BrokenWorld~黒鉄の装着者~ 作:半笑いの妖精
戦況としては厳しいと言わざるを得ない。
既に中庭の全てが雪女の領域と化している。
立っているだけで冷気が染みこみ、スーツのフルフェイスメットで防護されている呼吸器が肺の内側が軋む。
その上で、左右から氷鬼が圧を掛けてくる。
正面に出れば凍雪妖女郎の氷柱と氷壁。
横へ逃げれば氷鬼の豪腕。
下がれば吹雪が濃くなる。
包囲を越えた環境の支配。
凍雪妖女郎はその中心で一歩も動かない。
あくまで自分の支配する白銀世界の中で、俺がどう死ぬかを眺めるだけ。
その余裕が実に腹立たしい。
「ッ──!」
左の凍雪従氷鬼が先に来る。
重い。
だが速い。
門番二体のような野獣じみた勢いではなく洗練された速さ。
振り下ろされた氷の拳を偏向障壁で受け流す。だが衝撃が大きすぎる。
弾く、というより、流しきれずに持っていかれる。
後ろへ半歩。
そこへ右の凍雪従氷鬼が横薙ぎ。
「くそっ!」
ヘビースーツの肩で受ける。
鈍い音。
装甲の上を、絶対零度の冷気が走った。
【左肩装甲:重損耗】
【表層凍結進行】
【有機自己修復:低下】
殴られた箇所から熱が消える。
痛みより先に感覚が抜けていく。
これが厄介だった。
ただの打撃ならまだいい。
だが氷鬼の一撃は、触れた武器、防具そのものを凍てつかせ、機能を殺してくる。
しかも二体で連携してくるせいで、防いでも防いでも外装の稼働がじわじわ削れていく。
適装被せた支援機が上から高熱穿孔弾を撃ち込む。
だが凍雪妖女郎が指を揺らすだけで、青白い氷壁が割り込み、熱を受け止める。
その隙に防御支援機が前へ出て、飛来する氷刃を受ける。
援護が無いわけじゃない。
むしろ十分以上にやっている。
だが、届かない。
雪女の絶対防御。
氷鬼二体の圧力。
その二つが噛み合うと、こちらの最適の一手一手が凡手、あるいは悪手へと変わる。
左の氷鬼へ高周波ブレードを叩き込む。
硬い。
そして冷たい。
刃が表面へ食い込むより先に、霜が走る。
「冷ってぇなァ!!」
無理に押し込めばブレード自体が死ぬ。
だから離す。
だがそこへ凍雪妖女郎の吹雪が重なる。
視界が奪われる。
熱が抜ける。
背後から飛んできた氷柱が防御支援機の障壁を削り、残った一本が太腿外装を抉った。
【右脚部:中損傷】
【運動性能:低下】
膝が沈む。
そこへ氷鬼の拳が来る。
受ける。
受けた瞬間、右腕の傷からまた冷気が入り込んだ。
「が、ぁ……!」
たまらず後退。
白砂──いや、もう完全に氷面へ変わった地面を滑るように離脱する。
だが離れたところで状況は好転しない。
凍雪妖女郎が手を広げる。
中庭の空気が鳴る。
周囲の温度が、また一段落ちた。
【外装熱循環:限界接近】
【内部温度:危険域】
【凍傷進行】
頬が痛い。
首筋が痛い。
左手の指先が、自分のものではないように鈍い。
ヘビースーツの許容量を越えた冷気が、もうはっきり中身まで侵していた。
凍傷。
その二文字が、戦闘の最中に現実味を持つ。
熱い傷は分かりやすい。
だが、凍傷は違う。
痛いのに、同時に感覚が消えていく。
壊れている実感が、薄く、けれど確実に積み上がっていく。
雪女がまた指を動かす。
氷柱。
吹雪。
薄い氷壁。
全部がついでみたいな自然さで飛んでくる。
その間を縫って、氷鬼二体が詰める。
片方を避ければ、もう片方が来る。
両方を捌けば、その間に凍雪妖女郎の冷気が削る。
防御支援機が一枚、氷鬼の拳を受けて吹き飛んだ。
