独り言のように呟く。

 夕方の陽光取得量。

 夜間の蓄積効率。

 有機装甲自己修復の速度。

 汎用変形機兵への有機性能付与の可否。

 簡易浄水生成機と簡易食料生成機の実用性。

 有機性建材の強度と自己補修性能。

 確認したいことは山ほどある。

 その全てが未来へ直結している。

 俺は改めて、新しい外装に包まれた自分の手を見る。

 黒い装甲。

 青い発光ライン。

 そしてその隙間を走る、薄緑の有機的な脈動。

 機械だけだった頃より、間違いなく複雑になっている。

 けれど、その分だけ確かに強く、しぶとくなっていた。

 葛西さんの死が残したもの。

 それを無駄にしないためにも、まずはこの進化した力を徹底的に把握するところから始めていく。

 

 

 新しい項目はいくつも増えたが、その中でも特に重要なのは陽光ポイントの消費量だった。

 取得速度がどれだけ優秀でも、使った瞬間に底を突くようでは話にならない。

 逆に消費が軽いなら、討伐ポイントとは別軸の常用リソースとしてかなり強い。

 

「…まずはそこからだな」

 

 瓦礫の上へ腰を下ろし、バイザーへ検証用の簡易ウィンドウを並べる。

 現在時刻。

 天候。

 陽光ポイント総量。

 増減速度。

 消費履歴。

 それらを表示した状態で、ひとつずつ機能を試していくことにした。

 

 最初は【有機神経補助網】。

 

 反応速度と制御精度を向上させるという説明の通りなら、体感が一番分かりやすいはずだ。

 

「起動」

 

 念じる。

 陽光ポイントが一瞬だけまとまって減り、その後、秒単位で継続消費が始まった。

 

【有機神経補助網:起動】

【初期消費:25000YP】

【維持消費:300YP/秒】

 

「…安いな」

 

 率直な感想だった。

 今の取得速度が日向で1000YP/秒。

 維持が300YP/秒なら、真昼の直射日光下では黒字になる。

 そして起動した瞬間、変化もすぐに分かった。

 視界がクリアになる。

 いや、視界そのものではなく、視界から手足への変換が異様に滑らかになる感覚だ。

 試しに指を動かす。

 握る。

 開く。

 短剣を生成して軽く振る。

 

「…おお」

 

 反応が早い。

 単に身体能力が上がったというより、思考と行動のラグが薄くなる。

 スーツ自体が肉体の一部へ近づいたような感覚だ。

 

 次に【有機筋繊維補強】。

 

 こちらは初期消費も維持消費も神経補助より重かった。

 

【有機筋繊維補強:起動】

【初期消費:50000YP】

【維持消費:600YP/秒】

 

 合計すると、神経補助と合わせて900YP/秒。

 つまり快晴の真昼ならギリギリ黒字、日陰では赤字寄り。

 

「火力寄りの常時運用は、条件付きか」

 

 悪くない制限だ。

 起動した瞬間からスーツ内部で根が張るような感覚が走り、全身を覆うと出力感覚が変わる。

 地面を軽く蹴る。

 それだけで、瓦礫の上の体が前へ大きく滑った。

 

「ぅおっ!と、と」

 

 慌てて止まる。

 筋力そのものというより、爆発的な瞬発力が増している。

 植物の繊維を補助組織にする、という説明は伊達じゃないらしい。

 バネみたいな粘りとしなやかさが加わっている。

 

 最後に【有機循環強化】。

 

【有機循環強化:起動】

【初期消費:25000YP】

【維持消費:400YP/秒】

 

 これで三種同時運用になる。

 合計維持消費は1300YP/秒。

 つまり直射日光下でもやや赤字。

 だが、それだけあって効果は明確だった。

 呼吸が深く、楽になる感覚。

 篭った熱が直ぐに抜ける。

 持久戦向けの性能だ。

 

「…いいな、これ」

 