攻撃支援機も高出力兵装の反動からまだ回復しきっておらず、今は低出力の牽制しか撃てない。
有機循環強化を回しても、追いつかない。
熱よりも先に冷気が満ちる。
次の瞬間、左の氷鬼が肩からぶちかましてきた。
避けるには遅い。
真正面から受ければ砕ける。
半端に流した結果、脇腹から背中をまとめて持っていかれた。
回転。
視界が白と黒でぐちゃぐちゃになる。
地面へ叩きつけられる寸前に防御殻を展開する。
それでも、肋骨の奥まで衝撃が響いた。
【左脇腹:重損傷】
【胸部フレーム:限界接近】
【生命維持補助:強制出力上昇】
「はぁ…ッ、はぁ…ッ」
息がうまく吸えない。
立て。
そう命じる。
だが脚が重い。
起き上がる前に、凍雪妖女郎の冷たい視線が落ちる。
指先がひとつ、下を向いた。
地面が凍る。
いや違う。
俺の周囲だけ、氷の墓標みたいに持ち上がろうとしている。
「防御支援機……!」
呼ぶが、一瞬遅い。
展開された障壁が間に入る。
だが氷柱の一部が貫通し、肩口と腿を掠めた。
細かい損傷。
致命ではない。
だが、もうそういう問題ではなかった。
積み重なりすぎている。
右腕は貫通され、左肩は凍結し、脚部は削られ、脇腹は軋み、顔面は凍傷。
有機自己修復も熱循環も、全部フルで回してようやく死んでいないを維持しているだけだ。
半死半生。
文字通り、その言葉がしっくり来る状態だった。
膝をついたまま、顔を上げる。
凍雪妖女郎は静かだ。
氷鬼二体はその両脇で、ゆっくりこちらへ歩いてくる。
急ぎもしない。
焦りもない。
もう、獲物は逃げないと分かっている歩みだった。
そこで、バイザーへ新しい表示が走った。
警告色でも、損傷表示でもない。
見慣れないメッセージ。
『【
「…な…?」
一瞬、思考が止まる。
その次の瞬間。
世界の見え方が変わった。
演算の精度が、跳ね上がる。
それこそ未来予知のように。
それまであくまで想定だったものが、確信へ変わった。
雪女の指先の揺れ。
氷鬼の踏み込みの重心。
吹雪の濃度変化。
氷柱が生える前兆に至るまで。
全部が、細かく、立体的に、手に取るように見える。
【
対象を解析し、最適化された兵装を、その場で生成し換装する月。
確かに、説明文通りだった。しかし一億ポイントに似合った性能であるかは疑問があった。
だがどうやら今までのそれは、どうやらセーフティ付きの出力に過ぎなかったらしい。
兵装転送の速度、密度、量。
そして何より、兵装の威力が桁違いに上昇する。
右腕の補助フレームが再構成される。
左腕の収束刃が、ただ熱いだけの刃ではなく、触れた対象の内部共振を増幅させる高周波振動刃へ変質する。
背部推進はただの推力ではなく、短距離の空間把握補助と直結し、体捌きの最適解が直接体へ流し込んでくる。
今まで無理やり抑えられていた何かが外れた感覚だった。
「……そうかよ」
口元が、ほんの少しだけ歪む。
半死半生。
凍傷。
損傷だらけ。
状況は何も変わっていない。
それでも、演算の質が変わっただけで見えるものが違い、殺し方までもが見える。
左の氷鬼が来る。
今までならただ見ていただけだった踏み込みの動作が今では全く違って見える。
右足へ重心を乗せる癖。
肩の入り。
拳の軌道。
全て読める。
半身を捻る。
氷鬼の拳が頬を掠める寸前で外れ、その腋下ががら空きになる。
そこへ左腕の振動刃を差し込む。
今までと手応えが違った。
硬い外殻を押して切るのではない。
振動が内部へ入り込み、氷の層構造そのものを共鳴で壊していく。