 三つ同時起動状態で、軽く動く。

 歩く。

 跳ぶ。

 着地。

 踏み込み。

 短剣の斬撃からエネルギー弾への切り替え。

 全部が滑らかだ。

 生体回復機能や外装補助とはまた違う、根本からの底上げ。

 討伐ポイント側の機械的強化とは別のベクトルで、自分の戦闘力そのものが一段増しているのが分かる。

 

「…ただ、常時全開は無理だな」

 

 ポイント収支を見る限り、日中の快晴下でも三種同時起動はじわじわ削れる。

 つまりこれは、戦闘時か、短期決戦用のバフだ。

 逆に、【有機神経補助網】単体ならかなり常用向き。

 【有機循環強化】も、回復や移動時に挟む価値がある。

 【有機筋繊維補強】は明確に戦闘用。

 使い分けの輪郭が見えてきた。

 

「次は…自己修復か」

 

 取得する前に他の有機機能はオフにしておく。

 

【有機装甲自己修復:起動】

【初期消費:50000YP】

【維持消費:500YP/秒】

 

 取得、起動。この状態で自分の前腕装甲へ短剣を軽く当てる。

 傷が入る。

 そのまま観察。

 

 数秒後、装甲の隙間から細い蔓のようなものがにじみ、傷の縁を内側から塞ぎ始めた。

 劇的ではない。

 だが、戦闘中でも実用に足る程度には早い。

 

「ある程度の傷なら、これからは無視できるか」

 

 これは大きい。

 ヘビースーツやビークル、有機性を足した追加兵装にも適用できるなら、生存率そのものが変わる。

 しかもこれも、討伐ポイントではなく陽光ポイントで回る。

 討伐Pは兵器や火力へ。

 陽光Pは維持と生存へ。

 役割分担としてかなり綺麗だった。

 

 

 ひと通り自己強化を確認したところで、次は汎用変形機兵だ。

 召喚兵器にも有機性能を付与できるなら、その実用性は最優先で確認したい。

 

「有機装甲自己修復、対象変更。汎用変形機兵へ限定付与」

 

 命じる。

 少し間を置いてから、変形機兵の外殻に薄緑のラインが走った。

 いける。

 

「有機性能付与は可能、と」

 

 説明には書いてあったが実際にこの目でも見ないとな。

 機兵に刃を走らせ、傷を与える。

 すると、自分のスーツと同じように有機的な修復組織で埋まり始めた。

 

「よし」

 

 これなら兵器群の継戦能力を底上げできる。

 【光合成補助炉】は高いが、その分効果にも期待できるというものだろう。

 

【光合成補助炉:起動】

【初期消費:100000YP】

【維持消費:200YP/秒】

【補助対象:自己・召喚兵器】

 

 起動と同時に、スーツと機兵の発光ラインがわずかに強くなる。

 数値表記にするとエネルギー回復と効率補正の項目がかなり底上げされていた。

 

「…維持費の割に、かなり効くな」

 

 これは常用候補だ。

 日中行動を前提にするなら、陽光ポイントは単なる別リソースではない。

 環境に応じて実質バフが掛かる天候依存型の第二エネルギー系統 と考えた方が近い。

 そして、その理解を持った上で【有機化学】へ視線を戻す。

 

「次は生活基盤側か…」

 

【簡易浄水生成機:100000P】。

 

 少なくない討伐ポイントを消費して召喚すると、黒と緑の混ざった箱型の装置が現れた。

 機械装置の形をしているのに、側面には葉脈めいた模様が走り、内部では何かが脈打っている。無機質と有機質が無理やり同居しているような、不思議な見た目だった。

 収納から、いつか蒸留しようと貯めていた雨水を取り出す。

 濁りこそ薄いが、そのまま飲むには躊躇うような代物だ。

 それを装置の注ぎ口へ流し入れる。

 その数秒後。

 下部に付いた蛇口めいた部分から、透明な水が流れ出した。

 

「おっと」

 

 思ったよりずっと早い。

 慌てて空のペットボトルを取り出し、受け止める。

 十秒も経たずに、注いだ雨水は全て浄水されてしまった。

 試しに、軽く口へ含む。

 