氷鬼の脇腹が、一撃で縦に裂けた。
「──!?」
初めて、敵の側が大きく体勢を崩す。
その隙を逃がさない。
背部推進を短噴射。
体が自分で動かすより先に最適軌道へ滑り込む。
右腕の補助フレームが、破砕杭へ一瞬で変わる。
胸部中央。
そこへ叩き込む。
貫通。
今まで何度削っても決定打にならなかったB級の氷鬼が、胸から背へ一直線に穿たれ、そのまま内側から崩れていく。
『討伐ポイントを入手しました』
「まず、一体!」
声が出る。
凍雪妖女郎の瞳が、僅かに細められた。
初めて、あの余裕に小さな波が立つ。
右の氷鬼が怒ったように踏み込んでくる。
だがもう遅い。
演算が違う。
兵装が違う。
そして一つ一つの火力が、明らかに桁違いに跳ね上がっていた。
防御支援機へ即座に新命令。
展開される障壁の出力が一段上がる。
攻撃支援機も、リチャージ途中のはずなのに低出力モードの一撃一撃が前より重い。
ネメシス・ムーンの最適化は演算だけじゃない。
周辺兵装全体の質を押し上げている。
右の氷鬼の拳を防御支援機が受ける。
今までなら吹き飛ばされていた。
だが今回は違う。
障壁が砕けず、逆に氷鬼の腕の方へ亀裂が走った。
「いいぞ」
そこへ攻撃支援機の高熱弾。
単発の威力が以前より重い。
牽制ではなく、明確な損傷を与える弾だ。
氷鬼の肩が削れ、体勢が流れる。
その一瞬で十分だった。
踏み込む。
吹雪の中を一直線。
左腕振動刃で腕の付け根を断ち、返す右腕の破砕杭で首の下を穿つ。
氷鬼の上半身が、その場で崩れ落ちた。
『討伐ポイントを入手しました』
二体目。
片付いた。
残るは凍雪妖女郎のみ。
白銀の中庭の中央。
相変わらず美しく、冷たく、静かに立つ雪女。
だがもう、さっきまでとは違う。
世界の支配者みたいな余裕は、ほんの少しだけ薄れていた。
代わりにそこへ生まれたのは、明確な警戒だ。
俺は立っている。
凍傷だらけで、損傷だらけで、右腕も完全ではない。
それでも立っている。
それどころか、今はっきりと分かる。
殺せる。
凍雪妖女郎がゆっくりと両手を広げる。
中庭全体の温度がまた落ちる。
池の氷面が砕け、空中へ浮き上がり、無数の槍となる。
白砂は雪煙へ。
吹雪が渦を巻く。
今度は本気だ。
そう直感する。
だが、こっちも同じだ。
ネメシス・ムーンの最適化が完了した今、もう届かないとは思わない。
半死半生から先へ踏み込んだ今の俺は、ようやくこの白銀世界の中心へ刃を届かせる資格を得たのだと、そう思えた。
吹雪の中で、俺はゆっくりと姿勢を落とす。
防御支援機が左へ。
攻撃支援機が高く上を取る。
その中心で、雪女と俺の視線が真っ直ぐ噛み合った。
次の一手で、中庭の白銀はさらに血なまぐさいものへ変わる。
そう確信できるほどに、空気は研ぎ澄まされていた。
凍雪妖女郎は戦闘が始まってから初めて大きく動いた。
それまでの彼女は、あくまで中庭の中心に立つだけだった。
指先を少し動かす。袖をひと揺らし。それだけで吹雪も氷柱も氷壁も生み出していた。
だが今、違う。
白銀の和装が翻る。
細い足が一歩、氷面を踏む。
両腕がゆっくりと広がっていく。
その所作には、明らかな意志があった。
「……何か来る」
反射的にそう呟く。
空気が変わる。
いや、空気そのものが圧へ変わっていく。
吹雪の粒一つ一つが刃物みたいに鋭くなり、庭園全体の温度がもう一段、底へ沈む。
この前に決着を着けるべきだと、本能が警鐘を鳴らす。
だが一手、遅れた。
ダメージの蓄積。
右腕の貫通損傷。
凍傷。
脇腹と脚部の重さ。
半死半生から立ち上がったばかりの代償が、ここで出た。
「っ、間に合──」
言い切るより先に世界が白へ塗り潰された。
凄まじい猛吹雪が、凍雪妖女郎を中心に巻き起こる。
さっきまでの局所吹雪とは桁が違う。
中庭全域を覆い、屋敷の庇を鳴らし、石灯籠を削り、池の氷面を巻き上げるほどの暴威。
視界が消える。
音も歪む。
防御支援機の障壁越しでも、冷気そのものが叩きつけられてくるのが分かった。
明確な隙だった。
今なら、多分凍雪妖女郎本人へ大きな変化が起きている。
そう分かる。
だが、こちらも相当な痛手を負っている。
ここで無理に踏み込むのは危険だ。
未知の変化を起こしている最中。危険な猛獣の尻尾を踏みに行くようなものだ。
通れば勝つかもしれない。
だが外せば、そのまま死ぬ。
「……回復だな」
「ネメシス・ムーン。対冷気装備、最優先」
【敵性対象:広域寒冷環境】
【要求:対冷気遮断・熱循環補助】
【適装転送開始】
兵装が変わる。
肩部と背部へ熱循環用の大型放熱板。
胸部と腹部を覆う断熱層。
前腕シールドの表面が青銀から赤みを帯びた鈍い光へ変わり、外部冷気を偏向するための熱膜発生機構が追加される。
脚部には断熱保持のための密閉層。
首周りにも薄いフィールドが走り、凍傷の進行していた顔面周辺の冷気を無理やり押し返す。
「エネルギー出力、戦闘より回復優先」
【承認】
【出力配分変更】
【生体回復機能:強化】
【有機循環強化:最大維持】
攻撃支援機は牽制に留め、防御支援機は完全防護へ回す。
ネメシス・ムーンの対冷気装備と、有機循環強化、生体回復機能の三重運用。
猛吹雪の中で膝を落とし、熱を回す。
外装の内側で有機組織が蠢き、裂けた筋と血管を繋ぎ直していく。
右腕の深手は完全には戻らない。
だが、戦えるだけの形へは近づいていく。
凍傷も少しずつ和らいだ。
頬と首筋の痺れが薄れ、左手の指先へ僅かに感覚が戻る。
脇腹の軋みも、呼吸を阻害するほどではなくなってきた。
数分。
体感ではもっと長かった。
だが実際にはその程度だったのだろう。
やがて、吹雪が収まり始める。
視界は十センチ先も怪しい白ではなくなり、輪郭が戻ってくる。
池。
橋。
石灯籠。
凍てついた白砂。
そして──中庭の中央。
「…はは」
思わず、乾いた笑いが漏れた。
立っていたのは凍雪妖女郎ではない。
いや、確かに同じ彼女ではある。
だが、さっきまでとは明らかに違った。
装いが変わっている。
先ほどまでの白銀の和装は、より薄く、より鋭く、より露出を増した形へ変質していた。
袖は細く短く、肩と鎖骨、腰から腿にかけての白い肌が氷越しに露わになっている。
だが艶めかしいというより、彫像めいた冷たさが先に立つ。
人の体温を完全に捨てた、氷雪の女王めいた姿。
そして、その周囲。
雪と氷で象られたモンスター達が、彼女を囲うように侍っていた。
鳥。
獣。
亀。
龍。
ただのモンスターじゃない。
それぞれが、何か霊獣めいた神秘性を纏っている。
しかも、どれも一目で分かる。
強い。
門番二体とも、氷鬼二体とも格が違う。
バイザーが解析を開始する。
▼
モンスター名:氷冠鳳凰
ランク:B+
詳細:極まった氷雪能力によって四霊獣を模して産み出されたモンスター。産み出した極寒零妖妃に付き従う。氷の生成能力及び操作精度が極めて高い。
討伐P:4500万P
▲
▼
モンスター名:聖氷麒麟