「……普通に飲めるな」

 

 味も匂いも問題ない。

 少なくとも、浄水器を通しただけの水にしか思えなかった。

 これだけで既に、15万や20万程度では釣りが来る価値がある。

 だが、まだこれは氷山の一角に過ぎない。

 

 次は【簡易食料生成機:150000P】。

 

 こちらは、浄水器よりさらに生々しかった。

 箱型装置という意味では似ているが、内部構造が違う。

 有機培養槽のような透明区画があり、その中で緑色の液体と薄い膜状組織がうごめいている。

 水分と陽光ポイントを送り込むと、それらが反応して“何か”を組み上げていくのが目に見えた。

 生成できる食料の種類は膨大だった。

 パン、麺、お粥、保存食、簡易栄養食、果実系、野菜系、肉っぽい何かまである。

 多すぎて眺めているだけで時間が溶けそうだったので、一旦ランダム生成へ任せる。

 数十秒後、下部の排出口から湯気を立てたそれが出てきた。

 

「肝心の味は……」

 

 少し警戒しながら口へ運ぶ。

 咀嚼。

 嚥下。

 

「……結構いけるな」

 

 勝手に不味い、もしくはせいぜい食べられなくもない程度を想像していた。

 しかし実際は普通に美味い。

 味付けも薄すぎず濃すぎず、保存食にありがちな嫌な後味もない。

 全然、常食可能だ。

 しかも種類がめちゃくちゃ多い。

 この分なら飽きることもそうそうないだろう。

 

「15万Pの価値以上はあるな、これ」

 

 率直にそう思う。

 水と食料。

 それが自前でどうにかなるだけで、生存難易度は文字通り段違いだ。

 

 そして最後に、【有機性拠点建材:100P~】。

 

 試しに最小規模で召喚してみる。

 現れたのは、植物の根と樹脂と金属繊維を混ぜたような奇妙な素材だった。

 柔らかそうに見える部分と、明らかに硬質な骨組みが共存している。

 それを地面へ置いてみると、じわりと底面が広がり、根を張るように地面へ接合し始めた。

 

「……へぇ」

 

 面白い。

 ただの板やブロックではない。

 周囲へ馴染み、自分で固定され、環境に合わせて形を変えていく。

 拠点の壁。

 簡易シェルター。

 瓦礫穴の補強。

 場合によっては塹壕や射線遮断にも使えるかもしれない。

 単なる建材というより成長する防壁のようだ。

 

 

  一通りの検証を終えた頃には、バイザーのメモ欄がかなり埋まっていた。

 陽光ポイントの取得速度。

 各機能の初動コスト。

 秒間維持費。

 実際の効果。

 使いどころ。

 それらを整理していく内に、改めて結論が見えてくる。

 

「……もう別系統だな」

 

 討伐ポイント側は、攻撃、兵装、兵器、破壊。

 陽光ポイント側は、補助、持久、回復、維持、拠点。

 この二つが噛み合えば、今までの俺より遥かにしぶとくなる。

 今までは、一戦ごとの強さを積み上げてきた。

 これからはそれに加えて、長期戦に耐える力と、失った後に立て直す力が手に入る。

 

 ……悪くないどころじゃない。

 

 S級相手に叩き潰された直後に手に入れる進化としては破格だろう。

 ただ強いだけでは届かない。

 ただ火力があるだけでは足りない。

 耐え、維持し、補給し、また立ち上がる力が要る。

 有機性強化外装は、まさにそのための進化だった。

 最後に、汎用変形機兵へ光合成補助炉を付与してみる。

 黒い機兵の外装に、緑の脈動が走る。

 硬い板金の隙間へ植物じみた繊維が差し込み、熱や損傷へ反応して微かに収縮している。

 

「……よし」

 

 口元が少しだけ緩む。

 戦う力。

 維持する力。

 育てる力。

 その全部を、これから自分のものにしていく。

 そしてその先にあるのは、ただの生存だけではない。

 あの光人を殺せるだけの、圧倒的な戦闘力を得られる基盤だ。

 

「もっと、力が要る」

 

 独り言のようにそう言って、俺は新しい外装の脈動を確かめるように拳を握った。

 そこで、考えを次へ進める。

 必要なのは、こんな検証の継続じゃない。

 方向性の決定だ。

 今の俺には、足りないものがいくつかはっきりしている。

 

 まず一つ。

 

 腰を据えた拠点。行動を起こすに当たって安全に休息が出来る場所というのは必要不可欠だろう。

 

 次に、持続可能な兵站。

 

 簡易機械は手に入った。

 だがそれは結局のところ、陽光ポイントを必要とする限定資源だ。

 当然多用はする。だがしかし、それだけに頼らない形にもしておきたい。

 点ではなく線で維持する仕組み。

 具体的には有機性拠点建材と培養床を使った農場の建設。

 食料生成機と浄水生成機は便利だが、本当に欲しいのは陽光と水と土地さえあれば自動的に循環していく拠点そのものだった。

 

 そして最後。

 

 これが一番大切だ。

 S級へ届くまでの成長ルート。

 今の俺でもB-級相手なら勝てる。

 相性や状況次第では、それ以上ともやり合えるだろう。

 だが、S級は別だ。

 戦いにすらならない。

 マキナ・フレームですら玩具みたいに扱われた。

 故に必要なのは確実に差を詰めるための積み上げだ。

 

「……まずは拠点か」

 

 今度は、ただの廃ビルじゃない。

 自分の兵器群を運用し、補給し、修復し、育成できる拠点。

 有機性建材と兵器召喚を前提にした本当の意味での前線基地。

 その構想を思い浮かべた瞬間、頭の中で必要なものが次々と繋がっていく。

 外壁。

 地下保管区画。

 陽光取得効率の良い地形。

 水源。

 周囲のモンスター密度。

 飛行砲艇やビークルの発進スペース。

 いざという時にマキナ・フレームを展開できるくらいの広さ。

 

「……場所選びが先だな」

 

 この更地に作ることも、一瞬だけ考えたがすぐに却下した。

 葛西さんたちには、静かに眠っていて欲しかった。

 この土地を戦場にする気にはなれない。

 まずは土地を探そう。

 県を三つ跨いで戻ってきた今の位置。

 この周辺の地図を表示する。

 山。

 廃工場跡。

 河川敷。

 高速道路の崩落地帯。

 住宅街。

 大型商業施設跡。

 どこが良い。

 考えた結果、まず必要なのは隠れやすさではなく、運用しやすさだと判断した。

 今までは、隠れることが最優先だった。

 だがこれから先は、兵器も拠点も大型化していくはずだ。

 あまりに閉鎖的な地形では、自分の強みを殺すだけになる。

 

「……半開放型の地形が理想か」

 

 周囲に遮蔽物はある。

 だが上空は取りやすい。

 地下や建物の残骸で最低限の隠蔽もできる。

 そんな場所。

 そこまで考えてから、ふとバイザーへ視線を戻す。

 

【陽光ポイント:蓄積中】

【各有機機能:待機】

【汎用変形機兵:警護継続中】

 

 数値は着実に増えている。

 検証の価値は十分あった。

 今の自分は、失ったものの上に立っている。

 避難所も、人も、兵器群も、一度は全部吹き飛んだ。

 それでもこうして、新しい能力を得て、また次へ進もうとしている。

 

 あの光人に届くまで、何度でも積み上げる。

 壊されたとしてもその度に、前より強く、前よりしぶとく、前より深く根を張る。

 そのための第一歩が、ここから始まる。

 俺は立ち上がり、有機性建材のサンプルを回収し、食料生成機と浄水生成機を収納へ戻した。

 次にやるべきことは決まった。

 新しい力の検証は終わった。

 ここから先は、実際に形へしていく段階だ。

 まずは拠点候補の選定。

 次に、最低限の有機拠点の建築。

 並行して兵器群の再編成と、有機性能の付与試験。

 そしてその先に、S級へ届くための準備がある。

 瓦礫だらけの空の下で、緑の脈動を帯びた新しい外装を纏ったまま、俺はゆっくりと歩き出した。

 今度こそ。

 次に作る拠点は、ただの隠れ家では終わらせないつもりだった。

 