ランク:B+
詳細:極まった氷雪能力によって四霊獣を模して産み出されたモンスター。産み出した極寒零妖妃に付き従う。産み出された氷の強化及び補助能力が極めて高い。
討伐P:4500万P
▲
▼
モンスター名:過冷霊亀
ランク:B+
詳細:極まった氷雪能力によって四霊獣を模して産み出されたモンスター。産み出した極寒零妖妃に付き従う。防御能力や支援能力が極めて高い。
討伐P:4500万P
▲
▼
モンスター名:暴雪応龍
ランク:B+
詳細:極まった氷雪能力によって四霊獣を模して産み出されたモンスター。産み出した極寒零妖妃に付き従う。氷雪に関する全ての能力が極めて高い。
討伐P:5500万P
▲
そこで、最後の解析が表示された瞬間。
背筋が凍る。
▼
モンスター名:
ランク:A-
詳細:
討伐P:1億2000万P
▲
「……A-」
目の前の雪女──いや、極寒零妖妃は、吹雪の残滓を引き連れたままこちらを見下ろしていた。
その眼差しには、さっきまであった静かな余裕とも違う、もっと透明で、もっと高次の断絶がある。
理解する。
これは、ただの強化形態じゃない。
領域そのものの位階が上がったのだ。
中庭が軋む。
池の氷面が鳴る。
空に浮かぶ雪片の一つ一つが、刃物というより法則そのものへ変わりつつある。
四霊獣を模した氷雪の従者達も、ただ侍っているだけなのに空気を圧迫していた。
氷冠鳳凰が翼を広げるたび、空間へ細かな氷晶陣が生まれる。
聖氷麒麟の足元では、氷の紋様が走り、周囲の冷気を明らかに強化している。
過冷霊亀の周囲には、視認できるほど濃い防御膜が幾層にも重なっていた。
暴雪応龍はその全部を統べるように、雪煙をまとった長い体をうねらせる。
絶望的。
さっきまではまだ雪女と氷鬼二体だった。
危険だが、勝ち筋はあった。
勝機が見え始めていた。
だが、今は違う。
A-級へ一時昇華した雪女。
その周囲を固めるB+級四霊獣。
正面からの総力戦になれば、間違いなく今までの比じゃない。
白銀の中庭は、もう単なる戦場ではなく、神話の一場面みたいな殺戮領域へ変質していた。
それでも。
それでも、視線を逸らさなかったのはネメシス・ムーンの最適化が完了していたからだ。
世界は絶望的なまま。
だが見えるものは増えている。
氷冠鳳凰が空間へ散らす氷晶陣。
聖氷麒麟が底上げしている強化の流れ。
過冷霊亀が張る防御の節点。
暴雪応龍が支配している吹雪の中心。
そして、その全部の頂点に立つ極寒零妖妃の呼吸。
無理だと感じる。
同時に、無理な中にも手順があるとも感じる。
「……第二形態が許されるのはゲームだけだろうが」
低く吐き捨てる。
唇の端が、少しだけ上がるのを自覚した。
恐怖はある。
絶望もある。
だがそれだけで足が止まるなら、俺はとっくに死んでいるだろう。
攻撃支援機を高く上げる。
防御支援機を左寄りへ再配置。
対冷気装備の出力を維持したまま、有機循環強化をもう一段強める。
凍傷はまだ完全には消えていない。
右腕も万全ではない。
それでも、先ほどの半死半生からは戻した。
問題は、ここから先。
A-級とB+級四体。
まともに殴り合えば死は免れないだろう。
極寒零妖妃が、そこで初めて口元を薄く開いた。
笑っているわけではない。
ただ、息を吐いた。
それだけで、中庭の温度がまた落ちる。
四霊獣達が一斉に動き出す気配。
凍雪の女王はその中心で静かに立つ。
白銀世界は今や最初とはまるで別物に変わっていた。
今話獲得機能:なし