 

 この地を去る前に、最後の一仕事をする。

 墓地を有機建材で覆い、保護する。

 ただ土を盛っただけの墓では、いずれ雨風に削られ、モンスターに荒らされるかもしれない。そんなのは御免だった。

 有機性建材をいくつも召喚し、墓地の外周へ沿って配置していく。

 黒緑の建材は地面へ置かれた途端、根を張るように広がり、互いに接合し始めた。

 板だったものが壁になる。

 壁だったものが緩やかな土塁めいた曲面になり、さらにそこへ枝のような補強骨格が走る。

 見た目は無骨だが、ただの囲いじゃない。

 衝撃を受ければしなり、割れれば自ら閉じ、時間を掛けて自己補修する。

 墓地を覆う保護殻としては十分以上だった。

 さらに中央部には低い屋根状の構造も作る。

 直射日光をある程度遮り、風雨の侵入を減らすためだ。

 

「……こんなもんか」

 

 ひと通り囲い終えた所で、もう一機、汎用変形機兵を追加召喚する。

 青い光と共に現れた二機目へも、有機強化を施す。

 光合成補助炉。

 有機装甲自己修復。

 最低限の生体補助。

 二機の機兵は、黒い外装の隙間へ緑の脈動を走らせながら、無言で立った。

 無骨な兵器でありながら、妙に忠実な番犬みたいにも見える。

 俺はその二機を墓地の前へ並ばせ、短く命じる。

 

「この墓地を守れ。葛西さんたちが安らかに眠れるように」

 

 単眼が淡く光る。

 

【命令受理】

【任務:墓地防衛】

【警戒開始】

 

 それでいい。

 最低限でも、これで無防備ではなくなった。

 誰も弔う者のいない更地よりは、遥かにマシだろう。

 最後に一度だけ墓地へ背を向け、俺は飛び立った。

 

 

 移動を開始してから、一時間ほど。

 ビークルモードで良さそうな候補地を見て回る。

 まずは近くにあった山。

 斜面に半ば埋もれた物流倉庫跡は悪くなかった。

 高さもあるし、地下搬入口も残っている。

 だが、陽光の入りが悪い。谷になっているせいで朝夕は陰りが早く、周囲も樹木に覆われている。

 今の俺の能力とはあまり噛み合わない。

 次に河川敷。

 視界は抜群。

 上空の抜けもいい。

 水源が近いのは魅力だったが、逆に隠蔽性が低すぎる。

 増水や地盤の緩さも考えると、前線基地としては少し不安が残った。

 住宅街跡は論外。

 遮蔽物は多いが、広さが足りない。

 区画が細かすぎて兵器展開にもマキナ・フレームの運用にも向かないだろう。

 そして、ようやく見つけた良さそうな場所は──

 

 

「……樹海、か」

 

 上空から見下ろした第一印象は広い、だった。

 ひたすらに広い。

 そして深い。

 木々の海のように見えるその地帯は、所々に奇妙な空白を抱えていた。

 自然にできたものではない。

 陥没。

 崩落。

 あるいは過去に何か巨大なものが暴れた痕跡なのかもしれない。

 だが、それが逆に良かった。

 完全な平原じゃない。

 完全な山岳でもない。

 樹海という外殻の中に、開けた空間や隠蔽に使える窪地が散っている。

 

「……悪くないな」

 

 さらに高度を落とす。

 樹冠を抜けた先には、思っていた以上に起伏のある地形が広がっていた。

 岩場。

 浅い水溜り。

 乾いた地面。

 密集地帯と開放地帯の混在。

 陽光を十分に受けられる開けた場所がある。

 その周囲を木々と岩壁が取り巻いている。

 地表に近い場所には地下へ続きそうな裂け目も見える。

 

「……半開放の条件も当てはまってる」

 

 しかもここは人の生活圏からもそこそこ離れている。

 それでいて完全に孤立しているわけではない。

 飛行砲艇やビークルで動けば直ぐだ。

 

 水源も探せばどうにでもなる。

 樹海なら地下水脈や湧き水の可能性が高いし、有機化学カテゴリと組み合わせれば安定供給も容易だろう。

 

 モンスター反応を確認する。

 

 多い。

 だが異常なほどではない。

 D級〜C級中心。

 時折強めの反応もあるが今の俺なら十分処理圏内だ。

 むしろ、ポイント稼ぎの場として見れば都合がいい。

 

「……ここだな」

 

 ついに、そう確信する。

 拠点を作る場所。

 兵器を再編する場所。

 有機拠点を育てる場所。

 全部の条件を、高いレベルで満たしている。

 

 ビークルモードを解除し、地面へ降り立つ。

 

 足元の土を踏みしめる。

 湿り気。

 地盤の硬さ。

 周囲の陽光。

 風の抜け。

 全ての要素が丁度良い。

 

「……ここを次の拠点にする」

 

 誰に向けるでもなく静かに宣言する。

 

 最初に有機性建材で最低限の土台を作る。

 浄水機設備と食料生成機を設置し、まずは夜を越せるだけの仮拠点を整える。

 兵器再建も、農場化も、地下保管区画の整備も、その後だ。

 

「……まずは雨風を凌げる場所からだな」

 

 周囲を見回す。

 半開放の地形。

 陽光が入り上空も取れる。

 その一方で岩場と樹木が程よく視線を切ってくれる。

 大型運用も視野に入る。

 隠蔽性も最低限は確保できる。

 単騎で拠点を起こすには十分すぎる条件だった。

 収納から有機性建材を取り出し、地面へ置く。

 黒緑の素材はすぐに根を張り、地面へ食い込んでいく。

 ここから始まるのは、避難所の再建じゃない。

 誰かに与えられた場所でもない。

 俺自身の意思で作る、戦うための拠点。

 ゼロから。

 それでも必ず形にする。

 そう決意して、俺は樹海の中で最初の建材を固定した。

 




今話獲得機能:6

【有機筋繊維補強】
消費陽光ポイント:50000
・陽光ポイントを消費することで植物性の筋繊維補助組織をスーツ内部へ生成し、身体出力を強化可能。発動中は陽光ポイントを持続的に消費する。

【有機神経補助網】
消費陽光ポイント:25000
・陽光ポイントを消費することで反応速度と制御精度を向上させる有機的補助回路を構築する。発動中は陽光ポイントを持続的に消費する。

【有機循環強化】
消費陽光ポイント:25000
・陽光ポイントを消費することで外装装着者に植物性を付与し、回復力、持久力、環境適応性を高める。発動中は陽光ポイントを持続的に消費する。

【有機装甲自己修復】
消費陽光ポイント:50000
・陽光ポイントを消費して外装に有機修復機能を付与し、損傷を時間経過で自動修復する。発動中は陽光ポイントを持続的に消費する。

【光合成補助炉】
消費陽光ポイント:100000
・陽光ポイントを消費して外装および召喚兵器に太陽光を吸収してエネルギー効率や出力を向上させる補助炉を生成する。

【水分吸収循環】
消費陽光ポイント:80000YP
・陽光ポイントを消費して外装に周囲の水分を回収し、冷却、修復、出力補助へ利用する機能を付与する。

今話購入兵器:4

【簡易浄水生成機】
消費ポイント:100000
・陽光ポイントを用いて水分を飲用可能な物へ変換する有機性装置。

【簡易食料生成機】
消費ポイント:150000
・陽光ポイントを消費する事で簡易食料を生成する有機性装置。

【有機性拠点建材】
消費ポイント:100~
・自己接合、自己補修を行う有機性建材。拠点構築に適する。

【有機培養床】
消費ポイント:200~
・植物生成、薬草育成、簡易農業支援に適した有機性土台。

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